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「介抱して頂き助かった」
意外と何ともないのか、女性はすんなり立ち上がり礼を言う。
「そうだ、名を名乗っていなかったな。私の名は……」
ここで何故か女性は一呼吸置き、胸に手を当て誇るように名前を言う。
「アリエルだ」
名前から、やはり外国の方なのは間違いないのだろうと言う事が分かった。何故ちょっとドヤ顔なのかは分からないが。
とりあえず「はい」とだけ返事をすると、非常に驚いた顔をする。
「アリエルだ!」
何故かもう一度名乗る。聞こえてないと思ったのか、先程よりも大きな声である。
「え?はい」
「え?」
「え?」
コントのようにオウム返しをする二人。何故この女性はそんなにも驚いているのだろう。
「まさかあなた、アリエルの名を知らないのか?」
アリエルさん?はもの凄いびっくりしている。もしかして俺が知らないだけで、すごい有名人なのかもしれない。確かにテレビや雑誌には疎く、外国のスターやモデルなんてほとんど知らないのでそこは悪いことをした気になる。
「すみません、ちょっと知りません。あの、タレントさんか何かですか?」
「何を言っているのだ?」
アリエルさんは少し声を張り上げる。怒っているというよりも、困惑がそうさせているようだ。そんなに有名な方なのか、いや確かにハリウッドスターでも、名前を知っていても顔が一致しない事が多いので自信は無い。
「確かにサガとは聞いた事も無いが、これだけ発展しているようだし、精霊の加護が無いはずが無いのだが……」
アリエルさんは辺りを見渡しながらブツブツ呟く。
セイレイ?とかカゴ?とかよく分からない単語は少し気になる。
するとアリエルさんは思い立ったような顔をして、ゴソゴソと首の後ろに手を回し、ネックレスらしきものを手に取り見せる。
「ならばこれでどうだ」
それは紐の先に着けられたメダルのような物で、細かい細工と真ん中に宝石らしきものが装着されていた。