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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
96/128

96

翌日のせりかは、どう見てもいつもよりも不自然さを感じずには居られない位、明る過ぎた。


美久や、弘美も昨日、何かあった事は察していた。


しかし、せりかから言い出さない以上、踏み込んで聞くのは、友人として躊躇われた。よく耳にする親友には何でも話すと言うのは建前だろう。それ程依存した友人関係はお互いが重たくなると思われ、良い所で、解決か踏ん切りが付いたら話してくれるのを待つのがベストな選択だろう。


勿論、美久も弘美も、相談してくれるなら喜んで乗るつもりでいるが、明るく振舞うせりかの口から悩み事が出て来ないだろう事は、短く無い付き合いからも分っていた。



本庄が昨日のせりかの早退を心配して言葉をかけて来た。


「本当にもう大丈夫なの?」


大丈夫な訳が無い。それは本庄も解っていて、それでもあえて聞いて来ているのは、せりかの気持ちを、どうにか自分の出来る限りの事をして、上向かせる取っ掛かりを見つけ出したいのだ。


「今日はもう平気だから。…本庄君と話した後に、急に具合が悪くなっちゃったから、余計な心配掛けちゃったみたいね」


相手にも殆んど判る嘘をつく事は、却って清々しい程滑稽で、せりかは今迄見せた事が無いほど、本庄ににっこりと笑ってみせた。


せりかの笑顔の拒絶を感じ取った本庄は「それなら良かった」と言ってせりかから離れた。


やはり何もかも判られて居るのだろうと、何も聞いて来ない本庄に対して複雑な気持ちになるが、彼の洞察力から考えれば、彼と話していて、様子が急におかしくなったのだから、それまでの会話から、正確にとは行かなくとも、有る程度の事は予測出来ているのだろう。




橘と話すのは彼が何も知らないし、少しでも今はせりかの気持ちを悟らせたく無い身としては、本庄の何倍も気を使って、体調を気遣ってくれる彼に大丈夫だと伝えた。


彼は少し怪訝そうな表情はしたが、周りに練習の為に人が集まり出した為、せりかに「無理しないでね」とだけ言った。


その後はいつもの忙しさで、大丈夫だというせりかに、これ以上は何も言って来る暇は無いだろう。申し訳ないが、橘の忙しさがせりかには、今はありがたかった






昼休みは、橘は真綾と荒井絵美香と共にいつもの様に熱の入った練習が続くが、本庄は自分達の出番が無いので、玲人を誘い廊下へ出た。


せりかは生徒会の方の手伝いに行くと言い、今はこの場には居なかった。やはり本庄から逃げたい気持ちがあるのだろう。


話しを誰にも聞かれたく無くて非常階段の方に向かおうとするが、玲人と一緒に歩くと、そこかしこから声を掛けられ、本人も手を軽くあげて応えているが、人目の無い所に行っても付いて来られそうな気配だった。少し群がり始めるのを玲人が「今日はちょっと悪いけど」と断りながら歩くのを見て、校舎の外に出た。外は人影も無く、花壇の前の見通しの良い所に来てから本庄は話し始めた。


「昼休みに付き合わせて悪いね。だけど、昨日椎名さんの地雷を踏んじゃったから、高坂以外に頼れる人が居ないんだ」


「せりは、お前の所為で忍と別れるってよ」


ワザと罪悪感を煽る様な言い方をしたが、本庄はその言葉に対して驚いた様子を見せなかった。


「やっぱり、そういう結論に行っちゃったか…」


「今は忍も大事な時だから、忍には言うなよ!」


「それは、分かってるけど、彼女がこれ程追い詰められて居たのに気が付かなかったのは、本当に失敗してしまった。元々、自信過剰なタイプでは無いけど、椎名さんの様な子は稀だと思うし、橘と並んだって遜色無い。もちろん現会長みたいな華やかさは無いかもしれないけれど、彼女だって充分美人だよ」


「前にせりを聖女扱いした時に言ったよな?せりは普通の女なんだ。お前は違うっていうし、俺には近過ぎて解らないって言うけど、たとえ、そっちの方が正しかったとしても、せりにとっての真実は俺の言う普通の女なんだ。変に崇められたら迷惑なんだよ!」


「あの時、高坂の言った事をもう少しちゃんと考えて置くべきだったよ。椎名さん自身が自分の評価が低過ぎるのは謙遜も少しは入っての事だと思っていたけど、昨日の事で彼女は予想外な人だって思い出したよ」


「せりに何を言ったって、せり自身の価値観は覆らない。俺だってお前の言う事は分からない。だけど忍は多分分かるんだろうな。でもだからこそ、せりは俺とそれ以外の人間との区別を付けてしまった。元々、忍と付き合わせた俺が言えた義理ではないけど、もう限界に近かったのかもな。それをお前が背中を押した形になったけど、今迄はお前のフォローがせりの堤防になっていたのに、決壊させたのもお前なんて皮肉だよな」


「………彼女はもう少し客観的に自分を見た方が良い。橘と付き合う様になって、橘からの好意が彼女の自信に繋がると思っていたのに…」


「忍もせりと似てるんだよ。本庄に解らないとは思って無かったけど、サッカーにしたって俺よりうんと上手くても、それは絶対認めない。自分は小器用なだけで俺の力で押せるプレーとでは比べものに成らないって言って、サッカーは高校迄だって言う。それ自体は他にやりたい事があってその道に進むんだから良いんだけど、やっぱり自己評価が低い。あれだけ俺から見たって完璧な奴がそんな風に思ってるなんて誰にも解らない。だから忍は自分の言葉がせりを支える自信になるとは思ってない。その上、結構いい性格してるから、真っ直ぐな好意の言葉なんて言って無いと思う」


「でも、夏くらいから彼女の様子は、はっきり変わった。……なんの好意の言葉も無く男女の関係には流石に成らないと思うけど」


「―――――――――――――――――――――――― ! なんだよ!それは?!聞いてねーし!!」


「俺も勿論聞いて無いけど、何と無く分かる。特に好きな人のそういう変化には過敏になってしまうから、分かりたく無いけど、自然と分かるものがあるよね」


「忍の奴~!お前の事もあるから手は出さないって言ってたのに!」


「……と言う事は彼女の方からの誘いか…まず断れ無いけど、椎名さんも思い切った事をするよね」



冷静な本庄とは対照的に玲人は頭に血が昇っていた。忍に抱かれるせりかなんて想像もしたくない!踵を返して歩き出そうとした玲人を本庄が止めた。


「どっちに行く気?橘は劇の練習の最中だし、椎名さんは生徒会室だよ。間違っても椎名さんに問い詰めたりしないであげなよ。今は別れるって話の時にそんな事を言ってどうするつもり?」


「お前は何とも思わないのかよ!!」


「多分高坂よりもショックは大きかったけど、君の様に怒れる立場に無い。俺は彼女を振った人間だし、唯の友人なのに、彼女の行動にあれこれ思う資格さえ無い」


「せりも、それなのに別れるなんて、よくも簡単に……」


「それは、別れるのを止める理由には成らないと思うよ。そんな事で縛られる様なら、元々、こういう話になって無い訳だしね」


「お前、せりが忍と別れたら、せりを取り返そうとする気なのか?!」


「彼女からしたら、橘と別れようと思わせる原因の地雷を踏んだ俺なんて彼女の虚像しか見えてないと思われてる。とても相手にして貰えないでしょ」


「でも、せりを諦めるとは言わないんだな?」


「橘に悪いとは思うけど、彼女の事は諦められない。もしも別れたら最初は相手にされなくても、どうにかする」


「お前が原因なんだぞ!忍とも友達なのに、なんでそんな酷い事言えるんだよ!」


「俺が原因だからって、それは諦める理由には成らない。彼女の事ずっと想って来たんだ。橘には、橘で彼女を引き留める道だってあるし、悪いとは勿論思ってるけど、直接の原因は橘自身の問題だから、解決する気ならお嬢さんを納得させる自信を付けさせれば、彼女を繋ぎとめられる筈だから遠慮なんてしない。俺が彼女を諦めるのは、彼女が橘と付き合いを続けるのなら諦めるけど、そうじゃないなら椎名さんは貰う」


「あのな~、せりはお前の崇めた態度と誤解した自分への見解の相違に傷付いて、忍と別れるって言ってるのに、忍よりも盲目的にせりを聖女扱いのお前が貰うって自信、何処から湧いてくる訳?その半分でも忍とせりに根拠の無い自信を分けてやれよ」


「根拠の無い自信じゃ無い。要はやる気の問題だろう?俺は椎名さんをどんな事をしても俺に向かせてみせる」


「その怖いやる気、せめて、修学旅行前に出してくれてたらな~……」


「あの時は真綾と婚約中だったのに、無理に決まってるだろう?なにより真綾との別れの原因を椎名さんだと悟られたく無かった。真綾の為にも、椎名さんの為にもね。そうこうしている内に誰かさんのお膳立てで彼女は橘に掻攫われた。彼女が橘を選んだ時は、今迄散々傷付けて来たのに、彼女の幸せを壊せないと思った。だけど今回は、彼女にも非があるから、傷付けてしまった事に対しては、謝罪じゃ無くて、別のやり方で慰める。元々は彼女の誤解だ。それこそ、今の俺の半分でも自信があったら、こんな事で傷付いたりしない。椎名さんに、橘の彼女でいる事を重荷に思わせてしまったのだって、奴が彼女の重荷を取り払えなかったって事は、充分に過失だよ」


「お前ならせりを自信過剰な女に出来るのか?」


「自信過剰じゃ無くて本来の自分に自信を持って貰う事は出来る」


「なんだかお前と話してると禅問答してるみたいな気分になる。頭痛く成ってきた。それで、せりを崇めるの辞めるつもりも無ければ、忍からせりを奪うっていう結論でいいのか?なんの為に俺と話したんだか分からないな」


「それは、君を味方に引き入れる為だって言ったら、どうする?」


「俺は、忍と友達なんだ。忍の味方するに決まってるだろう?」


「俺は、橘よりも、俺に肩入れしてくれとは言って無い。俺の味方になってくれたら良い」


「また禅問答なのか?意味わからねぇよ」


「君の口から椎名さんの様子が知りたい。もしも橘と椎名さんが別れて、椎名さんがフリーになっても、高坂に得になる事なんて今は無いよね?真綾より彼女を選ぶなんて言わないよね?」


「それは誓って無い。せりは大事な幼馴染で兄弟みたいなもので、恋人の真綾とは気持ちの質が違う。真綾に余計な事言うなよ!」


「勿論、真綾には何も言わないし、真綾は、椎名さんが俺と付き合う様になったら良いと思ってる。もしも彼女が一人になった時に、そのままにして置けるの?俺に慰めて自信を彼女に持って貰える様に頑張る機会位、与えてくれても良いんじゃないかな?勿論、君は橘と別れない様に応援してくれたままで良いけど、椎名さんが落ち込むのを見てるのも辛いでしょう?」


「せりを落ち込ませた張本人がよく言う…」


「だから責任取らせてよ。さっきは彼女を貰うって乱暴な言い方しちゃったけど、俺のものに成らなくても最終的に彼女にとって、最良の道に導く様にさせて貰う。それが橘といる事だったとしたら、それを彼女に納得させるのに、努力は惜しまない。全て彼女の為に動く事を約束するから、俺の味方になってくれないか?」


「俺はせりの味方だ。だからお前の味方にも成らざる得ないって事か。策士だよな?何だか騙された気持ちになってくる」


「これでも橘とも友達なんだ。でも橘は友達だから退いてくれなんて思う奴じゃ無くて、やっぱり椎名さんにとって一番良い道を模索すると思う。俺が椎名さんに自信を持たせられたら、橘の彼女で居たいって思い直す可能性だって無くは無い。その時は俺も流石にきっぱり諦める事にするよ」


「分かった。だけど、忍に知られるのは、今は本当に拙い。忍にとって大事な時なんだ。それは、分かってくれてるよな?」


「ああ、分かってる。お嬢さんも俺には投げ遣りな感じだったけど、橘にはかなり頑張ってたもんなぁ!」


「せりは、自分が思ってる事はお前には判られてるって言ってた。だから、嘘もいい加減になるのも仕方無いだろう?」


「まあ、そうだよね。お嬢さんは嘘なんて本当は吐きたくないけど、橘の為だもんね。別れようとしてる相手を其処迄思い遣れるのは、彼女の優しさか、愛情が残ってるからなのかっていったら、後者だよね。罪悪感からかもしれないけど、俺にとっては厳しいとこだな」


そう言いながら、寂しそうな表情を見せる性悪小舅は、一体どういう手に出てくるのか、底が知れない。元々本庄の事は良く分からない。忍も、せりへのこいつの気持ちを知っていても親しくしている。せりも振られても、本庄の事を「せんせい」と呼んで慕っている事を考えれば、信用に値する奴なんだって事だけは分かっている。俺は、やっぱりこの性悪小舅の味方(・・)とやらに成るしか道はないのだろうか?


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