三回裏:名案と気持ち
文化祭が終わった夜、一也はなかなか眠れないでいた。
明日は野球の練習がある。それなのに目が覚めていた。というより、あのことが気になっていた。
文化祭のとき、縁は目を閉じて隼人を待った。
つまり、隼人とキスをしてもいいということになる。それは、縁が自分のことが好きだということだろうか。
その前に、自分は縁が好きなのだろうか。もし好きなら、あのときキスをしていたはずだ。
でも、最後はできなかった。それならば、縁のことは好きではないということだろうか。
「ああ〜、何考えているんだ。俺は」
隼人は布団を無理に覆い被り、早く寝ようとした。
しかし、気づいたときにはすでに朝日が昇っていた。
朝9時30分。隼人は眠たい目を擦り、支度をして神社にむかった。
「いってきます」
玄関から出ると、ちょうど縁も家から出てきた。
「あ、おはようございます。隼人さん」
「あ、ああ。……おはよ、縁」
昨日のことが引きずって、いやに緊張してしまう。そんなこと、今までなかったのに。
「あっ、少し持とうか?」
縁の手には大きなバッグが提げられていた。おそらく昨日言っていた、みんなの分のお弁当だろう。
「大丈夫ですよ。ちょっと重いですけどなんとか持てます」
二人は一緒に神社にむかった。縁はいつもどおりの表情だった。
しかし、隼人はあのことが頭から離れなかった。
「隼人さん」
「え、あ、何?」
突然呼ばれて少し驚いてしまった。
「さっきから元気がありませんがどうかしたんですか?」
縁が心配した表情で隼人を見てくる。目が合うとあの時のシーンが鮮明に甦る。
「ああ、大丈夫。ちょっと寝不足なだけだから」
「そうですか」
そのあとも、二人は無言のまま神社に向かった。
着いたとき、俊介たちはまだ来ていなかった。時刻は約束の十時になっている。
仕方なくベンチに腰掛けて待つことにした。大木がちょうどよい日陰をつくっていた。
「隼人さん、覚えていますか? ここで私と会ったこと」
隼人はうなずいた。
「ああ、覚えているよ。俺が縁を助けたんだ」
「あれから10年経とうとしてるんですね」
「うん……」
大木を見ると、あのときのことが思い出される。
縁と合い、野球を教え、いろいろなところに遊びに行った。そして、あの約束。すべて、ここで始まった。
「あ、あの、縁」
「はい?」
「あの……」
隼人はあのときのことを聞こうと思った。
どうしてキスしてもよかったのか。自分のことをどう思っているのか。
「あ、あの、昨日の、あのときのことなんだけど……」
「あ、……はい」
縁も感づいたのか、少し顔が赤くなっていた。
「その、あのとき……」
「はい……」
「朝からお暑いですね。お二人さん」
二人は神社の入り口を見ると俊介達がいた。みんなにやにやしながらこっちを見ている。
「お、お前ら遅かったじゃねーか。何してたんだよ」
「グローブを買ってたんです。3人が一緒にきて選んでくれたんです」
勇気は嬉しそうに新品のグローブを見せた。真治や広和も新しいものを買っていた。
「そういうこと。じゃ、軽くキャッチボールからするか」
隼人たちは五角形になり隣に投げあった。縁はベンチに座ってみんなを見ていた。
「あっ、ごめん」
勇気は取るのはうまいが投げるのはコントロールが悪くあっちこっち飛んで行った。
広和は大変そうだった。
「よし、次フライの練習するぞ。隼人が投げて取ったら俺に投げるんだ」
隼人は軽く上に投げた。
真治はうまく取り俊介に投げた。スピードはそんなにないがコントロールはなかなかで俊介のミットに収まった。
「ナイスボール!」
次は広和だ。広和は取ることができず後ろに落ちてしまった。
次の勇気はもっと悪かった。取ることもできず投げてもはるか上のほうに飛んでしまった。
「す、すみません……」
「まぁ、しょうがないよな。最初からできるやつなんかいないし。練習すればうまくなるよ」
「……は、はい!」
勇気は元気よく返事した。
そのあと、隼人のピッチング練習をした。
ついでに、バント練習もして当てたらジュースをおごることになった。隼人は俊介に最高のピッチングを見せた。
構えたとこに投げ真治はかすりもしなかった。
「隼人のやつすごいぜ。あんなの当たらねーよ」
「よーし、僕が当ててやる」
次は広和。
隼人は俊介が構えているど真ん中におもいっきり投げた。130キロはでている。いいボールだ。しかし、
コーン
広和がバットに当てた。ボールはキャッチャーの後ろに転がった。
いきなり当てるとは思わなかったので、みんな驚いていた。
広和は次のボールにも当てた。そして3球目は前に転がり成功した。
「やった。バント成功だ」
初心者がいきなり130キロ近いボールに当てた。広和はバントの天才かもしれない。
隼人はいいやつ入ってきたと心から思った。
次の勇気はかすりもせず終わった。
12時を回り、みんなは縁が持ってきたブルーシート広げお弁当を食べた。
「みなさん、お疲れ様です。たくさん食べてくださいね」
「いただきます!」
隼人たちは声をそろえ食べ始めた。
「これ全部最連寺が作ったの?」
広和はおにぎりを食べながら聞いた。
「はい。お口に合いますか?」
「うん、すごくおいしい!」
「それは、よかったです。隼人さんはどうですか?」
「ああ、おいしいよ。やっぱ料理うまいな」
「ふふ、ありがとうございます」
「いいよな隼人は。こんなおいしい料理を毎日食えるんだから」
また俊介がからかい始めた。
「だから、縁とは別にそんな関係じゃないって言ってるだろ」
「じゃあ、もし最連寺が告白してきたらお前どうするんだよ?」
「えっ、そ、それは……」
隼人はそっと縁を見た。
縁は顔を赤くしてお弁当を食べているが、耳だけは隼人の返事を待っているようだ。
俊介たちもじっと回答を待っている。
隼人はみんなにはっきり言った。
「お前らには教えん」
それを聞いて、みんながっかりした。
「なんでだよ。教えろよ〜」
「ハハハハハハハ」
隼人たちは楽しく昼食を終えた。
一息ついたとき真治が言った。
「なぁ、俊介。そろそろキャプテンとか決めない? そのほうがいいんじゃないか?」
「う〜ん、そうだな。じゃあ今決めるか。どうやって決める?」
「くじで決める?」
広和が手を上げて言った。
「それじゃあだめだろ。この中で責任感があり、教えるのがうまい人がいいな」
「じゃあ、隼人くんか俊介くん?」
勇気が言った。
「広和がしたいならいいぜ」
俊介が笑いながら言った。
「いや、僕はそういうのむいてないからな」
「あ、あのさ」
隼人が口を開くと、みな隼人のほうを向いて注目した。
「俺は俊介がいいと思う。俊介は一番に野球部を作ろうとしたし責任感もある。それに俊介がいなかったら、多分こうして野球をすることもなかったと思うし」
「うん、いいんじゃないか俊介で。オレは俊介に賛成」
真治が賛成した。
「僕も賛成」
「ぼくも俊介くんがいいです」
「私も賛成です」
みんなが賛成した。後は俊介がどうするかだ。みんな俊介のほう見た。
「お、俺がキャプテン? ……よ、よし! じゃあ今日から俺がキャプテンだ。よろしくな!」
パチパチパチパチパチ
みんなで元気よく拍手した。俊介は照れ笑いを浮かべながら頭を下げた。
「じゃあ俊介、なにか一言どうぞ」
広和に言われ、俊介は一つ咳払いをした。
「ええーと、……まあとにかく、早く9人集めてみんなで甲子園に行こう!」
「おう!」
こうして俊介がキャプテンに決まった。
「あと、副キャプテンも決めよう。まあ、これは隼人しかいないな」
俊介が言うと、みんなうなずいた。
「そうだな、それでいいと思う」
「やっぱり俊介一人じゃ大変だしな。隼人はどうなんだ?」
隼人はすぐに了承した。
「いいぜ。俺はかまわないけど」
「そうか、ありがとう。最連寺は今までどおりマネージャーでいいな?」
「はい。もちろんです」
「よし、これからも頑張るぞ!」
野球部は少しずつだが、確実に前に進んでいるように思えた。
これから恐ろしいことが起こることを知らずに。
月曜日も、隼人はビラ配りをするため、朝早く起きて学校に行った。
校門に着いたときすでに俊介たちがいた。
しかし、中に入らず何かを見ていた。
「あっ、おはようございます。隼人さん」
「おはよ、縁。どうしたんだ?」
「あっ、隼人。見ろよこれ」
俊介の見せたのは一枚のプリントだった。
「はっ!」
隼人は内容を見て驚いた。そこには、
[今日から野球同好会のチラシ配りを禁ずる 生徒会一同]
「なんだよこれ。いきなり……」
「まったく。また生徒会かよ。オレたちに恨みがあんのか!」
真治が手に拳を当てて怒った。
俊介はため息をついてみんなに言った。
「しょうがない。今日はこれで解散する。放課後1組に集合な。あと、隼人と縁は残ってくれ。話しがある。以上、解散!」
真治、広和、勇気は校舎に向かってとぼとぼと歩いていった。
言われたとおり、隼人と縁はその場に残った。
「なんだよ、話しって?」
「今日の昼休み、生徒会室に行こうと思う。2人も一緒に来てくれ。いいかな?」
「なんだ、そんなことか。いいぜ。縁は?」
「私もいいですよ」
そういって3人は校舎へむかった。
昼休み。
隼人たちはさっそく生徒会室へむかった。
大野に直接聞いてもよかったのだが、昼飯を食っているときにはすで教室にはいなかった。
「失礼します」
俊介は礼儀正しく入った。キャプテンとして自覚がでたのか前のようにドアをおもいっきり引いたりしなかった。
生徒会室の中はまた大野一人だけだった。
「どうしたんだい? 野球同好会の諸君。また何か用かい?」
「今回はチラシ配りがなぜ禁止なのか聞きに来ました。なぜ禁止なんですか!」
俊介は多少怒りを込めて言った。そんな俊介に少しも動じず大野は冷静に説明した。
「簡単なことだ。近所から苦情がきているからだ」
「苦情?」
「そうだ。毎朝毎朝大きな声が聞こえて迷惑していると電話があったのだ。それに生徒たちも迷惑しているようだ。毎朝チラシをもらっても困るとな。僕もただの紙の無駄づかいと思うしね。それで禁止にしたんだ。なにか言いたいことがあるかな? 池谷俊介君」
俊介はうつむいたがすぐさま顔を上げて言った。
「分かりました。迷惑をかけて申し訳ありませんでした。失礼します」
そういって俊介は生徒会室走って出て行った。そのあとを縁が追った。
隼人は大野を見た。無表情だが心の中で笑っているようだった。隼人も俊介を追うことにした。
「……ふふ、地獄はこれからだ」
隼人が二人を見つけたとき、俊介と縁は階段にいた。
俊介は階段に座ってぼーとしていた。縁は心配そうに見ている。
「おい……、俊介」
俊介はうつむいていた顔を上げ、隼人を見て笑った。
「いや〜、しょうがね〜よな。近所のこと考えなかった俺が悪いし。そろそろチラシ配りも限界かなって思ってたんだよ。いい機会だ。新しい対策考えようぜ」
隼人はすぐに分かった。
俊介は笑っていたが心の中では泣いているようだ。何をしても自分たちの案がどんどん消されていく。
俊介はキャプテンとしてなにかしようと必死みたいだった。
助けてやりたい。いつも俊介に助けられ、今こうして野球を頑張れるのも俊介のおかげだ。
それに自分は副キャプテンだ。キャプテンを助けるのが副キャプテンの仕事である。
今がその時のはずだ。
「俊介。お前は一人で背負いすぎだ。俺を副キャプテンに、縁をマネージャーに選んだんだろ? だったら、もっと俺たちを信用しろよ。真治だって広和や勇気だっている。一人じゃ何もできないことも2人や3人でできることもあるんだからな」
「そうですよ、俊介さん。元気だしてください」
俊介はさっきまでの無理やり作った笑顔ではなく、心から作れる笑顔を見せてくれた。
そこには今までの俊介がいた。
「そうだな。ありがとう。隼人、最連寺。俺、元気が出たぜ」
隼人も縁も心から笑顔を返した。
「よし、今日の放課後。ちゃんと送れずに来いよ。特に隼人」
「と言っても一組だから遅刻もなにもないけどな」
「あれ? そうだっけ」
「ははははははは」
隼人たちは笑いながら教室へ戻った。
放課後。
六組から真治たちがきてミーティングが始まった。
まず、昼休みのことを俊介が3人に説明した。
「そうか……。なら、しょうがないな。迷惑をかけちゃだめだしな」
「でも、これからどうする?」
みんな悩んだがなかなかいい案が思い浮かばない。
そこで、隼人が口を開いた。
「あのさ、授業中考えてたんだけど、実際に試合をしているとこをみんなに見せたらどうかな? そしたらみんな興味が湧くんじゃないか?」
「でも、人数足りないんだぜ? それに相手はどうするんだよ」
言うだろうと思っていたことを予想どおりに広和が言った。
「それも考えてある。この目的はみんなに野球の楽しさを分かってもらうことだ。そこで残りの4人は募集する。つまり仮入部だな。一緒に試合をして楽しければ入ってくるやつも出てくるんじゃないか」
真治はパチンと指を鳴らした。
「うん、いいなそれ。オレその案に賛成」
「どうだ、俊介?」
隼人は俊介に聞くとゆっくりとうなずいた。
「ああ、すごくいい案だと思うぜ。けど、どうやって募集するんだ? チラシ配りは禁止されているんだぞ」
そのとき勇気がめずらしく手を上げて発言した。
「あ、あの〜。ぼ、ぼくの友達、放送部の人なので頼んだらどうでしょう……」
「マ、マジで? ならいいじゃないか。いけるぞ」
真治は喜んだが俊介は冷静に言った。
「でも、対戦相手はどうするんだ? 相手がいなくちゃ試合なんて無理だぞ」
「それなら心配ない」
突然教室のドアが開かれ、寺田先生が入ってきた。
「どういうことですか? 心配ないって」
寺田先生は隼人を見て言った。
「大丈夫だったぞ」
「ありがとうございます。先生」
「どういうことだよ、隼人。説明してくれよ」
みんななにがなんだかわからず、隼人が説明するのを待っていた。
「さっき言ったろ? 授業中考えてたって。先生にまず対戦相手について相談したんだ。7月から夏の甲子園の予選が始まる。ここは新設校で成績もないからどこの高校も練習試合は断ることは分かっていた。でも、中学校は関係ないだろ? そこで先生に頼んだんだ。そしたら、先生は自分の中学の母校に頼んでみるって。それに、初心者だらけのやつらでも中学生相手ならいい試合ができそうだろ?」
隼人の説明が終わるとみんな呆気に取られていた。呆然と隼人の顔を見てくる。
「すげー、すげーよ、隼人。お前よくやったぜ。持つべきものは隼人だな」
そう言って俊介は隼人の頭を叩き出した。それにつられて、真治と広和も叩いてきた。縁と勇気は笑っていた。
しばらくしてやっと開放された。
「よ〜し。じゃあ、勇気は明日その放送部員に頼んでおいてくれ。原稿は最連寺に頼む。真治と広和はグランドがいつ空いているか聞きに行く。俺と隼人はその中学校に挨拶に行く。これでいいかな。じゃ、今日はこれで解散」
隼人たちはこれからが楽しみでわくわくしながら教室から出て行った。
次の日の昼休み。真治と広和が一組にやってきた。
「校長に聞いたら、来週の日曜が空いてるってよ」
「よし、今日の放課後1組に集合な。隼人は寺田先生に一応伝えておいてくれ。真治は勇気に伝えてくれ」
「分かった」
そう言うと、二人は教室に戻っていった。
「なんか、うまくいきそうな予感がしてきたぞ。これなら誰か入ってくるかもな」
「よし、縁。さっそく原稿書こう」
「はい」
そのやりとりを大野はひそかに聞いていた。
放課後。
1組に全員集まった。寺田先生もきた。
「勇気。お前のほうはどうだった?」
「いいと言ってました」
「よし。じゃあ、今分かっていることをまとめよう。今回の練習試合は、寺田先生の母校である桜中学と対戦する。場所は天龍高校グランド。来週の日曜6月1日の9時30分試合開始。俺たちは7時に準備をするから早く来るように。残りの4人は来週の月曜の昼休み勇気の友達に放送してもらう。最連寺、原稿はできたか?」
「はい。バッチリです。勇気さん、お願いしますね」
「は、はい」
縁が勇気に渡そうとしたとき、俊介が思いついたように言った。
「なあ、最連寺。お前が代わりに放送してくれないか? そのほうが効果があると思うんだ」
「えっ? わ、私がですか? む、無理ですよ。緊張してうまくしゃべれません」
「縁なら大丈夫だよ。俺からも頼む。な? 縁」
縁は困った顔で悩んだ。そして、
「わ、分かりました。これも野球部のためです。やってみます」
「ありがとう、最連寺。あと、こっちから桜中に頼んだんだからなにか差し入れとか用意したほうがいいな」
「あっ、それならまかせろ。僕が持って来るよ」
「そうか、じゃあ、お金は……」
「いいよお金は。スーパー高杉ってあるだろ? そこ、僕の父ちゃんが店長なんだ。そこからすこし持ってきてやるよ」
スーパー赤星はここらでは一番大きな店で、食料や電化製品、服や本までなんでもあるお店だ。
「そうか、ありがとうな。けど、知らなかったぜ。あの店、お前のなんだな」
「まあな。よく後を継げってうるさいけど」
「それと、審判はどうする? できれば先生とかではなく公平にしたいんだが」
「それなら俺にまかせろ」
隼人は自信満々に言った。
「俺の親父は元プロ野球選手だから審判はできるだろう。練習試合だしな」
「えっ? 隼人のお父さん元プロなのか? だから野球うまいんだな〜」
広和は感心して言った。
「別に親父は関係ねーよ。誰でも頑張ればうまくなれるって」
「じゃあ、審判のことは頼んだぜ。あと、明日から練習をしよう。場所は神龍神社。自分のユニフォームを持ってくること」
「ちょっと待てよ。俺と広和と勇気は持ってないぜ」
「ああ、そうか。じゃあ、今週の日曜日、25日だな。その日にみんなで買いに行こう」
「それならいいか。でも、いくらするんだ?」
俊介は思い当たる道具を指を折りながら数えた。
「う〜ん。スパイクとかいろいろ買えば3万くらいするかな」
「3万? そんなにするのか? ちょっと高くねーか」
広和は驚いていた。
「これから3年間頑張るんだ。悪いけど親に頼んでくれ」
「はぁ〜、お小遣いが減っちゃうよ〜」
「じゃあ、先生も行くかな。他にもいろいろいるだろう。車で送るから学校に来なさい」
「分かりました。じゃ、今日はこれで解散だな。明日はユニフォームじゃなくていいから神社に来いよ。では、解散」
みんなそれぞれ教室から出て行った。
そのとき隼人は俊介に話し掛けた。
「俊介、ちょっといいか?」
「えっ? なんだよ?」
「ちょっと一緒に帰ろうぜ。話があるんだ」
いやに真剣な表情で隼人は話すので、俊介はなにか悪いことをしたかと思った。
「あ、ああ、いいぜ」
そのやりとりを縁も見ていたが、気にすることなく先に帰っていった。
みんなが帰ったあと、隼人と俊介は一緒に帰った。
「そういえば、隼人と一緒に帰るのは始めてかもな。今までなかったろ?」
「たしかにそうだな。いつも一人か縁と帰っていたからな」
俊介はなぜかいやにやしながら歩いていた。
「それで、その彼女をほっといて、俺に話しってなんだよ?」
「ああ、たいしたことじゃないんだ。明日、買い物のあと俺の家に来ないか?」
「隼人の家にか? 別にいいけどそれだけのために呼んだのか? それにしても大げさすぎるぜ」
「違う。話は明日俺の家でするってことだよ。これでわかったか」
「つーか、今話せよ。気になるじゃん」
「俺にとって大事な話だよ。とにかく明日な」
「わかったよ。じゃあ明日な」
そう言って、二人は途中で別れた。
家に着くと、隼人は俊一にさっそく審判をしてくれないか頼んだ。
「親父、お願いがあるんだけど」
「なんだ、猛虎学園に編入したいってか? それなら今年の大会は出られないぞ」
「違うよ。もっと大事なことだ。来週の日曜空いてる?」
「午前中なら空いてるぞ。それがどうかしたか?」
隼人は練習試合のことなど全て話した。俊一は快く承諾してくれた。
「ありがとう、親父」
隼人は夕食を食べ終えると自分の部屋にすぐに戻った。
そして、明日のことを考えていた。自分の気持ちをはっきりするために。