〈第一話〉
雲一つない鮮やかなオレンジ。
光輝く光量を発する太陽と左上が欠けている月。
太陽と月が両方出ている此処は、バーチャルリアリティー。3年前に作られたMMORPGオンラインゲーム〈The world of the phantom~幻の世界~〉略してファントムワールドと呼ばれている。
このファントムワールドは王道の冒険ファンタジーアドベンチャーで、自分のキャラの外見を1000種類以上あるパーツを組み合わせて理想のキャラになれるため年代の幅が広く、メイジ・剣士・回復などと言った職業がベースとなって、他にも様々な職業があり生活感のあるライフスタイルとしても楽しめることから莫大な支持を得ている。
また、レベル制MMOのため玄人好みの人達からも難易度の高いエリアがあり、エリアやレベルごとで買える武器や装備も異なるので、その武器や装備もレベルが高い…難易度の高いエリアほどカッコ良い武器や装備。可愛い武器や装備が手に入る。
スキルもまた同じ。
そんなファントムワールドを、発売された日から遊び今では玄人ともなって最強プレイヤーとも噂されたリアルネーム朝比奈 優。
キャラ名、〈ナユタ〉
ゲーム上での外見は金髪に緋色の眼、白い神父服の前を開け銀に金の模様がある剣(皇帝の剣)を腰に差すようなスタイルだ。
リアルでは…
「兄貴は絶対、黒髪黒目で黒尽くめの服にして、いかにも最強!っていうキャラメイクにするんだと思ってたのにな」
リアルネーム、朝比奈優の横で椅子を真逆に座り腕をついて少し残念そうに失望する溜息を見せるのは朝比奈優の双子の弟、朝比奈秀である。
「え、だって黒髪黒目で黒尽くめの服とかかっこいいと思うけど、それじゃあ新鮮味がないじゃないか。みんな考えること、思うことは同じなんだから僕はあえて金髪で白の服にするんだ」
音符が見えるような楽しげな雰囲気を垂れ流し、カチカチとキーボードを打つ。
「ふ〜っん。それにしても、見事にリアルとは正反対な外見だな」
弟の秀にむっとした顔を見せ、エンターキーを押すと被っていたフードを背に落とし、癖っ毛の黒髪をくしゃりと掴んで黒縁メガネを外す優。
「ゲームなんだから自分と正反対の人物にするのは当然だろ。人間の心理的現象と言っても良いね、それに、ゲームをする時は中二病が入ってて丁度良いんだよ。それを言ったらお前は素だな。むしろTVとかに出てるときよりイキイキしてる」
優の意地悪な笑みに頬を引き攣らせる秀だが、優のフードを被ったもっさり眼鏡の印象は消えて神秘的な妖しさが滲み出ており、弟の秀までドキッと胸を鳴らしてしまう。
そんな自分にぶすっとして、兄のフードと眼鏡を外した顔を再度見つめる。
こんな綺麗な顔立ちをしているのに、人に囲まれるのが嫌いなため、わざともっさり眼鏡にしているのだそうだ。
顔が命で人から囲まれる秀にとっては、兄のそんなところが格好良くて憎めない。
腕と足を伸ばして自虐な笑いを見せるとついていたニュースがCMに変わった。
CMには秀が飲み物を飲んでいるシーンが放送され、その次のCMも秀が出ている。
「まぁ、本当のことだしね。ゲームくらいは素で生きたいさ、このファントムワールドはスマホでもPCと同じように遊べるから好きなんだ。アイドルだって息抜きが必要なんだよ」
「息抜きにしては暗殺者なんてPKをするような悪魔になってるよね。コレでは天使の格好をしてるのに」
そう言ってCMを指差す優に拗ねたような顔をしてそっぽを向く秀。
「だーかーら、アレはイメージなんだってば」
「ハハッ、俺はどっちの秀も好きだよ」
笑顔を見せる優に秀はかーっと赤くなり、くるんと体を間反対に向けた。
「す、…っきとかゆーなよ。気持ちわるいな…」
「ハハッ、ごめんごめん」
軽く謝り、背中を向けられた秀の肩をポンポン叩く。
「秀は久しぶりにPCでやるんだろ?アップデートされて新しく出てきたダンジョンがあるんだ。しよ」
ふんわりと笑むと秀は照れながらも自分のPCを開きログインする。
秀のゲーム上でのキャラ名は〈ヒナ〉。外見は、白髪のアシンメトリーで瞳の色は灰色がかった水色。大きな猫目で右眼は黒の本革(端に銀色の鉄が付けられてある)眼帯で隠してて、両手に銃(右手に持ってる銃はライフル)。黒のロングジャケットの中に予備の銃が2丁と服の上の右側に和柄の大刀を差している。
「いつ見ても、無邪気で人を殺しそうな暗殺者だよな。しかも、どんだけ武器があるんだよ」
ぶくくっと笑う優に秀はマウスを動かしながら、優ことキャラ名ナユタにメッセージを送った。
「俺は格闘系はしないの。銃とかで相手が死ぬ音が堪んないの、刀もそう。あのざしゅって音と、血が飛び散る音なんて聞いててゾクゾクする」
「う〜わ、サディズム。」
にんまりと相手が死ぬ時の音を想像しながら顔が歪む弟を見て、引くような仕草を見せる優。
「なんだよ、兄貴だって人のことは言えないだろ」
「僕は普通だよ。それよか優しいね」
マウスを動かしてメッセージを受け取り、自意識過剰染みた言動を言い出す。
「あ、また来てる。みんな飽きないなぁ〜」
秀ことキャラ名ヒナのメッセージのついでに挑戦状をもスクロールして見て行く。ナユタはMMOオンラインゲーム上、最強プレイヤーとも言われているため、そのナユタを倒したくて堪らないプレイヤー達が、毎日飽きずに挑戦状を送っているのだ。
「さっすが、人気者だな」
「毎日毎日、何枚送って来られてもザコは相手にしないのになぁ。僕が挑戦状で承諾するのはレベル90以上のプレイヤーだけなのに」
このゲーム最大のレベルが120、因みにナユタのレベルは115、ヒナのレベルは75である。
ふぅ、と挑戦状と共にかかれてあるメッセージも見ずに下へやって行き、レベルだけ確認してゴミ箱へポイッと全削除するのをハハハ…と見守る秀。
(無意識に侮蔑してる兄貴にだけは引かれたくないな、可哀想に…)
そう思いながら、ゴミ箱に捨てられた挑戦状の送り主にナムナムと手を合わせ、久しぶりに兄弟で冒険に行くこととなった。
イヤホンを耳にはめ、大学に行っている時間よりイキイキしている兄を見るのはなんだか微笑ましい。
眼鏡も既に掛けていて、フードも被り直している。それでも、黒縁メガネの先に映る紫がかった黒の瞳を秀はちらりと盗み見てゲーム上で兄に続いて新しく出来たダンジョンへ向かう。
この時、現実とはかけ離れた、仮想世界がリアルになるなんて思ってもいないのだったーーー。
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