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推しが押してくる

推しが押してくる ━番外編3 ━ HONEY LOVE

作者: 神尾瀬 紫

はじめましてさんも二度目以上ましてさんもこんにちは。

またもや本編ではなく短編の投稿です。

叶多と紫づ花の激甘です。

蜂蜜です。ベタベタに甘い、ということで。

1度で虫歯になりそうな糖分をぜひドウゾ。


 目を開けてしばらく状況を飲み込む。

 いつもと違う天井。ライト。カーテン。

 その生活感のない光景で、すぐにホテルだということを思い出した。

 同時に気付く傍らの温もり。

 静かな寝息が、俺の覚醒を促す。

 仰向けで右腕を真横に伸ばした格好は、肩が固まり戻すのに痛みが走る。しかしカノジョがその脇の下で丸まるように寝ているため、起こさないようにそっと腕を抱え込んだ。


 昨日はライブだった。

 関東の会場からなら自宅に帰ろうと思えば帰ることは出来るが、気持ちよく歌って打ち上げで盛り上がってさっさと帰宅するのは何かもったいない。

 だから会場の近くのホテルを取っていることは多かった。

 けれど今回は特別だ。

 紫づ花は関東の外に家がある。だから新幹線でライブに来るのだが、終電がローカル線より早くなくなってしまう。そのためいつもホテルを利用していた。

 もちろんそれを知って独りで泊まらせるわけない。

 ゆっくり寝返りをうつ。

 彼女の方に体を向けて閉じられたまぶたを見つめる。

 奥二重なので普段はまぶたに隠されているまつげは意外と長い。

 用意周到な紫づ花は、チケットが取れたと同時にホテルも予約していたが、それをキャンセルさせて自分のホテルをダブルにしてもらった。

 恥ずかしがりやだから自分から近付いて来ることが出来ない。

 そう思うことにする。

 独りで寝たいとか思ってるなんて、思いたくない。

 きっと想像もできなかったんだ。一晩俺と過ごすなんて。

 そうやって自分を慰める。

 紫づ花が身じろぎして、眠そうな瞳が開かれる。

 ポヤッとした表情で俺を見上げ、微かに赤くなって再び下を向いてしまった。

 それでもすぐに見上げて笑顔を見せてくれて―。

 込み上げる愛しさに思わずぎゅっと抱きしめ、こめかみに唇を付けたまま『おはよう』と言ってみた。

 くすぐったそうに首を振りくぐもった声で返事をする。

 いつもと違うシャンプーの香りを胸一杯に吸い込んで、ようやく腕を離す。

「もうすぐルームサービス来るから、先にシャワー浴びておいで。」

「はい。」

 丁寧な返事は、まぁいつもと同じ。

 そしてすぐに背中を向けるのは、裸同然の姿を見られるのを嫌がるのを知っているから。

 どうせ全部見てるけど。

 でもそれは口にしない。

 背後でバタバタ用意してシャワールームの扉が閉まる音を聴いてから、ベッドに腰かける。

 壁越しのシャワーの音なんて、こんなにドキドキするものだったか。

 ああ、若い頃はそうだったかも。記憶が遠い。

 自分のうぶさに苦笑いする。

 紫づ花は15分ほどで出てきた。

 バスローブに、髪を後頭部に纏め上げているのが艶っぽい。

 うなじがいい。

 そんな風に見ていることに気付かない紫づ花が、すぐに髪を下ろしてしまった。

「・・・何?」

 振り返り首をかしげる。

「別に?」

 そう答えるのとチャイムが鳴るのは、ほぼ一緒だった。

 制服をきっちり着こなしたホテルマンがガラガラとワゴンを押して入ってくる。

 そして丁寧に頭を下げて出ていった。

「叶多さんは、コーヒー、砂糖一個、ミルク適量。」

 歌うような独り言をいいながら俺好みの味付けにしてくれる。

「紅茶、は、・・・いいか、ストレートで。」

 そして自分もついでに独りごちながら準備する。

 俺はシャワーを浴びるのは後回しにして椅子に座った。

 甲斐甲斐しく俺の前にサンドイッチとコーヒー、自分の前に紅茶とスコーンとイチゴジャムや蜂蜜のポット、そして一緒に頼んだフルーツを並べてくれる。

「サンキュー。いただきます。」

「いただきます。」

 一緒に言って、サンドイッチにかぶりつく。

 紫づ花はスコーンを一口分の大きさにちぎって、付いてきたイチゴジャムを付けて食べた。

『おいしい。』と相好を崩すところはやはり女の子だ。

 それを見て俺の相好も崩れてることだろう。誰も見ていないから気にしない。

 すると、その唇の端にジャムが残っていることに気が付いた。

 小さく舌を出して舐め取るが、取りきれていない。

 俺はつい、身を乗り出してその口許を舐めた。

 甘い。

 思わずじっくりあじわう。

「~~っ~~~!?」

 気がつけば真っ赤になった紫づ花が口を押さえていた。

 だから初めて触るわけでもないってのに。

 その姿がかわいすぎて、少しだけ苛めたくなった。

 イヤらしさを意識してあえて舌を出して唇を舐める。

 視線に意味を乗せる。

「すごく、甘いよ。」

 さぁ、紫づ花はどうするか。

 真っ赤になって隠れるか。もしかしたら枕を投げつけられるかも。

 どう反応するのか様子を見る。

 すると伏せていた真っ赤な顔を急に上げた。

 おもむろにスコーンに付いてきた蜂蜜のポットに指を突っ込む。

 それを投げられたら大変だぞ。

 とっさに身構える。

 紫づ花はその指を俺の左頬に塗りつけて―

「・・・ぇ・・・?」

 身を乗り出してペロリと舐めとった。

「ゴチソウサマ。」

 固まった俺の視界で赤い顔のまま上目遣いをしている。

 そんな事されたら・・・

 サレタラ・・・


 俺は自分を止められる自信がない。



 END

いかがでしたでしょうか。

自分が糖分要求していたせいでものすごく甘くなってしまいました。(笑)

このふたりはいつもこんな感じです。


それではまたいつかお目にかかれたら幸いです。

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