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エレベーターを降り、マンションの廊下。黙って後を付いて来るナルが、アッと小さく声を上げた。
「なに?」
振り返ると、ナルが指差すのは俺の部屋の前の消火栓。その片隅に見える15センチ程の白い電子機器。
「なんだアレ・・・?」
「―――多分、俺のケータイ」
「はっ?!」
だんだん、話が繋がってきた。
机を挟んで正座するナルが、やけに小さく見える。
「ナル、メシ喰った?」
「や、まだ。」
何となくそんな気はしてた。食器棚から皿を出して、ナルが持ってきたお好み焼きを電子レンジで温める。
「それ・・・」
「一枚は喰っちゃったから、半分コな」
麦茶と白飯を二人分用意して運ぶと、ナルも立ち上がって勢いよく頭を下げた。
「ゴメン!ケータイに連絡くれてたのに・・・。てか俺、今日マサに言われるまで無くした事も気付いてなくて・・・」
必死なナルが、何だか可愛く見えてしまう。自分の為に必死になってくれるのも、純粋にスゲー嬉しい。
「いいって。俺もさ、ゴメン。何かイロイロ不安になってて・・・」
それを聞いてナルがキョトンとする。何で?
「不安?マサが?俺じゃなくて?何で?」
へ?どういう事だ?
「・・・ナル、何か不安だった?」
「当たり前だろ!―――もう一ヶ月も経つのに、お前キス一つしようとしねーし・・・。元カノの事、引きずってる、らしいし―――」
「は?何ソレ?俺、そんなんゆったか!?」
「言ってない・・・けど長谷さんが」
・・・やっぱり。
「マサが元カノの事でまだ落ち込んでるから、元気づけてあげなさいよって言われて。確かに元気なかったし。お前、長谷さんと仲いいだろ。だから・・・」
ああ、頭が痛い。じゃあ何だ。ずっとナルは俺が杏奈を引きずってると思ってたのか?
「・・・じゃあナルがうちに泊まってかないのも」
「元カノと比べられんのなんか嫌に決まってんだろ!」
・・・何だよ、もう。
「こんな事なら、気イ使って不安なって遠慮すんじゃなかった」
「え?」
ポカンとするナルを抱き寄せた。少し痩せた気がする。
「もう、我慢しねーから。・・・今日、泊まってくよな?」
ナルは腕の中で小さく頷いた。
続きはさらに濃厚なお話となりそうなので、270分②は一旦この話で完結とします。苦手な方、嫌悪感を持たれる方はここで終了する事をオススメします。問題ない方は、引き続き、どうぞよろしくお願いします。