表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストライク  作者: ライト
29/38

十四回裏:準決勝青龍高校

 準々決勝で朱雀高校を破った天龍高校は準決勝へと駒を進めた。その喜びを部室で味わっていた。


「これでベスト4! オレら強すぎ!」


「あと二回勝てば甲子園だぜ!」


 真治と翔一はさっきからうるさかった。


「真治、少し落ち着け。そのあと二回が厳しいんだ」


「なんで? 次も楽勝だろ?」


 直人はため息を吐くと真治に説明した。


「いいか、次は昨年準優勝の青龍高校だ。前のように簡単には勝てない。ここは猛虎学園に負けて甲子園にいけないが、全国でも十分通用する力を持っている。それに、やっかいな投手がいるんだ」


 直人は一冊の雑誌をみんなに見せた。


「なになに、『今大会注目投手?』」


 広和が言うと真治が読み上げた。


「一位が……おっ、隼人じゃねーか。『三試合合計奪三振数33個の豪腕投手。マックス155キロの剛速球を投げる注目度ナンバーワン。三振王間違いなし』へぇ~。それで二位は猛虎学園の榎本雄斗。『昨年その名を轟かせた怪物ピッチャー。二試合合計奪三振数30個。未だ無失点。三振王と無失点王候補に上がり、どこまで成長するか』こいつもすげぇな」


 真治は感心して見ていた。


「見るのはそこじゃない。三位のところだ」


「三位?」


 直人に言われ三位を見る。


「三位、青龍高校前川貴弘(まえかわたかひろ)。二試合合計奪三振数13個。未だ無失点。打たれたヒットは……たったの5つ!」


 そこで全員がどよめいた。真治は先を続ける。


「『彼の魔球ナックルを打つのは誰か。無失点王候補ナンバーワン』」


「ナックルってなんですか?」


 勇気がいうと龍也は説明した。


「ナックルは魔球と呼ばれる変化球だ。不規則に曲がり、とても打ちづらい。球があれているからな。あれを打ってヒットにするのは難しすぎる」


「こいつがオレたちの相手ね~」


「ああ。だが、問題はそいつだけじゃない」


「え?」


 龍也は俊介を見る。それにつられて全員見た。


俊介は一人端のほうでミットを磨いていた。


「俊介のやつどうしたんだ?」


 真治が龍也に聞くと、龍也は雑誌を捲り見せた。そこには一人の選手の特集をしていた。


「なになに、『県内ナンバーワンキャッチャーの池谷京介(いけたにきょうすけ)。自慢のリードとバッティングでチームを引っ張る青龍高校のキャプテン。ナックルボーラーの前川とバッテリーを組み、今大会の最強コンビ。すでにホームラン三本打ち、一回戦は完全試合を出す』すごいな」


 そこで龍也はため息を吐いた。


「真治は驚かないのか? そいつの名前を言っておいて」


「え? 池谷京介……。ま、まさか……」


「ああ。池谷京介。俊介の兄だ」


「ええ!」


 全員が驚嘆な声を上げた。


「う、うるさいな。どうかしたのかよ」


 俊介が耳を抑えて言った。


「おい、俊介、お前の兄貴すごいやつだな」


「見ろよ、この雑誌」


 俊介はその雑誌を見る。そして落ち込んだ表情になった。


「ああ、それね。俺の兄貴はすごいからな……」


 そういって再びミットを磨く。そのとき、灯が口を開いた。


「あれ? そういえば、隼人くんは?」


 隼人は一人ピッチング練習をしていた。ネットめがけ投げる。そして何度も腕を掴んだ。


痛みは消えてる。今20球くらい軽く投げたが何とも無い。あれはなんだったのだろうか。


そのとき、目の前にタオルが見えた。そして横を振り向く。そこには縁がいた。


「はい、どうぞ。隼人さん」


「ああ。ありがと」


 隼人はタオルを受け取り汗を拭いた。


「腕、またどうかしたんですか?」


「え、いや、なんでもないよ。連投でこっているんだろ」


 すると、縁が隼人の腕を掴んでマッサージをし始めた。


「ゆ、縁?」


「私は隼人さんの応援しかできません。きつくても、苦しくても、その痛みを分かり合えることができません。だから、こうやってサポートしかできません。……できることは何でもします。隼人さんのために」


 隼人はぽんと縁の頭に左手置いた。


「あと二回で甲子園だ。行こうな、縁」


 縁は満面の笑顔になって返事をした。


「はい」




 そして準決勝。すでに球場は観客たちでいっぱいだった。スタンドではざわつきはじめ、試合が始まるのを今かと待っている。


「さすがに準決勝ともなるとすげぇ数だな」


 直人がスタンドを見上げて呟いた。


「や、やべ、オレなんか緊張してきた」


「ぼ、僕もですよ」


 真治と勇気の体はぶるぶる震えていた。


「心配するな。誰もお前たちに興味はない。この試合の注目は両校のバッテリーだ。三振王対無失点王。勝つのはどっちかな」


 龍也が言うと、みんなそれぞれのブルペンを見た。


両校のエースはピッチング練習をしていた。隼人は凄まじい轟音を鳴らす。青龍高校の前川は綺麗な音を出していた。


「ナイスピッチングだ。前川。今日も球走ってるぞ」


「おう。ありがと。でも、相手はお前の弟か。おれは負ける気ないけどお前も負けんなよ」


「ああ、大丈夫だ。俊介がおれに勝つことはありえない。なぜなら……」


 俊介は隼人のボールを捕りながらさっきからチラッと兄の京介のほうばかりを見ていた。


「おい、俊介。さっきからどこ見てんだよ」


「ああ、悪い」


「なに? 自分の兄貴が気になるのか?」


 すると俊介は深刻な顔してうつむいてしまった。そしてそっと口を開いた。


「……隼人。俺、今回ダメかもしんない」


「え?」


「実はさ、俺、兄貴に憧れて野球始めたんだ」


 俊介は語り出した。


「兄貴は幼いころから野球して、草野球でもヒーローだった。肩が強くて力があって。みんなの憧れの的だった。中学から野球始めて、最初はピッチャーだったけど、途中からキャッチャーに変わった。そこから才能が芽生えて、リードの天才とか怪物とか言われて。中学では県の選抜にも選ばれた。そんで、青龍高校に入った。青龍高校ってそんなに強くなかったんだ。でも、兄貴が入って、1年でスタメンでいきなりベスト4。昨年は準優勝。今年は優勝って言われてる。弱小校を強くしたんだぜ。かっこよすぎるだろ。俺もこんな風になりたいから、同じように天龍高校に入った。でもさ、俺には天才的なリードもバッティングもない。全部マネなんだ。兄貴のマネ。偽者だ。偽者が、本物に勝つはずない。だから……俺は、兄貴に負ける……」


 そのとき、隼人が俊介の胸元を掴んだ。


「は、隼人?」


「お前は、そんなこと思ってたのか! 本気でそんなこと言ってんのか!」


「え?」


「お前キャッチャーのくせに知らないのか! この世に絶対のリードなんてないんだよ! どこに投げようと打たれることはある! 誰も打てないリードなんてあるはずないんだ! それにリードはそれぞれの投手によって違う! あいつと俺のリードだって違うんだ! お前は自分のリードをすればいいんだ! そこに俺は全力で投げてやる!」


「は、隼人……」


「いくぞ。俺たちが勝つんだ!」


 俊介は気合を入れると力強くうなずいた。


「おう!」


「プレイボール!」


 主審の合図で試合が始まった。まずは天龍高校の攻撃である。一番の真治が打席に入った。相手ピッチャーはもちろん無失点王の前川貴弘。


前川は振りかぶって投げた。ボールはアウトコースへのストライク。球速は140キロといいボールだ。そして二球目はカーブでカウントを取りにきた。それを真治はファールする。


真治はぎゅっとバットを構えた。


次だ。次こそ来る。ナックルが。


前川は右腕を振るって投げてきた。


「え?」


 真治は見送った。ボールは内角へのストレート。ナックルではなかった。


俊介はベンチで悔しそうに呟いた。


「やっぱり投げてこなかったか。兄貴は真治がナックルを待っていることに気づいたんだ。だからわざと投げさせなかった」


 二番の広和はバントで揺さぶったが投手ゴロ。三番の直人はショートゴロで終わり、ナックルは一球も見せなかった。


 次は青龍高校の攻撃である。隼人はマウンドに上がるとロージンをつけ軽く手にふっと息を吹きかけた。そして俊介のミットを見る。


俊介はミットの中をバシッと叩くと構えた。俊介も十分に気合が入っていた。


それは隼人も同じである。相手がナックルでこないならこっちは変化球なしのストレート一本だ。いくらナックルが打てず点が取れなくても、こっちも0点に抑えれば同じことである。


隼人は初回から飛ばしてストライクを取り三振を奪っていく。この回、2つの三振を奪ってあっという間に終わらせた。


前川と京介はその様子を見て呟いた。


「いい球だね。弟さんもあの150キロ台を良く捕る」


「ああ。なかなかいい目と度胸がある。だが、それだけでおれたちバッテリーには勝てない」


 次は四番の俊介だ。俊介はバットを構える。


そのとき京介が俊介に話しかけた。


「おい、俊介。なかなかお前も強くなったな。だが、お前にこれが打てるか」


 初球。前川はあのボールを投げてきた。


俊介はそれを見て驚いた。ナックルだ。


バットを振る。しかし、どこにくるかも分からないボールはバットの芯を外れファール。


「よく当てたな。さすが四番。だが、それだけじゃ点は取れない」


 次も俊介相手にナックルを投げる。だが俊介はぼてぼてのサードゴロで終わった。


五番の隼人は粘ったが最後にナックルがきてショートゴロで終わった。六番の龍也はストレートを打ってレフトフライで終わった。


 そして二回表。青龍高校の攻撃は四番の池谷京介からだ。京介はバットを軽く回し構えた。


隼人は集中して対峙した。


一番危険なバッターだ。あの千石よりもすごいだろう。打たれるわけにはいかない。


それは俊介もわかっていた。俊介はまずアウトコースに構える。そこに隼人は全力で投げた。


バァァァァンッ


 凄まじい音がミットから響き、観客全員が歓声を送る。球速は152キロ。


京介はそのボールを見て感心した。


すごいボールだ。こんなボールを投げるやつは見たことない。球威も十分ありコントロールもある。なによりあの速さはタイミングが合わせ辛い。俊介はいい投手と巡り合えたものだ。一度自分も捕ってみたい。


京介はぐっと構えた。


二球目。俊介はアウトコース高めにかまえる。そこに隼人はおもいっきり投げ込んだ。だが京介はそのボールを打ちファール。


「当てやがったか」


 隼人は京介を見る。京介もじっと隼人を見る。


二年生でいい度胸と重いボールをなげるもんだ。来年が楽しみなやつである。だが、次で終わりだ。お前たち天龍高校の弱点はここにある。


 俊介は内角高めにかまえた。ここは京介が一番苦手なコースなのだ。


隼人はうなずくとそこにめがけて渾身の一球を投げた。


そこで京介は笑みを浮かべた。それを隼人は見逃さなかった。


カキンッ!


 打たれた快音が耳に嫌というほど響く。全員がボールの行方を追った。そして高く上がった打球はそのままレフトスタンドへと消えていった。


「やった~!」


「ホームランだ!」


 一斉に凄まじい歓声が上がった。観客たちの声が京介に送られる。


京介は腕を挙げ答えながらベースを回っていた。


いい球だった。おれの手がしびれるくらい最高の一球だったろう。だが、そこにくるとは思っていた。すでに克服してよかった。お前たちの弱点は俊介にある。


京介はホームインすると青龍高校の選手とハイタッチしていった。


 俊介はマスクを外しその場に立ち尽くしていた。


打たれた。それが頭の中で響いていた。そして全員もがっかりといった表情になっている。


天龍高校はすでにこの言葉が頭にちらついていた。負けたと。


 続く五番のピッチャー前川はゴロに打ち取り、六番と七番は三振を奪いこの回は終わった。


 それから三回に追加点を許してしまい、六回まで0点が続く。


あのホームランが重かった。なかなか点が取れない。ヒットが出ても繋がらない。前川はナックルを使い出した。だがそのナックルが打てない。点が遠い。1点が遠すぎる。ホームが何キロも先にあるようだ。このまま終わりそうだった。


 七回表。0‐2で青龍高校のリード。天龍高校の攻撃。バッターは真治からだ。


「真治! なんとしてでも出ろ!」


 俊介が後ろから声をかける。真治は気合を入れて打席に入った。


「このまま終わってたまるか!」


 前川は初球からナックルを投げる。真治はバットを振るが打球は後ろへ飛びファール。


前川は汗を拭い余裕の表情を見せる。真治はそれを見て怒りを覚えた。


そして次のナックル。真治はすかさずバントの構えをした。ボールはバットに当たり前に転がる。


「一塁だ!」


 京介に言われ、慌てて出遅れた前川が一塁に投げる。


真治はおもいっきり走って頭から突っ込んだ。砂埃が立ち全員が見守る。一塁審が手を広げた。


「セーフ!」


「よっしゃー!」


「ナイス真治!」


 真治は立ち上がるとガッツポーズした。前川はその姿を見て舌打ちした。


「気にするな、前川。点を取られたわけじゃない。ここから抑えればいい」


「ああ……」


 そして次は広和。広和は状況を考えた。


相手は強肩のナンバーワンキャッチャー。真治といえど盗塁は難しい。相手ピッチャーはナックルを投げてくる。普通に打ってもダブルプレーで終わってしまう。ならば。


広和はすぐさまバントの構えをした。そして初球送る。これでワンアウト二塁。


「ナイスバント、広和」


「打て、直人!」


 直人はじっと前川を見た。前川は疲れた様子で汗を拭う。


あいつのナックルは簡単に打てない。直人はある方法を考えた。


前川は初球ナックルを投げる。それを直人は見送る。そしてボール球は見逃し、ナックルが来たら見送る。


これでフルカウントになった。前川はまたナックルを投げる。


それを直人はバットを振ってファールにした。次も、その次もファール。


直人は粘っていた。できるだけ球数を多くし投げさせる。


それに気づいた京介は立ちあがった。


「なに!」


 ここで敬遠だった。前川は素直にうなずく。直人はフォアボールで進出した。


「クソ」


 直人は悔しそうに一塁へむかう。


京介はマウンドに上がった。


「気にするな。あいつはファールにするのがうまくてな。お前を疲れさせようとしたんだろう。だが、次はあいつだ。ここでゲッツーとって終わらせよう」


「おう」


 京介は戻ってくるとマスクを被って構えた。俊介はぎゅっとバットを構える。


前川は京介のサインどおり投げる。内角低めにストレート。次は外し、内角高めにカーブ。そして内角真ん中にストレート。


俊介はバットを振るがファールで前に飛ばない。カウントは2ストライク2ボール。ここでナックルだ。


「うおお!」


 俊介はおもいっきりバットを振る。バットとボールがぶつかった。打球は高く上がっていく。外野がバックし追いかける。


京介はマスクを脱ぐと声をかけた。


「レフト! バック!」


 レフトは手を上げる。そしてスタンド手前でがっちりキャッチした。


それを見て俊介は悔しそうにバットを地面に振り落とした。


「チッキショー!」


 京介は安堵の息を吐いた。


まさかあそこまで飛ばすとは思わなかった。我が弟ながらなかなかやる。だが、決勝にいくのはおれたち青龍高校だ。


 隼人は帰ってくる俊介の肩を掴んだ。


「俺が決める」


 隼人は打席に入ると前川を睨みつけた。


ツーアウト。ランナー一、二塁。未だ2‐0で青龍高校リード。長打で逆転。一打同点。


ここで打つ。隼人はぎゅっと構えた。


前川は肩で息し、セットポジションに入る。そして隼人に投げた。初球ナックル。隼人は振らずに見送る。


「ボール!」


 かまわない。ナックルを打ってアウトになるより他の球を打ったほうが確立は高い。


だが、京介はそれに気づいた。次もナックルでくる。コースギリギリ。隼人はボールと思い見送る。だが、ナックルはストライクゾーンに入ってきた。


「ストライク!」


 隼人は焦った。追い込まれた。このままナックルが来たら。


隼人はバットを握る。前川はやはりナックルを投げてきた。それを隼人はファールする。そしてファールが何球も続く。


前川の腕は疲れていた。ナックルは握力と精神力がいるボール。焦りと疲れが天敵だ。


そのときだ。ナックルを投げるが力が入らない。ここで失投してしまった。


京介も焦る。隼人はその失投を見逃さずおもいっきり打った。


カキンッ!


 打球はショートの上へ。ショートが飛び上がって腕を伸ばす。だがわずかに届かず落ちた。


「回れ!」


 真治が走る。あの合宿で鍛えた足と何千回と走ってきたベースランを生かす。そして三塁も蹴る。そのまま走ってホームイン。ここでようやく点を奪った。


「よっしゃー! 同点!」


「直人も還ってこい!」


 直人も真治に続いて走る。そして三塁を蹴った。センターが京介めがけ渾身のバックホーム。


直人は滑り込んだ。京介はボールを掴むとブロック。そこで選手がぶつかり合った。直人は横に転げ回る。京介は吹っ飛ばされて倒れる。主審がその状況をじっと観察する。


「判定は?」


 球場にいる全員がその場の光景を渇目した。京介がゆっくりとミットを上げ中のボールを見せる。主審は腕を突き上げた。


「アウト! アウト!」


 それを見て直人は地面に拳を突き降ろした。


「クソ……クソ!」


 天龍高校のベンチも唖然とした空気に包まれていた。


「そんな……」


 灯がそっと呟いた。


「隼人さん……」


 縁は隼人のほうを見た。隼人は三塁の上で呆然と立っている。


 そして次の攻撃は青龍高校。隼人は気持ちを切り替えた。


まだ終わってない。一点差になったばかりだ。これから点を取ればいい。


隼人はおもいっきり投げていく。そのときだ。


「っ……」


 まただ。またあの痛みが。今度ははっきりわかる。完全に痛みが走った。一瞬ではない。投げる動作のときも痛みが治まらない。


「クッソ!」


 ボールは上のほうへ飛んでいった。そして金網に当たる。


隼人は腕を握った。腕はぷるぷると小刻みに震えている。力がうまく入らない。


なんで。どうなってんだ。俺の腕は、どうなっているんだ。


「隼人!」


 内野全員がマウンドに集まった。


「隼人、どうしたんだ? 腕どうかしたのか?」


 みんなが心配そうな表情で隼人を見る。


隼人は笑みを浮かべるとみんなに言った。


「いや、大丈夫だよ。ちょっと力んだだけさ。悪いな」


「そうか。ま、よかった。よし、気合入れていくぞ!」


 俊介たちはそれぞれの守備位置についた。


隼人は再び腕を握る。


今痛みは無い。治まったようだ。だが、確かに痛みを感じた。


隼人は軽く腕をまわす。


大丈夫だ。何とも無い。それにこれ以上あいつらを心配させるわけにはいかない。せっかく1点差にしたんだ。ここで0点に抑えて次に繋げるんだ。


 隼人は腕を上げた。そして渾身の一球を俊介のミットに投げた。


バァァァァンッ


 ミットから快音が響く。


「ナイスボール、隼人!」


 俊介が隼人に返球しようとしたそのときだった。


「は、隼人!」


 隼人はマウンドの上で右腕を抑えてうずくまっていた。


「隼人さん!」


 縁がベンチの中で椅子から立ち上がった。そのとき、隼人からもらった硬球が音を立てて床に落ちた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ