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ストライク  作者: ライト
17/38

八回裏:練習試合の結末

 縁と交代して直人が入ってきた。


直人はサードの位置で軽くストレッチをしていた。


隼人はマウンドからそっと直人を見た。


そういえば、代表戦でも、直人がいたから安心して投げられた。いつでもどんなボールでも捕まえ、簡単にアウトにした。


隼人は笑みを浮かべた。


直人が入ってきて、不安要素はなくなった。これで、おもいっきり投げられる。


 今の状況は、8回裏。ノーアウト満塁。カウントはなし。相手の攻撃で打席は9番から。


隼人は余裕をかましているバッターにコントロール重視のボールを投げた。


相手は予想通りスクイズ。


隼人はすぐに前に出た。しかし、それよりも早く一人の人物が視界に映った。


直人だった。あの反射神経と瞬発力ですぐにバント処理をしようとした。そして、ボールを掴んだ。


「よし、ホームだ!」


 俊介が直人に向かって叫んだ。直人はトスでボールを放る。ランナーが走ってくるが関係なかった。判定はアウト。スクイズを阻止した。


「よっしゃー!」


「守ったぞ!」


「ナイスサード!」


 広和や勇気が喜びに浸り叫ぶ。それと一緒に観客席からも歓声が甦った。


そして次のバッターも追い込んだときにスクイズ。


「クソ!」


 隼人はボールを取りに行く。それでも直人のほうが断然速かった。


「よし、抑えた。ホームだ!」


 俊介がさっきと同じように叫ぶ。しかし、直人はその忠告を無視して二塁へ。


「あっ、何やってっ!」


 俊介は口を開くのを止めた。


なぜなら、直人のボールはとても速く、一塁ランナーをアウトに、そして龍也がファーストへ。勇気は長い手足を伸ばしてボールを掴む。その瞬間、一塁審が手を上げた。


「アウト!」


 この瞬間、追加点を阻止しただけでなく、天龍高校初のダブルプレーを成し遂げた。


「よっしゃー! ゲッツー!」


「ダブルプレーだ!」


 真治や勇気は大喜びでベンチに戻った。


飛龍高校はぼうぜんとした表情をしていた。中でも監督の神村は一番驚いていた。


龍也も直人にグラブでハイタッチをした。


 ベンチに戻ると隼人は直人に話し掛けた。


「ナイスプレー、直人。まったく衰えていないな」


「何言ってんだよ。あれくらい楽勝だろ。それより」


 直人はポンと隼人の肩に手を置いた。


「そろそろ本気で投げれば? 次で最終回だし」


 直人の言葉に少し驚いたが、隼人はすぐに笑みを浮かんだ。


「やっぱ気づいたか。さすが直人だな」


「誰でも気づくって。お前の球を、あんな簡単に打つ奴なんてそういないって」


 実は、隼人は初めから本気で投げていなかったのだ。


これは先生と俊介、龍也と話し合って決めたのだ。少しでも真治たちに試合の経験を掴むためにわざと打たせていた。


おかげで少しだが、良い経験とこれからの課題を見つけることはできたはずだ。


「まあ、それよりも、今はこの状況をどうするかだな」


 2人はスコアボードを見た。


最終回。7‐3。差は変わらず4点。残り1回。


これをどうひっくり返すか。打席は1番の真治から。最悪同点にしなければ、そこで負けてしまう。


「打て! 真治! バットに当てておもいっきり走れ!」


 俊介がベンチからバッターボックスに入ろうとする真治に声をかけた。


真治はこくっとうなずくと一礼して入った。その雰囲気はいつもと違った。


「4点もあるんだ。楽にアウトとれるぜ」


 相手ピッチャーは笑みを浮かべながらボールを投げた。そこで真治の構えが変わった。


「あいつっ」


 俊介が思わず声をあげる。


真治はバントの構えをしたのだ。ボールが軽い音をたてて三塁側に転がった。その瞬間、真治は一塁向かっておもいっきり走った。


「走れ! 真治!」


 サードは意標をつくバントに出遅れてしまっている。慌ててボールを掴むとすぐさま一塁へ送球した。そしてファーストがボールを掴む。


しかし、それよりも真治の足の方が微かに速かった。


「セーフ! セーフ!」


 一塁審が大きく腕を横に広げた。


その瞬間、歓声が周りから沸き起こった。そして真治も叫んだ。


「よっしゃー!」


「いいぞ! 真治!」


「ナイスラン!」


「続け! 広和」


 広和はバットをぎゅっと構えた。


「真治ばかりかっこつけさせてたまるかよ」


 広和は真治に視線を送った。真治はその意味がわかったのか、笑みを浮かべた。


そして初球、真治はピッチャーの足が上がった瞬間走り出した。


「あいつ、盗塁しやがった!」


 広和はバットを構えるだけで振りもしなかった。判定はストライク。しかし、キャッチャーはボールをすぐさま二塁へ。


真治がスライディングをして二塁を踏んだ。判定はセーフ。


「よっしゃー! 盗塁成功!」


「いいぞ! 真治!」


 その光景を見て、バッターサークルで膝を着いて待機していた龍也は笑みを浮かべた。


「あいつ、あの合宿で教えたことちゃんと覚えてたな」


 そして次のボールで広和は得意のバントで真治を三塁へ送った。1アウト三塁。ここでバッターは三番の龍也。


「打てよ、龍也!」


 隼人は大声で声をかける。


龍也はバットを軽く回して相手投手を睨みつけた。


自信がある。データによると、相手ピッチャーは変化球と体力に自信が無いのか、4回以降から初球は必ずストレートで入れにくる。おそらく、それで勢いをつけるのだろう。


 相手ピッチャーは汗を拭うと投げた。龍也は考えどおり初球からおもいっきりバットを振った。


カキンッ!


 鋭い打球がピッチャーの後ろへ抜けた。


「よし! 真治走れ!」


 しかし、真治は走ろうと足を動かそうとしたがすぐに止めた。打球があまりに速くセンターがすぐにボールを捕ったのだ。これではホームに投げられてアウトになってしまう。真治はすぐに三塁へ戻った。


1アウト一、三塁。ここで俊介が打席に入った。


「打てよ! 俊介!」


 隼人が後ろから声をかけた。


「ああ、ここで打たなきゃ男じゃねー」


 俊介は気合を入れてバッターボックスに入った。相手投手は少しランナーを気にしながら投げる。それを俊介は見送った。ボール。それからもボールの連発。疲れたのか、なかなかストライクが入らない。結局、俊介はフォアボールで進出した。


「ちぇ、打ちたかったのに」


 俊介は悔しそうに一塁へ走っていった。そして次は隼人だ。


「隼人さん! 頑張ってください!」


 ベンチから縁が応援してきた。疲れているのにもかかわらず元気な笑顔を見せる。


「縁、待ってろよ。天龍高校初勝利を持ってくるぜ」


 それを聞いて縁は嬉しそうに返事をした。


「はい!」


 隼人はバットを構え、深く息を吐いた。


満塁。ホームランなら同点。ダブルプレーなら終わり。今の流れを止めるわけにはいかない。ここで打って、逆転に繋げる。


ピッチャーは疲れながらも腕をおもいっきり振るう。隼人はその甘い球を見逃さなかった。


カキンッ!


 乾いた音が全員の耳に響く。鋭い打球が高く上がった。それを外野が追いかける。


「入れー!」


「入っちまえ!」


 全員の声がボールに向かって叫ぶ。ボールは失速してどんどん落ちる。センターが走りながら腕を伸ばした。その光景がスローモーションのように感じる。


ボールがグラブに当たった。そして、センターは捕れずボールがこぼれた。ヒットだ。


「走れ!」


 全員が一斉に次の塁に向かって走り始めた。センターは慌ててボールを返球。


その間に真治がホームイン。


「よっしゃー! 1点目!」


 そして龍也もホームへ向かって走る。ショートがすかさずホームへ送球。綺麗に軌道に乗ったボールがホームに向かって突っ走る。龍也はスライディングをした。キャッチャーはボールを掴むと龍也をブロック。そこで激しいぶつかりが生じた。もわもわとした土埃が舞い上がった。


「判定は?」


 観戦しているが全員が注目し、固唾を呑んで見守った。ボールはキャッチャーのミットの横にこぼれている。それを確認した主審が腕を大きく横に広げた。


「セーフ!」


 そこで歓声が沸き起こった。


「よっしゃー!」


「おっしゃー!」


「ナイスラン龍也!」


「ナイスバッティング隼人!」


 隼人は二塁で腕を上げてガッツポーズした。龍也も笑みを浮かべながら軽く拳を見せる。俊介は三塁で飛び跳ねていた。


2点追加し、これで2点差となった。いぜん、1アウト二、三塁。ヒット一本で同点になるチャンス。ここでバッターは6番の勇気だ。


「勇気! 落ち着いておもいっきり振れば大丈夫だぞ!」


「は、はい!」


 いつもより返事は大きいものの、その姿はあまりにも緊張しすぎていた。


そして初球、勇気はおもいっきりバットを振るうがぼてぼてに転がった。


「ああ!」


「勇気走れ!」


 しかし、判定は無残にもアウト。呆気なくセカンドゴロで終わった。これでは俊介も隼人も走れなかった。


 これで2アウト。次で最後である。


ここで次のバッターは7番の直人だ。直人は一つのバットを掴むと打席に入ろうと歩いていった。


「そういえば、あいつバッティングは大丈夫なのか?」


「さあ」


 真治や広和が直人を見る。隼人も多少の不安はあった。少しの間野球と離れていたが、直人は大丈夫だろうか。


 直人は一息吐いた。


今の自分で大丈夫だろうか。中学時代はそれになりに良く打っていたがさすがに今の自分に自信はない。


直人はバットをぎゅっと握った。


そのとき、後ろから声が聞こえた。


「お兄ちゃん! 頑張れ!」


 直人は声のするほうへ振り向いた。


そこには光がいた。満面の笑顔を見せながら大きく手を振っていた。


直人はそれを見て笑みを浮かべると打席に入った。そして、腕を挙げセンターに向かってバットを伸ばした。


センターへのホームラン宣言をしたのだ。


「俺がこの試合を決めてやる」


 隼人は二塁で声を押し殺して笑った。あいつはいつもそうだった。そうやって自信満々にするプレースタイル。昔と変わらなかった。


「なめやがって」


 相手ピッチャーは少し腹を立てながらボールを投げた。直人はバットをおもいっきり振った。


カキンッ


 ボールと金属バットが当たった音が聞こえた。全員が打球の行方を追った。ボールはセンターに向かって伸びていく。高く上がったボールは青空にむかって走っていた。


センターがその後を追う。センターはフェンスに手を着いた。そしてそのまま、柵の向こうへと消えていった。


「ホームランだ!」


「おっしゃー!」


「逆転だー!」


 ここで今日一番の歓声が沸き起こった。直人は笑みを浮かべながら腕を挙げガッツポーズをし、悠々とベースを回った。そしてホームインすると、天龍高校野球部全員で手荒い歓迎を受けた。


「こいつ、途中から入ったくせにおいしいところ取りやがって!」


 俊介がぼんぼん頭を叩いた。


「かっこよすぎるんだよ!」


 真治と広和が叩く。


「ナイスホームランだ。今日のヒーローは決まりだな」


 龍也が鼻でふっと笑うと背中を軽く叩いた。


観客席からは光が大きく拍手をして喜んでいた。


「はは、ありがと」


 直人は体を上げると目の前にいる隼人と目が合った。隼人は笑みを浮かべながら片手を上げた。


「ナイスホームラン。さすが名三塁手だな」


 直人も笑みを浮かべると片手を上げた。


「お前も次はビシッと決めて、俺のホームランを台無しにしないようにな」


 2人は強くハイタッチを交わした。


 最終回。8‐7。天龍高校リード。飛龍高校の攻撃は3番からのクリーンナップ。


「よし! 行くぞ!」


「おお!」


 天龍高校のナインはベンチから飛び出した。


「隼人さん」


 ベンチから出ようとした隼人は後ろを振り返った。縁が笑みを浮かべながら出てきた。


「隼人さん、あと3人です。頑張ってくださいね」


 縁はそう言ってある一つのボールを隼人に見せた。そこには、縁の誕生日で隼人が上げたあの硬球だった。ちゃんと隼人が書いた『甲子園!』という字もある。


縁は満面の笑みを見せた。隼人も笑みを浮かべると拳を握った。


「この勝利を、縁にプレゼントするぜ」


 それを聞いて縁は嬉しそうにうなずいた。


それを見届け、隼人はマウンドにかけて行った。


 隼人は投球練習をし、俊介から返球を受け取ると一息吐いた。そして、マウンドに駆け寄って来た俊介が声をかけた。


「隼人。もうリミッター外していいぜ。最終回はおもいっきり来い」


 そう言って俊介はミットの中を拳で叩いた。


「ああ。3人とも三振にしてやるよ」


 そう言ってお互いに笑みを見せる。


「よし、バシッとしめようぜ」


 俊介は守備位置に戻っていった。


「プレイボール!」


 主審が手を上げた。


そのとき、隼人は体を震えるのがわかった。さっきまで感じなかった歓喜が沸き起こった。


今から自分は全力で投げれる。打たせることを意識せず、自分が思うままに投げれる。そう思うだけで体中から力がみなぎった。そして自然と口元が緩んだ。


そうだ、これが野球だ。これが自分のプレースタイル。これが、自分が野球を楽しいと思える原点だ。


 隼人は俊介のミットめがけ、渾身の一球を投げた。マウンドから放たれたボールが轟音を轟かせミットに収まった。


バァァンッ!


その瞬間、辺りが静まり返った。相手ベンチも、審判たちも、周りの観客たちも声が出なかった。隼人は心から沸き起こる笑みを浮かべた。


これだ。これが聞きたかった。この音を聞きたくて野球をしてきた。もう、誰にも打たれる気がしない。


隼人は3番を3球三振であっという間に終わらせた。


「な、なんだ、あの球は。あんな球見たことないぞ。いったい何キロ出ているんだ」


 相手監督は悔しそうに歯を噛み締めていた。


「和田の球は、あんなに速いのか」


 寺田先生は呆気に取られ呆然としていた。


「前まではあんなに速くありませんでした」


 寺田先生は隣に居る縁を見た。縁は隼人を見守るような優しい目をしていた。


「嬉しいんでしょう。したくてもできない環境で、我慢してきた自分の気持ちを解き放ち。……今の隼人さんは実力以上の力を発揮しています。多分、本人はそんなこと気づいていないでしょうけど」


 寺田先生は驚きながらマウンドにいる隼人に目を戻した。


隼人は続く4番もバットにかすらせることなく3球三振で終わらせた。


「よっしゃ!」


 隼人はガッツポーズをしながら吠えた。


「隼人のやつ、気合入りすぎだな」


 直人は腕を組みながら笑みを浮かべた。


「ナイスボール隼人。良い球走ってるぞ」


 俊介はマウンドにかけよりながら隼人に言った。


すると、俊介は少し驚いた表情になった。


「隼人……。お前、どうしたんだよ」


 隼人は泣いていた。目からは涙がこぼれ、頬に二つの線が出来ていた。


「どうかしたのか? 怪我でもしたのか?」


 隼人は首を横に振った。


「嬉しいんだよ」


「え?」


「やっと、野球ができた。……正直ずっと不安だったんだ。部員も少ないこんなところで、本当に野球が出来るのかなって。でも、今俺は投げている。大好きな野球を楽しんでいるんだ。そう思うだけで、なんだか涙が……」


 それを聞いて、俊介は隼人の肩に手を置いた。


「その気持ちは甲子園にいったときに取っておきな」


 隼人は袖で涙を拭うとうなずいた。


「さて、あと一人だ。リードはしないからな。どうせ必要ないし。好きなところにおもいっきり来い」


「ああ」


 俊介は隼人にボールを渡すと戻っていった。


隼人はふと空を見上げた。綺麗な青空の中に白く大きな雲が泳いでいた。


ストライクを取ったときの音って、空を泳ぐみたいに気持ちいいよな。


 隼人は腕を上げると俊介のミットめがけボールを投げた。聞きたい音が耳に響く。


この音を、何度でも聞きたい。それまで止まることない。いや、誰であろうと止めさせない。


縁と甲子園に行くまで。


 隼人は最後のバッターも渾身の球で三振に打ち取り、天龍高校初勝利を納めた。


その瞬間、天に向かって吠えた。


「よっしゃー!」


「やったー! 勝ったぞー!」


「初勝利!」


 真治や、広和、勇気たちは飛び跳ねたりとはしゃぎまわって喜びに浸っていた。


「ナイスピッチ、隼人」


 直人がマウンドにいる隼人に近づいてきた。


「ああ、ありがとう。お前も、ナイスプレーが多かったな」


「あれくらい簡単だぜ。……前にあんなこと言ったけど、やっぱオレ、野球捨てられないぜ」


 2人は笑みを浮かべた。


「さ、整列だ。全員並べ!」


 俊介がそう言うと、全員が整列をした。


目の前には悔しそうに顔をうつむいている飛龍高校野球部員がいる。だが、変わって天龍高校野球部は胸を張っていた。


今日の試合、みなそれぞれ良いものを得た。これからに繋がる大切なものを。


「8‐7で、天龍高校の勝ち。一同、礼!」


「ありがとうございました!」


 すると、突然周りから拍手の音が聞こえ出した。生徒や保護者、先生たちもみな立ち上がり拍手を送っていた。


「はは、なんか照れるな」


 俊介は照れ笑いを浮かべて頭を掻いた。


「でも、俺今認められた感じがしてきた」


 隼人はぼそっと呟くと、みんなが注目した。


「この拍手は、俺らが野球部であることを認めてる。つまり、俺らはこれからも頑張らないといけない。この拍手が、次の試合でも聞けるように」


 全員は力強くうなずいた。みなわかっている。自分たちがしなければならないことを。自分たちが天龍高校野球部員であることを。


 その様子を、2人の人物が遠くから見ていた。


「どうですか、うちの野球部は。勝てるとは思いませんでしたが、なかなかいい試合でしたね」


 校長先生は喜びの笑みを浮かべて何度もうなずいていた。その隣にいる一人の男は冷たい目で見ていた。


「あれは野球なんて言えませんね。どいつもこいつもただ野球で遊んでいるだけだ。これで甲子園なんて、何を考えているんだか」


 そう言って、二人は校舎の中へと足を進めた。


 隼人たちはまた一列に並び、観客席の方を向いた。俊介が脱帽すると、みな同じように帽子を脱いだ。俊介はそれを確認すると大きな声で言った。


「今日は、わざわざ応援しに来ていただき、ありがとうございました!」


「ありがとうございました!」


 全員が声をそろえて頭を下げた。その瞬間、さっきよりも大きな拍手が送られた。


隼人は改めて思った。


やっぱり野球はすごい。苦しいことも、辛いこともたくさんあるけど、その分楽しいことも嬉しいこともある。試合に勝ったときは一番嬉しい。それに、こうやって人との繋がりも増えていく。


隼人はぎゅっと拳を握った。


もう二度と辞めるなんて言わない。このメンバーで、このチームで、甲子園に行くまで、どこまでも突き進んでいく。この高校に入って、本当に良かった。


「隼人さん」


 隼人は呼ばれて我に帰った。すでにみんなベンチの前に集まっていた。


「何してんだよ。早く来いよ」


 と俊介。


「お前が来ないと反省会始まらないんだよ」


 真治と広和が手招きをしている。


「ふふ、今日の情報は大いに役立つな」


 龍也が腕を組みながらふっと鼻で笑った。


「僕疲れました。早くしてください」


 勇気はその場に座り込んでしまった。


「隼人さん」


 縁が満面の笑顔で呼んでいる。


「ああ」


 隼人は笑みを浮かべながら、みんなの元に走った。

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