魔導士と貴婦人8
「こんな事をしてる場合では、無いのでなくて☆」 黒猫の騎士サクラ
「チッ。
…降りろ。」 セロリー伯
「え? あ? う~…。」
迷いながらも伯の肩から短剣を抜き、よじよじと背から降りる紅い腕輪の踊り子ウサ。砦へと戻るセロリー伯。
砦の手勢は十数人、これに対して敵の兵力は半数が農奴とはいえ50以上。しかし伯の魔法によって形勢は逆転し、農奴兵は壊滅、本体は敗走しました。
再び砦からアスハ達の処へ戻ってくるセロリー伯。そのとき傍らの森から黒ずくめの男が飛び出し、背後から伯に襲いかかります。
「………………………“岩の槍”」 セロリー伯
振り返ることなく発した魔法で、男の足元から岩で出来た鋭く長い棘が突き出し貫きます。
「ブルーベリーめ、下らんな。
さてお前達の処分をどうするか。」 セロリー伯
ウサがふと見ると、男は懐から何か箱の様な物を出そうとする姿勢で固まっています。
「アレは、何かな?」
好奇心にかられたウサが近寄って手を伸ばすと、手が触れるか触れないかの内に箱が落ち、蓋が開きました。
この場でウサ以外気付く者はいませんでしたが、中からボロボロのローブをまとった骸骨の様な、青白い霧か煙の様なものが出て来ました。それはゾクリという悪寒と共にウサの体をすり抜けると、伯の横にいた若い兵士を掴みます。
「伯爵さま。砦の被害ジョウキョぉおぉぉぉ…。」
干からびる兵士。死霊は驚く伯にも爪を伸ばします。
「くぉ………、“炎の竜”」
しかし何も起きません。
「…“魂吸引”。
力を奪われ、弱い者なら即死します。
伯も、高位魔法は使えなくなったのでしょう。」 アスハ
「ならば、
……………“力の炎”、“加速の炎”、そして“炎の斧”」
セロリー伯は手元に現れた炎の斧で、死霊を十字に切り裂き消滅させます。その時、死んだと思われていた暗殺者の手から針の様な短剣が放たれ、伯の胸に突き刺さったのです。
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