第11部
下校してすぐ女子寮の自室に帰り、1か月前に借りたパーフェクトPOPZのCDとグラビア雑誌を持ち主の4階の小宮長閑に返しに行って、大山のぶ美は、ルームメイトから長閑が1か月前から行方不明で、学校と親が警察に捜索願を出しているという話を聞いた。(小宮長閑は学校中で知る人ぞ知るまだ12歳だが天才的な歌唱力と美声の持ち主なのだ。ひそかに実力派アイドル歌手になりたいと日頃から友人たちに夢を語っている女の子であった)
彼女は1年生で隣のクラスだが噂にならない様に教師から緘口令がひかれているらしい。
驚いたがとりあえず返さなくてはと思い、彼女の自室の机の引き出しにCDと雑誌を入れようとして、引き出しの中にある『退学願い 小宮のどか』と書かれた封筒を見つけた。
のぶ美はその時部屋に誰も居なかったので、封印されてなかった封筒の退学届けの中身を つい読んでしまった。
ーー父親と同居することに決心したのでこの学校は辞めます。探さないでください。父の家から新しい中学に通いますのでーーと書かれていた。のぶ美は元通りに手紙を戻すと、丁度入ってきたルームメイトにその退学届けの封筒を渡した。一緒にオーディションのチラシが引き出しの中に入っていたので、ついそれも見てしまった。それには『〇月1日と31日に午後2時より 大駅前第三ビル(墓骨芸能ビル)の3B4ホールで墓骨芸能プロのオーディションを開催します。募集は中学生と高校生』と書かれていた。1日はもう1か月前だったが31日は明日だった。明日は土曜日で暇だった。
ジュノを誘ってそのオーディションを冷やかしに行ってみることにした。
そのとき、舟木寮監おばさんが若い女性を一人部屋に案内してきた。その女性はとてもきれいな人だったけどチラとこちらを見た時目つきが一瞬するどかった。その人は舟木寮監おばさんとルームメイトの女の子の許可をえて部屋に入ったが、そのときルームメイトの女の子がのぶ美の見つけた『退学届け』の封筒を舟木寮監おばさんに渡した。すると舟木さんはその封筒をその女性に渡した。彼女は封書の手紙を読んで、なにか手帳に書き留め封筒を舟木おばさんに返した。
部屋の中を調べて引き出しを調べ、チラシに気づいて「これを証拠品のひとつにいただきますね」と言った。
まるで刑事のようだ。
その女性は、のぶ美が立ち去ろうとすると、「小宮長閑さんのお友達ね。ルームメイトさんはもうお話を聞いたのだけど、ぜひお話をききたいの。いいかしら?」
「いいですよ、お姉さん刑事さん?」「ええ、一ノ瀬渚という刑事です」と彼女は警察手帳を見せてくれた。
「小宮長閑さんの行方不明事件を捜査してるのよ」女刑事は微笑んで気さくに笑った。
そのときジュノが下の階から4階に上がってきた。
「小宮長閑さんはオーデイションを受けに言ったことはわかってるの。でも審査に合格しなくてそのまま帰ったそうなのね。そのあと帰り道で行方不明になったのよ」
「だれかこの明日の墓骨芸能プロのオーディション受けにいく子いないかな?」と女刑事は独り言のように言った。「私がいくつもりしてるけど」「えっ、本当?」「うん、でも冷やかしでね、行くんだよ」
のぶ美は照れくさそうに笑った。「本気で行くわけじゃあないのね?」「うん、ぜんぜん」「じゃあ、私に協力してくれない?」「うん?どんな協力?」女刑事はひそひそとのぶ美の耳元に囁いた。
「つまり、私の保護者役で様子を見に行きたいのね?」「うん、お願いできるかな?」「いいよ、面白そう」
つぎの日、大山のぶ美は目いっぱいお洒落して、ジュノと一緒に舟木寮監おばさんが置いてあるノートに外出記録をかいて二人で出かけた。
赤いエナメルの靴にピンクのジーンズのミニスカのオーバオールにアヒル模様の水色のブラウスに明るい黄緑の靴下と赤い麦わら帽。
耳には可愛いお花のイヤリング。
黄色のカーラヘアピンを3本前髪に止めて、ピンクのつやのでるリップクリームをつけた
一ノ瀬渚刑事のお姉さんとは大駅前の歩道橋で待ち合わせた。
彼女はのぶ美のおばさんで保護者という設定だ。
のぶ美の携帯電話のデモ画面ではポピが走り回っている。
昼にラーメンを1個食べさせたばかりだ。
ジュノは制服で出かけようとしたのでのぶ美が「そんなんじゃだめ、ちゃんと女の子なんだからお洒落してよっ」というと、
いきなりジュノの目がキラリと光って、着てる女子制服がのぶ美と同じ服になってしまった。
ペアルックである。ついでなので親戚のいとこ同士という設定にした。
歩道橋のところで待ち合わせた女刑事さんは、素敵なパンツルックのスーツになぜか濃い目のど派手なお化粧をしていた。美人なので違和感はないのだが。
渚さんには似合わないド派手なアクセサリーをつけてるが、変装だそうだ。
その横に若い男がいた。一ノ瀬渚さんの恋人で個人的な「刑事助手」だそうだ。
東野順平と自己紹介したが、ちゃらちゃらしたウザイ男に見える。これも演出?
墓骨芸能ビルは、ファンの混乱を防止するため、とか言って警戒厳重で普段だれも立ち入りできないビルである。墓骨芸能プロは大手の芸能プロである。
墓骨芸能ビルの3階B4室でオーデイションの受付が午後2時より前に始まった。
大勢のスターを夢見る中学生や高校生の応募者が来ている。
未成年者の募集なので親が同伴している人も多い。
整理札をもらい、受付に行く。そこで87番の番号札をもらった。
受付はボディチェックも入る。そこで付き添いの一ノ瀬渚さんは、大山のぶ美の叔母で大山のぶ子と適当に名乗っている。姪たちの保護者として参加した叔母夫婦となった。
東野順平は手持無沙汰げにポケットに手を突っ込んでまわりをブラブラウロウロしている。
オーディション会場にいる間に大山のぶ美がいきなりジュノに「ゴテンクスのフュージョンやるから。トランクスたのむね」と言い出した。
ジュノはこの時代の人間を先月始めたばかりなので「?????」であるが、タキオン通信で自分のいた時代の時間のメガロコンピューターのデータに自分を接続して膨大なデータの中から、『ゴテンクスのフュージョン』なるデータを探し出した。ーーなになにああやってこうまわって手を合わせてこうジャンプしてポーズしてむずかしいな。ふぅ。やれやれーー
オーデションが始まり、まずみんな自分の得意芸を披露してから持ち歌を歌う。やがて順番が来て、
「大山のぶ美さんと大山ジュノさんのいとこ同士で応募したんですね。では得意芸と持ち歌をお願いします」
大山のぶ美は『踊るポンポコリン』を歌ってジュノは顔芸でバックを務めた。そのあと二人で『ゴテンクスのフュージョン』演じた。
審査員は、一言「ダメ、ボツ」と言った。これだけでも愉快な体験だったと大山のぶ美は思って大満足だった。「ダメ、ボツ」と言われた人たちは「てきぱきお帰り下さい」と言われた。
帰ろうと思い、叔母さん役の一ノ瀬渚さんを探したが、手持無沙汰毛に眠そうな顔している東野順平が椅子に座っているだけだった。東野順平に「一ノ瀬な・・・大山のぶ子おばさんはどこへ行ったの?」と聞くと「急用ができて先に帰る、といって帰ったよ」とぶっちょ面して答えた。
「ええええーー!!」
仕方ないので、東野順平さんと出口からでた。出口で「もうひとりの付き添いの保護者の叔母さんは?」と聞かれて順平さんが「急用ができて先に帰りました」
「そうですか。」「ボツ残念でしたね。お気を落とされない様に」と出口にいる目つきの鋭いおじさんに言われて帰路についた。
東野順平さんは「じゃあな、気を付けて帰れよ」とだけ言うと、そのままどこかへ行ってしまった。
ーーノ瀬渚さんはどういうつもりなのだろう?--




