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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
81/128

81

将来の事って…。

話が少し堅めです。

「玲人は最近は本庄君に会う機会ってあるの?」


夏休みに入ってから、顔を合わせて居ないが、好きな人の事で悩んでいる様子だった本庄のことが気になっていた。


「いや、マーヤも奴が忙しいから、全然遊んでくれないってこぼしてたから」


「真綾さんは、本庄君の事は今迄と同じ様に接してくれてるのね!」


玲人と付き合っていても、本庄が真綾と会えない位忙しい事を真綾が不満に思う位なら、関係的には従兄妹のままでも今迄通りなのだろう事が察せられて、そういう面では少し気持ちが軽くなった。


自分も真綾では無いが、やはり本庄に会いたかった。そう思う事自体を罪の様に橘と付き合い出してから思ってしまっていたが、橘の誕生日の日に抱き合ってから、恋人だと言うには今迄は心もとない関係だったものが、少しはそう思っても良いのだと思うと、友達である本庄に対して、沙耶や玲人等に向ける感情を向けても大丈夫なのでは無いかと思い始めていた。


橘とは「逢いたい」と言えて逢える関係なのは、やっぱり特別な感じがした。


本庄に、はっきりと「会いたい」と言えないのは、自分の中で気持ちの決着を無理矢理着かせた相手だという所為もあるが、橘にはずっと彼に片思いして来た自分を見せてしまっているのに、彼に会いたい等と言ったら、要らぬ誤解をうんでしまうだろうと思った。


人間は、習慣を急に変える事は難しく、今迄、橘の事も玲人との事も、的確なアドバイスをくれる本庄に頼りきって来た。今にして思っても彼の洞察力の凄さや、せりかの心情や、相手の気持ちや状況を考えてくれながら相談を聞いてくれていたのだから、少し壁にぶち当たる度に彼の顔が浮かんで来てしまうのは、もうどうしようもなかった。


勿論、異性の彼に、沙耶にした話と同じ話をするつもりは無かったが、せりかが出来ない訳では無く、向こうが流石に迷惑だろうと思うからで、同じ事よりも多分、もっと深い自分の心のおりを話してしまっただろうし、少しだけ話しただけで、言い辛い部分は言わなくても察してくれるので、せりかが橘との友人である期間と恋人になった違和感で、彼が遠く感じてしまう理由も、まるで手品の様に直ぐに答えを出してしまうだろうと思った。


完全に甘え切った本庄との関係を振り返ると、いくら人生の師だと仰いでいようが、相手が優しいのを良い事に甘えすぎもいいところなのは自覚はたっぷりあった。彼を好きだと言いながら、叶わない恋にこれぐらいの甘さと喜びがあっても良いのではないかと、せりかは自分に甘かったのかもしれないと反省しつつも、悩みが出来ると即座に相談していた習慣から、彼の顔が浮かんでしまうのは、もう習い性だと思って、罪悪感はもたない事にした。彼の悩みを聞いてあげたいなどと、今にして思えばなんておこがましい事を言ってしまったのだろうか……自分に彼のような解決出来る力など無いのに、聞いてあげるだけで、相手が楽になるかもしれない等と思ったのは、今迄に無く弱っていた彼の力に少しでも成りたかったから出た言葉だったが、真綾にも会えない程忙しい彼に、時間を無駄に使わせるだけなのかもしれないと自嘲的になってしまう。




そう思っていた矢先に本庄からメールが来て、少し時間を作ってくれないか?という内容だった。橘にいつもなら報告していたが、彼も本当に聞きたいのかどうか、せりかには判断が付きかねていた。これからは如何するかは、分からないが今回は言わないで置く事にした。何故だか言ってしまったら、この間の事は本庄への気持ちを断ち切っている証明をする為にした様に思われそうで、それだけはどうしても避けたかった。彼も言わなくても良いと言ってくれたのに甘えた訳では無いが、言いたく無いのに無理に言う事は、せりか自身の負担にも成る事を彼は望まないような気がした。




本庄は、本当に忙しい様で、本庄の父親の会社の近くの和食屋で、食事でも良いかとメールが来たので、「大丈夫」だと返事を出した。





待ち合わせは一時を過ぎていたので、夜は居酒屋さんになるのかな?と思われる小さな個室作りの和食屋さんは、わらわらと店員さんの片付けに動く様子はあったが、お客さんは少なくて一番奥の二人にしては広めの部屋に通された。


まだランチメニューが頼める様だったので、覗きこむと写真は海鮮丼や煮魚や、セット物など、比較的安価で美味しそうな写真が並んでいて、どれにしようか悩んでしまう。


「女の人には、この花懐石コースが結構人気だよ」


本庄はそう言うが、高校生には少し贅沢なものだったが、こっちから呼んで、わざわざ来て貰ってるんだから少しは良いものを奢らせてよと言って、苦手な物が入って無いか確認するとそれと自分にはもう少しボリュームのあるコースを頼んでしまった。


前菜が数種類小分けに涼しげなガラスの器に盛られて出てきたが、うにのゼリー寄せや、わけぎのぬたの酢味噌和えに赤貝が添えられたものとホタテと大根をサラダ風にマヨネーズソースで和えたものが出て来て、海鮮好きなせりかの為に此処に連れて来てくれたのが分かった。お店の雰囲気も高級過ぎずに、居心地の良い感じの様子に、せりかの事が解られてしまっているなぁと、いつもの事ながら感心してしまう。奢るといわれたコースも、他にも鯛飯等、豪華なメニューで味も良い割にはそんなに高いものでは無かった。


美味しい緑茶を飲みながら、最近の話をすると、「プールに行った割には焼けてないね」と言い、「俺も少しは遊びたいよなぁ!」と言ったので、やはり父親の会社で勉強させられているらしいのが判った。



「業務とかは、もちろん出来ないから、色々な部署に研修に行かされて、やっと人にも業務にも慣れて楽しくなった頃に次って感じで、もう毎日が覚えなくちゃ成らない事で一杯で、帰ってからもレポート提出でその部署の感想とか、問題点とか何でもいいから思った事を纏めろって言われて、寝るのなんて二時か三時でまた朝は、普通に九時出社だから、学校行ってる時の方が全然楽なくらいなんだよ」


「せんせい、なんだか痩せたものね…。大変だったのね!真綾さんも遊んでくれないって愚痴ってたって玲人が言ってたわ」


「お嬢さんは真綾とは会わないの?俺の事で真綾を避けてたりはしないよね?」


「違うわ。真綾さんと玲人のデートに誘われても、ちょっと遠慮したいだけなのよ」


「俺と真綾の時は別に平気だったのに、高坂が他の女の子と一緒なのはやっぱり気まずいの?」


「そうかもね。なんだか照れくさいのよ。こそばゆいって言うか…」


「橘を連れて行けばいいのに」


「それは、橘君が多分嫌がるから、誘った事は無いわ」


「真綾も嫌われたものだな…」


少し苦笑いしながら本庄が言うと、せりかは嫌いと言う訳では無いけど、本庄君だって橘君があまり乗り気じゃ無いのはわかるでしょう?と言うと「まあ、そうだろうね」と軽く言った。



「橘は真綾の事は、好きでも嫌いでも無いから、一緒に出掛けたいとは思わないって事だろう?奴は割と曖昧な事はしないから、お嬢さんに熱心に誘われない限りは行かないだろうね」


「そうはっきり言わないで、それこそ曖昧に済まそうって気には成らないの?彼のそういう所は、私達じゃなければ気が付かないわ。現に、玲人はそう思って無いわよ!」


「橘が尻尾を見せるのは、俺とお嬢さん位か…」


「後は、伊藤先輩位かしら?生徒会の副会長の」


「ああ。真綾の恩人の人か…そういえば俺の生徒会入りって何時からなの?」


「文化祭の後、直ぐに選挙だから、その前には引き継ぎ兼ねてメンバーに入ってもらうと思うけど、こんなに忙しいのに大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。約束はそっちが先だしね。親父も夏休みは、こっちが休みでも会社は営業してるから丁度良いと思って酷使して来るけど、学生だし本文は勉強なのは分かってるし、生徒会も反対はしないよ。今だって俺が他にやりたい事があったら、多分研修もやめてくれたと思うけど、何を学ばなきゃいけないのか、分かってから勉強した方が身になるから、俺も会社の人に迷惑掛けつつも、研修させて貰ってるけどね。来年は流石に受験に力入れないといけないしね」


「みんなすごく将来の事考えてるのね。私は明確に成りたい職業や、やりたいものがある訳じゃ無いから、今は可能性を狭めない様に万遍無くやっているけど、早くから決めていればその事に打ち込めるからその方が良いのよね!」


「大学に行きながら考えても良いんじゃないの?お嬢さんは苦手なものが少ないから、得意な分野が判らないんじゃ無いかな?」


「そんな事無いわ!苦手なのは玲人と助け合って来たから無い様に見えるだけなのよ。特に秀でた物があったら、悩まないのかもしれないわね」



なんだか目標も無く、このまま行くのは遠回りになるのかもしれないとせりかが考え込むとそれを見透かした様に(多分本庄には透けて見えるのだろう)学んだ事は、即、役に立たなくても、意味の無い事は一つも無いから焦らなくても良いんじゃ無いの?と果てしなく悩みそうなことを、軽く一蹴してくれた。



「お嬢さんに会ったら、大分癒されたよ。早く学校が始まって欲しい気分だな…」


「ずっと八月中も研修なの?」


「お盆休みはくれるみたいだけど、社員さん達の手前、休みの間は全部行かないと、こっちが本気で勉強させて貰おうと言うのが伝わらなくなっちゃうから、親父に何時までって言われてないけど、俺は最終日まではお世話になるつもりだけどね」


きっと本庄の父親も息子がそう言うであろう事が分かっているから、あえていつ迄と区切らないんだろうとせりかは思った。


今日もスーツを上品に着こなしていて、とても高校生には見えなかった。ネクタイは外していたが、もう何週間か、その生活をしているためか、大人っぽい本庄を余計に大人に見せていた。


「じゃあ全然会えないね…」とせりかが言うと、海外とかに行く訳でもないのに大袈裟だと本庄は楽しげに笑った。土日とかなら全然駄目という訳でも無いから会えるよと言ってくれたが、話を聞いた限りでは、多分休日も仕事を覚える為の勉強をしているだろう事が覗えた。




「……お嬢さんは秘書とかってやって見る気ないかな?」


「秘書?!……なんかいろんな意味でハードル高そうだけど。ちょっと考えた事ないわね」


「そうか~。結構合いそうだと思うんだけどな。一番適性があると思うところは、お嬢さんって雰囲気が柔らかいから感じがいいよね!お客さんとかも来るから、もちろん容姿も重視するけど自然に良い印象を与えられるのって一種の才能なんだよね」


「私が猫被りだからそう思うだけだと思うけど…」


「みんな外に出る以上は多少被るよ。だけどそれでもそこから違いは出てくるものなんだよ。人間性の問題も勿論あるけど、例えその人が素晴らしい人だったにしても、その印象を一瞬で相手に伝わるかって言うとかなり難しいよね?でも秘書の印象は会社自体の印象と連動するんだよ。社長や重役に会う前に会うし、どういう人を秘書にしているかで経営者の人格も見られるところもあるしね!」



今迄、せりかもあえて聞かなかったので知らなかったが、本庄の父親の会社は不動産業を軸とし、そこから家具から雑貨の販売に商売を広げて行ったらしい。お家を買えば、新しい家具が欲しくなるし、雑貨もおしゃれにするのは楽しいに違いないとせりかは思った。もちろん家を買った人ばかりを相手にしている訳ではないが、優待措置などで、殆んどの顧客が家具の購入までしてくれるらしい。聞いていると、まだ学生でそういう事業などに明るく無いせりかが聞いても商売上手だと思う。



「秘書になったら雇ってくれるって事?私コネ入社は嫌なんだよね。紹介者の顔を立てないといけないから、要らない気を使って疲れそうだし」


「普通に受けてくれれば、受かるんじゃ無いのかな?」


「それって、採用側に手を回すってことでしょう?まあ、まだ秘書になるとも決めている訳でも無いのにコネ入社がどうのこうの言うのは気が早いし、最短でも四、五年後の話だものね」


「気が早いけど、今みたいに研修させて貰ってると、将来はどうしたいかっていうのが明確に構築できるから、俺からするとそんなに遠い未来の話でもないんだよね。例えば、橘がもしもうちに入ってくれたらとかって考えると、建築士目指してるみたいだし、自社ブランドの家を作る部門やリフォームの部門を作りたいから協力して欲しいけど、お客さんのニーズを正確に把握して欲しいから、しばらく営業をやってもらおうかなぁとか考えると楽しくなってくるんだよね!」


「橘くんが営業ってイメージに合わないわ」


「そうだけど、奴も合わないって思うと思うけど、あの超ハイパーなルックスが良い方に利用出来るのが判れば、本人の考え方も変わるし、絶対営業に向いて来ると思うんだよね」


「超ハイパーって……」


せりかが苦笑すると本庄は大真面目に言った。


「なんでも人より優れている所は、特に突出して良い所は活かすべきだと思ってる。橘ももう少し考えて利用すべきだよ。図面やコンピュータ―に向かってばかりで表に出さなかったら勿体無いよ」


「いつもは、その人にはその人の考え方があるし、それは尊重されるべきっていう本庄君が珍しいわね」


せりかが、本庄の力説に目を丸くすると、少し照れた様に微笑んだ。今迄彼が照れたりした事など皆無で有った様に思うが、せりかが見た事が無かっただけで、そういう表情をする事も有るだろう。やはり慣れない環境化に置かれている為か、実体として世間に触れて、これからの事などを見据える様になったからか、人の個性を生かす事に本庄の関心が高まっていて、今迄は人は人と良い意味でも悪い意味でも割り切りが大きい人だと思っていたが、世界が少し彼の中で広がったのだろうとせりかは感じた。夏休み前に好きな人の事で落ち込んでいた事など無かった様に生き生きと話す様子に、本庄の中で何らかの決着をみたのだろうと思った。



「今迄は好きな事をやれる奴は、好きな事をした方が良いと思ってたんだ。才能や適性が無くても、自分で選べる自由を手放すのは、そっちの方が勿体無いと思っていたからね。自分が選べない状況だって思い込んでたし、でも、会社に行ったら俺が経営陣に入らなくても、それぞれの部署がそれぞれちゃんと機能してるし、社長だって親父じゃなくても有能な重役の人達がいて、特別自分が頑張らなくても会社が回っていくのを見たら、みんなの為に頑張らなくちゃいけないって今迄思っていたのが、俺一人頑張った所で微力だって分かったから、人を頼らないと駄目なんだって思ったんだよね。でも頼りたく成る様な人達って、すごく才能が有る人ってよりもそこの部署や仕事に適性があったりする人達なんだよ。その人達も他の人に頼って仕事してるしね。確かに人より秀でている人は目立つけど、一人で何でも出来ちゃうから会社組織としては、少し使いづらいんだよね」


本庄ははっきりとは言わないが、そういう人達は少し妥協とか調和に欠けているのかもしれない。一つの事に夢中になると他の事は疎かになりやすい面もあるのだろうとも思う。学生時代は良くとも社会人になってからは、個人で起業するか、自由に出来る環境が提供される規模の小さい所の方が才能が生かせるのかもしれないと話を聞きながらおもった。


本庄の急な成長を目の当たりにすると、今迄でも高校生の男の子としては大人過ぎて、友人としては、頼りにしてしまう関係は成り立って良いのかどうか悩む程だったのに、更に遠く感じて寂しくなった。橘ともそれは関係性は違えども感じる事だが、付き合っているという『恋人』という明確な立場は、意外と安心させてくれるものなのだと初めてせりかは思った。




「なんだか俺の話ばっかりでごめんね!椎名さんは橘とはうまくいってるの?」


「…橘君とは、うまく行っているとは自分では思うけど、初めての彼氏でしょう?なんだか友達の頃に思わなかったりする事を考えると少し自己嫌悪に陥るし、あっちはどう思ってるのかとかそういう事って些細な事でも気になっちゃうから、恋愛って私に向いているのか不安になっちゃうのよね。……なんだか前にせんせいの方の話の相談に乗るみたいな無謀な事を言ちゃったけど、とても私に話されても無理かもしれないっていうのが分かっただけでも少しは成長してるのかしらね?」


「俺の方は、今は研修で手一杯で、おかげで悩みとかは考えないで済むから、精神衛生的には良いんだけど、椎名さんといるとホントに癒されるし、楽しいから、彼氏が怒らない程度には俺ともこうやって少し遊んでもらいたいんだよね。あと真綾も高坂と一緒じゃ無くていいから、前みたいに俺も含めて会ったり出来ないかな?」


「せんせいって真綾さんの事本当に大事にしてるのよね。私は、真綾さんにうちに来てくれた時に少しキツイ言い方で咎める様な事をしてしまって、御節介だったと今は思うし、真綾さんを悪く思って無いから、声掛けてくれれば一緒にお買い物とかお茶とか、また映画みたり、中華街に行こうって約束もそのままになっちゃってるから、今度土日で本庄君の都合の良い日に三人で行きましょうか?」


「お嬢さんも結構高坂に彼女が出来た事がやっぱりショックなんだね……」


「そんな事無いけど、せんせいに言われるとそうなんじゃないかと思っちゃいそうよ!だって玲人に早く彼女が出来て欲しいってずっと思ってきたし、せんせいの事が無ければ最初から諸手を挙げて大賛成だったのよ」


「でも、やっぱり寂しいでしょう?」


「本庄君は寂しいの?真綾さんと玲人の事…」


「それは寂しいよ。真綾の事と自分がした事を思えば全面的に喜ぶべきところだけど、人の気持ちって『こう有るべき』みたいなものが明確に分かっている場合でも実際には本当にそう有れるかどうかは、本当にそうならないと自分でも分からないものだよね」


「なんだかそういう風にせんせいの方が簡単に認めちゃうと、いくら私が違うって言っても強がってるだけみたいに聞こえそうだけど、私はやっぱり照れくさいから、聞きたくないし見たくないだけって今でも思いたいし、思ってるから。だってそんな寂しいなんて思うなんて、私に先に彼氏が出来たのに、玲人の幸せも早く来て欲しいって思ってたのに、しかも玲人の事も長く苦しめていたのに私がそんな事を思うこと自体が許されないと思うのよ」


「お嬢さんがそう思うんなら、俺の見当違いかな?ごめんね!」


本庄が今迄見当違いな事など言った事など無いけれど、やはり意地を張っているだけなのかもしれなくても、心の中でも、玲人の事をそんな風に感じるのは嫌だった。玲人が自分を思って橘を勧めてくれた様に、玲人に対して、一点の曇りのない気持ちで玲人の幸せを喜んでいたかった。


「せんせいの方の片思いは如何にか出来そうに無いの?」


「如何にかって……」



本庄が苦笑するとせりかも少し不適当な言い方だったのかと反省するが、本庄は以前の様に思い詰めた雰囲気は無くなっていたので少し話易い空気になった。


「今迄、ずっと玲人の事とか橘君の事とか相談に乗ってくれたでしょう?田村君の時だって助けてくれたし。せんせい相手におこがましいのは、充分承知しているけど、それでも少しでも何か役に立ちたいのよ。自己満足でしか無いんじゃ無いかと思うけど、本庄君にばかり甘えてしまっていた関係はどうなのかな?って思っちゃうし、だから私も今迄よりは本庄くんが優しいのを良い事に甘えるのは辞めるようにするから…」


「真綾も甘えてくれなく成ったのに、お嬢さんに迄見放されちゃうのは寂しいから、そんな事言わないでよ。それは、橘が妬くかもしれないけど、男なんて安心させない位で丁度良いんだよ!」


本庄は、親友に申し訳ないと思わなくも無かったが、実際男を良い気にさせておいて良い事は無いというのは一般論ではそうだからと思って口にしたが、やはり橘は一般的な男では無い。せりかに子離れ宣言の様な事をいわれて、焦って馬鹿な事を言ってしまったと流石に罪悪感が押し寄せて来てしまい、やはり今の発言は撤回するべきだと口を開きかけたが、先にせりかが話始めたので聞いてから訂正しようと思った。


「橘君には、橘君と付き合い始めたから、本庄君との友人関係に影響させるつもりは無いのは、言ったのね。彼はそれで良いって言ってくれているけど、本当は彼に悪いって分かっているけど、本庄君が私を振った後に変わらずに居てくれたのに、自分に彼氏が出来たら彼が妬くからって態度を変えるのは友達甲斐が無さ過ぎるでしょう?」



「彼氏には悪いけどお嬢さんの言葉に甘えさせて貰おうかな…でもさっき言った事は一般論だから、橘は出来たら不安にさせない方が良いタイプの人間だと思う」


「そうね。それが分かっていても、せんせいの事は別問題だから。橘君の為だけに生きて行く事は出来ないし、私は、自分の中の自分に誠実で有りたいと思うから、曲げられない事はどうしても出来てしまうけど、其処は努力で彼に分かって貰うしか無いんだけどね」


「お嬢さんらしいね!普通彼氏が出来たら、友達よりも彼氏が絶対優先でしょう?」


「橘君を蔑ろにしている訳では無いのは、彼も分かってくれてるし、彼氏一辺倒に成れるのって、彼が好きだからじゃ無くて嫌われたく無いからその為に全て相手に予定や価値観を合わせて付き合っちゃうんだと思うのよね。私も嫌われないかって考えるけど、その価値基準でしか動けない状態ってやっぱりあまり良いものでは無いと思うし、そうなった私を彼が好きでいてくれない様な気がするのよ。そういうのを可愛いと感じてくれる様な性格じゃ無いでしょう?橘君って」


「そうだろうね。お嬢さんも初心者の割には、意外と駆け引き上手だよね」


「駆け引きのつもりは無いんだけど、橘君は友達でもあるから、彼が思う事の全部は分からなくても、急に付き合い始めた人よりは性格も分かってるから」


「逆も言えるよね?彼にいろいろ判られてしまっているのは、付き合っていて不都合な事って無いの?」


「せんせいの方が千里眼体質だもの。橘君には困る程の弱味は握られてないわ」


「かわすのも上手く成ったんだね~!すごい進歩だね!橘と付き合ってる効果が出て来てるんじゃないの?」


「そういう所が千里眼体質だと言ってるのに…」


「誉めてるのに!お嬢さんもこれで無敵になったら、悪女一直線タイプだもん」


「………………悪女?!」


橘にも天然悪女だと散々言われ、沙耶にも肯定されてしまったが、今初めてそんな事言われました!っていう態度が本庄に通じるのか賭けてみた。


「……既に言われたわけね?橘なら遠慮しないからはっきり言うかもね」


やっぱり無理か…。賭けに完全に負けたがどの辺りを指して悪女と言われる所以があるのかと思うが、せりかの防衛本能が本庄にだけは聞いてはいけないと警鐘が鳴った。


多分、橘の方がマシだと思う。理由を考えると、彼氏である橘に悪女呼ばわりされても、そこには非難の意味合いも大きいが、僅かな甘さも存在する。その上で違うと反論できるが、本庄に言われるのは、とても当たる巫女さんのお告げの様に一切、反論の余地も無いだろう。自分では悪女だとは、今でも思って居ないが、本庄に言われたら、現実逃避は難しい。しかし彼は未来の話をしていて、今現在、そうだと言った訳では無いので今はスル―を決め込んだ。怖ろしくカンの良い彼はせりかを見逃してくれるだろう。話題を変えなくては…といっても突拍子も無い話は出来ない。ダラダラと心の中で汗を掻いていると、くすっと笑って「デザートにアイスが付くんだけど、もう声掛けても良い?」と言ってくれたので「もちろん!」と上機嫌で返すと、笑うのを耐えきれない様で肩を揺らすのを彼が治まる迄静かに耐えた。


「また、夏休み中にごはんに誘ってもいい?」


他の男の人に言われたら完全に口説き文句だよなぁ!と思いながらも快諾すると綺麗に微笑まれた。


スーツで上品に微笑む彼は、やはり普通の会社員には見えなくて、直ぐにでは無いが、次期社長なのだと研修している部署の皆にも認められているのだろうと思わせる風格が漂っていた。


血の力だけで上には立てるだろうが、それを維持出来る程、甘いものでは無いというのは、彼の今の努力を見ればよく分かった。せりかは先刻のコネ入社の話を思い出し、彼が社長となる会社の一員に成りたいという考えに囚われてしまったが、それだけで秘書を目指すのに納得出来るだけの気持ちは無かったが、今日の本庄の話を遠い未来だとは思えなくなって、初めて彼の中の未来は直ぐそばなのだと言う感覚が分かった気がした。


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