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「なー。今日眼科の飲み会に誘われたんだけど、マサも行かねえ?」

 短い昼休み、幸運にもナルと時間が重なった事に喜んでいた俺は、一気にどん底に突き落とされた。

「え、今日は・・・」

 今日はナルと新しく出来たお好み焼き屋に行こうと約束していた筈だ。

「なっ、俺一人じゃ行きにくいし、他の看護師誘っていいって言われたし」

 ・・・今日は、ナルに気持ちを伝えた日からちょうど一ヶ月だ。女の子じゃないんだし、そんな事をいちいち気にするのは自分らしくないと思うけど。だけど、そんな日をナルと過ごせる事を嬉しく思っていたのも事実だった。

「マサ?あんまり気分乗らない?」

 しかも眼科。どう考えたって山下ユカリの下心しかねーだろ。悪気なく話すナルにイライラする。

「俺はいいよ。せっかく誘われたんだしナルが行けばいいんじゃね?」

「・・・マサが行かないんだったら俺も行かない」

 ナルが怒られた仔犬の様な顔をする。そんなに行きたかったのか?

「行けって。俺の為に行くの諦めて貰っても別に嬉しくねーし」

 こんなにキツイ言い方をしたい訳じゃないのに。

「ゴメン。でも、今日はマサと晩メシって―――」

「いいよ。メシくらいいつでも食えるし。また今度な。・・・じゃあ午後の準備あるから」

 隠した本音が溢れ出しそうで、俺は不自然に席を立った。何か言いたげなナルを一人残して。



「進藤くん、なんか疲れててる?」

 最近頻繁に言われるこのセリフを、午後のオペでも言われてしまった。心配してくれたのは、皮膚科の美しいお姉様方。

「そーなんですよ。この子、最近杏奈ちゃんにフラれたばっかりで」

 余計な事を言うのはやっぱり長谷さんだ。何でそーゆーハナシを・・・。

「そうなんだー可哀相!進藤くん、いい子なのにね」

「ホントだよねー。そういえば痩せたんじゃない?」

 マジで?

「えーツライ!今日の夜、私達イタリアン行くんだけど、進藤くんも来る?」

 へ?!

「よかったら長谷さんも!」

「いいんですかー!行きましょ。進藤はいつでもヒマですから!」

 オイオイオイ!何を勝手に・・・

「進藤?行くわよね?」

 長谷さんからプレッシャーをかけられる。断れねーだろ、この状況。

 まあ、いいか。ちょうどナルとの約束が無くなったとこだし。一人で家で悶々とするよりは気が紛れるだろ。

「いーすよ」

 半ばヤケに返事をしてしまった。でもこの時、俺は自分の行動の浅はかさにまだ気付いていなかった。



「スゲー高そうな店だったよな・・・」

 お姉様方は、俺と長谷さんの分も支払ってくれた。夜景の綺麗な高級イタリアン。

 更には、家の前まで高級車で送ってくれた。医者の羽振りの良さにはいつも驚かされる。

「ちょっと量は少ないけどなー・・・」

 自宅マンションのエレベーターに乗りながら、今日の食事を思い出す。ただ、やっぱりナルとお好み焼きを食べたかった。今頃ナルは眼科のドクターに迫られたりしてんのかな・・・。

 切ない気持ちのまま、おもむろに携帯を開くとそこにはナルからの着信履歴が三件。不運にもサイレントモードかよ。

「ヤベ、全然気付かなかった・・・」

 かけ直したいがここはエレベーター。降りてすぐに電話しよう。それから謝りたい。話したい。出来るなら、今日この後にでも会えたら・・・。

 「・・・ナル」

 一瞬目を疑った。開いたエレベーターの前に立つのは、紛れも無い、成海大和、その人だった。

 ナルも驚いた顔をしている。俺ん家に来てくれてたのか。そんで今から帰ろうしてたのか?

「どうして・・・眼科の飲み会は・・・」

 ナルは俯いた。右手には白いナイロン袋を提げている。

「断った」

「え?」

「お前とお好み焼きが食べたかったんだけど・・・。これ、要らなかったら捨てていいから」

 言ってナルは手に持つ袋を渡してきた。中にはまだ暖かいお好み焼きが入っている。行きたかったあの店の、テイクアウトだった。

「・・・これって。ナル、俺―――」

「ゴメン、今日は帰る」

 ナルは短く会話を切ると、俺が乗ってきたエレベーターに入り、扉を閉めてしまった。

 その表情は怒っていると言うよりも、泣きそうにも見えた。

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