18 幽霊の森1
サブタイトル変更しました。
前日。カリフラワー女子爵の館に程近い村の酒場。
「女子爵は昔は優しい人だったが、
息子が死んでから黒魔術に手を染めるようになってね…。
館の周りもすっかり幽霊の棲みかさ。」 酒場の親父
アスハの手元でゆっくりと揺れるランプ。そろりそろり、とアスハに左手を引かれながら昼なお暗い森の中を進むハルナ。右手で印を結びながら、 ぶつぶつと呟き、その瞳はこの世の景色を映してはいません。先頭のウサの松明がぼうぉっと辺りのネジくれた木々と、その周囲を浮遊する者達を照らし出します。腰に剣を下げ、槍を手に最後尾を歩くサクラ(←松明は髪に臭いが付くので持たない主義)。
ぶふぉ、ぶふぉ。
幽霊に取り囲まれながら進む4人の前に現れたのは、体長5m近い、狂ったような赤い目をした大きな猪でした。幽霊には猪は見えず、猪に幽霊は見えない様でした。
3時間程前。森の前で。
「今から私が幽霊や精霊を近付けない結界を張る。
だが、3つの条件があるから覚えておいてくれ。」 ハルナ
1.術者の集中が乱されると結界は破れる。
2.結界の内側の者が、外側の者を攻撃すると結界は破れる。
3.一人の術者の結界が同じ相手を退けられるのは1日1回(破れるまで)のみ。
「…突っ込んできますね。」 アスハ
「はーちゃんに当たったら結界がヤバイじゃん。」 ウサ
「当たった時点で、命も危ないです。」 アスハ
「結界の端に誘き出して下さいませ、ウサさま♪」 サクラ
「ええっ、私が囮!?
っていうかそんな槍で、あの大きな猪に刺さるの!?」 ウサ
「うふっ☆
私の細腕ではどのみち傷付けられそうにありませんゎ。
ですから柄を足元の岩に当てて、
猪自身の力を使わせて頂きますのぉ♪」 サクラ
「…………………………硬化。」
槍に触れ、魔力でコーティングするアスハ。
「これで少しはマシになったハズですよ。
サクラさん、チャンスは一度きり。
失敗すれば誰か、もしくは全員が死にます。いいですね?」
「おまかせアレ☆」
ひらひらと舞う、ウサ。その後ろで槍を構えるサクラ。ウサが突進してくる猪をかわすと、槍がその額を突きます。しかし、突き刺さらずに額と、岩との間でグニャリとしなる槍。
「えいっ☆」
一瞬の間も置かず湾曲した槍の腹に両手を掛けて、全身の体重を掛けるサクラ。
ずぶっ。
穂先が骨を突き抜けると、たわんだ槍が一気に伸び広がり、体の芯を貫かれた猪がどうと倒れます。
「あてっ。」
倒れた猪に足元を取られ、転ぶウサ。転んだウサに、どん、とぶつかられるハルナ。
前日の酒場。
「でも、幽霊に触ってもすり抜けるんでしょ。
じゃあ、何も害はないハズじゃない。」 ウサ
「いやいや、
幽霊の方は人間を掴んで、頭からバリバリと食べるのさ。」 酒場の親父
「うっっ!?しまった!」 ハルナ
破れた結界に気付き、集まってくる幽霊達。
「きゃぁ~~~っ。」 サクラ
「あ゛ぁ゛~~~っ、みんなごめ~ん。」 ウサ
3時間前。
「似たような結界なら私も張れますよ。」 アスハ
「そうか。では、行きは治癒の魔法もそれ程必要ないだろうから、
私が張ろう。代わりに帰りを頼む。」 ハルナ
「…………………………対霊結界。」
こうして館の前に辿りつくハルナ達。
「痛いよぉ~~~。降ろしてくれぇ~~~。痛いよぉ~~~。」
その門の上には、すすり泣く一人の男が吊り下げられていました。その服はボロボロに破れ、その下には酷い傷が覗きます。その男はどう考えても死んでいるのです。
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