ストラップ
「みんな、だらしないわねぇ~?
私が起きてたら、あんな女、ぺペンのペーよ!」
一行が、死の予言者エンゼルクリームから受けた傷を、大地の僧侶ハルナの治癒魔法で回復した後、炎のアイドルウサは言ってのけたのでした。
「そりゃあ~すまんな。うぃ~っく。」
まるで相手にした様子も無く、酒臭い息を吐くS戦士ブラックサンダー(以下BS)。そこにハルナが噛み付きます。
「こら~、大怪我から回復したばかりで何やってんのよ、あんたは!?」
「いや、お前の治癒魔法長いからさ、
当然飲んでもいい物だと思ってよぉ。マズかったかぁ~、ヒック!」
「きちゃま、ぬぅわ~にぃが当然じゃ…」
「ふっ、今年のボジョレーはいまいちかな?」
「いやいや、なかなかの物でござるぞ。」
BSを叱責しようとしたハルナの前で、ワインを飲みながら講評を垂れるエメラルド王子とサイ人の将軍サイダー。こいつら相手に魔力が切れるまで治癒魔法を掛け続けたりするんじゃなかった、と思わなくもないハルナでした。
しかしそんなほのぼのとした空気も、首の傷が癒えた占い師アスニアが、全方位からゾンビの大群が押し寄せて来る事を警告した事で一転します。それは100万体規模の大軍団で、中には巨大モンスターを作っていた事で有名な古代の魔術師アトラスのアトラス・ゾンビ(体長50m)まで数体含まれているとの事でした。既にプラム城を中心に大きく囲まれており、約3時間程で接触される状態にあります。間違いなく魔王テスが全土から呼び集めたものでしょう。
ここでアスニアが自身を残して他のメンバは地下世界に突入、彼女は地下世界の扉の上で結界を張って追手を抑える事を提案します。いくら結界がゾンビの侵入を拒むとはいえ、あまりの数の多さに不安を拭い切れないハルナ。
「…相手の状況が分からないから…不安になるものです。
これを持って行って…下さい。」
「何だコレは。
玉の付いたストラップ?」
アスニアの差し出した物を受け取り、訝しむハルナ。しかしその玉は、
びろん
と開くと、ワキワキと無数の足を蠢かします。そしてアスニアがしゃべるのと同時に、同じ声がそれからも聞こえるのでした。
「「ダイオウグソクムシです。」」 アスニア・ダイオウグソクムシストラップ
「ぎぃやああああゃ~~~~~~!???」
絶叫するハルナ。
「…正確にはトランシーバーですが。
これでお互いの状況を…通信できます。
人数分あるので、それぞれ持って行って下さい…です。」
そう言って、一人ひとりに手渡していくアスニア。
「ねぇ、何で最初に私に見せたの?渡したの?
ひょっとして、軽いイジメ?ねえったら、ねえ?」 ハルナ
プラム城まで戻り、エンゼルの鍵で地下世界への扉を開ける一行。
「…いいですか。私は恐らく…1週間はここを抑えられます。
相手は魔王の本拠地、くれぐれも一気呵成に突進するのではなく、
途中適宜回復を図りながら慎重に攻略する…ですよ。」
「あい分かった。いざ、参るぜよ。」
アスニアの言葉に、気合い十分に応えたサイダー。しかし一歩踏み出した時、後ろにいるエメラルドに向き直って何やら突入前のキスだかを交わしていたウサが振り返り、
「あっ、クーちゃんそこ踏んじゃダメ。」
と言います。
「クーちゃん、ちゃうわ~~~あ
ぁ~~~ぁ、というか言うのが遅いぃ~~~
…………」
サイダーは足元に開いた落とし穴に落ちて行くのでした。
「なに勝手に踏み出してるのよ?」 ウサ
「…。」 ハルナ
「…大丈夫…ですか?」
ストラップに呼び掛けるアスニア。しばらくして、
「だい…じょう…ぶ…でござる。」
とサイダーが答えます。アスニアがダイオウグソクムシの目から光を出させると、その中には現在位置からサイダーまでの落とし穴の構造がホログラムで映し出されるのでした。
「…どうやらサイダー将軍は、第10層まで落ちてしまったよう…です。
これでは…引き上げるのは無理です…ね。
このストラップには…オートマッピング機能と
…3D表示機能が付いていますから、
これを参考に合流して下さい…です。」 アスニア
「やった~~~、すご~~~く便利じゃない!
じゃ、あのドン臭いクーちゃんと合流する為にも、
ぱぱっと行きますかぁ~。」 ウサ
「こら~~~、聞こえてるぞぉ~~~。」 サイダー
「ダイオウグソクムシはイヤ…(ぼそ)」 ハルナ
お読み頂きありがとうございます。
よろしければ評価を押していただければ幸いです。
おかしな文章もご指摘、大募集中です。