てんこじ
異世界に転生したから孤児院を開くことにした。おっと、理由は聞かないでほしい。ありがちな理由の一つだし、愉快な話にはならないだろうから。
俺は27歳で死んだ。会社から帰る途中に、大型トラックに跳ねられてしまった。年間3500人程いる死亡者数の一人になったってだけの話だ。クジや抽選で当たった試しなんか無いってのに、オカシイものだ。いや、これも考えものか。ザックリ例えて、宝くじに当たる確率が100分の1だとしよう。そして交通事故で死ぬ確率も100分の1とする。
そうすると、宝くじに当たって尚且つ交通事故で死ぬ確率は一万分の一になる訳だ。二つ引ける人間の方が、圧倒的に少ないだろう。そう考えば抽選に外れ続けた俺が、交通事故にあってしまった出来事は、そこまで天文学的確率ってことでも無いらしい。
「おめでとうございます!あなたは抽選に当たりました!!」
体を裂く様な衝撃から一瞬、俺は暗転した世界から目を開けた。学生だろうか。制服を着ている彼女は、コスモスも冬に咲いてしまうんじゃないかという程満面の笑みを浮かべて拍手をしている。体のラインを見るに、中学生ではなく高校生だろう。
「抽選だと?そしてここはどこだ」
「ここは生と死の狭間です。あなたは星のチリ屑程の確率を引き当てたんです、もっと喜ばれては?」
女子高生はプゥと頬を膨らませた。
「喜びようにも何に当選して、どうめでたいのかさっぱり分からん」
「もう!なんてノリが悪いお兄さん・・・いけない、時間は少ないんだった。これから簡潔に話すから、私の言うことよ〜く聞いてね!」
「・・・あぁ」
「あなたは異世界に転生する権利を得ました!そして、あなたのステータスは全てマックスを振り切るほど能力を与えられています!!青天井ですよ?青天井!!さらにさらに!!豪華絢爛な城を一万棟購入しても使い切れないほどのお金を差し上げておりりまする!!そしてそして、なぁんと!!あなたがお好きなものを、なんでも一つ差し上げましょう!!これら全て、送料込みで・・・29万8千円!!あ、間違えちゃった!無料!!どや!!」
一気にまくし立てた女子高生は、膝に手をついてゼエゼエと息を切らしている。
(ステータス・・・?昔ゲームでやったようなもんか)
「ゼエ・・・ゼエ・・・さ、さぁ!欲しいものを仰るのです!」
「じゃあ家を一つくれ。質素な二階建ての家を」
「ほぅほぅ!あくまで質素な暮らしで構わないという訳ですね!案外いい男じゃないですかあなた」
「そして、その家に看板を書いて貼り付けて欲しい。いつでも、誰でもって、デカデカとな」
「フムフム。いつでも、誰でも?何の為にですか?」
「別に」
「・・・お兄さん。一つだけ私から忠告を」
「なんだ?」
「お兄さんは、既に一度命を終えているのです。楽に生きたところで、誰も咎めはしません」
「暇潰しにやるだけだ」
「揚げ足を取り辛い人ですね」
「なんのことだ」
女子高生は微笑んだと思うと、一直線に走って俺へ抱きついてきた。
「おい、どういうつもりだ?」
「べ〜つに?あなたの願い、聞き届けました。あとはお任せくださいねっ」
打って変わって妖艶な話し方になった女子高生が耳元で呟いた途端に、俺の視界は暗転した。