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レモベリ短編集(書き出し.me)

「チョコレート、食うかい」

作者: レモベリ

「チョコレート、食うかい」


「それチョコレートじゃなくてチョコチップクッキーじゃない?」


「たいして変わらないだろう」


「全然ちがうでしょ」


カナは差し出された個包装のクッキーをとりあえず受け取ると

赤いショルダーバッグの中にしまった。


「食わないのか?」


「あとで食べるわ」

「今は食欲ないの」


キョウスケは難しい顔をする。


「じゃあ返せ」


「なにそれ」


「食わないなら返せ」


「なによ…別にいいけど…」


カナはショルダーバッグからクッキーを取り出し、キョウスケに突っ返す。

キョウスケが受け取ろうとすると、タイミングが合わなかったのかクッキーは地面に落ちた。


「あっ?」

「あっ?」


2人は落ちたクッキーを見つめてしばらく黙っていた。


キョウスケがクッキーを拾い、封を切って中身を食べ始める。

半分を食べたところで独り言のように呟いた。


「つか、ここどこだよ」


「しらないわよ」


「きいたわけじゃないんだが」


「あっそ」

「じゃあ喋らなきゃいいのに」


「……」


2人は全くの初対面である。


ここはどこなのだろうか?


ハニカム柄の黄色い床。

レンガ色の壁。

灰色の天井。

それがずっと続いている長い廊下。

それぞれ1人で歩き続け、ようやく出くわした他人であった。


どうやってここに来たのか?

2人とも実は電車に乗っていた。

そしていつものように、いつもどおりに駅のホームに降り立ったはずだったのだが。


気がつけばいつもの駅とは、全く別の駅……

いや駅というよりは廊下のような場所だったのだ。


カナのほうは、しばらく次の電車が来ないか待ってみたり

キョウスケのほうは駅員を探したりしたが意味が無かった。

そうして仕方なく歩いて出口を探しているところである。


「じゃ、あたし行かなきゃ」

「早く帰りたいし」


「は?待て待て」


「なに?」


カナは、いらついたように返事をした。


「行くってどこにいくんだよ」


「とにかく、ここから出たいのよ」

「さっきも言ったけど、きっと駅の施設にでも迷い込んだんだわ」


キョウスケは、また難しい顔をした。


「俺の来たほうに行くのか?そっち行っても無駄だと思うぞ」

「駅員でもいないかと思って、うろうろしたが何も無かったからな」


「……信用出来ない」

「なんか見落としてるんじゃないの」


「……」

「そうか勝手にしろ」


そう言うとキョウスケは残りのクッキーを口に放り込んだ。


カナはキョウスケの来たほうへと歩きだし、キョウスケもカナの来たほうへと歩き始めた。






2人は別々の方向へと歩いていった。

約1時間ほど経った頃だろうか。



「……!?」



どういうわけか、また出くわしてしまった。

初めて会った時と同じように。


「なんなのよ!」

「またあんたか」


2人は顔を見合わせて、ここからもう出られないのではないかという

恐怖心を抑えつつ同時に喋った。


「誰かに会わなかった?」

「誰かに会ってないか?」


答えを言うまでもなく落胆するしかなかった。


もうこいつ以外に誰にも会えないのだろうか?

家族は?友達は?恋人は?


カナは目に涙をためていた。

キョウスケはそれに気がつくと無意識に目をそらした。


「どうしようもないな」

「泣いて解決するわけじゃないと思うぞ」


「うるさい!」


カナは思いっきりキョウスケを睨みつけた。


「う……」

「チョコレート、食うかい」


そうしてキョウスケは、チョコチップクッキーを差し出すのだった。

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