朝顔
お盆の暑い日曜日の朝、祖父の残像が見えた気がした。
お盆の日曜日。
早朝から厳しい日射しが照りつけ、汗が吹き出る暑さだった。
有希は、自転車のペダルを漕ぐ足に力を込める。
三年前、逝った祖父の墓に詣でての帰り道。
まだ、朝の九時前というのに、公園で、男の子が二人、ボール投げをして遊んでいる。
突然、有希の目に、濃い赤が飛び込んできた。
ハッとして、自転車を漕ぐ足をゆるめ、目を凝らす。
公園の鉄柵に、ポツ、ポツと、濃い臙脂の花が小さな傘のように開いている。
「朝顔、や。」
園芸好きの祖父が、夏になると、端正していた朝顔は、いつもこの時期が来ると、縁側の垣に絡みついて、満艦飾の花を咲かせていた。
薄青、濃紫、薄紅、臙脂。
色とりどりの花が、パッと開いた様は、祖父の夏の風物詩だった。
その祖父が、今は、居ない。
縁側の朝顔の饗宴を見ることは、もう、ない。
有希は、ぐるりと頭を回して、天を仰いだ。
夏の強烈な日射しを浴びて、真っ白な入道雲が、青空に、くっきりと浮き上がって見えた。
お盆の折、垣間見た風物が目蓋に残って、書いた掌編です。
お盆は終わりましたが、亡き人を静かに偲んでいただければ、と思います。
ご一読ありがとうございました。
作者 石田 幸