ゲーム
それから半年が経ち、私たちは強い絆で結ばれたゾンビ仲間となっていた。今日も部室でゾンビについてたくさん話そう。
「たのもぉおお!」
しまった、扉を壊した。
「あ、夜見さん。待ってましたよ~」
ヴァイオはおとなしく正座待機。
「ああ、待たせてすまなかった。ところで今日は何をしようか」
「今日はこんなゲームをやりたいと思います!」
そう言ってヴァイオが鞄から取り出したのは一本のゲームソフト。
「ん? そのパッケージは!」
「はい、今流行ってるバイオレント・ゾンビーですよ」
まさか、こんなところでお目にかかれるとは思っていなかった。なんせこのゲームは販売開始から六時間で売り切れたというのだから。私ですら間に合わなかった。
「ヴァイオ、お前よくそれ買えたな」
「いえ、これは私の父の友人が制作会社の社長さんなので貰ったんですよ」
なん……だと。まさかのコネクション持ち。もしやヴァイオってかなりいいところのお嬢なのでは?
「まあ、とりあえずプレイしましょうか」
そうして私たちはVRゴーグルを付けてバイオレント・ゾンビーの世界へ飛び込んだ。
ワールドに入ると一人の男がスクワット中。サングラスをかけたムキムキマッチョ。
「おかしいな、私たちはゾンビゲームの世界に入ったんだよな」
「ええ、間違ってビ●ーズブートキャンプのゲームに入ってしまったんですかね」
一度確認するために出ようとする私たちを男は呼び止めた。
「おい、嬢ちゃんたち! ここはバイオレント・ゾンビーの世界で間違いねーぞ」
「いや、ゾンビゲーの中でスクワットしてるキャラ見たことないんだけど」
「そんなの言うの芳子ちゃんだぜ。俺はお前たちの案内人だ」
いらないんだがな。
「そういうの結構なんで」
案内人と言い張る不審者は無視して進もう。
しばらく歩くと……迷った。
「迷うのは当たり前だのクラッカー」
うざいな。
「つけてきてたのか」
「そうだヨ」
もう埒が明かないので案内させることにした。
今まで何もなかった世界だったがやっと町が見えた。
「ああ、疲れましたよ~。公園のベンチで休憩~」
ヴァイオはベンチに座ろうとしたが硬直した。
「ヴァイオっ! どうし……た」
「ハハハ、藪からスティックって感じだな」
「静かに喋れ! ここは?」
「やばい奴らの集会所みたいなもん」
いやまあ、目の前で集会してるやつ確かにゾンビだけどな。
「ウェルカムトゥアンダーグラウンド」
「うわあ、耳くすぐったいわ!」
「ちなみにあの集団は無視しておいて大丈夫だぞ」
案内人の不審者が指差す先には耳が欠損しているゾンビがたくさんいた。なるほど、だから音に反応しなかったのか。ちなみにヴァイオはよだれを垂らしていた。大量のゾンビに興奮していたようだ。
「よし、幾三」
案内人は近くにあったコンビニの中に入っていく。
「ここで課金ガチャを引けば武器が手に入る」
課金かよ! と思ったが絶対にやらないといけないということなので、
「「えい」」
ラジコンが出てきた。武器じゃないだろ。
「ヴァイオは?」
「私は何か魔法陣が描いてある紙でした」
しょっぱいな。一回一万五千円でこれかぁ。
「どうする嬢ちゃんたち。もう一回引いてくかい?」
「「結構です」」
「このゲームの特徴はいきなりラスボス、だぁ!」
「い●なりステーキみたいな名前してますね」
ヴァイオが言いたいことを代弁してくれた。
「さあ、嬢ちゃんたちレッツゴー」
聞いちゃいない。多分これ以上聞いても何も答えないだろう。
「その扉を開けたらモンスターがいるぜ。俺はここまでだ。良い夢見ろよ!」
最後すごい投げやりだったな。
「ま、気を取り直して行くか」
「せっかくやったならクリアしましょう!」
二人で重い扉を開ける。すると、そこには大きな大きなゾンビがいた。顔は全体が蚊に刺されたみたいな感じだ。
「ええい、成敗してくれる!」
「ぐおあああああああ」
くっ、離れていても生臭い息だと分かる。しかし、私はそんなことでは屈しない。
「セイバーパーーンチ!」
「ぐええええええええ」
よし、と言いたいところだが言えなかった。体全体がドロドロしていて腕に体液が付着してしまった。
「うわああ、ネバドロだあ」
「夜見さん! 化物、夜見さんになんとうらやま……酷いことを!」
本音出たぞ。
「この魔法陣の力を借りますよ」
ヴァイオが魔法陣を地面に置くとドラゴンが出てきた。何でもありか?
ドラゴンは炎を吐きゾンビを一瞬にして炭へ変えた。
「ヴァイオ?」
「はい?」
「……最初からそれ使えよぉ」
クソゲーは終わった。全部員に告ぐ(二人)。部室へ帰ろう。