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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
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男ってヤツは………。橘の独白です。

伊藤がにやにやしながら待ちかまえていたので、橘は挨拶だけして通り過ぎると、案の定、驚愕の表情をしたのがみえた。


こちらが相当怒っているのをビビる様な人では無いので、単純にとっても驚いただけだろう。何も言われないという事に…。


何も言わない選択肢は思い付かなかったので本庄に相談して本当に正解だったと思う。いまの表情を見れただけで随分胸がく思いがした。


本庄の人の観察眼は相変わらず慣れてはきても驚く物があった。伊藤は基本的に強靭な精神の持ち主だし、賢く頭の回転もいいから、こちらが何か非難した所で上手にかわされてしまうのは目にみえている。それに一応先輩である彼に出来る抗議など限られているので、ここは何も言わないのが一番得策だった。


その上、何においても面倒見も良く、その上カリスマ的人気を誇る先輩は、冷たくされ慣れていないので、ほんの少しひんやりした態度を取っただけでも結構堪えるのだ。前にせりかにその事を言って優しくしてあげて欲しいと言ったら、『あんまり優しくしたくなる理由じゃ無い』と言われたが橘も最もだとは思うが、このサッカー部での伊藤の人気や慕われ振りを見ていないからそう思うのであって、橘に来るパスの精度が悪いのを感じると落ち込んでいるのかと、やっぱり少し気の毒にはなった。もう少しで秋の大会が有るのには落ち込まれてせっかくの実力が発揮されないのは残念なので、せめてせりかには少し怒ってもらっとこうかなぁと考えるが、なんだか最近彼女に頼り気味で申し訳ない気持ちになった。


せりかは元来、面倒見が良い方だが、あの天真欄慢で自由人な玲人の面倒を見てきただけあって、同じ年にあり得ない懐の深さで彼氏である自分をも甘やかしてしまうので、最近は大分頼る様になってしまっていると思う。せりかにしてみれば自然にやっているだけで特に苦労など無いし、少しは頼ってくれると嬉しいと言ってくれるのを鵜呑みにしてしまっているが、やはり男としては、くだらないプライドだとしても彼女には甘えられ頼られたいと思うものである。その無意味さも橘には分かっていてもそう思うのだから男というのは我儘でしょうがない生き物だと思ってしまう。




彼女が付き合う前に全幅の信頼を寄せて本庄を頼っていたのを見ていた所為も理由の大半を占めていた。


彼は何故こんな公立校に来ているのか分らない程、あらゆる英才教育を施された人間だという事は分かっているので張り合っても仕方の無いのは既に事実なので、そこを張り合う馬鹿らしい気持ちには成れないから、友人として、良い部分は見習うというと聞こえは良いが正直盗む位の気持ちで彼の動向を見ているが、伊藤にタイプが似ていると言われたのもその為では無いかと思っている。


本庄はきっと気付いているが、一朝一夕で出来る様になるものでは無いし、盗まれたところで特に痛くも無いのだろうが、橘のそういう意図が分かっても、涼しい顔で親しい友人でいるのだから不快感は無い様だった。まして真似るには上品過ぎて、少し引く様な部分も本人は普通の事だと思っている様なので、普段良い部分を見習わせて貰う分、少し助言すると『言ってくれるのって橘くらいだから本当に助かる』等と感謝されるとそれ以上にこっちが受ける恩恵に比べれば口には出せないが、感謝はこちらが多大にしているし、尊敬出来る部分も多いので、せりかが頼っていたのも無理からぬ事だという事は理性的に考えれば、それは、はっきりと分かる。


しかし、理性と感情は別物だ。本庄のお蔭で今日彼女が本庄の帰りを待って、今日の件を謝罪しているのだろうという事は予想が付く。


本庄も分かり過ぎるのも良い事ばかりでは無いと言っていたが、身を持って彼の言った事が分かる。


その彼がせりかの変化に気が付かない筈は無い。橘から見ても最近のせりかはつややかで綺麗になった。年頃の所為もあるが、勘の良い彼が気が付いてもせりかや自分にほのめかしたりしないのは分かっているが、反対の立場だったならと考えるとショックを受けるのは間違いない。


筋違いなのは充分過ぎるほど分かってはいるが、申し訳無く思ってしまう。タイミングが違えば彼女を手に入れていたのは確実に本庄だと橘は言いきれた。


男女の仲など、タイミングが合うか合わないかだと思ってきたが、せりかに関しては、自分にとってのみ幸運が訪れたとしか思い様のない強運さだった。


実際、彼女以外の人と付き合うには、もう少し自分が大人に成らないと無理だと思っていた。彼女に言ったら誤解されそうだが、女性に抱く嫌悪感と恐怖感がせりかに関しては、一年生の初めて会った時ですら全く感じ無くて不思議ですらあった。


玲人に向ける様な親しげな瞳をこちらに向けさせたいと思う迄にはそう時間は掛からなかったと思う。可愛らしい見た目に反してさばさばした性格の彼女は、大人っぽいところと子供なところのギャップがあって女性というよりも女の子に見えた。


そんなギャップも好ましく思うのだから、恋は盲目であると思うと今迄の付き合ってきた女性達を好きだったのか考えると答えは否だった。初めて好きになった女の子には玲人がべったりだったが、今の居心地の良い関係から変わる事を望んでいない玲人がいつまでも動かなかったので先に行動をおこした。彼女をどうにかして自分の恋人にしたかった。形振り構わない行動だったと振り返れば思うが、それでも玲人とは一度も関係が悪くなったりしなかったのだから、彼女の言う『付き合ったところでキスも出来ない関係だった思う』というのはあながち大きくは外れて居ないのかもしれない。



形振り構わない行動が功を奏した訳では無かったが、それくらい彼女を想っているのが玲人にも伝わったから、自分か橘以外を恋人にするのは許さないといった暴挙に出てくれたからこそ今がある訳だから、玲人の気持ちを思うとその時は複雑だったが、直ぐにかわいい彼女が出来てかなりホッとした。せりかにとっても玲人にとっても良い事だったのだと、その時点で気付かされた。せりかには修学旅行前からそれが分かっていたからこそ、玲人との関係を見直そうとしたのだと今ならはっきりと分かる。だけどそれだけに、今の時点の多少のべったりさには目を瞑ってあげて欲しいと思うのは玲人に恩を感じている所為と、まだ真綾だけでは玲人の甘えを支えきれないと言う思いからだった。彼女に無限に甘やかされていた玲人が、普通の女性でそれを埋められるわけも無いのは分かりきった事だ。せりかには自覚が無いので、手を離そう等と怖ろしい提案をして来るが、大事な友人である玲人が壊れてしまったらと思うと慌てて止めた。玲人の味方をしたからか不満そうではあったが、玲人のあの強靭さや、しなやかさは、彼女の無償の愛に支えられている自信から来ていると思う。それを彼女が元来からの玲人の性格だと思うのは、外から見れば違うのが分かるが内からは何も分らないからだろう。彼女からの愛情の種類が玲人の求めるものでは無かったにしても、それによって支えられている部分が急に取りはらわれてしまったら、玲人も今のままの華やかな明るい性格ではいられないだろう。


本庄が真綾を必要とした様に、玲人にはまだせりかが必要な筈だと思う。いつまでと聞かれたら答えられないが、自信の源を別のものに見い出せたり、彼女である真綾がもう少し表面的な部分だけでは無い玲人を受け入れてくれた時かなと思う。それはいつになるか分からないが、自分も含めてせりかの途轍もなく際限の無い優しさに寄り掛かかってしまうのをやめなければ、自分も玲人と同じ轍を踏んでしまいかねない。そして玲人も玲人の為に、せりかの手を離せる日が早く来る事を今迄神など信じた事も無かったくせに、何かに祈ってみたい気持ちになり、せりかにもらった小さな白猫のお守りにそっと触れて初めて見えない神に祈った。


忍は、玲人とせりかの関係を壊した事を後悔はしていませんが、親友と立場が近くなる程、せりかとの関係性の重要さが分かるので、玲人に配慮してしまっています。

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