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ストライク  作者: ライト
27/38

十三回裏:二回戦玄武高校

 一回戦を勝ち進めた野球部は、隼人の活躍もあり大人気だった。練習中もギャラリーがたくさんきて集中できないほどだ。


「隼人く〜ん! こっちむいて〜!」


 隼人は恥ずかしそうにへらへらと笑うと手を振った。


それだけで練習の邪魔をする女子生徒たちは歓声を上げる。なんか疲れてくる。


「人気者はつらいな。おら、ど真ん中だ!」


 隼人は俊介の要望どおり、渾身の一球をど真ん中に放りミットに放り込んだ。快音が響き、ミットの中に収まる。


「ナイスボール!」




 練習が終わると、縁が水を隼人に渡しながら口を開いた。


「そういえば、隼人さん。明日は次の対戦相手が決まる試合がありましたね」


「ああ、そうだったな。じゃ、偵察ということで見に行くか」


「お、いいね。オレも行きたい。明日学校休みだし、みんなで行こうぜ!」


 真治が喜んで言うと、それを直人が止めた。


「いや、行くのは少人数でいい。相手はそんなに強いところではないしな。隼人、俊介、最連寺、龍也の4人でいいだろ。残りはここで練習だ。オレが指導する」


「え? なんでだよ。オレもいきたいぜ。練習なんてやだよ」


「お前はこの前の試合でエラーしたろ。もう一度守備を徹底的に鍛え直してやる」


「そ、そんな〜」


 ということで、直人によって選ばれた4人は翌日球場を訪れた。


「さて、さっそく今から始まるぞ。玄武高校対昇竜高校だな。どちらもそこまで強くない。玄武は守備がいいチームだ。攻撃は普通。昇竜は全て並だが、攻撃力だけすごい。昇竜の勝ちとみていいかな」


 だが、龍也の予想は外れた。


「おりゃあああ!」


カキンッ!


 綺麗な金属音が球場に響き、打球は高く上がっていった。そしてそのままスタンドの中へと消えていった。バッターは力強く拳を上げた。


「よっしゃー!」


「ナイスバッティング、千石!」


「さすがだぜ!」


 今のホームランでまた玄武高校の追加点。これで4‐0。


「……甘く見ていた。あの四番を軸にいいチームだ」


 龍也はノートにメモしていく。


隼人はじっとその四番を見ていた。


玄武高校四番ファーストの千石秀真(せんごくしゅうま)。二年生でありながら四番を打ち、未だ3打数3安打。ホームラン2本打ち、すべての得点にからんでいる。攻撃の中心人物といっていいだろう。


そして玄武高校はやはり今年も守備がよく、なかなか点を与えない。投手は特別いいところはないが、うまく打たせてアウトを取っていく。チームメイトを信頼している証拠だ。


「見にきてよかったな。千石をどうにかしなければ簡単に点を取られるぞ。な、黄金バッテリー」


 隼人と俊介はじっと千石を見ていた。集中し、弱点を探していく。


そんな2人を見て、龍也は軽く笑った。


「ま、何か弱点はあるはずだ。僕も探すとしよう」


 そして試合が終わり、6‐0で玄武高校の圧勝だった。


 帰っている途中、対戦相手である玄武高校と出会った。


「あっ、玄武だ」


「あ、天龍高校だ。あいつ、ノーヒットノーランした和田隼人だ」


「あいつはホームラン打った池谷だ」


「めっちゃ守備がうまい大野もいるぞ」


「あの子マネージャーかな。かわいいな」


 その言葉にある人物が反応した。


「え、どこ? かわいい子どこ?」


 それはあの千石秀真だった。背が高いのに背伸びをして探す。そして縁と目が合った。


「おっ!」


「え?」


「君かわいいね。おれとデートしない?」


 千石は手を伸ばして縁の肩を掴もうとする。それを隼人が叩いた。


「悪いけど、ナンパは止めな。こいつに手を出すのは俺が許さない」


「おお、隼人かっこいい」


 俊介はおもしろそうに拍手した。


千石はふ〜んという感じに叩かれた手をさする。


「お前が和田隼人ね。おれ千石秀真っていうんだ」


「ああ、知ってる。あのホームラン見たぜ。でも、俺の球は打てないな」


 そこで千石の眉がぴくっと反応した。


「へぇ〜、えらい自信だな」


 お互い睨み合う。視線を外さず、鋭い目つきをする。


千石は笑みを浮かべた。


「なら勝負しないか?」


「勝負?」


「そ。そこのかわいい子かけて」


「え?」


「縁を?」


「へぇ〜、縁っていうのか。かわいい名前だな」


「え、えと、あ、あの……」


 千石は縁を優しい目で見たあと、鋭い目つき変えて隼人に向き直った。


「それで、勝負するんか? ま、あんだけ大口叩いてしませんなんて言ったらかっこ悪いけどな」


 そこで隼人の眉がぴくっと反応した。


「ああ、いいぜ。勝負してやるよ。いいよな、縁」


「え? えと、その、……は、はい」


 縁は頬を赤くしてうつむくと承諾した。


「俺の球、1球でもホームランにしたらお前の勝ちだ」


「なら、おれから1回でも三振とったらお前の勝ち」


 そして再びお互い睨みあった。


「おい、千石。早くいくぞ」


「あ、すみません。じゃ、縁ちゃん。またね」


 千石は縁に大きく手を振って行ってしまった。


「いいのか、隼人? そんな約束して」


「俺が負けるわけないだろ。あいつから絶対三振奪ってやる」


 俊介はやれやれといった感じでため息をついた。


「ああ〜、隼人のやつ、最連寺のことじゃなくて三振のことしか頭にないぜ」


「ふふ、おもしろくなってきた」


「ど、どうしたらいいんでしょう〜」


 縁だけ慌てふためいていた。


 そして二回戦。天龍高校対玄武高校の試合が始まる。


両校整列し、中央に並んだ。


「約束は覚えてるだろ?」


 目の前にいる千石が口を開いた。


「ああ、お前には負けねーよ」


「只今より、天龍高校対玄武高校の試合を始めます。礼!」


「お願いします!」


 まずは天龍高校の攻撃である。オーダーは一回戦と変わらない。


まずは一番センターの真治。


「おし、こい!」


 真治はバットをかまえ相手ピッチャーを睨みつけた。玄武高校のピッチャーはおもいっきり投げてきた。


「絶好球!」


 真治は初球から打ちにいった。しかし、ボールはショートに転がり、内野安打を狙ったが惜しくもアウト。


続く二番セカンドの広和も打ったがセカンドゴロ。


三番サードの直人はホームランになりそうな打球を打ったがレフトフライであっという間に終わった。


「おし、切り替えていくぞ!」


 次は玄武高校の攻撃である。


千石は四番ファースト。ランナー一人が出ればあいつと対戦する。


だからと言ってわざとランナーを出すようなことはしない。早く対決したいならさっさとアウトを取ることだ。


「おりゃああ!」


 隼人はいつもより気迫のこもったピッチングをし、自慢の剛速球でストライクを取っていく。そしてすぐに三振を奪った。


「和田のやつ、えらい気合入ってるな」


「そ、そうですね。なんか怖いくらい。何かあったのかな?」


 鬼塚監督と灯は疑問の表情になっていた。縁はただ苦笑いを浮かべるしかできなかった。


そして隼人はこの回、三者連続三振ですぐに終わらせた。


「すげぇ球だ。さすがは注目ナンバーワンの剛速球投手。あんなの打てるのか?」


 玄武高校の三番はベンチでヘルメットを外しながら千石に話し掛けた。


「ま、速いだけですよ。おれなら打てます」


 千石は余裕の笑みを浮かべファーストに着いた。


そして次の回も、玄武高校の守備相手に点を奪えなかった。


四番キャッチャーの俊介はセンターフライ。


五番ピッチャーの隼人は力みすぎでピッチャーゴロ。


六番ショートの龍也はライト前へヒットを打ったが、七番ファーストの勇気がファーストゴロで終わった。


 そしてとうとう対決の時が来た。四番ファースト千石秀真。


縁をかけた真剣勝負一回戦が行われた。


「こいよ」


 千石は右打席に入り、隼人を睨みつけた。


隼人も負けずと睨み返す。そして渾身の一球を右腕から放った。


バァァァァンッ


 ミットから凄まじい音が響く。俊介は顔をしかめた。それほど速く痛かった。


千石はごくっと唾を飲み込み、ミットの中に収まっているボールを見た。


「す、すげぇな……」


 千石はぺろっと舌を出した。


打席に入って初めてわかった。すごい剛速球ということはわかるが、なにより来るまでの威圧感がすごい。轟音鳴らせてむかってくるボールは大きく見える。自分に襲い掛かってくると思って退けてしまうだろう。


だが、どんなボールだろうと、来るのはストライクゾーンだけだ。


 千石はバットをかまえる。


隼人は鋭い目つきで俊介のミットめがけ投げた。右手から剛速球が襲い掛かる。


千石もバットを出す。


バァァァァンッ


 千石のバットは空を切り、ボールはミットの中に収まった。千石はふっと息を吐くと構えた。


「これで終わりだ」


 隼人は遊び球を使わず、ストライクめがけ腕を振るいボールを放った。ボールは俊介のミットへ向かってくる。


そのときだ。


カキンッ


 金属音が当たった音が聞こえた。ボールは高く上がった。そして落ちていく。


その打球を隼人は一歩も動かずその場でグラブだけ動かして捕球した。


「ちっ。上げちまったか」


 千石はバットを肩に回しながらベンチに戻っていった。


隼人は少し焦った。


まさかあの球を打たれるとは思わなかった。さっきの球の球速は150キロ。あれを当てるとは、千石はすごいバッターなのかもしれない。


次の打者からは三振を奪いこの回を終わらせた。


 試合が動いたのは4回だった。


1アウトから、3番サードの直人が甘いカーブを打ち、レフト前ヒット。


そして4番キャッチャーの俊介がセンターのフェンス直撃の長打を放った。


直人はすぐさまホームインし1点目を獲得。タイムリーツーベースヒットだ。


「ナイスバッティング、俊介!」


「続け、隼人!」


 隼人は流れる汗を拭くと右打席に入った。


この玄武の守備から点を取るのは少し厳しい。勢いのある今、もう1点取らなければ。


隼人は初球ストレートを打った。ボールはファーストの上を越え、ライトに落ちると思った。


「よし!」


 だが、そうならなかった。ファーストの千石がジャンプし打球を捕った。


「なっ!」


 そしてすかさず二塁へ送球。飛び出していた俊介は飛びついて戻るがアウト。千石のファインプレーで終わった。


「へへ、簡単に点はやらねーよ」


 千石は隼人に言うと鼻歌を歌いながらベンチに戻った。


隼人は悔しそうにその後姿を見ていた。


 そして五回裏。


ノーアウトランナーなしで千石である。二回戦だ。


「隼人さん……」


 縁は硬球を握り締めながら心配した表情で見ていた。


隼人は滴る汗を拭くと腕を上げ、右手をおもいっきり振るった。


初球、千石はバットに当てる。打球は後ろへ飛んでファールだ。


「少しずつ見えてきたぜ」


 千石は笑みを浮かべ隼人を見る。


隼人は袖で汗を拭い、ボールを掴む。


そして2球目。剛速球は外れてボール。千石はちゃんと見えていた。


「さて、そろそろ打てるかな」


 隼人は3球目を投げる。だが判定はボール。そして次のボールを千石はファールし、5球目は外れた。これでフルカウントだ。


「はぁ、はぁ、……クソ」


 隼人は肩で息をしながら千石を睨みつけた。


最初から飛ばしすぎたかもしれない。さっきからストライクゾーンから外れ、球威も落ち始めている。球速も150キロ出るか出ないかだ。


隼人は最後のボールを投げた。千石のバットが回った。


カキンッ!


 快音が響いた。打球は隼人の頭上を越え飛んでいく。千石は走り出した。


隼人ははっと後ろを振り向いた。打球は高く上がり、外野へと飛んでいく。真治が走って追っていく。


隼人は思わず呟いた。


「……入るな。……入るな。……入るな!」


 打球は辛うじてホームランにはならず直前で失速し真治ががっちり掴んだ。隼人は安堵の息を吐いた。


「ああ、惜しかったな。でも……」


 千石は隼人のほうを見ると口元を緩ませた。


「次は確実にホームランだな」


 隼人は乱れた息を整えながら千石をじっと見ていた。


次の打者はゴロで打ち取り終わった。


「クソ!」


 隼人はどかっと椅子に座った。


「大丈夫ですか、隼人さん?」


 縁が水を持ってきて隼人に渡した。


隼人はそれを飲み干すと紙コップをぐしゃっと握り潰した。


「負けたくね……。絶対、負けたくね……」


 隼人の目は怒りに満ち溢れていた。ただ目の前の勝負に勝つことしか考えていない。


「隼人さん……」


 そして両校点を取れないまま七回。玄武高校の攻撃で1‐0の天龍高校リード。


三番バッターが隼人の球を打ち、センター前ヒット。


「く、クソ!」


 そしてここで四番千石が登場した。


「逆転ホームランの場を作ってくれるとはね」


 千石は余裕の笑みを浮かべ打席に入った。


「はぁ……、はぁ……、はぁ……」


 隼人の体力は残り少なかった。最初にペース配分を考えなかったせいだ。球速はとうとう150キロ出ず、145キロ前後だ。そんな状況で一番危険なバッター。


隼人は帽子をかぶり直し、千石を睨みつけた。


こいつだけには打たれたくない。隼人は渾身の一球を投げる。球速は148キロ。


しかし、千石はこれをファール。そしてボールの連続く。次の球をまたファール。カウント2ストライク2ボール。


「……はぁ、……はぁ」


 隼人はきつくても腕をおもいっきり振るった。ボールは俊介のミットへ。アウトコースギリギリ。


だが、それを千石のバットが捉えた。


カキンッ!


 鋭い打球が右中間を抜けた。一塁ランナーが走る。そして三塁まで蹴った。


真治が遠投で鍛えた送球を見せた。


「1点もやるかよ!」


 センターからレーザービームが放たれた。軌道に乗った綺麗なボールが帰ってくる。


だが遅かった。俊介が掴んだときにはすでにホームインしていた。隼人の公式戦初失点だ。


「ナイスバッティング、千石!」


「よくやった!」


「同点だ!」


 千石は二塁を踏みながら隼人を見ていた。隼人は舌打ちをするとマウンドに戻った。


隼人は次の五番を打たせてアウトにしこの回を終わらせた。


「はぁ、……はぁ」


 隼人は椅子に座ると息を整えようとした。


「はい、隼人くん」


 灯から水をもらいいっきに飲み干す。隼人の頭には千石の顔ばかりが浮かんでいた。


「クソ……、打たれた……」


 隼人は悔しそうに拳を握った。


「隼人さん……」


 縁が心配した目で隼人を見る。


「おい、隼人」


 ベンチの外に出ている直人が声をかけると隼人は顔を上げた。


「いつものお前らしくないな」


「は?」


「いつもなら、お前は個人の勝負なんかせずチームの勝利のために投げてたはずだ。だからそんな目にあうんだ」


 たしかに直人のいうとおりだった。隼人は反論できず口を閉ざした。


「でも、ピッチャーを助けるのが野手の仕事だ」


 直人はバットを握るとバッターボックスめがけ歩いていった。


 八回表。1‐1の同点。


おそらく先に点を取ったほうが勝ちだ。ここで取ってやる。


直人は左中間めがけバットを伸ばした。


「オレはアウトにはならねーぜ」


 相手ピッチャーは少し怖気づきながら投げた。そのボールを直人は打った。


カキンッ!


 鋭い打球がサードとショートの間を抜ける。そしてそのままレフトとセンターの間も抜き壁に激突した。


直人は俊足を生かし走っていく。そしてツーベースで止まった。


「やるじゃねーか。なら俺も」


 次は俊介が打席に入った。相手ピッチャーも疲れが出ている。俊介は曲がらない変化球を打った。打球はライト前に転がった。


ノーアウト、ランナー三塁、一塁。ここでバッターは五番ピッチャーの隼人。隼人は疲れた体でバットを握った。


「隼人さん……」


 縁が硬球を握り隼人をじっと見つめる。


隼人はぎゅっとバットを構えた。


負けるわけにはいかない。ここで点を取って、俺たちが勝つんだ。


相手ピッチャーは投げた。初球、隼人はバットをおもいっきり振り、ボールをたたきつけた。打球はレフトへと飛んでいく。レフトは追いかけて手を伸ばした。


「抜けろー!」


 打球はわずかの差で届かず落ちた。それを確認した直人が三塁を蹴りホームイン。そして俊介も帰ってくる。


2点獲得し、3‐1。貴重な点が入った。


 そして9回裏。


八回裏は三者ゴロで終わらせ、九回は2本のヒットを打たれた。


ツーアウト。ランナー二塁、三塁。ここで四番千石。四回目の対決だ。


「おれが試合を決めてやる」


「お前には打たせねー」


 お互い睨み合う。緊迫した中2人は対峙し、それは周りにも伝染していた。


隼人は右手から剛速球を放つ。それを千石はファール。次のボールもファール。次も。


だが、千石は確実にタイミングがあってきている。次で捉えるだろう。


隼人は膝に手を着いた。もう体力の限界だった。


顔をうつむいたそのときだった。


「隼人さん! 頑張ってください!」


 隼人はそっと顔を上げるとベンチを見た。そこで縁は大きな声で応援していた。


「頑張ってください、隼人さん! あと一人です! 隼人さんならきっと抑えれます!」


「縁……」


 そこで隼人はポケットに入れてあったお守りを取り出した。必勝と刺繍されているお守り。


隼人は小さく笑みを浮かべた。


そうだった。自分には縁がそばにいた。あの応援を聞くだけで、今まで頑張ってこれたんだ。


隼人は千石を睨みつけた。そして腕をおもいっきり振るってストライクを取りにいった。


「ふん!」


 千石がバットに当てる。ボールはファール。


そこでどよめきが起こった。ここで球威が戻ったのだ。今の球速150キロ。


そして次のボールもファール。球速は153キロ。確実に上がっている。


「終わりだ」


 隼人は右腕から渾身の一球を放った。千石のバットが回る。そして……。


バァァァァンッ!


 聞こえたのはミットの中に吸い込まれる音。球速は155キロだった。千石のバットは空を切った。


「ストライク! バッターアウト! ゲームセット!」


 主審が大きく手を上げた。その瞬間、歓声が送られた。


「よっしゃー!」


「二回戦突破ー!」


「勝ったぞー!」


 真治や広和、勇気は嬉しそうにはしゃぎ回っていた。隼人は力を出し切り倒れそうになった。それを俊介が支えた。


「よくやったぜ」


 そして整列し、お互い向き直った。


「3‐1で、天龍高校の勝ち。互いに、礼!」


「ありがとうございました!」


 両校共に頭を下げ、隼人は顔を上がると目の前には千石が立っていた。


千石はやれやれといった感じでため息を吐いた。


「おれの負けだな。あの球は打てねーよ」


「千石」


「約束どおり、縁ちゃんは諦める。……へん、幸せにしてやんなよ」


 千石は背を向け、そのまま手を振ってベンチに戻った。


「ふん、楽しかったぜ」


 隼人は笑みを浮かべるとベンチに戻った。


「お疲れ様です。隼人さん」


 縁が水を渡しながら満面の笑みで言った。


「ああ、ありがと」


 隼人は水を受け取ると口に含んだ。


そのとき俊介が言った。


「隼人。あの勝負お前の勝ちだろ? ということは、最連寺はお前のものか?」


 そこで隼人は含んでいた水を喉に詰まらせた。


「だ、大丈夫ですか、隼人さん?」


 縁は慌てて隼人の背中を擦った。


「な、何言うんだよ、俊介……」


「だって、そういうことだろ。幸せになりなよ、お二人さん」


 そこで2人は顔を真っ赤にしてうつむいた。


隼人は顔を上げると俊介を追いかけた。その姿を見て縁は笑みを浮かべた。

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