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ストライク  作者: ライト
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九回表:新マネージャーと新監督

 飛龍高校野球部は、来たときと同じようにバスで帰っていった。監督の神村は最後まで一番悔しそうだった。


寺田先生は、念のために田中を病院に連れて行くことにし、車に乗せて行ってしまった。


来てくれた生徒や観客達も散り散りに帰り始めた。


みんなはこれから後片付けが待っている。その前に、一同はベンチで少し休憩していた。


「それにしても、すごいやつが入ってきたな」


 真治がお茶を飲みながら口を開いた。


「うん。サードは決まりだな。うますぎる」


 広和は汗を拭きながら直人を見た。直人は頭を掻きながら照れ笑いを浮かべた。


「いや、みんなも練習すれば上手くなるって」


 そのとき、後ろから声が聞こえた。


「お兄ちゃん!」


 みんなは声がした方に振り向いた。


そこには光がいた。


しかし、そこにはもう一人見知らぬ女子生徒が隣にいた。光と手を繋いでいるということは知り合いだろうか。


「あっ、隼人くん!」


 その女子生徒は汗を拭いていた隼人にいきなりに後ろから抱きついてきた。


「ちょ、ちょっと、誰だよ、お前!」


「隼人くんすごかったね。さすがエース。かっこよすぎ!」


「いいから離れてくれ!」


 隼人は力ずくでなんとかその女子生徒を離した。


試合で疲れているのにもっと疲れてしまった。


「それで、お前誰なんだよ」


 隼人は少し怒り気味に言った。それを直人が教えてくれた。


「ああ、オレが紹介してやるよ。隼人には前にも言ったろ? オレにうるさい幼なじみがいるって」


「誰がうるさいって。私は天川灯(あまかわあかり)っていうの。よろしくね、隼人くん」


 灯は縁と違って肩まであるショートヘアーで、ぱっちりとした瞳に可愛らしい顔立ちをしていた。いつでも笑顔を絶やさないらしい。


「それで、何しに来たんだよ。部外者は出ていきな」


 直人が光の頭を撫でながら灯に言った。


「なに言ってんの。私は野球部のマネージャーになるって言ったでしょ。前に募集したとき名前書いたもん」


「でも、まだ入部届出してないだろ」


「じゃあ今出す。はい」


 灯は鞄から入部届を出した。それを俊介が受け取った。


「それよりも、隼人くん。ちょっと話しがあるんだけど」


「ん? なんだよ」


 灯は少し頬を赤く染めながら笑顔で言った。


「私と、付き合ってくれない?」


「え〜!」


 その言葉に全員が驚きの声を上げた。


隼人は何が何だか意味がわからず何一つ反応していなかった。


そんな中、ただ一人、縁は不安と焦りが入り混じった表情をしていた。




 練習試合が終わり、野球部の注目度はいつも以上に上がった。


廊下を歩くだけで行き交う生徒から声をかけられる。時には女子生徒から歓声を上げられるほどだ。まるでどこかのアイドル気分だった。


俊介や真治は嬉しそうに手を振って答えているが、隼人や縁、勇気は恥ずかしそうに目を合わせないようにしていた。広和はいつものように無表情。龍也と直人は平気な表情をしていた。


それからの練習は、あの試合で学んだことを重点に取り組んだ。


隼人はいつものように変化球の練習。真治や広和、龍也と新しく入ってきた直人たちは中継の練習をしていた。


佐藤と田中、高橋と中村は残念ながら辞めると言い出した。佐藤は自分のプライドが潰され、田中は頭を怪我して親が怒り、高橋と中村は2人がしないならする気がないらしい。


俊介はなんとか頭を下げてどうにかしようとしたが無駄だった。


その代わり、来年度までは幽霊部員としていることになった。これでなんとか部は保つことができたわけだ。それでも、俊介は一番落ち込んでいた。


それからは、隼人、縁、俊介、真治、広和、龍也、直人、そして新マネージャーの灯を入れた9人で活動した。


 直人が入った分、守備の練習は一段とやりやすくなった。


さすがは元県選抜選手。一人一人わかりやすく説明し、欠点を焦らず一つ一つ減らしていった。おかげで、中継の連携はスムーズになってきている。


マネージャーの仕事も、新しく灯が入ってきたことにより、縁の負担は減った。


しかし、隼人の精神的苦痛は増えるいっぽうであった。


「隼人く〜ん!」


 その声を聞いて隼人は重いため息を吐いた。


いったん投球練習を止め、声をしたほうへ振り向いた。


そこにはいつものように眩しい笑顔を見せて走ってくる灯がいた。


「はい。汗かいたでしょ。これで拭いて。あと水分捕球にスポーツドリンクも」


 そう言って灯はいつものようにタオルと飲み物を渡してきた。


「あ、あのさ、そういうのやめてくれない? ちょっと……」


「……め、迷惑だった?」


 灯はものすごい勢いで落ち込んでしまった。


「えっ、あ、いや、そんなことないよ。あ、ありがと……」


 それを聞いた灯はぱっと明るくなった。


「そんな、隼人くんのためなら何でもするよ。だから私に何でも言ってね」


「あ、ああ」


「じゃ、練習頑張ってね」


 灯は大きく手を振りながら自分の持ち場に戻っていった。


「隼人も大変になったな。モテる男は辛い。まさにこれだな」


 俊介はいやにやしながら隼人に近づいた。


「こっちはいい迷惑だよ。こういうの嫌なんだよな。なんか人に気を使わせているみたいで」


「あれ? でも、最連寺のはいいんだよな。そういうの、いつもしてるし」


「え? あ、いや、縁はいつもそうしていたから慣れたんだ」


「ふふ〜ん。ま、お前の本命はあいつだもんな」


「まだそれはわかんねーよ。たとえそうだとしても、縁はどう想っているか」


「そんなの分かりきってんじゃん……」


「ん? なんか言ったか?」


「いや、何にも。ほら、休憩はここまででいいだろ。練習再開するぞ」


「ああ」


 隼人はタオルと飲み物を脇に置くと、投球練習を再開した。


 灯は部室の前に戻ってきた。そこには縁もいた。


「縁ちゃん。あと、私は何したらいいの?」


「あ、それじゃあ、このボールを綺麗に拭いてくれますか?」


「うん。いいよ」


 2人はその場に座り込むと、籠の中にある汚れた硬球を雑巾で拭いていった。


そこで灯は縁に話し掛けた。


「この前の試合、隼人くん本当にかっこよかったね。最後の三振なんて感動したもん」


「そ、そうですね。本当にかっこよかったですね」


「うん。でも、あの返事まだ聞いてないんだよね」


「返事ですか?」


「うん。あの告白の返事」


 そこで縁はボールを拭く手を止めた。


あのときのシーンが頭の中で甦った。灯が隼人に告白したが、隼人は話をはぐらかせ道具の撤収に取り掛かった。


それから縁は、隼人とはあまり話さなくなった。


隼人の気持ちが気になる。灯のことをどう想っているのか。このまま付き合ってしまうのか。


「縁……? 縁ちゃん?」


 灯の声で縁は我に返った。


「あ、すみません。ちょっとぼーとしてて」


「ううん。いいよ。それより、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


「え、な、何ですか?」


「縁ちゃんは、隼人くんと付き合ってるの?」


「え?」


 それを聞いて、縁の顔は一瞬で真っ赤に染まった。


「ち、違います。私と隼人さんは別に付き合ってなんか……」


 縁は手を振って否定した。


「そうなんだ。いつも一緒にいるからそうなのかなって思ったよ。そうか〜、付き合ってないのか。なら、私にもチャンスがあるね。……私ね、こんなに人を好きになったの初めてなんだ」


「そうなんですか」


「隼人くんを見たのはね、中学最後の試合で。直人からよく聞いてたから、どんな人かなってすごく気になってた。それでね、県大会準決勝のときに、たまたま近くを通ったから見に行ったの。そしたらすごいね。中学生とは思えない球投げて簡単に三振取って。その姿が今でも忘れられなくて。なんて言うのかな、一目惚れってやつかな」


 灯はクスクスと笑った。


「この高校で会えるとは思わなかったけど、会えて嬉しいな」


 それを聞いて、縁はうつむいてしまった。


羨ましかった。自分の気持ちを正直に言える灯が。あんなふうに、自分も言えたらこんな苦しい気持ちも苦労することもないのかもしれないのに。


縁は重いため息を吐いたあと、口を開いた。


「灯さんは、直人さんと幼なじみなんですよね?」


「うん。そうだよ。妹の光とも仲良し。直人のお父さんがね、この街の出身で、幼い頃はここに住んでたから、そのとき知り合って仲良くなったの。中学生になってからは、お母さんの出身の街に引っ越してしまったけど。それで、またここに戻ってきたみたい」


「そうですか……」


 同じ幼なじみ同士なのに、どうしてこうも違うのだろうか。


縁は焦った。このままでは、隼人はいつまでも自分を見てくれない。もっと、積極的にアピールしなければ。


でもそんな度胸はまったくなかった。縁はそこである手段を持ち出すことにした。




 十月の下旬になった。


少しずつ寒くなり、体を動かさないとじっとしていたらすぐに固まってしまう。


俊介も冬に向けた練習メニューを考えようとしていた。


「うん。やっぱり冬の間は筋力トレーニングや体力の増加に備えるか。しばらくはボール使えないな」


「うむ。それが適当だろう。仕方ないことだ。基礎を身につけるのはいいことだがな」


 俊介や龍也は頭を悩ませて考えていた。


一方隼人は副キャプテンにも関わらず、一人硬球を持って変化球の握りをしたり握力を鍛えるために隠れてしていた。


「俺、副キャプテンだけど龍也のほうが適任じゃないかな」


 昼休みになり、それぞれ昼食を食べ始めた。


「おい、縁。一緒に飯食おうぜ」


 隼人が縁に呼びかけた。


「すみません。今日はちょっと用事が」


「えっ、そうか。わかった」


「すみません」


 そう言って縁は弁当を持って教室を後にした。


「どこに行くんだ?」


 隼人は気にせず俊介と龍也と昼食を取ることにした。


 そのころ縁は放送室にいた。中には恵がいた。


「あっ、縁。ちょっと待ってね。これかけたら終わりだから」


 恵は一枚のCDをかけると音楽が流れ出した。


そして昼食が食べられるように机を持ってきて席に吐いた。


「それにしても、野球部すごいね。すごい人気だよ。みんな噂してるしね」


「そうですね。本当にすごいです」


 縁は嬉しそうに笑みを浮かべた。そしてすぐに表情を落としうつむいた。


「縁。あんた最近元気ないけど大丈夫?」


「う、うん。大丈夫ですよ。元気元気です」


「ならいいんだけど。……やっぱりあの灯ちゃんのせい?」


 そこで縁は口を閉ざし、よりいっそう落ち込んでしまった。


「やっぱり。灯ちゃんは隼人くんが好きだもんね。縁も隼人くんが好きだよね?」


 少し躊躇ったが、素直に返答した。そのことは、恵はすでに知っているから。


今回縁がここに来たのはそのことで恵に相談するためだ。


「……はい」


「ま、それを気づかない隼人くんも嫌な人ね。鈍感」


 そこで隼人はくしゃみをした。


「へっくしゅんっ!」


「なんだ隼人、風邪か?」


「いや。そんなことないんだけど」


 隼人はよくわからず首をかしげた。


 恵はため息を吐くと口を開いた。


「縁ももっと積極的になってもいいと思うんだけどね」


「……私はそんなことできません。なんだか恥ずかしくて。灯さんはすごいです。本当に……」


 縁は重いため息を吐いた。


そこで恵は何かを思い出したのか、手をパンと叩いた。


「そうだ。いいこと思いついた」


「なんですか?」


 恵は一枚の紙を出した。そこには放送部の新しい企画案が書かれてあった。


「野球部特別インタビュー?」


「うん。野球部についての質問とかして、それを放送で流したらどうかなって思って」


「おもしろそうですね」


「うん。ほぼ決まっているんだけどね。さっそく明日からやっていくつもり」


「そうなんですか」


「それでね、最初の人はやっぱり一番人気の隼人くんがいいんだ」


「隼人さんって、一番人気なんですか?」


 縁は少し驚いた表情で聞き返した。


「うん。この前アンケートしてそれを集計したら、ダントツで一位だったよ。ま、縁も男子からは一位だったけど。あと、二位が俊介くん。三位が龍也くん」


「すごいですね。でも、いつのまにそんなことを?」


「まあね。それで、今日隼人くんに明日の昼休みここに来るように頼んでね」


「それはいいですけど、さっきのいいことって何ですか?」


 それを聞いて恵は笑みを浮かべた。


「隼人くんに質問するの。好きな人は誰ですかって」


「えっ?」


「これなら縁もわかるでしょ」


「でも、話してくれるでしょうか」


「任せて、なんとかやってみるから」


 縁は少し複雑な気分だったが、これでわかったら大分落ち着くと思った。




 そして昼休み。


隼人は縁に言われたとおり放送室に来た。


「失礼します」


「あっ、来たね。ささ、ここに座って」


 恵は放送器具の前に隼人を促した。


「それじゃあ、ちょっと待っててね」


 恵は放送の音量を上げると話し始めた。


「みなさん、こんにちは。楽しくお弁当食べてますか? 今日から放送部特別企画、大人気! 野球部特別インタビューを始めま〜す」


 その放送を聞いて、教室中は少し騒ぎ始めた。


その様子は放送室からでもわかるのだ。各教室にマイクがあり、それで放送室まで声が伝わる。


言葉の力はすごいと隼人は改めて感じた。


「それでは、第一回のインタビューを飾るのは、野球部のエースであり、人気ナンバーワンの和田隼人選手です」


 そこでまた教室が騒ぎ始めた。そのほとんどが女子だ。


教室で友達と昼食を摂っていた縁は少し複雑な気持ちになった。


「さて、隼人くん。さっそくいくつかの質問をさせてもらいます。その前に軽く、隼人くんについてみんなに教えましょう。和田隼人くん。1年1組。青雲中学出身。幼いころから野球をしており、ずっとピッチャーをし続け、県の選抜にも選ばれたとか。趣味は野球。特技も野球。誕生日は3月3日。尊敬する選手は松坂大輔選手。以上です。それでは質問に移ります」


「は、はい」


「そんなに固くならないでいいですよ。まずは、野球をする動機はなんですか? 始めたきっかけとかは?」


「え、えと、幼いころから野球が好きでしたので。いつのまにかずっとやってきました」


「なるほど。では、次の質問です。隼人くんは毎日欠かさずしている日課はなんですか?」


「走ることです。部活から帰ったあとは、神龍神社まで走りに行きます」


「みなさん、聞きましたか? 隼人くんに会いたいなら神龍神社に行きましょう」


 だんだんと恵は楽しんでいるように感じられた。それほど熱がこもっている。いや、おもしろがっているのかもしれない。


「次の質問です。目標は何ですか?」


「甲子園です」


 隼人ははっきりと言った。


「甲子園に言って、約束を果たしたいです。それまで、絶対に負けません」


 恵はそっと笑みを浮かべた。


縁、隼人くんはあんたのことわかってるよ。


それからも、隼人への質問が続いた。


「それでは、次からはちょっとプライベートなことを聞きましょう。ずばり、好きな人は誰ですか?」


「はあ?」


 隼人はおもわず聞き返した。


「そ、そんなこと言えるわけないだろ。この放送みんな聞いているんだろ?」


「ええ、まあ。仕方ないですね。では、いるかいないか教えてください」


 それを、各教室では固唾を飲んで耳を傾けている生徒がわんさかといた。


俊介は一人腹を抱えて笑いを押し殺して耐えていた。


「さ、お答えをどうぞ」


 隼人はごくっと唾を飲み込んだ。そして、恐る恐る口を開いた。


「……い、いません。今は、野球のことしか頭にないので」


 それを聞いて、縁は少し安堵したががっかりもした。


「みなさん、聞きましたか? 今隼人くんには好き人がいないそうです。誰にでもチャンスがあるということですよ」


「って、そんなこと言わなくていいだろ!」


「以上、野球部特別インタビューでした。次回も楽しみにしてね」


 恵は音量のボリュームを切ると椅子に深く座った。


「恵、なんだよあの質問。無茶振りだぜ」


「でもおもしろかったでしょ? 私も疲れた」


 恵は天井を見上げながら口を開いた。


「ねえ、隼人くんは本当に好きな人いないの?」


「え?」


 恵は天井から目を離すと隼人を見た。


そのとき、そっとばれないように背中ごしに音量のボリュームを上げた。


「もし、誰かから告白してきたら、その人と付き合うの?」


「いや、だから、今は野球のことしか」


「でも、それって寂しくない?」


「え?」


「高校生って時期は一度しかないんだよ。私のお父さんはいつも言ってた。高校生という時期が一番思い出に残るって。だから悔いのない高校生活をおくれって。私もそう思う。それでも、隼人くんは野球だけの毎日で楽しい」


 それを聞いて隼人はうつむいてしまった。


「たしかに、人を好きになるってことは大切なことで、その人と一緒にいたら楽しいと思う」


「……隼人くんがいつも一緒にいて楽しいと思う異性は……誰?」


 恵は小さく口元を緩ませた。


そのころ、縁はスピーカーにずっと耳を傾けていた。今、隼人の気持ちがわかる。


「俺は、……縁と一緒にいると楽しいと思う。でも、それが好きかどうかはわからない。多分、幼なじみだからだと思う」


 それを聞いて、恵はうなずいた。


これで十分のはずだ。


「あっ、隼人くんごめん! なんか音量のボリュームが上がってた」


「はあ? じゃあ、何? 今のみんなに漏れてたの?」


「そ、そうかも」


「ちょっと待ってくれ〜」


 それを聞いてみんな笑い出した。


一人、縁は安堵の息を吐いて口元を緩ませていた。


「ありがとうございます、恵さん。それだけで十分です」


 縁は顔を上げると、みんなと同じように笑った。


灯は、一人悔しそうに拳を力強く握っていた。




 ある日の放課後。


隼人たち野球部は練習中、いつも練習は自分たちに任せてあまり顔を出さない寺田先生が来た。


隣には、黒いジャージを着て、サングラスを着けている人がいる。


隼人たちは寺田先生に呼ばれ集合した。


「今日はみんなに報告がある。今日から私は部長になり、監督はこの鬼塚鉄次おにつかてつじ先生となった。保健体育の水瀬先生が産休で休みを取る間、代わりに来た先生でみんな知らないだろう。一足先に紹介しようと思ってね。それでは先生、お願いします」


 隣にいる黒ずくめの先生は一歩前に出た。


「鬼塚鉄次だ。今日からお前らの監督になる。……この前の試合を見させてもらったが、はっきり言ってただのボール遊びだな」


「な、なに!」


 俊介は監督を睨みつけた。


「あの程度の力で甲子園なんて舐めているとしか思えない。お前らは本物の野球を知らん」


「偉そうに言いやがって」


 俊介はぶつぶつ言っていた。


監督は全員の顔を見渡した。


そこで縁を見た瞬間、なぜか表情は一瞬変わったような気がした。


「縁、あの監督知ってる?」


「いえ、初対面です」


 監督は一つ咳払いをすると口を開いた。


「俺が監督をする以上、指導は俺がする。もちろん、甲子園に行きたいと思っているなら、……死ぬ気で取り掛かれ」


 この日から、天龍高校野球部の地獄の訓練が始まった。

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