瑛太
あたしが入学した高校はとくに頭が良いわけでもなく
何か特徴があるわけでもなく有名人の母校とか
そんなんでもなくて簡単に言ったら普通のほんとに普通の学校。
誇れるトコなんかないけどここの高校に入った理由も
お姉ちゃんが居たからだけど,ここが大好きだった。
そして私はここで、人生で何よりも大切な思い出をつくることになる。
神崎琴音16歳。ピンチです。
「やばい、やばいよ・・・。」
入学式に迷うなんてベタな展開だけどまさかほんとに迷うなんて。
ここどこ・・・?辺りには見覚えのない風景が並んでる。
ちょっとはりきって早めに出たのがまだ良かったけど
このままじゃ完全に遅刻。
おねえちゃんについてきて何で迷ったんだろう。
「もうやだっ!」
へなへなとその場に座り込んだあたしの周りに無情にも桜が散る。
溢れてきそうな涙を新品の制服の袖で拭いた。
こんなとこで泣いてなんか居られない。
ふと足音が聞こえてきてそれがどんどんあたしに近づいてきて
気づいたら座り込んだあたしの上に誰かの影がおちていた。
ゆっくり顔を上げると男の人が目の前に立ってる。
あたしと同じ学校の制服。
「っあの・・・」
私が何か言う前に男の人はあたしの腕をものすごい力でひっぱってたたせてくれた。
頭に乗ってる桜の花びらもポンポンと払い落としてくれた。
そこからも何も言わず私の腕をひぱって歩いてく。
この人誰・・・?
一分もしないうちに私たちは学校の門の前に立っていた。
お姉ちゃんを見つけて駆け寄っていく。
「あーっ!もーどこいってたの!?」
「ごめんっ!!」
手を合わせて謝る。
「心配したんだからっ!どうやってここまで来たの?」
完全にお姉ちゃんに呆れられてる。
「えっとね・・あ、あの人!あの人がここまで連れてきてくれたの!」
気づいたら遠くに居てちっちゃくなった男の人を指さす。
「あ、瑛太じゃん」
「・・・芸能人の?」
「違うよっ!早瀬瑛太。知らない?」
「しらなーい。お姉ちゃん知り合い?」
「野球部の2年。琴音の一つ先輩だね?」
お姉ちゃんは野球部のマネージャー。3年だから今年で引退だけど。
あ!お礼言ってない!!ってか何で私のことここまで連れてきてくれたんだろ?
お姉ちゃんの妹だから?ん、でも何で私が妹って分かったんだろ。
ま、いいや。今度会ったら聞いてみよ。
・・・それにしてもちょっと格好良かったかな。
瑛太。初めて会ったときは桜の中だったね。
私、今でもあの時のこと覚えてるよ?