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北東寺榛名と奇妙な世界  作者: 石表
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死の王と天使

 第五騎士ダブルチョコレートを倒した大地の僧侶ハルナ達は、再会した炎のアイドルウサ達と互いの情報を交換していきます。


「我ら大沼の魔王軍によって、プラムの亡霊どもはほとんど駆逐されたでござる。」 サイダー将軍


「あんたらだけじゃないよ!

 このニュルンベルガー地方には、強い人間もけっこ~いてさ。

 わたし達の知らない所でもけっこー戦ってみたい。

 でも、特に強力な亡霊達の足取りが掴めなくてさ…。」


ウサがそう言いかけた時でした。ローブを目深に被った女性が、森から姿を現しながら告げるのでした。


「残るプラムの亡霊達は、プラム王城の地下に潜んでいるのです。

 いえ、………………最初からそこが彼の拠点でした。

 この騒動の本当の源………………魔王テスの。」


「お前は、占い師アスニア?」 ハルナ




  これは2千年前のお話です。お話の舞台のある村に、美男美女の夫婦と4人の美しい娘達が暮らしていました。そして5人目の子を宿した時、妻はうっかりある 事を忘れてしまいました。それはこの辺りの風習で、生まれてくる子に悪魔が近寄らない様に、尖った葉の付いた枝を戸口に飾る事でした。気付いた夫が妻に指 摘すると、少しばかりプライドの高い妻は自分のミスを認めるのが嫌で、こんな風に言い返しました。


「例え地界の王テスだって、私の美しさを見れば骨抜きになって、悪さをしようなんて思わないわ。」


 しかし、この言い訳は魔王テスの耳届いていました。


  しばらくして生まれた娘は、とても醜く、夫も姉達もこの子を嫌いました。特に妻はこの子を直視できず、ずっと顔を背けていたので、この子は母親の顔をちゃ んと見た事はありませんでした。この村の他の娘達は、姉達を妬んでいましたが、男の子達が姉達の肩を持つので手出し出来ませんでした。でも、一番下の子だ けは、醜く誰にも顧みられることが無かったので、時々石をぶつける様になりました。男の子達は最初、姉達に遠慮して妹いじめる事はありませんでしたが、姉 達が妹を嫌っているのに気付くと、石をぶつけたりして遊ぶようになりました。この娘は何時も血だらけになって泣き腫らして家に帰って来ましたが、取り合う 者はいません。時にはわざと家から閉め出す事すらありました。

 それから少しして、この醜い娘を追い回す男の子達が怪我をするようになりました。 決して娘が反撃した訳ではなく、自分で転んだりして出来た怪我ですが、男の子達は余計に娘が憎くなり、執拗にいじめました。そんなある日、この娘を追い回 していた男の子の一人が死にました。倒れている古木の鋭い枝に胸を刺され、背中から心臓が飛び出したのです。

 娘は急いで家に帰って隠れましたが、しばらくして男の子の父親がやって来ました。夫婦は男の子の父親の前に、醜い娘を引っ張り出します。


「この化け物め。一体、何て事をしてくれたんだ。」


  夫がそう怒鳴ると、妻は台所の包丁に手を伸ばしました。この時、娘が考えた事は、妻の足元の敷物が滑りやすい事、そして妻の手の先には沢山の包丁が刺さっ たラックある事でした。娘の頭には、自分が突然奇声を発すると、妻が足を滑らせ包丁のラックをひっくり返し、そして包丁が倒れた妻の顔に降り注ぐイメージ が浮かびました。そして事実そうなりました。その場の皆が悲鳴を上げた時、娘は逃げ出しました。ついに娘は母の顔を見る事はありませんでした。



  娘が森へ逃げて行くと、後ろから人々の怒声が上がり、追い駆けて来る気配がありました。逃げる娘が小川の畔まで来ると、黒衣の男と出会います。その男は黒 い長い髪を持ち、顔は美しい造形ですが肌は死人の様に真っ白です。瞳の赤い妖しい男でしたが、娘は構わず自分の醜さに嘆き、これまでの人生の過酷さを訴え て泣いたのでした。すると男は何でもない様に娘の顔を上げさせると、キスをしました。娘が何気なく小川を見ると、そこにはとても美しい娘が映っていたので す。男は消えました。

 しばしぼうっとした娘は、父親の声に驚き、来た道を振り返ります。父親が鬼様な形相で彼女を追って来たのでした。その時、 娘は木の上に止まっている目の赤い3匹のミミズクに気付き、そして小川の横の泥溜まりを見ました。娘の頭にはどんなイメージが浮かんだのでしょう。娘は泥 溜まりの後ろに回り込みました。娘の前まで来た父親は、ぞっとして大声を出します。


「この妖怪め、(妻の)顔を盗んだな!」


「わたし、何も盗んでない!」


  怒りに駆られた父親が、娘に一歩一歩と近づくと、娘は突然奇声を発します。驚いた父親は足を滑らせて泥溜まりに落ち、ずるずると沈んで行って下半身がすっ かり嵌って動けなくなりました。すると、ミミズク達が飛んできて父親の目玉を啄み、そして父親を食べ始めました。泣き崩れる娘の前に、先程の黒衣の男が現 れ、愛していると呟くと、一瞬のうちに娘を大きな街にほど近い、森の縁まで連れて行きました。男は二千年したら迎えに来ると言って煙と共に消えました。


  美しくなった娘は最初街へと足を運びましたが、不潔な無法者、酔漢に追いかけられ、また森へと逃げ出しました。酔漢は死にました。この森は、距離感を狂わ せるねじ曲がった鋭い枝を持つ木や、意識を薄れさせる胞子を撒く茸、底なし沼や危険な動物でいっぱいだったのです。娘は森に住みましたが、時々人恋しく なって街を覗きに行きました。でも、いつも誰か死すべき定めの者を森へと連れて行く結果となりました。娘の噂は街へと広まり、"泣き女の霊"、"鬼 婆"、"泣き叫ぶ天使エンジェル・スクリーム"と言われました。二千年の間、ずっと娘に関わる者は死んで行きました。娘は自分を不吉な未来を見る予 知者なのだと思い込みました。でも、娘は魔法使いでも予知者でもありませんでした。娘はたった一つの才能、危険を見分ける能力に長けていただけなのです。 だから、危険だけが彼女を守る味方であり、いつも危険の近くに逃げ込んだのです。



 二千年すると男が迎えに来ました。男が娘の名前を聞くと、娘はもう自分の名前も覚えていませんでした。ただ、沢山の恐ろしい名前で呼ばれていたのです。


「おまえにはもっと可愛い名前をあげよう。

 そうだエンゼルクリーム。それがお前の名前だ。」


男はまた一瞬で娘を古びた城へと連れて行きました。


「これがあなたの家なの?」


「いいや、わたしの家はこの下さ。

 この城はおまえにやろう。滅多に人が訪れる事も無いから安心しなさい。

 そして私の家の鍵もやろう。でも、誰にも渡してはいけないよ。」


 そうして男は娘が二千年の間に貯めた死者達の魂を源に、今度は本当に彼女の予知が実現する力を与えました。




「ふふふっ。来るか天空の魔女、そしてマイティーぱるる。

 だが、私の天使エンジェルは手強いぞ。」 魔王テス

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