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北東寺榛名と奇妙な世界  作者: 石表
24/81

24 魔導士と貴婦人4

「…………………………“小さな稲妻”。」


 アスハの指先から発した稲妻がトロルの肩口に当たると、皮膚が黒く焼け焦げます。その傷跡は消える事はありませんでした。


「どうやら魔法か火で付けた傷なら再生できない様ですね。

 もっともあの巨体を焼き尽くすほどの魔力はありませんし…。」 アスハ


「松明か魔法を帯びた武器で切りつけるにしても、

 近付いて持久戦に持ち込むのはキケンだな。」 ハルナ


「あの棍棒が当たったら即死ですゎね☆」 サクラ


「そうだ!

 みんな馬車に乗って。」 ウサ



「撤退か。

 やむを得ない気もするが。」 ハルナ


 来た道を戻って森へ入る馬車。剣で切られ、魔法で焼かれて怒り心頭のトロルは執念深く追って来ます。少し引き離した所で馬車を隠す一行。そしてウサが一人でトロルの前へ。挑発しながら森の中の池へと誘導するウサ。水面から突き出た岩を器用に渡りながら、池の中心へと向かいます。ウサを追いながらも、池を迂回しようとするトロル。これを引き寄せようとするウサ。しびれを切らしたトロルは、次第に池の中へと足を踏み込みます。やがて腰まで池に浸かり…。


「チャ~ンス♪」


たんたんたん


 ウサが池の中心で踊り始めると、狂乱のトロルも不格好な踊りを始めます。そして時折足を滑らせながら、池の深みへと近付いて行くトロル。ついに転ぶと、そのまま浮き上がれずに水中で踊り続けます。


「…傷は再生できても、酸素は作れませんね。」 アスハ


「でも、水の中でも音は聞こえるのかしら?」 サクラ


「いや誤解されているが、

 実際には水中の方が音は良く伝わる。

 うーちゃんは足元の岩を踏み鳴らす事で直接、

 水を振動させているのだ。」 ハルナ



「ふふんっ。どうやら私の華麗なステップに、

 付いて来られなかったようね♪」


 ついに水面が静かになると、ウサは踊りを止めて池の縁へと戻ります。


ぶくぶくぶく………


ぶくぶくぶく………






7年前。


「アセロラ、ここから逃げるんだ。

 私が国へ帰してやる。」 ジョナゴールド


「いいえ。そんな事をしたら貴方と言えども無事では済まされないでしょう。

 それに私が戻れば、ここと私の国とでまた争いが始まります。

 私さえここにいれば…。」 アセロラ


「それでは貴女があまりに哀れだ。

 兄上には私から話す。大丈夫だ。」 ジョナゴールド


「いいえ、あの方は…。

 私は大丈夫です。食べる物にも着る物にも困っていませんし、

 塔に登れば故郷を見る事も出来ます。」 アセロラ






………………ぶく


あんぎゃ~~~。


口から水を吐き出しながら、ウサを追おうとするトロル。


「ウサさん、跳んで!」 アスハ


「えっ、えっ!?

 ぴょ~~~ん。」 ウサ


「…………………………“瞬間高電圧”。」 アスハ


バチ


 ウサが池から跳び上がった瞬間、トロルの頭の周りで火花が散ります。ビクリとした後、動きを止めて再び水沈していくトロル。



「倒したんですの?」 サクラ


「いえ、電圧こそ約300万ボルトですが、電流は僅か数ミリアンペア程度。

 殺傷能力はほとんどなく、動きを止める程度です。」 アスハ


「つまりスタンガン。

 もっとも水中で気を失えば…。」 ハルナ


ぶくぶくぶく………


ぶくぶくぶく………






「夫婦とはいえ、所詮かりそめ。

 あの方は年に数度、私が生きているか見に来る事はあっても、

 言葉を交わす事もない。」 アセロラ






………………ざば


あんぎゃ~~~


再び水が割れ、トロルが水から出ようと暴れます。


「いい加減に落ちなさぁ~~~い☆」 サクラ



 サクラが持ち出したそれは、基本的に十字に弓を張ったボーガンですが、矢は矢尻もない直径約15cm、長さ2m近い木の棒です。発射機自体も重く、2mを超える大きさがあります。


「あれは、まだ試作段階の!?

 強度も不十分で、反動を逃がせないからキケンよ!」 ウサ


 銃床を岩に当て、両足を突っ張って右腕で抱えると、左手をトリガーへと伸ばすサクラ。


「ターゲット、ロックオン。」 サクラ


「…決定打となる確率0.1%。でも、貴女なら…。」 アスハ



「ファイヤ~~~☆」 サクラ


びん ばらん しゅ~~~ん ごっ


 発射と共に分解するボーガン。しかし矢は真っ直ぐに飛んで行き、トロルの額を正面から打ち付けます。仰向けに倒れて行くトロル。三度水中へと沈んでいきます。そして、ついに文字通り撃沈。


「ばよえ~ん♪」 サクラ


「緑の生き物というものは、泳ぎが苦手みたいね!(ビシ!)」 ウサ






この世界の別の場所。


「…ぶくぶくぶく。

 ぶはぁ~っ、…ハァハァ。

 危なく自宅のお風呂で溺れるトコだったよ。」 カパタロウ

お読み頂きありがとうございます。

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