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「遅い!遅すぎるぞ勇者よ」
高笑いしながらわざと顔を近づけてくる魔王。
「うるさい!」
そう返しながら一閃、さらに一閃するが当たらない。魔王は子供を相手にするが如く、反撃するわけでもなくただ回避するのみ。
おそらくただ暇つぶしに遊んでいるだけ、それに飽きたらすぐにでも私たちは殺されるのだろう。
それが分かっているのに当たらない。それがとても悔しく、今までの戦いや仲間が馬鹿にされているようで情けなくもあった。
「そろそろ飽きたな」
数十回斬り結んでいた最中、ふと魔王がつまらなそうな顔で呟く。
「ここまで来れたのは称賛に値するが、勇者よ、勇者というのはこの程度の力なのか?」
そう言いながら魔王はいとも簡単に剣を片手で握った。
「うるさい!魔力さえ万全ならお前など!」
そう叫び剣を抜こうとするが、全く剣は動かない。
「ふむ、そうか、それならば万全の状態でもう一度来いと言いたいところだが、私とて遊びでやっているわけではないのでな、これで終わりにしよう」
ようやく剣から手を離した魔王は大きく後ろに後ずさり、一呼吸するとともに大きく魔力を膨らませた。
「なんて大きな魔力」
分かってはいたが、やはり魔王は全力では無かった。それで無くとも相手にならない力関係なのだから、ただ絶望するしかない。
「ねえ、何か手は無いの!?」
そんなものは無いと分かっていながら私に補助魔法をかけ続ける賢者に話しかける。
すると賢者は私の想像に反し、この状況下のなか優しい笑みを浮かべてこう返した。
「あります。一つだけ……」
「えっ!?」
「ほう……」
どうやら驚いたのは私だけでは無いようで、魔王も興味深そうに賢者に視線を移す。
「なにかあるなら、早くお願い」
そう叫ぶ私に対し、賢者はゆっくり目を閉じて、再び優しい瞳でこう言った。
「……本当に長く辛い旅でしたが、本当に良い旅でした」