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プロローグ【4(終)】

プロローグ部分は今話で終了です。

本編の投稿は未定で少し開くと思いますが、よろしくお願いします。

 ゴウッ!


 一瞬、開いた穴へと廊下の空気が勢いよく出て行こうと、風が巻くが、外壁の応急機構が働いたのか、すぐに大人しくなる。天井からは「ギンギンギンギン!」っと低く重い鐘の音が連続で響きはじめ、金属質な妖精さんの声が少し語気を強めて警告する。


「接触した所属不明機よりゼロ距離での砲撃がありました! 被害ブロック多数、護符(アミュレット)の装備を勧めます」


 ここで言う護符アミュレットとは、空気のない星界において、周囲の魔力マナから身体の周囲に呼吸可能な空気とそれによる適度な気圧を作り出す魔法道具マジックアイテムであり、大気の満ちている惑星上と違い、真空の星界で活動する者たちにとっては必需品なそれを指している。


「リンド?!」

「くっ、あの小狡いグレムリン野郎め、嵌めやがったな! てめえら!、引くぞっっ!」


 頭はなぜか激高した様子で号令をかけた。その声にフィーンは一瞬何か思い出しそうになったが、すぐにリンドを探す。


 リンドは弾き飛ばされ、フィーンのそばの壁にたたきつけられていた。視界の端に映る頭はすでに部下を引き連れて踵を返し、一目散に元来た方へ走り去って行くところだ。


 青ざめながら倒れたリンドに駆け寄るフィーン。リンドの体は半身が真っ黒に炭化しており、呼吸もすでに切れ切れだ。焼けたため傷から流れていた血が止まっているのがせめてもの幸いか。


 また、黒い骸骨戦士も先ほどの爆光でほぼ身体が壊れており、少しだけガシャガシャ身じろぎしているだけなのも助かった、が。


「どうしようっ?! わたしは治癒魔法ができないし、魔法薬ポーションも持ち合わせがない……」


 フィーンも魔法は使えるが、あくまで古代語魔法と呼ばれる種類の魔法だけで、傷の治癒に有効な魔法はほぼない。市販されている魔法薬ポーションは高価なため、今回の旅には用意していない。


「ふぃ、フィーン……、お、おれを、操縦室まで連れて、いけ……」


苦しそうな息をしながらリンドが言葉を少しずつ吐出す。


「でも! あなた、そんな体で……」

「だい、じょうぶだ。どっちにしろ、この、ままじゃ、惑星(ほし)、に、お、墜ちる。」


 フィーンは一瞬ためらったが、今までの信頼なのか、何かを決意した表情となり、リンドに肩を貸し、引きずるように操縦室までの廊下を歩いてゆく。


 脂汗を浮かべるリンドを引きずり、息を荒くして突き当たりの金属質の壁にある観音開きの扉までたどり着くフィーン。


 リンドを肩にもたれかけたままで扉横の操作盤のふたを開け、中に金属の糸で吊されている五つの指輪に指を差し込み魔術の結印にも似た操作で扉を開錠する。


 扉は仕掛けにより開き、二人はそのまま中に滑り込む。二人が入り終えた数瞬の後、扉は歯車が軋む音などを立てて閉まった。


 中は薄暗い。あちらこちらに青白く光る箇所や赤や黄色に光る小窓があり、10人は入らないだろう小さめの会議室くらいの広さだ。板張りの床が入口から、正面にある壁一面の大きな窓に向かって広がり、床には五つほどくぼみがあり、それぞれ小ぶりの革張り椅子が半分埋まっている。一番奥の椅子には振り返ったネッドが座っている。


 廊下でも鳴っていた鐘の音は操縦室でもけたたましく鳴り続けている。


「……よ、し、ネッド、もういいぞ、替われ。」

「うん!」


ネッドは父の変わり果てた姿を見て一瞬、硬直したが、父への信頼は大きいのか、泣きそうな表情を張り付けてだが、言われるままに席から立つ。


「ネッドはそっちの副操縦席に座って。お母さんは航法士席に行くわ。」

「お父さん、大丈夫なの?」

「お、う、大丈夫だ、とも。お前達をこのまま地表に落とすものか。」


 半身が炭化した激痛に耐えながら、リンドはそれでも片手片足で器用にレバーやスイッチ、ペダルを操作し、機体の振動を抑える事に成功する。


 航法士席に滑り込んだフィーンも、席にある水晶板やスイッチを巧みに操作し、リンドの補助をこなしている。


「ち、もうこんなに重力に引かれちまってるな……。しかもさっきの砲、撃で、、割と進路がズレちまってるな……。」


 その間にもリンドの顔色はじわじわと土気色になり、目の焦点は曖昧になってしまう。たびたび頭を振り、意識をはっきりさせながら、なんとか操船する。


 フィーンは航法士席へ座り、座席前に埋め込まれている水晶球らしきものを触りながら、周囲にあるスイッチやレバーを操作し、表示された結果を読み上げる。


「……進入角度が深過ぎるわ。修正するとして、降下予定地点からは大分ずれる、200ヨージャナくらいかしら。」

「200か……歩きなら2ヶ、月ちょいの距離だな。」

「遠いわね。」

「それでもそのま、ま突っ込んで、燃え尽き、るよりはマシだな。」

「わたしだけなら、あなたと一緒ならそれでもいいけど、ネッドの将来を考えるとね(笑)。」

「ちげぇねぇ。」

「なら座標を今から指示するから、通過点をそれぞれの速度になるようにして。」

「難、しいことを言、い、ますなぁ、うちの鬼嫁は……」

「女は弱し、されど母は強し、よ」

「お、前が弱かっ、た所を、見た覚、えが、ないんだがなぁ……」

「むっ、憶えてなさい? 地表にに下りたら締め上げてやるんだから……」


 軽いノリのやり取りではあるが、2人の表情は会話のテンポとは異なり、真剣そのものである。ましてやフィーンはリンドの傷を思い、涙ぐみ、唇を震わせながらであった。室内にはごうごうとした音と振動が響き始め、いつの間にか正面の大きな窓には暗闇にぽっかりと青く輝く球体が見えている。


「もう時間がないわ、誤差1パーセント! 頑張って!」

「……くっ、の、乗せたぞ…軌道に……」

「これならいける…かしらっ?」


 窓に浮かび上がった青い球体、惑星パリマはもう窓一杯に広がっている。


「フィ、フィーン……ナ、ビは、もういいから、ネッドを……」

「わかったわ!」


 室内に響き渡る鐘の音と轟音と振動の中、フィーンは身体を椅子に繋ぎとめていたベルトをすばやく外すと、床のかすがいのような小さな手すりをいくつも伝わりながらネッドの椅子に駆けつける。


「……」


 ネッドは座席の中で必死にうずくまり身を固めていた。


「大丈夫、お母さんにしがみついて!」


 フィーンはネッドを抱え込み、座席の下にもぐりこむ。そのまま身体のあちこちに固定用のベルトを絡み付ける。


「……衝、撃が、来、るぞ! 堪、えろ!!」


 リンドの叫びが轟音に混ざりながら響く。続いて全身を叩き付けるような衝撃が連続で襲う。室内には赤い光が点滅し、金属的な妖精さんの警告と「カンカンカンカン!」と鐘の音も響く。


「大気圏へ突入を開始しました。当機は惑星パリマ、ニーム王国への降下シークェンスを開始します。」


 ネッドはこれまでも何度か父母と共に惑星地表への降下を体験している。だが、それらはいずれももっと安定した、安全な航行であり、このような乱暴で強引な非常事態を経験するのは初めてである。


 それゆえ、最も安心できるはずの母の胸に抱かれながら、彼は不安に押しつぶされそうであった。既に突然の盗賊の襲来、機内での戦いは彼の心の許容量を満たしきっていた。


「船内温度上昇、被弾のため、温度管理が不安定です……」

「お、お母さん……」

「しっ、黙って! 舌をかんでしまうわ!」


 異常に暑くなり始めた部屋の中、フィーンはさらに固く、ネッドを抱きしめ、全身を突っ張り、座席のくぼみに身体を固定する。


 ドン!


 「4番パイロン破損、推進剤タンクが異常加熱しています、このままだと20秒後に爆発の可能性があります、降下角度に0.1ディジットの誤差発生……」


 爆発音と、おかしな方向からの衝撃が来て、危険な内容のアナウンスが次々と響く。リンドの手元にある水晶板には降下先の地形を表す図形と、侵入コースのラインや状況を解説する文字が浮かんでは消えている。どれも異常を表す赤や黄色であり、いつ空中分解してもおかしくないことを意味している。


「や、ばい……ズレが直、んねぇ……、いや、まだこれがあ、る」


 リンドは操縦桿を固定しながら、かすむ目と震える左手に力を入れ、左足近くのレバーを立て続けに三本ほど引く。


 ズン!


 ズレている方向から、ちょうどズレを補正する程度の衝撃が起きた。引いたレバーは外装品の爆発ボルトの起爆レバーであり、リンドはこの爆発によりズレを打ち消したのだ。


 この衝撃に、子供にしては気丈な、さしものネッドも根性が潰え、意識は暗闇の中に溺れていった……。


「よ、し、あと、は……」


 そう呟いたリンドは、生命の限界に到達しかけて薄れゆく意識の中、自らが息絶えたとしても、妻と息子の生存の可能性を高めるための最後の仕掛けを行うが、そのまま動かなくなり、気配が途絶えた……。


 それを肌で感じながらも、フィーンは身を固くしながらネッドを抱きしめているしかない我が身を呪い、最後の衝撃に備える。


「あなた……」


 窓には惑星パリマの空が広がっているが、大気の圧縮により赤く熱せられた視界は炎の中を進んでいるようだ。


 永遠とも思われる降下時間―実際には30分程度だったはず―の中、3人の乗っている船―宇宙船の機体―は徐々に分解してったが、なんとか原型を留めたまま、ついに地表へ――――。


 大気を切り裂き、赤く発光する機体が落ちて行く先はどこまでも緑の続く森林。


 赤光はかなり減速しているものの、降下というよりは墜落というのが正しい速度で落ちており、そのまま森の中へ突き刺さったように見えた。


 一瞬の後、落下地点には大爆発が起き、爆煙ははるか上空まで巻き上がる。1ヨージャナに渡り尾を引いた土煙と落下跡は巨大な森林の一部を切り裂き、しばらくして土煙が晴れた森の傷跡には先端に開けたすり鉢状の土地が出来上がっていた。


 落ちたはずの機体はその開けた土地には見当たらない。


 森は突然の惨事に、鳥も獣も激しく逃げ惑っていたが、じきに落ち着いた。


 そして一週間も経つ頃には元の平穏を取り戻し、ひと月も経つ頃には開けた土地も再び緑に覆われていた……。


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 ここはバラダ・ハーン、剣と魔法と精霊が支配する宇宙。


 ゴブリンやドラゴンなど神話や伝説の怪物にあふれており、未だ蒸気機関すら作り出すことのかなわぬ文明が点在する、人や亜人の居住に適した三つの惑星が結ぶ空間。


 膨らんだ三角形のようなこの空間は、惑星を含む空間丸ごとが一つの惑星のように同一恒星軌道上を廻り、大地や海では人力や馬や帆船が、大気の外では低レベルの工業技術と初歩的な魔精科学で建造された船が行き来し、人や亜人の王国がいがみ合いながらも共存する、生命力に満ちた世界である……。


いよいよ、ネッド達の乗る精霊機がパリマに墜落し、プロローグとして少年編が終了しました。

次回から本編―へっぽこ冒険者の冒険譚―に入ります。

青年ネッドの物語をご期待下さい。

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