第18部
港町オラクルにはカジノがある。「明日はバニラグラン王国討伐行くからねっ」と言っといたのに、ジョーとボンボンは一晩中徹夜でカジノに入り浸っていたらしい。宿屋の朝ごはんに食堂に現れたジョーとボンボンは、とても落ち込んでいて自分の持っていた所持金をすべて使い果たしたようだった。
涙目で何を聞いても「うんうん」「わかったわかった」「ごめんごめん」と上の空であった。
ーーいくらAI仲間でもここまでリアルなのか?!ーーと驚くのぶ美であった。
女勇者のぶ美は、自分が逆ハーレムとハート目なのを棚に上げて、傭兵二人の徹夜と気落ちの涙目が、バニラグラン攻略に差し支えないことを願った。
町から南の岩山に差し掛かったとき、いきなりジュノの前にコマンドがひとりでに現れて、そこから、いきなりポピが飛び出した。「ポピポピポピ」
自分に乗れと言っている。
ジュノは苦笑い。ジュノが用意した大きなパンと水が必要無くなったからだ。
「どうする?」とジュノ。のぶ美「乗りたいわ」ジョー「乗る」ボンボン「乗るっ」
女勇者の夫の三人の王子「乗ろうよ、のぶ美」「のぶ美、乗りたい」「わが愛する人よ、乗るのが速いだろ」六人が全員「乗る」と答えた。
全員がポピに乗り込んだ。
ポピに乗って、オラクル町の南にある広大な岩山もひとっとびに飛び越えて、いきなりのぶ美たち女勇者ご一行様はバニラグランの廃城前にほとんど瞬時に着いた。
ここの先は迷いの密林と呼ばれるジャングルで、毎回入るたびに形を変える密林のダンジョンの無限ループの罠があり、このゲームの最難関ヵ所である。
そもそも、バニラグランの王国は悪臣ゲマの呪いによって、町の人々は獣の姿にされ町の建物は森の木々に姿を変えてられてしまった。つまり、この迷いの密林そのものがバニラグラン王国なのである。
本来ここは、試行錯誤して人海戦術で突破するしかないのだが、ポピはそんなことおかまいなしである。
「ポピポピポポピッ」
そのまま、迷いのジャングルを突き抜けて、いきなり最奥の闇の巨木の悪臣ゲマの部屋前に到着した。
ボス戦であるっ!!
「準備はいい?」「OK」「おk」「おうよ」「イケイケだ」「いいんじゃね?」
「王子は女勇者の真後ろに待機してくださいね」とジュノが言う。
「ラジャー」と三人の王子。「げえええーー!!」とのぶ美。
ジュノが言った「行くよ!」
悪臣ゲマが現れた。
「女勇者とその仲間たちよ。良くここまで来たな。褒めてやろう。王子よっ……あれっ?いくら勇者でも一人しか救えないはずだが?!なんで三人とも助かってるのだ?! まあいいっ。お前らの父親はこのわしが食ってやった。 さあ、おまえらも父親のように食い尽くしてやるっ!!」
紫の魔導士の服を着たゾンビ顔の悪臣ゲマが巨大化した。
ゲマは魔王の力を使った
1ターンで三回攻撃をしてくるようになった
魔法を無効にする紫の霧を体から噴き出した
ゲマは魔法覚醒した
女勇者のぶ美は勇者の力を使った
紫の霧が消えた
魔法使いジュノは攻撃倍化の魔法イケイケを唱えた 全員の攻撃力が大きく上がった
盗賊ジョーはすばやさの魔法を唱えた 全員の素早さが二倍になった
僧侶ボンボンは魔法を無効にする紫の霧の魔法を唱えた 紫の霧が仲間を包んだ 全員への魔法攻撃が短時間無効になった
三人の王子は身を守っている
ゲマは大きな炎の魔法を唱えた
しかし紫の霧によって大きな炎の魔法は効かない
ゲマは魔王の力を使った
僧侶ボンボンの紫の霧の効果が消えた
ゲマは盗賊ジョーに大きな鎌を振り下ろした
しかし盗賊ジョーはみかわしの服の効果で身を交した
女勇者の破邪の剣の会心の一撃 ニ千のダメージを与えた
魔法使いジュノは魔法覚醒した
盗賊ジョーはゲマの足元に強力なトリモチを仕掛けた
ゲマはトリモチにかかり、うごきが鈍くなり二回の攻撃しか行えなくなった
僧侶ボンボンは魔法攻撃を無効にする紫の霧の呪文を唱えた 紫の霧が仲間を包んだ
三人の王子は身を守っている
ゲマは恐ろしい氷の吹雪の魔法を唱えた。しかし紫の霧のせいで効かなかった
ゲマは魔法使いをねらって鎌を振り下ろした
しかしみかわしの服の効果でジュノは身を交した
女勇者の破邪の剣の会心の一撃 二千のダメージを与えた
盗賊は聖なるナイフで会心の一撃 五百のダメージを与えた
僧侶は魔法攻撃を無効にする紫の霧の呪文の唱えた 紫の霧が仲間を包んだ
魔法使いジュノは大きな炎の魔法を唱えた ゲマに一万のダメージ
ゲマを倒した
「ぐうっ! 地獄の帝王ミートソースよっ、わしの魂を食らえっ! わしの復讐を遂げよっ!
…………げほっ!!」
悪臣ゲマは消え去った!
バニラグラン王国の人々にかけられた呪いが消え去った!
地獄谷の封印の門が開いた!
エンディングの音楽が流れ
製作者のテロップが流れた。
のぶ美たちの周りのおどろおどろしい風景が、見る間に美しい石畳の町の風景に変わっていく。獣たちが全員人間に戻り、まるで何事も無かったかのように、笑い合い喜び合っている。
美しいバニラグラン城が聳え立ち、旗が翻り、花火が上がり、人々が笑顔で石造りの美しい町を行きかっている。市場の前の城のバルコニーの下では大勢の人々が歓呼の声を上げ、そのバルコニーで三人の王子の即位の式典が行われている。大司教が三人の王子に王冠を長男次男三男の順にかぶせて、三人の王子は三人の王になり、バニラグランの王になった。のぶ美も横で、三人の王の即位式の次に女王の王冠をかぶせられてバニラグランの女王になった。
のぶ美は魔法の鎧のマッチョな格好ではなく、美しい赤い薔薇の花の沢山ついた赤いロングドレスに金のマントを羽織り、大司教から女王の冠をかぶさせられて可愛い女王様になった。
だけど、なぜかのぶ美は、女王の格好で、そのまま美しいバニラグラン城から逃げ出そうと急いでいた。
強制のイベントが起きる前に逃げ出そうとしたのだが……逃げれなかった。
階段の途中で女王ののぶ美は転んでしまい、強制イベントが始まった。
男勇者の場合は、ここで王女が倒れるのであるが、女勇者を選ぶと自分が倒れなければならない。
夜になって、強制イベントで女勇者に(男勇者なら王女に)赤ちゃんが産まれるのだ。普通は双子の男女の赤ちゃんが産まれるのだが……三人の夫のいる女勇者は六つ子の赤ちゃんを産んだ。三組の男女の双子を産んだのだ。
「ぎゃあああああああーーーーーー!!!!」王家の寝室のベッドに寝かされたのぶ美は悲痛な叫び声を上げた。
しかし強制イベントは続く。一匹の魔物がバニラグラン城の玉座の間に侵入し、腕っぷしの強くない箸より重いものを持ったことのない、若き王を攫って行くのであるーーーーのはずだったが
本来なら、若き王が攫われて、地獄谷の奥の封印の門の向こうにある魔界のダンジョンの最奥にいる大魔王ミートソースに女勇者は箸より重いものを持ったことの無い腕っぷしダメダメの夫を救いに向かうのだが。
さすがに腕っぷしダメダメの王様でも三人もよれば、一匹の雑魚魔物くらいは倒せたのであった。
バニラグラン城の王座に侵入し若き王を攫おうとした一匹の魔物は、三人の王様から周りにある超高価なツボや王笏や金のゴルフパターとかでボコボコに殴られて命からがら手ぶらで逃走した。
朝が着て何の事件も起きず、バニラグランの城下町は美しい石造りのたたずまいで大勢の人々が行きかってごった返していて、楽し気な子供たちの歓声と笑い声が響いている。
ようやっと強制イベントが終わり、自由になったのぶ美だったけど、王家の寝室ののぶ美ベッドの上には六人の赤ん坊が オギャーオギャーと泣いている。
のぶ美の周りには三人の王様がーー王家のタキシードを着て金のマントを纏い王冠を被ったマツチヨとゴンとケンが、あいもかわらず、「愛してるよ、のぶ美」「僕の最愛の人、のぶ美」「この世で一番素敵な可愛い人のぶ美」と愛の告白。のぶ美に向かってハートを飛び交わせている。
「うげええーーーーっ!!」
赤い薔薇のたくさんついた赤いロングドレスを着て金のマントを纏い女王の冠を被った可愛い女王様の、のぶ美は……下を向いて顔に一杯斜線が入っていた。どよ~んとしている。
「私、吐きそう……絶望で……」
ジュノはくすくす笑っている。
「ストーリはエンディングまでクリアしたから、そろそろ帰ろうか」
「うん……」のぶ美は力なく答えた。
女王となった女勇者は三人の夫の王様と産んだばかりの六人の赤ん坊を残して逃走した。
二人はポピと共に、女子寮の二人の自室に転送され帰還した。
時間は二人がVRMMOを開始して転送されてから一秒しか経っていない時間へ帰った。
「あーーーー疲れた」とのぶ美は自分のベッドに倒れ込んだ。