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ストライク  作者: ライト
33/38

十六回裏:決勝猛虎学園

 とうとう決勝戦が始まった。


真治は気合を入れてバッターボックスに立つ。


 猛虎学園の二年生エース、榎本は怒りに満ち溢れた表情をしていた。


ずっと楽しみにしていた。隼人との対決。それを1年なんかが邪魔して……。


これで決まったのだ。東の最強ピッチャー対西の最強ピッチャーの対決。東西を制するのは誰か。三振王は誰か。


どれほど、待ちわびたことか……。


 榎本は硬球を力強く握り締め、真治を睨みつけた。


「打てるもんなら打ってみろよ!」


 榎本の右腕から剛速球が襲いかかってきた。


ドパァァァァンッ


 西条のミットから凄まじい音が球場全体に響いた。びりびりと伝わってくる。榎本最高のボールだった。


 そこで一斉に歓声がいっきに上がった。静まり返ったスタンドが息を吹き返した。榎本は西条から返球を受け取る。


 真治はふっと息をついた。すごいボールだ。隼人のほうが速いがただのボールじゃない。野獣が襲いかかってくるような威圧感のあるボール。まるで、生きているようだ。


 真治はおもいっきりバットを振る。だが、かすりもせずあっという間に三振で終わった。


「一人目……」


 榎本が呟く。


そして次は広和。広和は最初から揺さぶりをかけようとバントの構えをした。だが、そんなことは榎本には効かなかった。


ドパァァァァンッ


 またミットから凄まじい音が轟く。それに広和は退いてしまった。すごい球威だ。バントしようにもまるで自分に襲いかかってくるように感じてしまう。


 榎本は広和までも三振で終わらせた。


「二人目……」


「打てよ、直人!」


 俊介に言われ、直人はバットをぎゅっと握って打席に入った。


榎本は直人を見てふっと息を吐いた。


「県選抜に選ばれたサードの刹那か。こいつも要注意だな。でも……俺の球は打てない」


 榎本は初球最高のストレートを投げた。直人はバットを振るがかすりもせず空を切る。


直人は舌打ちして榎本を睨みつけた。今まで味方だったが、敵に回して初めてこいつのすごさがわかる。こいつは、本物の怪物だ。


 二球目。榎本はインコースに鋭く突くようなストレートを放った。直人はバットを振るが明らかに振り遅れて出ていた。


 まったくタイミングが合わない。もっと早く振らなければ。来たと思ったら振るんだ。


三球目。榎本が振り上げた。振れ。振れ。来たら振るんだ。


榎本が投げた瞬間、直人はバットを振りにいった。だが、バットにボールは当たらない。ボールはまだ届いていなかった。ここでチェンジアップ。


 直人のバットが振り終わった瞬間、榎本のボールは西条のミットへと収まった。


「三人目……」


 そこで大きな歓声が沸き起こった。今までよりももっとすごく、いっきに息を吹き返したように騒ぎ出した。


「すげー! いきなり三者連続三振だ!」


「さすが怪物! さすが王者猛虎学園!」


「2年生エース榎本は最強だ!」


「ナイスピッチング、榎本!」


 三塁側スタンドはお祭り騒ぎのように盛り上げっていた。猛虎学園の選手や生徒たちもメガホンで応援している。


 直人は悔しそうにヘルメットを脱いだ。


「くそ! あそこでチェンジアップかよ!」


「仕方ねーよ。次頑張ろうぜ! 行くぞ! 絶対に点を与えるな!」


「おう!」


 俊介を中心にみんなはグラウンドに飛び出した。


「隼人さん……」


 縁は隣にいる隼人を見た。隼人はさっきからタオルを頭からかぶりうつむいていた。


 先発は1年の翔一。その姿に誰もが疑問を抱いていた。


「なんで和田隼人じゃないんだ?」


「さぁ? あの1年で猛虎学園の打線抑えれんのかよ」


「おい! 本物のエース出さねーか!」


「そうだ。それが見たくて来たんだぞ!」


 周りから野地が飛ぶ。だが、翔一は気にせず俊介のミットだけを見ていた。他にピッチャーはいない。自分が投げるしかないんだ。


 猛虎学園の攻撃。一番の神風が左打席に入ると俊介にむかって呟いた。


「ああ~あ。おれあの剛速球投手と対戦したかったんだけどな。……出さねーならあいつ、潰すよ?」


 俊介に冷たい目を向ける。


俊介は無視して翔一に外角のスライダーを要求した。最初から慎重にいく。ストライクからボールに外せ。


 翔一はうなずくと左のサイドスローからスライダーを投げた。ボールはストライクゾーンからボールに出る。


だが、神風は笑みを浮かべそれを打った。


カキンッ


 打球は高く上がってレフトとセンターへの流し打ち。誰もが抜けたと思った。だが、


「おりゃあああ!」


 真治が地面すれすれで打球に飛びつく。そしてそのまま勢いよく転げ回った。


審判が真治に近づく。真治は腕を上げて捕球したことをアピールした。審判は腕を上げた。


「アウト! アウト!」


 そこで一塁側スタンドが盛り上がり、大きな拍手と歓声が送られた。


「ナイスキャッチ、真治!」


「よくやった!」


「ファインプレーだぜ!」


 真治は起き上がるとにやっと笑った。


「へへ、オレの足と打球音を聞く耳は舐めるなよ」


 神風は真治を見て驚いていた。


「あ、あいつ、おれと同じくらいの足持ってるじゃねーか」


 次は二番の皇乃。皇乃は初めからバントの構えをしていた。さっそく揺さぶりにきた。だが、そんな揺さぶりも一人だけ見抜いている選手がいた。


三球目の翔一のシュートで皇乃がヒッティングの構えになった。そしてピッチャー返しで打つ。誰もがセンターに抜けたと思った。だが、広和が打球に飛びつき捕球した。


「と、捕った?」


 広和はそのまま龍也にトスし龍也が強肩でファーストに投げる。またもやファインプレーでツーアウト目を奪った。


広和は立ち上がると皇乃を見た。


「ふん、反復横飛びとあらゆるシチュエーションは死ぬほどやったんだ。そう来ると思ってたよ」


 皇乃は信じられないというような表情で広和を見ていた。


 次は三番の海道。海道は初球、俊足を活かして意表を突くセーフティバントをした。だが、すでに直人がバント処理に走っていた。


「なに!」


 直人はボールを掴むとすかさずファーストへ。これでスリーアウト取った。


「オレのダッシュ力舐めんなよ。海道さん」


 海道は直人を見て驚きながらも笑みを浮かべた。


「県選抜、名三塁手の刹那直人か。……おもしろい」


 これで一回はお互い0点に終わった。なにより三塁側の猛虎学園の応援席は呆気に取られていた。まさか、あの王者猛虎学園が初回0点とは思わなかった。あの全国トップクラスの強力打線が抑えられている。それも、天龍高校という新進のチームに。今流れは天龍高校に傾いていた。


「よし、ナイスプレーだぜ。これから反撃だ!」


「おお!」


 みんないきいきとしていた。今わかったのだろう。自分たちの力が通用すると。


隼人は笑みを浮かべると、そっと立ち上がってベンチを出た。


「隼人さん……」


 縁も立ち上がると隼人のあとを追った。


 隼人はベンチを抜け出して球場の中にある選手控え室に一人いた。椅子に座り、ふっと息を吐く。そして右腕に触れた。


そのとき、扉が開かれ縁が入ってきた。


「縁……」


「……隣、座ってもいいですか?」


「あ、ああ……」


 縁は隣に座った。そしてそっと隼人の右腕を見た。


「……今日は投げないんですよね。だから、翔一さんに先発を」


「縁」


 隼人は縁の口を止めた。縁は恐る恐る隼人を見る。隼人は前を向きながら口を開いた。


「昨日言ったろ。……俺は投げる」


 その言葉に縁は口を閉ざした。


そのとき大きな歓声が聞こえた。どうやら榎本がまた三振を奪ったようだ。


「は、隼人さん。投げると言ってもどうやって投げるんですか? その腕じゃ、絶対に無理です」


 縁が隼人に心配した目で見る。隼人はそんな目を見たくなく、顔を背けた。


「……俺は、投げる」


「……無理です」


 隼人は恐る恐るそっと縁を見た。真剣な目で見つけてくる縁。本当に投げさせたくないようだ。


隼人はそっと目を閉じて口を開いた。


「縁……俺はもう覚悟したんだ。この試合にかけるって」


「でも、その腕じゃ……」


 そのときまた歓声が響いた。また榎本が三振を奪ったのだろうか。


「隼人さん、みんなを信じましょう。きっとやってくれます。今も猛虎学園相手に頑張っています。隼人さんがいなくても大丈夫です」


 隼人はそっと息を吐いた。


「縁……お前は信じてくれないのか?」


「え?」


 隼人が縁を見つめて言う。


「お前は、俺のことを信じてくれないのか?」


 縁はその言葉に戸惑って何も言えなかった。


「わ、私は……」


 そのとき大きな歓声が上がった。とうとう榎本は六連続三振を奪ったようだ。本当にあいつはすごいピッチャーだ。天才。怪物。スター。すべてあいつに当てはまるだろう。


 隼人は立ち上がるとタオルを構えた。そしてセットポジションの体勢に入る。


「隼人さん……何をするんですか?」


 隼人はタオルを右手に握り、左足を前に出して右腕をおもいっきり振った。


「隼人さん!」


 縁が止めようとする。だが、そこで気づいた。隼人は少しも痛そうな顔をしていなかった。それどころか前よりも綺麗なフォームになっていた。


「どうして……」


 隼人はタオルを見ながら言った。


「言ったろ、縁。俺……この試合にかけるって」


 縁はわけがわからずじっと隼人を見ていた。隼人は縁に向き直るとアンダーシャツを捲った。そして右腕を見せた。


「は、隼人さん……」


 隼人の右腕には注射のあとがあった。


「もしかして、隼人さん……」


 隼人はうなずいた。


「病院にいって、痛み止めを撃ってもらった。これで……俺は投げれる」


「そんな……」


 縁は信じられない気持ちでいっぱいだった。これでもう隼人の腕は使い物にならなくなった。傷み止めを撃てば何らかの後遺症は出る。なにより投げればもっと悪化する。


 縁の目から涙がこぼれた。どんどん溢れて出てくる涙が頬を伝って地面に落ちていく。


「……どうして。……どうしてですか。……どうしてそんなことしたんですか!」


 縁は隼人のユニフォームを掴み、地面に顔を向けたまま訴えた。


「どうしてそんなことを……。何でそこまでする必要があるんですか! 隼人さん、何で!」


「縁を……甲子園に連れていきたいから」


「え?」


 縁は顔を上げた。すると隼人はそっと笑みを浮かべ、縁の目じりに浮かんでいる涙を拭いた。


「約束したろ。……俺が甲子園に連れていくって」


「……隼人さん!」


 縁は隼人に抱きついた。隼人の胸に顔をうめ、ぎゅっとユニフォームを握り締めた。


「いいです。投げないでいいです。そんなことのためならいいです。私は諦めます。だから……お願いですから投げないで下さい!」


「縁……」


 隼人はそっと縁の肩を掴んで離した。


「縁。もう遅いんだ。痛み止めは何もしなくても多少の後遺症が出る。……もう、今しかないんだ。もう、俺に来年はない」


「そんな……そんな……」


「ごめん、縁。……ありがと」


 隼人は縁から離れると控え室から出て行った。縁はその場に座り込み、一人涙を流していた。


「隼人さん……」


 隼人はベンチに戻ってきた。そして今の状況を理解する。


3回裏、猛虎学園の攻撃。ツーアウト満塁。4‐0で猛虎学園の大幅リード。翔一は2回に2点取られている。


天龍高校はこれまで一本もヒットを出していない。榎本のピッチングで今九奪三振に終わっているようだ。


今のバッターは九番の松本。翔一は疲れて膝に手を着きながら肩で息をしていた。もう限界のようだ。


隼人はグローブを取ると鬼塚監督に言った。


「監督、いかせてください」


「いくのか?」


「……はい」


「……わかった」


 鬼塚監督はタイムを取った。そして隼人はベンチから出てきた。


「隼人!」


「隼人、お前……」


 みんなが隼人を見る。隼人は翔一の前に立った。翔一は顔を上げると隼人を見て頭を下げた。


「すみません。……オレ、もう……」


「翔一……よくやった」


「え?」


 翔一は顔を上げた。


「あとは俺にまかせろ」


 隼人がグローブを出す。それを見て翔一はボールを中に入れるとベンチに戻ろうとした。


「あんたがエースですよ、先輩……」


 翔一は目に涙を浮かべながら走っていった。


「隼人……」


 みんなが隼人を見る。隼人はすっと息を吸うと言った。


「こっからが本番だ! 俺たちの真の力、見せてやろうぜ!」


 隼人の言葉でみんなうなずいた。


「おう!」


 天龍高校ナインは守備についた。そしてスタンドのみんなが歓声を上げる。


ここでエースの登場だ。誰もが待っていた。


一塁側スタンドは吹奏楽部を中心に大盛り上がりだった。


 猛虎学園のベンチで、榎本はにやっと笑みを浮かべた。


「引きずり出したぜ、東の最強ピッチャー」


 隼人はロージンをつけ、打席に入っている九番の松本を見た。


「打てるもんなら打ってみな」


 セットポジションに立ち、右腕をおもいっきり振るって剛速球を放った。


「うおっ!」


バァァァァンッ


 球場全体が静寂に包み込まれた。みな固唾を呑んで隼人を見る。


隼人のピッチングを見て誰もが驚いていた。球速は150キロ。いきなりの剛速球。


 隼人は右腕を掴んで笑みを浮かべた。いける。痛くない。痛み止めが効いている。これなら勝てる。


 その瞬間、いっきに歓声が上がった。耳が痛くなるような声が轟く。


「すげぇ! やばいぞ、あの球!」


「待ってたぜ! 天龍高校のエース!」


「お前の三振ショー見せてくれ!」


 隼人は周りの声を聞いて笑みを浮かべた。


「好き勝手いいやがって」


 隼人は二球目も剛速球を放った。その次も150キロ台のボールを投げ、松本を三振で終わらせた。これで満塁のピンチを切り抜けた。


「よし!」


 隼人はガッツポーズをすると、ベンチに戻って行った。


「どうだ、あいつの球」


 ショートキャプテンの赤織が松本に問い掛けた。


「すっげぇ速いですよ。速さだけなら榎本以上。あいつも怪物ですね」


「コントロールも良さそうだな。綺麗なフォームしてるし」


 赤織は納得してうなずいた。


「つーか、あいつ肩壊したんじゃないの?」


 神風が話しに加わってきた。


「どうせ傷み止めでも撃ったんだろ。じゃなきゃ、あんな球投げれねーよ」


「へ~。かっこいいことしやがる」


 神風は鼻歌まじりで守備に着いた。


「でも、あいつ変化球ないですね。慣れれば、時間の問題かと」


 松本の言葉に赤織はうなずいた。


「そうだな。それまで、こっちも点を与えないことだ」


 赤織は2年生バッテリーのほうを向いた。


「頼むぞ、バッテリー。2年でレギュラー取ったんだ。自信持っていけ」


「はい!」


 榎本と西条は大きく返事をした。


 そして猛虎学園のナインは守備に着いた。


榎本はマウンドの土を慣らし、笑みを浮かべた。やっと、やっと対戦できた。この日をずっと夢みた。待っていたんだ。


 榎本は顔を上げ、打席の入っている真治を見た。もう、俺は止まらない。


 初球、右手から放たれたボールは凄まじい音を立ててストライクゾーンに入ってきた。


「ストライク!」


 真治はそのボールを見て動けなかった。すごいボールだった。さっきよりも球威が上がっているように感じる。


 そして二球目も榎本は最高のピッチングを見せる。真治はバットを振るが空振り。


「これで終わりだ」


 ここで榎本はチェンジアップを投げた。タイミングの合わない真治は空振りをして三振で終わった。


「これで、十個目」


 続いて広和が打席に入る。さっきの打席でバントできなかった。ならば、どれか一つに狙いをしぼって打つしかない。


 広和はぎゅっとバットを握り榎本を見る。榎本は渾身の一球を投げ、ストライクを奪った。同じように二球目も奪われる。最後は高速スライダーを投げて三振。広和はバットを振ることもできなかった。


「これで、十一個目」


「打て、直人! お前しかいない!」


 直人はバットを掴み、打席に入った。悔しいが、今あいつのボールが打てる気がしない。どのボールが来ても当たらない。こいつがこんなにすごいピッチャーだとはしらなかった。


 榎本は初球ど真ん中に投げてきた。それを直人は打ってファールした。直人の手はしびれていた。それほど球威があり、力のあるボールだった。そして榎本はカーブを投げる。それを直人はまたファールした。


次は何が来るだろうか。チェンジアップ? ストレート? 高速スライダー? そんなことを考えている最中に、すでにボールはミットに収まっていた。


「ス、ストレートか」


「これで、十二個目だ」


 ここでまた歓声が沸き起こった。無理もない。これで十二連続奪三振。その圧倒的な力にみんな興奮していた。もしかしたら完全試合? もしかしたら前代未聞の全奪三振? そんなことを考えているのだ。


「く、くそ! なんで打てないんだ!」


 真治や広和、俊介は悔しそうにしていた。そのときだった。


「気にすんな」


 その言葉にみんなが驚いた表情でいた。言ったのは隼人だった。隼人はブルペンから戻ってきた。後ろにはキャッチャーをしてもらっていた信一がいる。隼人は軽く腕を回しながらみんなに言った。


「俺はもう1点もあいつらに与えない。4点くらい、お前らなら簡単に取れるだろ。まだ終わりじゃないんだ。まだ攻略はある。おら、気合い入れていくぞ!」


 隼人の言葉に全員がうなずいた。


「そうだぜ。隼人のいうとおりだ。いくぞ!」


「おう!」


 俊介の言葉でみんな勢いよくベンチを飛び出した。


 その間に、選手控え室で縁は一人泣いていた。自分のせいで隼人の腕を奪ってしまった。自分のわがままで、隼人は苦しんでいる。もう、どうしたらいいのかわからなくなった。自分はいったい、何ができるのだろうか……。


 四回裏。猛虎学園の攻撃。


一番センターの神風が打席に入った。神風は打席に立つと隼人を睨んで笑みを浮かべた。


「お前の球、打ってみたいと思ってたんだ。楽しみにしてたぜ」


 隼人も同じように笑みを浮かべた。


「打てるなら打ちな。簡単にはいかないぜ」


 隼人は初球から全力で投げた。神風はバットを振るがボールには当たらない。空振りだ。ボールの球速は152キロ。


「ひゅ~。速い速い。本当にスピード違反だぜ」


 そして二球目も剛速球を放った。神風はこれも空振り。


「チッ」


 そして三球目も三振を取りに渾身の一球を投げた。そして激しい音をたてて俊介のミットに収まった。三球三振。


「よし!」


 隼人はガッツポーズした。スタンドのみんなも大歓声を送る。


そして隼人は二番セカンドの皇乃がバントをしようとするが、バットに当てさせず三振を奪った。これで三連続三振だ。


「いいぞ、隼人!」


「ナイスピッチング!」


 バックにいるみんなが声をかける。だが、俊介だけは隼人の異変に気づいていた。いつもと違う感じがした。隼人の球じゃない。ただの速いボールと勘違いしてしまう。隼人のボールはもっと威圧感があり、生きているような感じがするのだが。


 次は三番サードの海道。海道も隼人を睨みつけた。


「あの榎本のライバルと対戦できるのは嬉しいね。勝負だ」


「お前も三振で終わらせてやるよ」


 隼人は大きく振りかぶると右手から剛速球を放った。だが、判定はボール。そこで俊介は疑問の表情になった。あいつの腕は、もしかして治っていないじゃ……。


 隼人は次も剛速球を投げた。球速は153キロ。それを海道はファールする。そして次のボールもファール。


「次で終わりだ」


 海道はぐっとバットをかまえる。隼人はふっと息を吐き、流れる汗をふいた。そして海道を睨む。


「終わるのはお前だ」


 隼人が渾身の一球を投げた。内角のストレート。海道はそれを空振りした。


「よっしゃ!」


 隼人はぐっとガッツポーズした。そして周りから歓声が送られる。これで四連続奪三振。隼人も負けていなかった。


 ベンチに戻ると、隼人は大きく声を出した。


「こっから反撃だ! 絶対点入れるぞ!」

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