蝶々姉さん
久しぶりの投稿です。どうぞ読んでいってください。
妹が恋をしたらしい。
らしい、というのは、まあ直接本人に確認をとっていないからで。
きっと聞いてもはぐらかされるだけだろうけど、16年付き合って来た私の目に狂いはないだろう。
ほら、今だって。
ソファに座って虚空を見つめる妹をちらりと見る。
あの子が家にいる時、黙って座っているなんてところを見た事がない。
歌ったり喋ったり、かと思ったら踊ったりと何かと忙しい子なのだ。
その妹が、ここのところ無口でしかも少食で。携帯画面を覗き込んでは一喜一憂しているところをみると、恋以外の何物でもない、と思う。
姉としては是非とも成就してもらいたいものだと思うけど、まあそう上手くはいかないのが恋ってやつだ。
私は静かに彼女を見守る事にしている。
と、ミシンを動かしていた私の背中に、柔らかい何かが触れた。
思わず手を止め、ゆっくり振り返る。
「お姉ちゃん……」
まだまだ幼い声とともに、背中に顔をうずめる気配がして、私は少し不安になる。
「どうしたの」
「あのね…………お姉ちゃんは、恋人とかいるの?」
ほうらやっぱり。妹にばれないように破顔させると、私は小さく頷いた。妹は少し黙ると、拗ねたように私の背中をつついた。
「知らなかったよ、わたし」
「そりゃあ言ってないもの」
すましたように返事をすると、妹はくつくつ笑った。
気持ちはほぐれたみたいだ。良かった。
「……………その人の事、好き?」
後ろから私を覗き込み、特徴的な茶色い瞳を輝かせている成長途中の少女。
思春期は、サナギの時期。一生の中で一番不恰好だとよく言うけれど、この可憐な少女には全く意味をなさないようだ。
私は彼女の柔らかい前髪を軽く引っ張った。
「そういう事を聞くところ、まだまだお子様ね」
「なによ、私だって16歳だもん。もう大人だもん」
失礼しちゃうわ、とそっぽを向く妹に、おせっかいおばさんの如く大袈裟な素振りで口を開く。
「あらあら、すぐにイライラする子は好きな人から嫌われちゃうわよ」
驚いて振り返った妹の視線から逃げるように席を立つ。
「さて、ダーリンとデートにでも行ってきますか」
「ちょっと待ってよお姉ちゃん!」
追いかけてくる足音に顔がほころぶ。
天真爛漫で可愛い妹。
あの子ならきっと大丈夫だろう。
読んでくださり、ありがとうございました。