魔導士と貴婦人9
「兄上ーっ!」
暗殺者の首を刎ねると、セロリー伯を抱き起こす騎士ジョナゴールド。ナイフには毒が塗られており、大地の僧侶ハルナも助ける事はできませんでした。
「殺す事にも、守る事にも疲れた。」 セロリー伯
この砦は山賊の物ではなく、彼が隣国からの襲撃に備えて造った物であり、密輸で得た金も砦と傭兵の維持に使われていました。
「先祖から受け継いだこの地を守る責務は、お前に任せる。
それと、お前がアセロラを愛していた事は知っていた。」 セロリー伯
「私は姉上だけでなく、兄上の事も愛していたのです。」 ジョナゴールド
「ゲロゲロ………。
ホモーッですか!?」 紅い腕輪の踊り子ウサ
笑うセロリー伯。
「彼女を国に返すかどうかもお前次第だ。
アセロラ。俺に遭ってしまったのが、お前の運の尽きだな。
だが、その俺ももういなくなる。」
アセロラがこの地に連れて来られる前、ブルーベリーに潜入したセロリー伯は、彼女を一目見て愛してしまったのです。その後、密輸商人に攫われてきた彼女を 丘の上の館に住まわせました。故国の人間の殺戮者として恐れられ、憎まれ、言葉すら交わす事が無いとしても、彼女の傍にいる事だけが、弱小領地を守るとい う重い責務を負った彼の唯一の望みでした。
「そんな…。」
今際の際の独白にもセロリー伯夫人アセロラは涙を流す事もなく、表情一つ変えることなく、ただ一言そう漏らしただけでした。そして息を引き取るセロリー伯。
「参ったな。この後、どーすりゃいいんだ?」
大柄な傭兵隊長の言葉に、不意に砦に子供がいないか問うアセロラ。夫人の言葉でブロッコリー伯の息子は砦から連れ出されます。その時、急に周囲が薄暗くなり、黒い霧か煙の様なものが集まって来ました。
「…やっと見つけたわ。」
黒い霧が晴れ、現れる一人の女性。
「ぶはははははっ、あの人初対面だケド誰だか分かるーっ。
あの白いこんもりした髪型!
絶対カリフラワー女子爵だ!」 ウサ
「…この魔力。キケンです。」 青の魔導士アスハ
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