24 魔導士と貴婦人4
「…………………………“小さな稲妻”。」
アスハの指先から発した稲妻がトロルの肩口に当たると、皮膚が黒く焼け焦げます。その傷跡は消える事はありませんでした。
「どうやら魔法か火で付けた傷なら再生できない様ですね。
もっともあの巨体を焼き尽くすほどの魔力はありませんし…。」 アスハ
「松明か魔法を帯びた武器で切りつけるにしても、
近付いて持久戦に持ち込むのはキケンだな。」 ハルナ
「あの棍棒が当たったら即死ですゎね☆」 サクラ
「そうだ!
みんな馬車に乗って。」 ウサ
「撤退か。
やむを得ない気もするが。」 ハルナ
来た道を戻って森へ入る馬車。剣で切られ、魔法で焼かれて怒り心頭のトロルは執念深く追って来ます。少し引き離した所で馬車を隠す一行。そしてウサが一人でトロルの前へ。挑発しながら森の中の池へと誘導するウサ。水面から突き出た岩を器用に渡りながら、池の中心へと向かいます。ウサを追いながらも、池を迂回しようとするトロル。これを引き寄せようとするウサ。しびれを切らしたトロルは、次第に池の中へと足を踏み込みます。やがて腰まで池に浸かり…。
「チャ~ンス♪」
たんたんたん
ウサが池の中心で踊り始めると、狂乱のトロルも不格好な踊りを始めます。そして時折足を滑らせながら、池の深みへと近付いて行くトロル。ついに転ぶと、そのまま浮き上がれずに水中で踊り続けます。
「…傷は再生できても、酸素は作れませんね。」 アスハ
「でも、水の中でも音は聞こえるのかしら?」 サクラ
「いや誤解されているが、
実際には水中の方が音は良く伝わる。
うーちゃんは足元の岩を踏み鳴らす事で直接、
水を振動させているのだ。」 ハルナ
「ふふんっ。どうやら私の華麗なステップに、
付いて来られなかったようね♪」
ついに水面が静かになると、ウサは踊りを止めて池の縁へと戻ります。
ぶくぶくぶく………
ぶくぶくぶく………
7年前。
「アセロラ、ここから逃げるんだ。
私が国へ帰してやる。」 ジョナゴールド
「いいえ。そんな事をしたら貴方と言えども無事では済まされないでしょう。
それに私が戻れば、ここと私の国とでまた争いが始まります。
私さえここにいれば…。」 アセロラ
「それでは貴女があまりに哀れだ。
兄上には私から話す。大丈夫だ。」 ジョナゴールド
「いいえ、あの方は…。
私は大丈夫です。食べる物にも着る物にも困っていませんし、
塔に登れば故郷を見る事も出来ます。」 アセロラ
………………ぶく
あんぎゃ~~~。
口から水を吐き出しながら、ウサを追おうとするトロル。
「ウサさん、跳んで!」 アスハ
「えっ、えっ!?
ぴょ~~~ん。」 ウサ
「…………………………“瞬間高電圧”。」 アスハ
バチ
ウサが池から跳び上がった瞬間、トロルの頭の周りで火花が散ります。ビクリとした後、動きを止めて再び水沈していくトロル。
「倒したんですの?」 サクラ
「いえ、電圧こそ約300万ボルトですが、電流は僅か数ミリアンペア程度。
殺傷能力はほとんどなく、動きを止める程度です。」 アスハ
「つまりスタンガン。
もっとも水中で気を失えば…。」 ハルナ
ぶくぶくぶく………
ぶくぶくぶく………
「夫婦とはいえ、所詮かりそめ。
あの方は年に数度、私が生きているか見に来る事はあっても、
言葉を交わす事もない。」 アセロラ
………………ざば
あんぎゃ~~~
再び水が割れ、トロルが水から出ようと暴れます。
「いい加減に落ちなさぁ~~~い☆」 サクラ
サクラが持ち出したそれは、基本的に十字に弓を張ったボーガンですが、矢は矢尻もない直径約15cm、長さ2m近い木の棒です。発射機自体も重く、2mを超える大きさがあります。
「あれは、まだ試作段階の!?
強度も不十分で、反動を逃がせないからキケンよ!」 ウサ
銃床を岩に当て、両足を突っ張って右腕で抱えると、左手をトリガーへと伸ばすサクラ。
「ターゲット、ロックオン。」 サクラ
「…決定打となる確率0.1%。でも、貴女なら…。」 アスハ
「ファイヤ~~~☆」 サクラ
びん ばらん しゅ~~~ん ごっ
発射と共に分解するボーガン。しかし矢は真っ直ぐに飛んで行き、トロルの額を正面から打ち付けます。仰向けに倒れて行くトロル。三度水中へと沈んでいきます。そして、ついに文字通り撃沈。
「ばよえ~ん♪」 サクラ
「緑の生き物というものは、泳ぎが苦手みたいね!(ビシ!)」 ウサ
この世界の別の場所。
「…ぶくぶくぶく。
ぶはぁ~っ、…ハァハァ。
危なく自宅のお風呂で溺れるトコだったよ。」 カパタロウ
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