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ストライク  作者: ライト
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プロローグ

 八月。


 空は雲一つない晴天。


太陽が焼き付けるように輝き、グランドは陽炎のごとく蠢いている。


 バックボードには中学生県野球大会決勝、九回裏0対02アウト2ストライク2ボールランナー三塁と光っていた。


「頑張れ〜!」


「ファイト〜!」


「あと一人〜!」


 スタンドからはわれんばかりの音楽や声援を送って一人の選手を見ていた。


ベンチからも身を乗り出して声を出している仲間が見守っている。


 その注目している選手は、マウンドに立っている背番号1を身に付けたピッチャーの和田隼人。


 隼人は黒い帽子をかぶりなおし、息を大きく吐いて集中した。


汗が頭から顎へ一滴ずつ落ちているが、気にせず後ろでボールをいじくりキャッチャーのサインを見ていた。


バッターは右打席に入って、今かとボールを待ち続け、バットを構えている。


 不思議と自信があった。


このまま抑えて延長戦に持ち込む自信があり、負けるなどと微塵のかけらも思っていなかった。


 キャッチャーとのサインも決まり、ロージンをつけ、セットポジションに立った。


ボールをグローブの中で握り、足を上げて渾身の一球をミットめがけて投げた。


 右手から放たれたボールは、綺麗に逆回転し、ミットの位置どおりアウトコースギリギリのところにいった。


バットが回るが遅い。あれでは打てない。


(よし!抑えた!)


 延長を確信し心が躍ったそのときだった。


(……えっ?)


 隼人は目を疑った。


ミットがコースからずれているように見えた。


いや、ずれている。


 勢いのあるボールはキャッチャーの後ろに抜けてしまった。


ガシャッ!


 ボールが金網にあたり転がった。


キャッチャーは拾おうともしない。


バッターは一塁へ走った。そのとき、三塁ランナーが還ってきた。


 ホームインしたとき、ランナーが喜びにひたり叫んでいる。


観客席からも歓喜の声が響いている。


 隼人はその場に棒立ちになった。


訳が分からなかった。


いったいどうなっているのか。


 ハッと後ろを振り向き、バックボードを見た。


日光が照らしても、そこにはっきりと9回裏のところに1と光っている。


「……負けた」


信じられなかった。


最高の球だった。


自信があった。


負けるはずがない。


何かの間違いだ。


しかし、結果は出ている。


何も変わらない。


隼人は、拳に力を込め、目をかたく瞑った。


「……終わった」


 涙が一滴、目からこぼれた。


試合中に泣くのは初めてだった。


それほど悔しかった。


しばらくその場に立ったまま、嫌でも耳に入ってくる相手チームの歓声を聞いていた……。

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