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〈第二話〉

「なぁ、兄貴。俺、夢でも見てるんかな」

「あぁ、それなら仲良いな僕たち。同じ夢を見てるってことになる」


 そんなボケを2人がかましてしまう程の非現実が目の前に広がっていた。

 見たことのあるファンタジーのような世界観。澄んだオレンジの空に太陽と欠けた月が空の大半を占め、また目の前には見たことのない黒の古城が高く聳え立ち、その存在を主張している。

 自分の手足を見てみると、これまた見覚えのある姿。MMOオンラインゲームでの自分キャラクターの姿になっているではないか。


「およよぉ〜、アース(じん)さっそく二匹げっとぉ!」


 2人が今の状況把握に辺りを見渡し、手や足、頭を動かしていると背後から桜色の中途半端な髪を緩く巻いて下ろした2人と同い年くらいの女の子が甘い口調で口を歪ませて、指を差し数えながら歩み寄ってきた。


「………。」


 ヒナは突如として現れた謎の女に口を開かまいとしている。

 そんな中、隣からどよ〜んとした重い空気が広がり、とても残念そうな声で言う、リアル兄の優もといナユタがしゃがみ込んで、口を開いた。


「はぁぁぁああ…ボインじゃないのかよ」

「いや、兄貴は巨乳派じゃねぇだろ。」


 すかさず、ヒナが兄の妙な芝居にツッコミをいれると、女の子は目が点になって自分の胸に目線を落としフッと笑う。


「ハハッ、一度言ってみたくてね」


 のんびりとした空調がファンタジーの世界観に上手く合わさり、そして立ち上がるナユタ。


「それで?どうして僕たちは、こんなところにこんな姿でいるわけ?」

「やぁ〜っと本題に入れるねぇ」

「早く言えよ」


 痺れを切らしたヒナが、イラつきを見せながら女の子に強い口調で言う。


「あははは〜こわぁい。」


 すると女の子は、口元に手を当てて嘲笑った。ヒナが歯をギリッとする音が聞こえて、ナユタが一歩前に足を踏み出すと女の子の口真似をし出す。


「ハハハッ、うざぁい?」

「…え?」


 ナユタが口真似をした刹那、女の子の首筋に皇帝の(つるぎ)が当てられた。

 女の子の顔が引き攣ったのがわかる。

 額から出てくる汗は頬を通って足元の土へ落ち、ゴクリと喉を鳴らす。

 辺りに緊張感が張り詰めると、ヒナやナユタの背後から(まばゆ)い光に晒された。眩い光と共に、次々とMMOオンラインゲームのレベル70以上のアバター達が召喚されて来たのである。

 次々とやって来たものは、周りの世界や自分の姿を即座に理解し、混乱の渦となってしまう。

 ある者は泣き叫び

 ある者はその場で座り込み、震え縮こまる。

 また、ある者は怒りに身を任せ同じ体験をしている者と喧嘩を始めてしまう。

 ナユタはその光景を目に映し飽き飽きとした溜息を零すと、ふと、先程の一瞬で女の子が逃げたことに気付いた。


「はぁ、僕たちだけじゃなかったんだね。そんで逃げられちゃった」


 重い溜息を小さく吐くと、辺りを見つめ皇帝の剣を(さや)に戻し、お茶目に舌をペロッと出すとヒナがガニ股で座り込んだ。


「なぁ、兄貴。俺らってここから、どうやって帰る?頼みの綱の女はどっか行っちまったしさ。ったく、俺らを呼んで逃げるならせめて帰してから逃げろよな」


 座ったままブツブツ言うヒナの言葉は正しい。


「確かに、この世界に呼び込んだ女の子はあの子かもしれなかったよな」


 そう思うと逃がしたことに後悔が生まれるナユタだが、帰る術はもうある。


「僕さ、あそこがゲートかなんかなんじゃないのかなって思うんだよね」


 くるりと後ろを向きヒナと同じように座ると、両頬を手のひらで支えながら、緋色の瞳に眩い光を放ったであろう黒い扉を映す。


「まて、兄貴。怪しすぎるだろ!」

「ちょっと指を入れるだけ〜」


 リアル弟の懸命な引き止めにも耳を貸さず、フラフラと黒い扉まで歩いて行くナユタ。


「兄貴!」


 ナユタが指を入れた次の瞬間、ナユタの(アバター)は黒い扉に飲み込まれた。

 それを黙って見守る弟ではないヒナは、黒い扉に飛び込む。


 ヒナの脳内がぐるぐると回り、黒い扉の中は暗黒の世界であった。兄の…ナユタの姿は見えない。

 ギュッと目を瞑り、黒い流れに流されるままヒナは眠りに落ちた。






「…う!しゅ…う!(しゅう)!」


 頭がガンガンする。耳元で誰かが呼んでいる。

 ガバッと起き上がると、秀の目には見慣れた簡素な部屋が目に入った。


「あの黒い扉はゲートであっていたな」


 隣でドヤ顔を見せるフードを被った眼鏡姿の兄が、椅子に片足を上げて座っていた。

 (ゆたか)はニヤニヤしながら自分の手を動かす。


「もう一回戻ろうかな、アバターでも僕自身が見る世界じゃPCとは比べものにならないほど綺麗な世界だったし」

「ちょ、兄貴!?」

「だってさ〜、あまりにも高性能すぎて僕あっちの世界で冒険してみたくなったんだもん。自分の体が思うように動かせるんだよ?歩いたり走ったりするだけじゃなく、指の一つ一つが思いのままに動かせて、髪さえも風が吹いたら靡いたんだ」


 まるで先ほどの世界が体感ゲームであったかのような心の弾みようで、向こう側の世界に行けた新しいダンジョンへ行くための道をクリックしようとする優。


「待てよ兄貴!危ないって!それにまた行けるかなんて保証はないんだぞ!次こそ帰れなくなるかもしれない!」

「秀…僕は三次元ではまともに体験できない異世界トリップというものをしたんだ。それか画面の中に入れた。危険を冒してでも僕はもう一度ゲートを通るよ!」


 いつになく爛々と光り輝く瞳に、ぐったりと疲れが出てきた秀は明日は仕事が詰まっている。なるべく危険ごとは避けたい…のだが


「分かったよ、俺も行く。でも、行くのはもうちょっと待ってくれ。そうだな、一週間後もう一度休みを貰えるようにする。それがダメならPCは母さんに没収してもらう」


 秀の没収という言葉に、むすーっと頬を膨らませる優だが、マウスを動かしてログアウトすることにより態度で示した。


「ありがとう、兄貴」



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