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「何を……?」
賢者の雰囲気にただならない異常を感じた私はそう問いかけるが、賢者は黙って魔法の詠唱を始める。
何の魔法を唱えているのか分からなかったが、すぐに私の身体に変化が起こる。
「……これは?」
先程まで尽きていた体力と魔力が回復したと思えば、それどころか今までに感じたことないほど力が溢れてくる。満ちていく力に自然と自信を取り戻すが、同時に疑問と恐怖が頭をよぎる。
「でも何?こんな魔法、私は知らない!聞いたこともない!」
見ると賢者は私とは対照的に魔力を消耗し、明らかにやつれていく。その姿を見た私はこの魔法の正体を確信した。
「まさか!禁断魔法!?」
聞いた事がある、己の命と魔力引き換えに対象者の力を大きく底上げする禁断魔法の存在を。しかしその魔法は古代に封印されており、現代では使えるものはいないはずだ。
「……実はこんな事もあるかもと思い、自分の力で封印を解いていたんです」
そう言う賢者は顔は笑っているものの、数分前とは比べ物にならないくらい消耗していた。
「何で!?駄目だよ!そんなの!!」
泣き叫ぶ私に対し、再度賢者は笑顔で返した。
「……貴女はいつも泣いてばかりでしたね。でも強くなった。……勇者よ、勝ち……なさい……」
最後の方はほとんど聞こえなかった。最後まで笑顔のまま賢者は霧のように消えていった。
「ほう、これは面白い!こんな魔法もあるとは人間もやるもの……」
「うるさい」
これ以上言葉は要らない。私に出来る事は、私がすべき事は目の前の魔王を倒す事。そうでなければ仲間達の全てを無駄にした事になる。
「……魔王、これで全てだ」
最終奥義を放つべく、剣を腰に構えて魔力を高める。
「面白い、面白いぞ勇者よ!それでは私も全力を以って応えよう」
数秒間の沈黙、まるで永遠のように感じる時間を破り、魔王が両手から魔法を放つ。
「くらえ!」
「いけぇ!!」
魔王の攻撃に反応し、私も奥義を放つ。
私と魔王の魔力が2人の間でぶつかり合い、そして弾けて光となった。