第34部
のぶ美のドジ話その1
この別荘に水中翼船で姫琴島へ来たとき、のぶ美は水中翼船から桟橋へ渡る十分に広い幅2メートルはある渡板を足を滑らせて海に落っこちた。 ジュノが0.5秒でダッシュして両手で溺れるのぶ美をつかみ水面を蹴って瞬時でのぶ美を助けて戻った。落ちて1秒後に無事に桟橋にのぶ美は立っていた。
この港は岩礁で、水流が速く、海底に岩が沢山出てるため危険である。
水中翼船の運転者や、フェリー会社の添乗している社員は港の危険を知ってるので、いきなり海に飛び込むのをためらい様子をみたが、落ちたはずののぶ美がなぜか桟橋の上にいるので、胸をなでおろした。しかし危険を知らない藤堂君は、即断し飛び込みかけたが、との子に襟首をおもいっきりつかまれて、「こっちを見なさいよ」と言われて振り返りのぶ美が後ろに立ってるのを見て、安堵した。
しかし、そのときのぶ美が持ってきた着替えを入れたリュックが弾き飛ばされてしまい、海流に流され海に消えてしまった。のぶ美は着ている服と下に着てきた(ママのお下がりの)黄色の水玉の水着以外に、着替えを失った。
との子が言った「…………お約束ね。ホントによくよくあなたって、ヘマでドジね」
との子はジュノに聞いた。
「のぶ美さんの着替えをあなたは、貸してあげれる? 下着とか、上の着替えとか」
「私はたぶん無理」とジュノが答えた。
「仕方ないわね。別荘にわたくしのスペアに買い置きの下着と着替えが置いてあるから、それをお貸しするわ」ととの子が渋々嫌そうに言った。
おかげで、のぶ美はとの子のフランス製の下着と上(は徹底的に浴衣だったが)を着ることができたーーものは考えようであるーーらっきーー
のぶ美のドジ話2
最初の夜はとの子の鳥団子鍋だった。 これも絶品だった。
二日目の夜は、のぶ美とジュノがカレー料理を作った。のぶ美としては美味しくできた。
最後の夜は、藤堂君が、バーベキュー料理を作った。食材を切れば良いだけなのだが、バーベキューソースが手作りで、最初の日に種を仕込み3日目にようやっと「熟成できたぜ」と食べさせてくれた。
初めての風味で、新鮮な美味しさの絶品ソースだった。
父親からの秘伝だという。
食材はとの子が姫琴浜のコンビニで買ってきた食材なのだが「あのコンビニ、外国産の牛肉しか置いてなかったわ」ととの子が舌打ちをして憎々し気に言った。
藤堂が「げえっ!ちぇっ!」と言った。
のぶ美は「?」
「牛肉は、日本の牛は食べるのに適さなくて、乳牛しかいないんだって。たまに売ってる国産牛肉も高いだけで、硬くてまずいよ、ってママとパパがいつも言うよ。パパとママがね、いつもそう言うの」とのぶ美が珍しく物知り顔で大声で、との子と藤堂に教えを垂れた。ジュノは苦笑してるだけ。
との子が「外国牛肉は上手く下ごしらえすれば日本牛肉に負けないくらいに美味しくいただけるけどわたくしがその技術を持ってないのよ」と言った。のぶ美は「?」
そのとき、玄関に誰か来ていて、のぶ美のこの講釈を偶然、聞くともなく聞いた二人の人間ががいた。
のぶ美の両親の大山信夫とかよ子である。
ーーお世話になってるので、娘とジュノの様子を見てすぐ帰るつもりで、土産に大きな西瓜を1個持って、少しだけ顔を出してーーすぐ帰るつもりで来たのだが、二人はのぶ美の知ったかぶりな講釈を聞いて、顔を見合わせ苦笑すると、顔も出さずに、戸口に大きな西瓜だけを置いてそそくさと帰ってしまった。
ジュノが人の気配を察知して様子を見に行き、玄関に大きな西瓜とーー「娘たちがありがとうございます。信夫、かよ子より」ーーと書かれたメモ書きを見つけた。
4人はバーベキューを食べながら『スイカ割り』に興じた。藤堂ととの子は豚肉と鶏肉を「豚肉はビタミンBが多くて体に良いのよ」「ささみはぜい肉つかないぜ」とたくさん食べた。藤堂ととの子が食べようとしない外国産牛肉をのぶ美とジュノは、美味しくいただいた。藤堂君の手作りバーベキューソースをつけて。とくにのぶ美は、8割を食べた。満腹し、ジュノが粉々に割ってしまった西瓜の欠片を、みんなですすって食べた。
携帯電話で、互いに写真を取り合い、楽しい思い出の最後の一夜となった。
のぶ美は、この夜、いきなり訪れた未来人ノブミが、何気なくジュノとのぶ美の部屋のゴミ箱に捨てて行ったとんでもない物、を発見して、その結果、のぶ美の人生は変わることになるのだが、今は、その使い道がわからず、のぶ美は自分の一番大事な絹のハンカチをポケットから出して、それを包み、几帳面で堅実なジュノにそれを預かってもらった。
姫琴島での思い出を残し、夏休みの別荘での生活は終わった。
毎夜、遅くまでとの子の部屋だけ明かりがついているので、のぶ美はこっそり、部屋のドアを開けてとの子の様子を覗いてみた。すると、との子は『学塾 夏季講習最難関コース』と書かれた人の身長ほどの山積みのテキストブックを静かにカリカリと片付けていた。のぶ美はそれを見て、ぞっとした。
のぶ美は毎年、毎年、夏休みの宿題だけでもを最後の最後に片付けるのに、必死にな人である。
藤堂の部屋からは大きないびきが聞こえる




