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一応青春カテゴリーなので……少しだけほんのり友情風味です。
「それで?!」
普段穏やかな奴が怒るとこういう風になるのか~と青筋を立てて、眉間を押さえる本庄をマジマジと見入ってしまった。
「休み時間短いんだからサクサク喋らないとお嬢さんの方に聞くよ?お前は部活があるから無理だろう?」
こんなにストレートに脅し文句を言うのも本当に珍しくてきょとんとしてしまうと、本庄は諦めに近い溜息を吐いた。
「本庄って俺よりも普段大分猫被りなんだな…」
「そんな当たり前な事、橘ならとっくに知ってる筈だろう」
「それは、知ってたけど、滅多に現れない素で怒るのが見れたから新鮮なんだよ。もしかして俺の前では初めてじゃないか?」
「普段の俺って橘からどう見えてるわけ?!」
「うーん。穏やかで大人。だけど普段は笑ってても何考えてるのか分らないって感じ?でもうっすら性質悪なのが擦りガラスの向こうに見えるけど表面の顔はすごく感じが良い奴ってとこかな?」
なんだか怒る気力が一気に減退して来た。橘は狙ってやっているのだと判るが、それでも真理を突かれて怒る気持ちは、しぼんでいってしまう。何だか何に怒っていたのか思いだせなくなりそうだった。コイツって黒魔術者か?!と疑いたくなる誘導効果に少し表情を和らげると、それに気がついてホッとした顔を見せた橘は説明を始めた。
怒っている相手と話しても聞く耳をあまり持たないから、怒っている俺とは話をちゃんとする気は無かったんだろう。相変わらず抜け目の無いやつだと思うが賢明だと称賛する自分もいて流石だと思う。
「本庄って少し話しただけで大体把握してくれるじゃん?だからどの辺りまで言ったのかってはっきり覚えて無いし、気持ち的には大体全部話してたつもりだったんだけど、重複箇所も出て来ると思うけどザーと話すから聞いてくれる?まず、…最初に本庄の事をあの人達に話したのは椎名さんなんだよね。玲人が俺を押し付けようとした時にサッカー部でせりりん争奪戦になった時って覚えてる?伊藤先輩はサッカー部の部長職とかはして無いけど、影響力がある人だから、その事をうまく小さい範囲で抑えてくれたんだけど、その事で若宮会長と二人でどういう事なのか椎名さんに直接聞いたらしいんだよね。椎名さんも更科さんの事で大分お世話になったすぐ後だから、心配されて聞かれれば先輩相手だし、言わないっていう選択には成らないのは分かるんだけど、どうやら俺も其処まで言わなくてもって思うところまで話したらしいんだ。あの頃ってまだお前と更科さんが付き合ってたから、椎名さんは本庄の事諦めたいから玲人とも関係を変えて、新たな恋人を見つけるつもりみたいだったんだけど、言ったら怒られそうだけど、彼女って玲人の所為でとても無防備だったし、男女の機微に疎いし、果ては男の趣味悪過ぎで、会長達も相談に乗る内に段々心配になって来ちゃって、彼女に罪悪感を持ちつつも鞍替えして玲人側について俺と付き合うのに協力してくれる様になったんだよ。彼女を裏切った形だけど、心配しての事だし、会長もおれで妥協してくれたって感じでとても積極的に応援したい雰囲気じゃなかったけど、それでも邪魔はしないでくれただけでも相当助かったんだよね。それで彼女は、玲人と俺を振った話までしたから、原因になった本庄にすっごく期待しちゃったんだよ。彼女持ちのお前に二人掛かりで惨敗だろう?でも彼女はお前の名前とか個人情報は一切言って無い!俺が、悪いけどどうせ分かる事だから、あの人達が聞いて来た時に大体の事を話して役員で連れてくるって言ったから、二人とも今迄興味津々でもこっちまで見にきたりしないで大人しく楽しみに待ってたって訳。なにか質問ある?」
「無い!よく分った。結局真綾の件で恩にきちゃってたから、心配してくれる先輩達にいいかげんに話せない彼女が今迄有った事と思ってる事を正直に話さざる得なかったって事だろう?人の恩って無闇に受けるもんじゃ無いな…彼女に悪い事をしたな…」
「流石にそれは失礼だろう?向こうは別に恩に着せたりしていないし、そういう風にも思って無いんだから」
「向こうがどう思うかは、また別の話だよ。彼女は真綾の件がなかったら、そんな事まで会長達に話さなくちゃならない事には成らなかった事だけは断言出来るからね」
「別に話した事で彼女に不利益は出ていない。彼女も部活動とかして居なかったから先輩と親しく接する機会が出来て喜んでいるし、相談した事を俺達側に先輩達が付いたと知った後でも後悔していたりして無いよ」
人気のない階段で話していたが時間がもう限界だ。とりあえず納得してくれなくても戻ろうと橘が言い、足速に教室に戻ると教師が入ってくるのと同時だった。
ぎりぎりに飛び込んだ二人に教師は顔を歪めるが、橘と本庄だと判ると途端に表情を戻した。
なんだか不条理さを感じるが、大人なんてこんなものである。成績が良く普段素行を良くしていれば細かい事は許されてしまうものだ。橘も本庄と同じ事を思ったのか少しだけ綺麗な顔を曇らせた。
せりかも沙耶に話したかったが、教室では皆もいたので、当たり障り無い話しをしたが、会長がせりかが面食いだと言った意味を、沙耶が可愛いと言ったのだと説明すると「あんな美女に?」と驚いて言うのでせりかも若宮に言われても嫌味と迄は思わないまでも納得感は薄いのは分かるが、さっぱりした姉御気質で綺麗なのに少しおっちゃんっぽい所があると言ったら沙耶は「せりかちゃんと同じね!」という不適切発言をしてくれた。
口の悪い美久とかに言われるよりも真実味があってせりかは少々凹んでしまった。
本日最後の授業が終わり、橘は「椎名さんに本庄が聞けるとはとても思えないから、さっきのは脅しとしては1ミクロンの効果も無かったから却って本庄が本当に頭に血が昇ってるんだな~!ってちょっとビビったけど、伊藤先輩は意外とあれで計算高いから、子供っぽい振りして全部俺達の関係をブチまけた方が、却って気楽に成れると思ったんじゃないかと思うんだ。涼にしても涼だけよく判らないとあの微妙な空気が意味不明な状態になっちゃうし、石原さんにしても俺達が微妙な関係な事には気を使って居ない訳じゃ無いと思うんだ。勿論、俺達自身も……何も思わない訳じゃないし、本庄がなにも考えて無いとも思ってないし、椎名さんにしたってそんなに能天気でいられる性格じゃないだろう?」
「俺が生徒会に入らない方が良かったんじゃないのか?」
「まさか!本庄には悪いけど、俺が部活で居ない時も有るのには本庄無しの生徒会は考えられないよ。本庄が居ないと椎名さんの負担が大き過ぎになっちゃうからね」
「会長代行って事か?」
「会長職は全然譲っても良いけど、本庄はやりたくないだろう?生徒会も無理矢理みたいなものだし」
「お前みたいな華背負って歩いてるみたいなのが会長に向いてるんだろう?」
「パンダ的要素もあるから、そうかもしれないけどね…」
「じゃあ、お嬢さんの為に会長代行職に就く事にするよ」
「うわー…友達甲斐の無い奴!」
「橘らしくない。分かりきった事を言ってる暇があったら、早く部活に行ったら?」
「そうだな。でも有難う!理由はどうでも結果的に良ければ取り敢えず何でもいい。伊藤先輩に一応は釘は刺すけど本庄的にはどの程度が希望?」
「真綾の件で恩と帳消しにするから、釘は一本も刺さなくて良い」
「何も言わない方が伊藤先輩の場合は堪えそうだから、スル―しとくかな。意外と無視が一番利きそうだしな!」
「橘の方はきっちり報復するつもり満々なのに、俺の意見ってどの程度必要だったわけ?」
「相談してたつもりだったけど、流石本庄と話すと一番ダメージ来そうな案を出してくるからすごいよな!」
「あの先輩って構われたいオーラ全開な人だもんな?」
本庄が薄ら黒い笑みを浮かべると橘も「言えてる!」と同意しながらも、どこが恩と帳消しなんだか?と何処までも狡猾な本庄を見ると、いつもの様に爽やかに笑みを浮かべる彼に、「やっぱり絶対本庄がいいんだよ!」と言い逃げして教室を出た。
本庄が少し面映ゆい気持ちで帰ろうとすると、校門にせりかの姿があった。橘達は部活だし、あれってやっぱり俺を待っているんだろうなと思うと、彼女に何を言われてしまうのか柄にも無く不安な気持ちを抱いた。
泥沼化したいけど、主人公にもうちょっと頑張ってもらわないと無理かも(^_^;)




