四回裏:最悪の事件
土曜日。
隼人と俊介は桜中学へ着いた。明日の試合前に挨拶をするためだ。
「よし、行くぞ」
二人は校門へ足を進め、中に入っていった。
今日は授業がないので、いるのは部活をしている者だけだった。校庭からは元気な声が聞こえてくる。その声の主が野球部によるものだとすぐにわかった。
俊介は桜中学野球部の顧問である落合先生を探した。先生は野球部の練習場所のグラウンドにいた。近づくと落合先生は二人の存在に気づいた。
「おや、君達は?」
「僕たちは天龍高校の野球同好会のものです。僕がキャプテンの池谷、こちらが副キャプテンの和田です。このたびは試合の申し込みを承諾していただきありがとうございます」
すると落合先生は不思議そうな表情をした。
「試合の話は中止なったはずだよ」
「えっ!」
俊介はあまりの突然の出来事でびっくりしてしまった。
「昨日、電話があったんだ。『生徒会のものですが野球の練習試合は中止になりました。大変ご迷惑をおかけしました』って。聞いてないのかい?」
「それはなにかの間違いです。どうか明日試合をしてください。お願いします!」
俊介は頭を深く下げてお願いした。隼人も同じようにした。
「でも、困るよ。明日はもう他と練習試合を組んでしまったんだ。申し訳ないが……」
俊介は頭を下げたままだった。変わりに隼人が答えた。
「分かりました。今日は失礼します。お騒がせして申し訳ありませんでした」
隼人は俊介を連れて帰った。
「……なんで、どうして……」
俊介は校門を出るまでずっとうつむいていた。
顔を上げると、いきなり走り出した。
「おい、俊介! ……まさか、あいつ!」
嫌な予感をした隼人は俊介を追いかけた。
しかし、角を曲がったところですでに見えなくなっていた。隼人は仕方なく学校へむかった。
さっき落合先生が言っていた。
『生徒会のものですが……』
と。おそらく俊介は生徒会室に行ったのだろう。
隼人は全速力で学校にむかって走っていった。
その途中、偶然縁たちと会った。
「あれ? 隼人さん」
「あれ、縁。なにしてんだ?」
「私達は明日の差し入れを広和さんのお店へ取りに行くところです」
「隼人のほうこそどうしたんだよ? そんなに走って」
真治が言った。
「さっき、俊介を見なかったか?」
「俊介? ああ、見たよ。声かけても無視したんだ。なにか怒っているようだったな。なにかあったか?」
広和が答えた。
「ちょうどいい。お前らも来てくれ」
隼人たちは学校へむかって走り出した。
靴のまま廊下を走って、生徒会室の中に入った。中には予想どおり、俊介がおり大野の胸倉を掴んでいた。
「なんで、いつも俺たちの邪魔をするんだよ! 恨みでもあんのか!」
怒っている俊介に対して、大野は余裕の笑みを浮かべていた。
「俊介!」
隼人と真治は2人を離れさせた。俊介は暴れて今にも大野に襲いかかろうとしている。
大野はその間に乱れた制服を整えた。
「離せよ! 全部こいつが悪いんだ! こいつのせいで……」
俊介は目にうっすらと涙を浮かべていた。俊介が泣いているのを初めて見た。いつも元気があって自分たちを引っ張っているあの俊介が。
隼人は大野に向き直った。
「大野さん、どうして練習試合を中止にしたんですか? 今回は校長の許可も取ってあります。なぜ勝手なことをしたのですか?」
それを聞いた縁たちは驚きの表情になった。
大野は笑いながら答えた。
「簡単なことだよ。それは……、俺は野球が大嫌いだからだ。あんなものどこがおもしろいんだ。そんな暇があるなら勉強したらどうだ。特にそこの3人」
大野はさっきまでの余裕の表情から鋭い目つきになると、バカにするように真治と広和と勇気を指さした。
「てめぇ、バカにしやがって!」
「待て、真治!」
隼人は襲いかかろうとする真治を止めた。まだ、話しは終わってないからだ。
「なんで大野さんは野球が嫌いなんですか? それに、嫌いだからって俺たちの邪魔はしないでください」
「ふふ、そんなこと君達に言う必要はない。今ここで……、全てが終わるんだからな」
パチンッ
大野が指を鳴らすと、いきなり複数の生徒が入ってきた。みんなガラの悪い不良だらけだ。
「心配するな。女をいたぶる趣味は持ち合わせていない」
縁はぶるぶる震えていた。
縁は大丈夫なのはいいが、自分たちがやばい。
「てめえ、俺らをなめんなよ!」
真治は我慢できず大野に襲い掛かった。しかし、一人の不良が真治を先に殴った。
「うっ!」
殴られた真治はその場に倒れた。
それを見た大野は不敵に笑った。
「真治! ……てめえ!」
次は広和が大野を殴ろうとした。
「待て広和! やめろ!」
隼人が止めようとしたが言うのが遅かった。広和の拳を大野は華麗にかわすとカウンターをくらわした。
「うわっ!」
殴られた広和は倒れると、鼻から血が出てきた。
さすがに俊介も大野を襲いかかろうとはしなかった。その間に隼人は考えた。
どうすればいいんだろうか。今は考えるしかない。その時間を作るんだ。
「いいのか、大野。この状況で先生がきたら停学はおろか退学だぞ」
しかし、百も承知かのように大野はあざ笑った。
「それなら心配ご無用。今は土曜日だ。校舎には校長しかいない。その校長はさっき忘れ物をして家に帰った。部活も今日はすべて休みだ。気にせずとも誰も来ないよ」
隼人は悔しくて舌打ちをした。
先生がいないのも、部活がないのも、全て大野の仕業だろう。ということは、今校舎には誰もいない。やばすぎる状況だ。
そのとき大野が勇気の存在に気づいた。
「あれ? そこにいるのは中村義和と荒田正明にいじめられていた西田勇気くんじゃないか。隠れてないで出ておいでよ」
「ひっ!」
勇気は2人の不良に無理に引っ張られ端のほうから出てきた。
勇気は大野を見ると、恐怖によりその場に座り込んでしまった。
「君は野球同好会に入ったんだったね。和田隼人に勇気を持てって言われて」
勇気はびくびくしてうつむいていた。大野の顔を見ることができず目を瞑っていた。
大野は机に座ると、勇気を見下して話し掛けた。
「あのときは助けなくてすまなかったね。心配しなくてもあの2人は僕からおしおきをした。もう、君をいじめることもないだろう。と言っても君をいじめるようにいったのはこの僕だけどね」
すると、大野は高笑いをした。隼人は耳を疑った。
大野が勇気をいじめた? なぜそんなことを。
「なんでお前は勇気をいじめたんだ? あのときは、まだ野球同好会に入ってないぞ」
「簡単なことだ。西田勇気くんと僕は同じ中学だ。調べた結果、この高校に僕と同じ中学校出身者はそこの西田勇気くんだけで、僕の秘密を唯一知っているやつだ。つまり、口封じのためだ。これで、分かったかな?」
また謎が出てきた。
秘密とはなんだろうか? 勇気はそんなこと一言も口にしなかった。大野いったいどんな秘密があるんだ。
「さ、もういいだろ。そろそろ君達とはさよならだ。二度と野球ができない体にしてやるよ」
すると、不良が隼人たちに近づいてきた。
真治と広和は床に座ってたじろいでいる。勇気は2人につかまれたままだ。隼人と俊介は背中合わせになって立っていた。
どうする? やるしかないのか。だが、勝てるはずない。どうすればいいのだろうか。
そのとき、勇気が大声を出して大野のところに走っていった。そして、大野の顔をおもいっきり殴った。
ふいをつかれた大野の顔は倒れず、少し横を向いただけで、口を切り血がしたっていた。
「ハァ、ハァ、……ぼ、僕の友達に手を出すな!」
勇気が大野に向かって言うと、大野はゆっくりと鋭い目つきで西田を睨みつけた。その目は怒りに満ちた鬼のような目をしていた。
その目をみた隼人は寒気を感じた。
やばい。このままでは勇気が……。
大野がゆっくり拳を上げた。そして、
「やめろ!」
隼人は叫んだが、勇気は顔を殴られ床に倒れた。
そのとき後頭部を強く強打した。体はピクリとも動かず気絶しているのかぐったりとしていた。
隼人は嫌な予感がした。このままでは勇気が死んでしまうのではないか。そればかりが頭によぎる。
「おい、勇気が死んでしまう。早く救急車を呼べ!」
俊介が叫んだが大野は笑った。
「どうせこうなるんだ。呼ぶ必要はない。そして、君らもな。やれ」
大勢の不良が一斉に襲い掛かってきた。
隼人と俊介は対抗したが人数が多すぎてすぐにやられてしまった。真治と広和は抵抗もせずやられ放題だ。
隼人は意識が飛びそうだった。このままでは本当に野球ができなくなる。そのときだった。
「やめてください!」
突然縁が叫んだ。
不良たちも殴るのを辞め、縁の方を見た。
大野は鋭い目つきで縁を見ていた。
「お願いします。もう、……やめてください。野球部を作るのは……あきらめます。だから、どうか……」
縁は大野に向かって頭を下げた。
「ゆ、縁、だめだ。や、約束しただろ!」
隼人が縁を止める。
「で、でも……、これ以上、……見ていられません」
縁は泣いていた。目に涙を浮かべ、顔を手で覆った。
ほんとうに甲子園をあきらめたようだ。隼人は拳を強く握った。
すると、大野は縁にゆっくりと近づいた。
「お前……」
大野は縁の髪の毛を掴むと無理に顔を上げさせた。
「俺がはいそうですかと止めると思うか?」
パシッ
縁はその場に倒れた。大野が縁の頬を叩いた。縁は自分の頬を手で抑えた。
隼人は今まで味わったことのない怒りが込み上げてきた。
憎い。大野が憎い。その怒りは勇気を助けたときと比べられない怒りだ。
隼人は不良たちの手を解き大野にむかって叫んだ。
「大野―!」
大野は不気味に笑みを浮かべながら隼人に振り向いた。
その瞬間、隼人は大野の顔をおもいっきり殴った。殴られた大野は壁にぶつかり鼻を抑えた。
隼人は気が収まらず、左手で大野の胸倉を掴むと、右手で顔を何発も殴った。
「うっ、うわっ!」
大野のうめき声が聞こえる。しかし、隼人はそれだけで終わらなかった。
大野の襟を掴みたたせると、後頭部を掴んでガラスに頭を突っ込ませた。
パリンッ カランッ カランッ ガシャンッ
一枚のガラスが割れ、大野の頭は血だらけだ。
「もういい! 隼人、もうやめろ!」
俊介がなに言おうが隼人には聞こえなかった。頭に血が上り、縁が叩かれたシーンが何回も繰り替えされる。
こいつを殺す。それしか考えられなかった。
そのとき、後ろから誰かが抱きついてきた。隼人は振り返った。そこには縁がいた。
「もう、もういいです。私は大丈夫ですから。もう、やめてください」
「縁……」
我に帰った隼人は大野を離した。
大野はその場に倒れ気絶しているのか横たわった。
「やべぇ、やばすぎる。おい、逃げるぞ!」
その場にいた不良たちはいそいで生徒会室から逃げ出した。
隼人は周りを見渡した。勇気は倒れ、真治と広和はどこかを折ったのか痛みにもがいていた。俊介は携帯を取り出し、救急車を呼んでいた。縁はまだ抱きついていた。
「縁……」
縁は泣きながら隼人に強く抱きついていた。そのとき、頬を見ると赤くなっていた。
隼人は全員の無事を確認するとその場に倒れた。
「隼人さん!」
「隼人!」
うっすらと縁が自分を見ているのがわかった。体が動かない。
倒れた隼人は静かに目を閉じた……。
目を開けたら白い天井が見えた。ここがどこかわからず、体を起こした。時刻は午前の12時を回っていた。
縁が隼人の横にいて布団の上にうつぶせになって寝ていた。
「起きたか」
隣を見ると、そこには俊介がいた。その隣にはカーテンが閉まっており、前には真治、広和、勇気がいた。
そこでようやく自分がいる場所がわかった。
「なんで俺病院にいるんだ?」
隼人が俊介に聞くと、あのあとのことを説明してくれた。
大野を殴って隼人が倒れた後、校長先生と救急車がきて自分たちは運ばれた。ここは、大野病院と言い、あの大野のお父さんが院長らしい。
みんな大事にはいたらず一ヶ月くらいで退院できるらしい。
真治は足、広和は手を骨折してギプスをしていた。勇気の頭のは包帯で巻かれていた。俊介は手首と足首をねんざしたらしい。隼人には左手包帯が巻かれ足をねんざしていた。
「そこのカーテンは誰かいるのか?」
「ああ、大野がいるよ。あいつが一番やばいな。鼻が骨折して頭を数箇所切ったみたいだ。全部隼人がしたんだけどな」
「俺が?」
「なんだ。おぼえてないのか? あれはすごかったぜ。あいつの頭をガラスにぶつけてその手に傷ができたんだぜ。あと、最連寺に感謝しろよ。一晩中そこにいて隼人を見ていたんだからな」
隼人そっと縁を見た。すると、縁が起きだした。
「あっ、隼人さん。だ、大丈夫ですか? どこも痛くありませんか?」
「大丈夫だよ。ありがと、縁。縁こそ大丈夫か?」
「わ、私は大丈夫です。でも、よかったです。隼人さんが無事で……」
そのときドアが開いて寺田先生と校長先生が入ってきた。
「和田。お前、大丈夫か?」
「はい、なんとか。……あっ、試合は?」
「それなら大丈夫。今日はみんな帰ってもらった」
「そうですか……」
「それと、校長からみんなに話しがあるそうだ。では、校長」
校長先生は一つ咳払いをすると話しを始めた。
「うむ。今回の事件は生徒会長の大野くんが勝手なことをしたそうだな。しかし、君達は暴力事件を起こしたのは事実。そこで、三ヶ月の部活動停止処分を言い渡す。まあ、仕方ない。私も野球は大好きだから頑張ってもらいたい。それより早くケガを治しなさい。これで、私からは以上。では、寺田先生」
「はい。分かっていると思うが今回の甲子園予選大会は出場しない。人数もまだ足りないしな。お前らは無理せずケガを治すこと。じゃ、先生たちは帰る。またな」
そう言って先生達は病室から出て行った。
「出場停止か……。まあ、仕方ねーな。これじゃ練習もできないし」
真治は足を降った。
「来年は出れるように頑張ろうぜ。1年が入ってくれば誰か野球部に入るかもしんないし」
広和が言った。隼人は勇気ある疑問を聞いてみた。
「なあ、勇気。お前に聞きたいことがあるんだ」
「ん? なに?」
「大野の中学のときの秘密ってなんだ? 教えてくれ」
勇気はそっとカーテンを見た。そして、うなずくと話してくれた。
「うん。いいよ。実はね、僕と大野くんは幼いころからの親友なんだ。そして、大野くんは野球をしてたんだ」
「えっ、勇気と大野親友だったの?」
「しかも大野野球してたのか?」
真治と広和は驚いていた。
「うん、僕が小学生のときにいじめられていたとき、大野くんだけは仲良くしてくれたんだ。けど、中学のときある事件が起きたんだ」
大野の秘密はこうだった。
小学生からリトルリーグで野球をしていた大野は抜群のセンスと身体能力を兼ね揃え、4年生からショートのレギュラーだった。
バッティングはいつも5割を超え、守備は完璧でどんな難しいボールも飛びついて捕ってアウトにした天才的な選手だった。
大野は中学でも野球部に入り一年生からレギュラーを取った。試合でも活躍して期待の新人と言われた。
しかし、事件は起こった。
「おい、天才くん。お前最近調子に乗りすぎだぜ。なんで、3年の俺が試合に出れないんだよ」
「それは、先輩より僕のほうがうまいからです。先輩なら頑張ればレギュラー取れますよ」
「それが、うぜんだよ! 見下したような言い方しやがって!」
そういうと、先輩は大野を殴りだした。
「うっ! な、なにするんですか、先輩!」
「お前がいなければ俺が試合に出れるんだよ!」
そして、大野は全治一ヶ月のケガを負い、夏の大会には出れなく変わりにその先輩が出た。
ケガが治って復帰したがチームメイトに言われた。
「お前がいるとお前ばかり目だっておもしろくないんだ」
「お前は野球を辞めろ」
大野はそのことを監督に相談した。しかし、
「たしかにお前はうまいけど、みんながそういうなら辞めてくれないか。一人の選手より多くの選手のほうが優先だからな」
大野は絶句した。チームメイトどころか監督にまで見捨てられたのだ。
大野は変わった。
3年になったとき他の高校の不良を集め野球部を襲った。選手はケガをした。先生までやられた。道具はすべて壊されていた。
しかし、大野はなにも処罰されなかった。襲ったのは他の生徒で大野はなにもしていないからだ。証拠もなかった。
それから、大野は大勢に不良をあやつり、自分の気にくわないものはすべて壊した。
勇気の話しを聞いて、隼人は驚いた。
自分とまったく同じだった。自分もチームメイトに裏切られた。その気持ちは痛いほどわかる。
そのとき、いきなりカーテンが開いた。
「……西田。お前余計なこと言ってんじゃね!」
大野の顔は包帯だらけだった。目だけ開いてそこだけ見えていた。
そこから鋭い目つきで勇気を睨みつけていた。
「大野くん、もういいだろ? もう十分苦しめた。もうこんなこと辞めよう」
「うるせー! まだだ。まだ終わっていない。俺の苦しみを味わらせてやる!」
「そんなんじゃ、大野くんを裏切ったやつと変わらないよ!」
「えっ?」
「同じじゃないか。大野くんは裏切ったチームメイトと同じことをしているんだ」
勇気は必死に訴えていた。
「お、俺は……、ち、違う。俺はあいつらとは違う。しったような口をきくな! 俺はあいつらと違う!」
「じゃあなんでぼく達の邪魔をするんだよ! それはうらやましいからだろ。楽しそうにするぼく達がうらやましんだろ!」
「西田! お前、いいかげんにしろ!」
大野はベッドから降りて西田を殴ろうとした。しかし、ベッドから降りるとその場に転んでしまった。
「ちっ、このくらいで体がいうことをきかないとは……」
「大野君、……ごめん。君はぼくがいじめられても一緒にいてくれたよね。けど、ぼくは大野くんがいじめられていても助けることができなかった。怖かったんだ。でも、今なら助けることができる。一緒に、野球しよう!」
勇気が笑顔で大野を誘った。あのときのように。
「ああ、俺も賛成だぜ。な。隼人」
「ああ、俺もいいぜ」
俊介も隼人も賛成した。
「俺も」
「僕も賛成」
「私もいいですよ」
みんな賛成した。あとは大野しだいだ。
大野は呆気にとられ、全員を見渡した。
「お前ら、俺を許すのか? ……あんなにひどいことして……俺を許してくれるのか?」
「みんな、大野くんと野球したいんだよ。だから、一緒に野球やろう」
西田はベッドから降りると、大野に手を差し出した。
しかし、大野は手を掴まず振り払ってその場に仰向けになって寝転んだ。
「俺は生徒会長だ。天龍高校の名をあげるのが仕事だ。俺が入る以上、本気で甲子園を目指してもらうからな。俺がこのチームを強くしてやる。……ありがとうな」
大野は泣いているのか笑っているのかわからない『ありがとう』を言った。
これで今七人目のメンバーが入ってきた。大きな戦力となる選手が。