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寒中お見舞い申し上げます。
今年もよろしくお願い致します。
忍の嬉しそうな笑顔を見て、玲人はこのまま、せりかと忍がうまくいってくれる事を切に願った。
沙耶が何かせりに耳打ちして、せりかが「無理だってば!」と言っているところを見ると、何か恋人らしい事でもするようにアドバイスした様だが、忍が今以上の関係を現時点では望んでいないだろうから、沙耶の提案は、せりが無理だという以前に忍に軽くいなされてしまうだろうが、例え本庄の気持ちを知らないとしても、せりが忍を好きだという事実は変わらないのだし、玲人としては腹立たしい面も無くは無いが、もう少し恋人らしい雰囲気になっても良いのではないかと思った。今のままでは友達でいた頃とたいして変わらない様に見えた。
折角のバースデーデートなのだから、自分達が赤面してしまうくらいに、忍がもう少しデレデレになっても…って言っても成らないよなぁ…せりも色気がもう少し足りないもんなぁ?と心の中で、何気に酷い事を思ってしまう。せりはスタイルはとても良いのだが、仕草や醸し出す雰囲気に色と艶が無い。見慣れている幼馴染の目を差し引いてもそう思ってしまう。その点では、沙耶の方が色香を振りまくつもりはまるで無いのだろうが、女性らしい曲線が強調された水着や、何気ない仕草も女らしく艶っぽい。普通なら、忍の拒否反応が出そうな位だが、どういう訳か沙耶には自分達と同種の感情の友情を感じている様だ。美久や弘美やマーヤには他よりは親しい女友達だったが、自分の友人というよりは、親友であるせりの友人という位置だったのが、沙耶が急に忍の友人の位置に収まった事は、玲人とそしてせりかに少し違和感を与えた。
玲人が飛び込み台に行こうと言うと、沙耶は喜んで付いてきたが、元々玲人が泳ぎを教えて努力で人並み以上に泳げるようになったせりかは、飛び込み等はあまり好んでする方では無かった。少し渋い顔をしたが、それでも付き合おうとしたせりかの腕を掴んで橘が、「二人で泳ごう?」と甘く止めた。
一瞬、皆も急な橘の甘いトーンの言葉に驚くが、せりかが直ぐに「そうね。じゃあ玲人と沙耶ちゃん悪いけど少し別行動ね。シートの所で一時間後位でいいかしら?」と淡々と言ったので、玲人と沙耶も少し唖然としながらも、橘に腕を取られながら歩くせりかを、自分達の前で二人が恋人だと感じさせる明確な態度を見せた事が今迄皆無だったので若干不可解には思ったが、二人で高い所からの飛び込みをすべく昇る階段の手すりに手を掛けた。
「あれは、せりが乗り気じゃ無かったから、忍が気を遣ったんだなぁ!」
「せりかちゃんって泳ぎ上手よね?絶叫系も苦手じゃ無い筈なのに、飛び込みは駄目だったの?」
「絶対嫌って程では無いけど、元々、せりはあまり泳ぎは得意じゃないんだ」
「確か、25mのタイムは私と殆んど変わらなかったわよ。私はスイミング通ってたから得意な方なのよ。せりかちゃんは確か走るのも早くて体育祭でリレーの選手だったじゃ無い?」
「そうなんだけど、根本的には、せりは、元々は泳ぎは苦手な方だから、飛び込みは多分嫌だったんだと思う。でも場の空気を考えて無理に行こうとしたのに忍が気が付いて、わざと強引に止めた感じにしたんだと思う」
「なんだか奇妙な甘さがあったから、遂に甘々な橘君を目撃出来たのかと思ったけど微妙に違う感じはしたのよね!だってせりかちゃんが全然照れないから、かなり不自然だったんだもの」
「だけど、結局二人で泳ぐみたいだから、良かったんじゃねーの?」
「玲人君、もしかしてせりかちゃんが嫌がるの判っていてわざと言い出したのね?」
「忍は、そういうの敏いから気は付くだろうと思ったけど、あれだけ不自然な程甘い雰囲気醸し出してせりを連れだしたから、せりが今頃忍の事をすっごく怒ってるだろうなー!でも忍の気遣いからだからせりも本人には怒れないだろうし、忍も相変わらず要らない所で黒い事するよなぁ?」
「普通に連れだせば、せりかちゃんに感謝されて好感度アップなのに勿体無いわよね!」
「忍が、そんな面白い事を取りこぼさないよ。今迄だって今ほどじゃ無くても色々やってるから、せりの好感度がこの一回位で簡単に上がらないだろうから、そうなったら断然楽しい方を取るに決まってるだろう?」
「…せりかちゃんが、橘くんの事を、『鬼、悪魔!』ってよく言うんだけど、そうやって言う訳がよく分かったわ…聞いてると段々王子様が悪魔に見えて来るわよね」
「忍本人も『みんなも見た目に騙されてるよねー?』っていけしゃあしゃあと俺等に言う位だけど、せりが忍を王子呼びした時は実はかなり怒ってるんだよ。沙耶と忍が親しいのが判った時点で、せりは忍が、沙耶に少し酷い事してるんじゃ無いかと心配になったんじゃねーの?俺は、せりよりも忍が女の子に酷い事はしないって知ってるけど、忍はせりを気に入ってる分、付き合う前からすごい構い倒してたし、更に嫌な部分をピンポイントで突いてくるから、せりも沙耶の事で不安になったんだと思うけど」
「よくそれで王子様と付き合い始めたわよね?なんだか、騙されたって聞こえてしまったけど、それでも結構仲は良いじゃない?」
「それはひとえに、みんなが心配になる位せりの男の趣味が悪い所為なんだよ。ずっと好きだった本庄だって超性質悪いし、それでもあの二人は人間性は置いといて実質はかなり頼りになるし、せりの事を見た目とか幻想じゃ無くて本気で好きでいてくれるから任してもいいけど、そうじゃない場合性格だけ悪いのを連れて来られても、賛成出来ないだろう?」
「玲人君がせりかちゃんを心配するのは、みんなは彼氏もいるのに過保護だって言うけど、私は玲人君に賛成だわ!はっきりいってせりかちゃんって危なっかし過ぎるもの」
「やっぱりそう思うよなぁ。生徒会の先輩達も、結局それでこっちに味方に付いて協力してくれたんでせりの彼氏は忍になったけど、修学旅行で隣のクラスの田村に告白されてただろう?せりの事だから、うっかり受けちゃう可能性もあったからホントに良かったよ!」
「まさか!せりかちゃんだって好きでも何でも無いのに受けないでしょう?!彼氏がいても居なくても絶対に無いと思うよ!それにあの時はまだ、橘くんと付き合って無かったから、彼氏がいるから断ったって訳でも無いでしょう?」
「あの時は、俺がせりに、俺と付き合うか忍と付き合うかの二択からしか選ばせないって言う無茶な事を言ったんだけど、せりも本庄の事も煮詰まって来てて、忘れたいから無理やりにでも恋愛したかったから、田村は面識もあって、割と印象も悪く無かったから、俺の無茶な要求が無かったら付き合ってたかもしれないんだよ」
「悪いけど、橘くんと田村くんじゃ比べようもないくらい王子様のが全部において上回っていると思うけど?勿論田村くんが悪い訳じゃ無くて、橘くんが全体に良すぎるっていう意味だけどね!」
「それが、せりにはあまりプラス要素に成らないんだよ!せりが忍の何処に惚れてると思う?」
「確か、橘くんはせりかちゃんは面食いじゃ無いっていってたわね。あまりにも王子様が自信が無さそうなのが不思議で聞いたらそう言われたけど、そうなると見た目はあまり重視しないのよね?せりかちゃんの周りって玲人君を始めとして格好良い人が多いから、せりかちゃんも麻痺してきちゃったのかしらね?それで王子様の何処が好きなのか早く教えて!」
「せりが思う忍の一番好きなところは、悪事をうまく効率良く出来る所だと思う。普通はとても信じられない理由だろう?!」
「……それは、またマニアックな趣味してるのね…それが露呈しないのは、橘くんの何処が良いのかなんて誰も考えないからなのね?」
「結局は付き合う様になったら、せりは身内にはより一層甘くなるから、多分今は見た目も含めて全部が良くなってると思うけど、俺が忍に部活でされた仕打ちを言ったら『そういうところがドキドキしちゃうよね?』って怖い事を言ってたから、核となる部分はそういうところが良いらしいっていうのは大体分かっては居たけど、言われた時は結構引いたもんなぁ!」
「でも、橘くんは見た目にどうしても目が行きがちになる人では有るけど、全体に気配りもあって優しいし、その上、せりかちゃんにあれだけベタ惚れなんだもの。落ちない方がおかしい位じゃ無いの?」
「今日の電車の会話の内容覚えてるだろう?騙した事を暴露する気なら此処だけにしとけって嫌味言ってたのは、比喩とか例えとかじゃ無くて、あれはマジな話だと思う」
「騙されて付き合い始めたって言ったって、今はあんなに仲が良いんだし、些細な事を言ったのかと思ったけど、橘くんが相当黒い搦め手でせりかちゃんと付き合えるようにしたって事なの?!」
「多分な。俺にも、俺の無茶振りを利用させて貰っただけだから、結果どうなっても俺には気にするなって言ってたしな」
「そう。そういう気遣いは彼らしいけど、せりかちゃんの好きな所と彼の使った手段が合致したから、せりかちゃんも少し思う所が有っても付き合っているわけね?せりかちゃんからは別れないって本人も言っていた位だしね」
「そこが忍が気にしてる所なんだよなぁ!せりって変な所が律儀っていうか堅いから、付き合い始めた奴が駄目な奴でも許し過ぎるし、だから自分から別れるっていう事には当然成らないから、困るんだよ!」
「それって、うちの子は何をやっても可愛いみたいに親みたくなっちゃうって言う事なの?!」
「多分そんな感じだな。周りの友達にも多少発揮されてる所があるから、沙耶にも少しわかるだろう?」
「そうね。彼女は親しくなってから、私がする事を殆んど善意で捉えてくれるから、安心して付き合える所はあるわね。普通女の子の付き合いってもっとややこしい事が多いけど、せりかちゃんがさっぱりした性格だからかと思っていたけど、そういう側面も有っての事だったのね!」
「俺にもそうとう甘いらしいけど、本庄がせりの事を『赦しの聖女の様だ』って言うのを鼻で笑ったら、初めからある恩恵には人間は気付かないって逆に言い返されたんで、忍にそれを話したら、忍も本庄の意見に納得するって言われたら、悔しいけどあいつらの方が正しいんだろうって思ったんだよ」
「『赦しの聖女』とは随分せりかちゃんも本庄君に見込まれちゃったわね~!」
「でも、本庄には多分、そう言わせる位せりがずっと本庄の全てを肯定していた状況だったんだと思う。結局それに本庄も絆されたしなぁ」
「……それだけ全肯定して来た相手をようやく振り切ったのに、どうして本庄君はせりかちゃんを放って置いてくれないのかしら?」
「…そうか!忍が詮索するなって言ってたけど、沙耶が本庄がせりの事を好きな事を知ってる前提で話したけど、沙耶が忍に………ってごめん!今言ったのは無かった事にしてくれ!そうじゃ無いと忍との約束を破る事になる!」
「聞かなかった事にしてあげるから、本庄君にせりかちゃんを諦めさせて欲しいものだわね!橘くんが最初からせりかちゃんを諦めているのはおかしいと思わない?」
「そこは微妙に解るんだよな。せりは忍とずっと友達だったけど、そうなる前は忍を恋愛対象に見て居た時期はあったんだよ。でも忍への気持ちは育たずに婚約者もいる本庄に気持ちが根こそぎ行ってしまって、其処からずっと動かなかったし、忍とも好意から付き合い始めた訳じゃ無いから、気持ちが本庄に残ってないとは言い切れないし、むしろあって当然だと思うくらいにせりは、真剣に本庄を想っていたから、忍じゃなくても悲観的になるのは仕方が無いと思う」
「それじゃあ、まるでせりかちゃんが二股を掛けている様に玲人君も橘君も思っている訳?!」
「それは、せりは本庄の気持ちを知らないから俺達もせりに非があるとは微塵も思ってないけど、せりが忍を取るって言う絶対的な自信も無い。だけど、せりが忍を裏切らないのだけは分かる」
「じゃあ、それで良いじゃ無い!それでも良いって思う位、せりかちゃんを想っていないの?橘くんは?」
「逆にせりが辛くなってしまうのを心配してるんだよ。多分せりは、本庄の事が好きだから、本庄に告白されたら、本庄に応えたいと思うと思う。でも忍と付き合っていたら、その気持ちは奥に閉じ込めてしまうだろうから、それでも良いと思う位、好きなんじゃ無くて、それじゃ嫌だと思う位に忍はせりの事が好きなんだよ!」
「橘君は、本庄君と真綾ちゃんの事を考えてせりかちゃんに言わなかったのに、逆の思いやりは本庄君には無い訳?!」
「本庄も二人がうまく行く様なら、自分の入る隙間も無かったって事だから、諦めるって言っていたけど、二人が自然に別れるのを待って、せりを捕まえたら、せりが別れたいって言い出しても別れないって言っている位、執着心が激しい人間なんだ。今静観してる事自体かなり我慢してるだろうから、本庄も辛いんだよ!」
「玲人君は勿論橘くんを応援してるのよね?」
「ああ。だけど忍が俺に加勢するなって言うんだ。俺の影響からせりが忍を選んで欲しく無いって!」
「はぁ~。橘君も堅いわね!騙してまで彼女にしたんなら、もっとがっちり掴んで離さないようにすればいいのに!」
「せりに後悔されたく無いから、俺達が思うよりは距離を保った付き合いを忍は望んでいるようだから、離さない様な事はしないだろうけど、もしも忍よりも本庄を取ってもせりの親友でいるつもりらしい」
「そんな事、実際には無理よ!理想論だと思わない?例え、本庄君の事がまだせりかちゃんが好きでも橘君が離さないのが、最善に思えるわ!だって本庄くんだって彼女を手に入れたら嫌だと言っても別れないって言っている位でしょう?その位の強引さが無かったら、引き止められるものも、持っていかれちゃうに決まってるじゃ無い!」
「やっぱりそうなのかなぁ?俺達はせりの気持ちを一番に考えての事だから、せりの気持ちを見守ろうと思っていたんだけど…」
「せりかちゃんが、もしも今の状況で本庄君を心の中で思っていたとしても、多分そうなったら、どちらにも行けないでしょうね」
「そうやって逃げられるのが一番嫌だって忍も言ってたけど、やっぱり沙耶もそう思うんだな?」
「逃げっていうよりも、其処しか道が残されない様にしかみえないわね!男の人ってそういうのを、逃げだと思っている訳?彼女の意志でどちらかを選ばせるのが彼女の為だと思っているのなら、とんだ勘違いだと思うわよ!それこそ、彼女の意志を尊重したいなら、何処までも離さない執着を見せても、それでも彼女が違う道を選んで離れて行く時が、せりかちゃんが本当に自分の意志を貫いた時でしょう?今みたいな生温い状況は彼女の事を考えた事じゃ無くて、橘君が彼女に振られても自分が傷付かない準備をしている様にしか思えないわ!」
「…………………沙耶はやっぱり忍にも厳しいんだな?道理で忍が珍しく女の子と親しくしている訳だな」
「そういうマゾっ気はあの人には無いでしょう?結構私にも怖いのよ?でも、彼は見た目よりもとても黒い面はあっても、私は彼を信頼してるからせりかちゃんが趣味が悪い結果だとしても、橘君を選んだのは間違いだとは今でも思ってないわよ!」
「本庄が動くのを俺と忍は待ってる状況なんだけど、沙耶はどう思う?」
「馬鹿じゃないの?!早く手を打つべきでしょう?相手が動くのを待っているなんて何処まで弱腰なのよ!」
「沙耶は男らしいよなぁ!もしかして俺達は結構受け身過ぎなのかな?」
「玲人君も橘君も、自分から行かなくても相手の女の子が寄って来てくれる環境に慣れ過ぎなのよ!だから、そうやって攸長な事を言ってられるんだわ!他の男の子達が必死にアピールして彼女を捕まえるのを少しは見習った方が良いと思うわ!」
「なんだか言葉も無いな。そういう風に見られている訳か…。はっきりそういうキツイ事を言われた事も無かったし、いい気になっているつもりも無かったから結構今の言葉は胸に刺さったな!」
「必死になるのは、見っとも無くないし、皆がしてる事なのよ?それを相手の為だとか言うのは綺麗事か、すぐ次が出来る余裕がある人に見えるわよ?せりかちゃんだって、橘君が自分に執着しないのはそういう理由だと思ってもおかしく無いって考えた事が無いのかしら?」
「多分無いだろうな!忍は割とあれで容姿にコンプレックスが有るから、そういう考えにならないと思う」
「あの見た目に文句が有るんだったら、聖職者にでもなった方がいいんじゃ無いの?!」
「確かに、だったら清らかに生きて行け!って言いたくなるよな?逆の意味でコンプレックスを持っている人間からすればとんでも無い理由だしな?」
「とにかく私は、色々と橘君の考えを覆したいところだけど、人の考え方を曲げさせるのは、間違っていると此方が思っていても傲慢な行為だと思うから、唯黙って見守る様な非生産的な位置では甘んじないけど、介入し過ぎない範囲でせりかちゃんを応援する事にするから!」
「沙耶も段々、せりの過保護隊になってきたよなぁ!せりの周りって生徒会の先輩達もそうだし、俺と忍は初めからそんな感じだし、本庄だって最初からせりに好きだって言っちゃえば良いのに言わないで、せりが困るのを避けてるから、俺から言わせればあいつもかなり過保護なんだよな?大体田村の告白の時だって、付き添ったんだろう?マーヤにならともかく相手の男からするとたまらないよなぁ?」
「せりかちゃんってしっかりしている所とそうじゃない所がギャップが有り過ぎなんだもの!実際は橘君に捕まったのだって、如何にかしたい位の気持ちにさせるわよね!でも彼とは波長が合うってせりかちゃんが言っていたのよ!そういう事って、好きっていう強い気持ちよりも付き合っていく上では大事な事だと思わない?」
「それは、流石に好きな気持ちの方が大事じゃないのか?」
「玲人君は長く付き合った人が居ないから、そう思うのよ!好きだからってだけでは価値観の差とか埋まらないと思うし、付き合いも続かないのものなのよ」
「沙耶は今の彼氏と価値観が合ってうまく行っているのか?」
「そうね。実は今は少しうまく行って無いのよ。でも彼とは価値観が近い方だから、この倦怠期を抜ければ大丈夫だと思っているの。でもただ単純に彼が好きなだけだったら、今はそれ自体がお互いに少し薄れて来ているからとっくに別れちゃってると思うのよね~!」
「他にもっと好きな奴が出来ても、居心地の良い方を選ぶのか?」
「そういう意味じゃ無いのよ!薄れたって言うのはお互いに新鮮さが薄れたのは否めないから、あっちにもそういう好きな人が出来て別れる事だってあるとは思うけど、繋がっているのが気持ちだけだと乗り切れない時期が来てしまうと思うんだけど、玲人君は真綾ちゃんとはまだそういう時期じゃ無いし、本庄君が適当に邪魔してくれるから、付き合いがマンネリ化するのはずっと後の事かもしれないけど、そういう時期を乗り越えられる人達ばかりじゃないでしょう?少し生意気な事を言っているかもしれないけど、まさにそういう時期をむかえてしまっていると少し説教くさくなるけど私の中では札幌で初めてのデートの後に、せりかちゃんが言った『彼とは波長が合う』っていうのは、充分、彼氏としては応援したくなる条件なのよ!」
「沙耶はそれだから忍を応援してくれているのか?」
「まあね!どちらかというと橘君を応援していたつもりだったけど、玲人君と話していたら、どうして彼を応援したくなったのか自分でもよく分かった感じがするわね!」
昇ろうとした階段を降りて二人で少し話し込んでいたら時間が結構経ってしまっていた。
「少しは飛び込みしない?二人で何やってたのっていわれちゃうしね」
「そうだな!でも沙耶と話したら、今迄間違ってたのかもって思うところが出てきたよ。俺達はせりの為だとかって言いながら、案外逃げていたところも有るのかもな」
「じゃあ、色々吹っ切れる様に一番高い所に行っちゃいましょうか?」
橘に手を引かれながら歩いていたせりかは、二人の目が無くなると、橘の手を振り払った。
「椎名さん、どうしたの?」
解っていて聞くんだから性質が悪い。
「玲人達の前で恋人らしい事をされるのは流石に恥しいのは判ってくれてるわよね?」
「そうだね。なんだか親の前位に恥しいかもね」
「だったらもう少し普通に抜けても良かったんじゃ無いの?流石の橘君だって玲人の前でああいう行動は辛いでしょう?」
「うん。でも、玲人もわざとなのが分かってるから期待に応えないと悪いかと思ったんだよね」
「玲人が何を期待したかは分からないでもないけど、だったら普通に玲人だって二人で泳いでくればって言ってくれればいいのに!」
「やっぱり椎名さんだってわざと玲人が俺達に気を使ったのが分かるんだったら、少しはそれらしくするのが礼儀ってもんでしょう?」
「礼儀ねぇ!沙耶ちゃんがものは言い様の綺麗なお手本って言った意味が分かるわね!」
「それは椎名さんが少しは照れてくれて面白くなるかと思った事は認めるけど、これだけ静かに怒られると俺も流石に引くけどね」
「それは少しは意趣返しが出来たという事なのかしら?」
「まあね。あそこで淡々とされるとこっちの負けかなって感じだよね」
「函館以来の勝利かしらね?」
「それ以外にも椎名さんが分かってないだけで負けっぱなしだけどね!それでお嬢様は何処で泳がれますか?」
「室内のプールに行きたいわ。今は日差しが一番きつい時間だしね」
「かしこまりました。お嬢様」
「最近のドラマの真似かしら?」
「まあね。お気に召しませんか?」
「出来たら止めて頂きたいわね」
「じゃあ執事モードは止めてお友達モードがいいかな?」
「なんで執事から友達っておかしくない?私達は元々ごっこで恋人な訳じゃ無いのよね?なんだか橘くんといると真似ごとで彼氏だったのかと思う時があるのよね!」
「今日はじゃあ、恋人ごっこ風で遊んでみる?」
「どういう遊びだか意味不明なんですけど!」
「まあ、そう言わずに…まずは手から恋人風つなぎにして~、それから大きな浮き輪を借りて二人で入ろうか?」
「あれは恥しいわよ!」
「恋人ごっこをしようって言ったのは少しは雰囲気から入ろうって意味だから、無理めな所から遊ぼうよ?嫌なら別に直ぐにやめてもいいからさ」
「分かったわ。玲人にも気を使われたのには少しは乗らないと申し訳ないと思ってるんでしょう」
「流石に察しがいいね!俺達が普通に過ごしたら玲人の小芝居も台無しでしょう?」
そうして室内プールに行くと全く人が居なかった。
「入っても大丈夫なのかしら?」
「みんな晴れてるから屋外に行きたいんじゃ無いの?それにここは少し奥まってるから、ある事に気が付く人も少ないのかもね。人が居ない方が恥しくなくていいんじゃ無いの?」
「恋人ごっこの話?なんだか誰も居ないのはそれはそれで堪えるんですけど!」
「そうだね!俺もそれは少し思ったけど、やめる?」
「折角浮き輪も借りて来てくれて、玲人に一応恋人らしく二人で甘々報告しないとがっかりさせちゃうから、やってみるだけしましょう」
二人で大きな浮き輪に入って浮かぶとなんだか本当にそれっぽい感じがしてきた。
「一回やってみたかったって奴、これも?」
「ごめん!実はやった事あるんだよね」
「……橘君の嘘を付かないところは好きだけど、これを他の人と前にしましたって言われるのは結構衝撃が大きい様に思うけど!」
「ついでに言うと、もう少しべたべたした感じだったかなぁ?」
「じゃあ、この位は全然余裕なわけね!なんだかこっちだけドキドキするのも悔しい感じがするわね」
「充分こっちだって余裕なんて無いよ!少し胸に手を当ててみて?」
せりかの手を掴んで胸に手をあてると確かに鼓動がとても早い。
せりかは自分の胸にも手を当ててみると同じ位の早さだった。橘もそれなりには動揺しているのだと分かった。
「私は、かなり恥しいけど、彼氏が出来たら少しはやってみたかったから嬉しいかも!お祭りに浴衣で行くとかは玲人でも出来るけど、こういうのは流石に無理でしょう?」
「玲人の方はやってって言ったら喜んでやったんじゃ無いの?」
「とんでもない!橘くんは玲人を誤解してるわよ。玲人は私に告白は出来ても、多分キスは出来なかったと思うわよ?今からは試せないけどね」
「それはどうなのかな~?」
「今日帰ったら試してみる?橘君と喧嘩したとか言ったら絆されるのかしら?でも向こうも今は彼女持ちだし、うっかりすると浮気騒動になっちゃいそうよね?」
「それ以前に俺が妬くとかは思わないの?」
「橘君は玲人には妬かないのは知ってるから…その辺りは少しも心配出来ないわ」
「そうだね。そんな変な遊びを試すのは、玲人に酷だから止めてあげて欲しいよね!玲人の友達として言うならね?」
「橘君は玲人の方が大事なのね」
くすくすとせりかが笑うと振動が浮き輪に伝わってきて小刻みに揺れた。
「悪女の魔手からは守ってあげたいくらいには、玲人は大事な友達だけど、俺はその悪女に惑わされてるから何とも言えないね」
「今のを録音して置きたいくらい、橘くんに似つかわしく無いキザな言い方ね!なんだかタラシっぽくて面白いわ!恋人ごっこは人格設定も少し変更有りなの?!それで私は悪女設定なのね?」
「遊びだと、そういうのも面白いかもね!だけど、さっきは真剣に言ったんだけど、椎名さんは意外と天然に悪女だよ!」
「悪女の基準って何かしらね?私からすると複数の男性を惑わせないと悪女な感じじゃ無いのよねぇ」
それはもう既に何人かは惑わせているのだから、立派に悪女だと橘は思うがそれを此処で言うほど馬鹿ではない。
「じゃあ、悪女モードで俺を誘惑してみて?」
「彼氏なのに~?もう落ちてる筈よね?違うのかしら!」
「今日の二敗目だね。そうだよね。もうどっぶり沼に引き摺りこまれてるよね?」
「話が悪女から妖怪になって来てるけど、今日はお誕生日特典でその辺りまでの暴言は許す事にしとくわね」
「優しい悪女だと拍子抜けするから、もう少し悪女設定確立してくれないと面白く無いなぁ!」
「ムチでも持てって言うなら此処でお別れしたいわね!」
「そういう冷たいのが結構クールで椎名さんっぽいよね~!中々いい感じだよね」
「私、付き合う時に変態さんは嫌って言ったわよね!」
「あのロリコン確認?ああいうのは、付き合う前に確認して置きたいかもしれないけど、もしも本当にそういう人に確認取ったとして正直に答えて貰えると本気で思ってるの?」
「確かに!私が浅はかだったのね!じゃあ今の状況は仕方が無いのかしら?」
「随分諦めが良いんだね。そういうのを諦めて付き合いを続けてたら駄目だと思うよ」
「彼氏からそういうお説教は真剣に凹むわよね!ましてこの状況下でされると三倍くらいの威力が有るわよ!」
「じゃあ、少し甘めな設定に変えようか?」
そう言うとせりかの首の後ろに手を入れて来て腕枕の様にしてくれた。
「結構良い感じに枕っぽくて楽かも!重く無いの?」
「浮力が有るから全然重く無いけど、意外に照れないね?」
「悪女が照れたら駄目なんでしょう?」
「じゃあ、照れるまで色々しちゃおうかな~」
悪戯っぽく笑う橘は楽しそうでいつもの様な憂いが無い。せりかも付き合う前の明るい彼を思い出す笑顔に嬉しくなって笑うと、了解と取られたのか、腕枕していた腕を前まで回して首を固定された。
「ち、ちょっと待って!まさかこんな所でキスなんてしないわよね?」
「誰も居ないし良いんじゃ無いの?外のプールでしてる人達もいた位だし」
「誰か来たら如何するのよ?!」
「じゃあ、誰もこないうちに……」
チュッと一瞬されると少し物足りないと感じてしまう様になったのは、絶対に橘の所為だった。
「いつも思うんだけど、少し短いと思うんだけど、橘君としかした事が無いから分からないけど、普通ってドラマとかだともっと長いわよね?」
「ドラマは少し長過ぎだよ!中間位かそれより短めが普通なんじゃ無いの?」
「そうよね。札幌の時はもっと長かったと思ったけど、こっちの感じ方の差じゃ無かったのね!」
「あれは、別れ話の時だし、寒かったから長めの方が少し温かくなるでしょう?」
「嘘じゃ無いかもしれないけど、そんな理由だけで長いなんておかしいと私が思わない程、何も分かってないと思われてるの?!」
「意外とそんなものだよ?暑い時にくっついたら暑いから、冬の方が近いでしょう?」
「そんなの、冬に彼氏がいた事が無いから分からないわよ!」
「椎名さんはもう少し長くした方がいいの?」
「回数は少なめにして貰いたいけど、付き合い始めてから掠める位しかしないのは、おかしい感じがするし、正直少し物足りない感じが……」
ずっと思って来た事だったので思い切って言ってみたが、言ってもいい事なのかどうか不安になって来た。
「こういう事って言ってもいい事なの?」
一応彼氏兼お勉強も兼ねた先生に御指南を願うとにっこりと笑って「言うのはやっぱり駄目かな?」と少しだけ自信無げに答えられた。
「絶対に駄目って訳ではないけど、はっきり言うのはちょっとね」
「どういうのが正しいと橘君なら思ってるの?」
「じゃあ、椎名さんから俺がしたみたいにしてみて?」
若干では無くかなり恥しいが、此方が教えを請うての指示なので素直に従った。
せりかからチュっと短くさっきと同じ位の軽いキスをすると「もっと」と指示が来たのでもう一回すると「もっと…」と言われてもう少し長くしろという意味だとピンと来た。
今度は長めにすると「合格」と先生からオッケーが出た。
「成程ね~!さっきのがすっごく駄目なのは分かったわ!あまりにも情緒というか風情が無さ過ぎなのね?」
「ものすごく役得だったけど、そういう事!あまりはっきりと言う事じゃないんだよね?」
「じゃあ、もう一回実践で練習してみてもいいかしら?」
「人が来るかもしれないし……」
「それは、さっき私が言ったけど、平気だったくせに!」
「彼女から練習でって言われると気分が悪いとかって思わない?」
「役得って言ったくせに!」
「椎名さんが無神経なの!これ以上はヤダ!」
本気で臍を曲げられた様なので、少しせりかも焦ってしまう。練習でっていうのが大分駄目な言葉だったらしい。
「じゃあ、恋人のキスでお願い!」
「流石、学習能力高いね!でももうあと一押し欲しいなぁ!」
「橘君、大好き!」
「…あんまり気持ち籠って無いよね?」
「厳しいから、もういい!」
「ごめん。少し遊び過ぎたかな?」
そう言って短いキスをせりかに落とすとせりかも次に言わなくてはいけない言葉を口にしようとしたがなかなか難しい。
「~~!も…もっと」
やっとの思いで言うと少し長めに口付けてくれた。
「言い方が可愛いから変な気分になりそうだったから、次は勘弁してね?」
「だって、実際に言うのは結構大変なんで、言わないで逃げようかと思ったけど、がっちり首をホールドされてるから逃げられないから覚悟決めて言ったのに!」
「もう効果的にはばっちりで良かったんじゃ無いの?」
「良かったんなら、もう少し雰囲気が違うと思うんだけど、本当はやっぱり少し駄目だったの?」
「いや、本当に結構ヤバかった。恥じらうのって意外と男には効くんだよ」
「そういうのってはっきり聞くと、かなり恥しいんですけど!」
「駄目だったかって言うから手っ取り早く分かる様に言ったのに!遠まわしじゃ椎名さんには伝わらないんだもん」
「分かりました!はっきり言わせてすみません」
「じゃあ、もう少しまったりとこの状態でいる?」
「腕が大丈夫ならお願いしようかな?…前の彼女にもしてあげたの?」
「本当に聞きたいの?」
「妬いてるってだけじゃ無くて橘君が今は私に合わせて付き合ってくれてるのが分かるから、実際はどうしたら橘君と対等なのかなぁって思っちゃうのよ!」
「充分対等だし、どっちかっていうと負けてる感じだけど、前の彼女には向こうがして欲しいっていうから腕枕もしたけど、椎名さんには俺がしたいからだから、拒否されないかこっちも探り探りだから、かなりドキドキしてるよ?」
「とてもそうは思えないけど、普段嘘を言わないとこういう時に本当なんだって判って良いわよね?私は拒否したりしないから、そんなに慎重にならなくても大丈夫よ」
「実質的な拒否は無くても、不快な思いは出来るだけさせたくないんだよ」
「それで今迄キスが短かった訳じゃ無いわよね?まさかこれだけしてるのに!」
「…だって試験勉強の時は少し嫌だったでしょう?」
「あれは、勉強にならなくなっちゃうから、嫌とかじゃなくて普通に駄目なんじゃ無いの?」
「口実が無いとしにくいだもん。椎名さんって!」
「私が悪いの?」
「今日だって練習でしかさせてくれないでしょう?!」
「…橘君からすると私は歴代の彼女と比べると、たかがキスも滅多に許さない堅い女に見えている訳?」
「そういう風には言ってないけど、口実が無いと、甘い雰囲気にはならないから、それで無理やり自分だけがしてもこっちも辛くなるし、それに好きな子から練習に付き合わされるのは、他の奴でされるよりは勿論全然良いけど、結構虚しくなるよね!」
「どうしたらそういう感じに成るのか未だによく分からないから、割とはっきりめに言って貰った方が風情が無くても良いかもしれないと思うんだけど…?」
「例えば、別れ際とかでキスしても大丈夫なオーラが出て無いと、中々難しいよね?」
「別れ際って道で、しかも家の前とかでしょう?かなり無理があると思うんだけど!」
「だから、そういうきっちりした別れ際じゃ無くて、俺の部屋を出る寸前とかにシンデレラの時みたいに目でも閉じてくれるとこっちも行き易いんだけど、さっさと帰っちゃうでしょう?いつも…」
「そういう風にしないと駄目だったんなら、もう少し早く言って欲しかったけど、これからは人目が無ければいつしても私は構わないから、橘君の私に対する認識を変えて貰った方が良いと思うんだけど、どうなのかしら」
「さっきも数は減らしてって言ってたけど、散々したらやっぱり嫌でしょう?」
「試験前とかじゃ無ければどれだけしてもいいから、さっき言った事も取り消すし、練習も橘君としか出来ないから、そう言ってはいても私からはどっちも一緒なのよ!強いていえば普通がこの位って言うのを教えて貰う時に、結構恥しいのを頑張って強請ったりしないといけない時は練習だって言い聞かして心を強く持たないと、精神的にこっちも持たない時も有るのよ!橘君の気を悪くさせていたみたいだから、自分が恥しいのの逃げに練習とかって言う言葉をもう使わないから、機嫌を直して貰えないかしら?」
「椎名さんに機嫌を取って貰ったなんて他の人にいったら締められそうだな!玲人とか伊藤先輩とかに言ったら相当大変な目に遭っちゃうんじゃ無いかな?」
「そんなに有り難がる御利益も無いから…玲人は過保護なだけだし、伊藤先輩はペットみたいな感じで分かり辛く可愛がってくれてるだけでしょう?元々、私が駄目なのを改善してくれる約束だったから、それを引き摺っていたけど、いつまでもそのままだとちゃんとしたお付き合いに成らないわよね。ごめんなさい。私が橘君に甘え過ぎなのよ。きっと…」
「俺が椎名さんと付き合えているだけで満足するべきなんだけど、気持ちがどの位向いてくれているのか確かめる手段にしてるから、練習とかだとそれが縋る手段に成らなくなってしまうから、自分でも思ったよりも堪えたみたいなんだ。椎名さんを反省させちゃう事じゃ無いし、甘えてくれるのはむしろ前にも言ったけど、大歓迎だから、俺も最初の約束を少し忘れかけて、自分勝手な事を言ってしまって本当にごめんね?勉強とリハビリだった筈が俺の中で少し勘違いして来てしまっているから改めるのはこっちの考えなんだよね。無理な事を言って困らせたけど、椎名さんが嫌がる様な事はしないから、あまり警戒しないで欲しいんだけど」
「無理な事なんて全然思って無いし、私がそういう隙を作れない駄目な彼女だって教えてくれたんだから、改善するのは橘君がまだ私と勉強してくれる気があるなら、尚更これからもはっきりと言って貰った方が良いと思うの!まだまだ甘えてしまう関係でも良いって思ってくれてるなら、これからも駄目な所があったらもっと早く言って欲しいんだけど、橘君はそれでも良いの?」
「椎名さんは男に甘い顔をしすぎちゃ駄目だよ!俺がさっき言った事なんて男の自分勝手な我儘だし、少し甘えも入ってるから、それを許すと付け込まれちゃうよ?!」
「多分、正反対でも今の言葉の方が、橘君の私への教育だって分かっているけど、誰にでも甘い顔をする訳じゃないんだし、橘君になら付け込まれても構わないと思っているけど、それじゃ駄目なの?」
「今日これから、俺の部屋に来ても良いと思っているなら、その言葉も許容できるけど、そうじゃないでしょう?だったらそういう事は言っちゃ駄目だからね!」
「確かに私は大分駄目な彼女かもしれないけど、そう出来ないと決めつけるのは橘君の思い込みなのよ!私も考え無しに付け込まれても良いと迄は言わないわよ」
「そういう事をされても良いと思ってるって事?!」
「身を任せても良いって意味ならそう思ってるわよ?そう思わない人と部屋に二人っきりに成れる程、私も無警戒じゃないつもりだけど?」
「そういえば札幌のホテルでは玲人は平気でも俺とは無理だって玲人にしがみついたもんね!」
「そう言われると玲人とだったら良いのかって思われそうだけど、玲人は物ごごろ付いてからずっとだし、向こうも変な気なんて起き無いのがはっきりしてるから平気だったけど、橘君とあの時点ではやっぱり二人になれないって思ったけど、玲人が『あんなに女に不自由しなさそうな奴がせりなんてお子様に手を出す訳無いから自意識過剰だ』って酷い事言って置いていかれたけど、あの時は悪いとは思ったけど、ずっとドアの傍で張り付いて話したし、橘君も気を使ってくれてかなり話すにしては不自然な程距離を取ってくれたから、二人で居れたけど、親友だと思っている時点だってそこまで無防備でいたつもりじゃ無かったけど、でもそう思う様になったのは田村君の告白の時に少し怖かったのが大きいのよね!それまでは無頓着で玲人や橘君に心配させてしまったのを後悔したし、二人が私の為って言って付き合いを強要して来た時も理不尽だと怒っていたけど、それだけ心配させてしまっている事を申し訳なく思う様になったしね」
「申し訳無くなって、俺と付き合い始めたの?」
「違うけど、橘君に好きだとあの時点で言われたら、駄目な私の勉強の為に付き合うのは断ったと思うわ。だって悪いでしょう?」
「騙されて付き合う様になったのに、あまり怒らないよね?たまには嫌味を言うけど、あれは俺がやった事に比べれば随分可愛いものだよね」
「そういう事を狡猾に出来て、結局今みたいに上手く収めちゃう所が好きだから、言う程腹を立てていないのよ。こういうのって言うのは恥しいんだけど、許してくれないわよね?」
「随分趣味が悪いんで、俺が心配になるけど、一応好かれてるのかって思えるのは嬉しいけどね」
「玲人も趣味悪過ぎって散々言うけど、それでも玲人も橘君の事は好きだから、私の悪趣味は貴方に限り許すらしいわよ!」
「玲人の方がずっといい奴なのに、椎名さんも玲人に告白された時点で、受けてしまえば良かったのに!」
「キスも出来ない様な関係の相手と付き合って、どの位持つと思うの?女の子の方だって全然そういう事を望まない訳では無いのよ?本庄君と真綾さん達を見たって私達の付き合いの破綻はもっと早かったと思うわよ」
「本庄がフリーになっても彼に心が動かないの?」
「彼が、元々真綾さんを好きだった訳では無いって聞かされた時には、真綾さんがいるから、私じゃ駄目なんだって思っていたけど違ったって分かって力が抜けたけど、恋愛よりも真綾さんが重い存在だったって言われたら、真綾さんに対して酷い事をしたって言っていたけど、私はそうは思わなかったわ。私だったら、どんな形でも想う人から必要とされたら、傍に居たいと思ったと思うから、手を離してしまった真綾さんはしかたが無いのは分かるけど、それでも本庄君も好きな人が他にいるみたいなのに真綾さんを取ったわけでしょう?!玲人には悪いけど、真綾さんも、別れたにしても、もう少し気に掛けてあげても良いと思うのよ。私じゃ彼の助けに成れないけど、話を聞いてあげたいとは思っているのを、橘君の了解は貰って置きたいんだけど良いかしら?」
「本庄が好きなのって誰だか知ってるの?」
「いいえ。恋人がいる人だって言っていたけど、自分の為に相手の幸せを壊せないって悩んでいたから、今度話だけでも今迄の恩返しになるかは分からないけど聞くって言っちゃったから、橘君にとっては友達だし、私があれだけしつこく執着していた相手でもあるから、気持ち的には微妙かもしれないけど、橘君と付き合うまで、彼には助けられてばかりだったから、ほんの少しでも助けに成りたいって思うのをやっぱり橘君は快くは思わないわよね?!でもお願い!私がこうして今橘君と向き合えているのだって、彼が親身になって相談に乗ってくれた事が考えを変えた一因に成ってるっていっても過言じゃ無いのよ。橘君と付き合うのはかなり勇気がいる事だったのに、そういう事を考えないで良いって思える様になったからこそ、今のお付き合いが有る訳だし……」
「本庄が居なかったら俺とは付き合って無いの?」
「そうね。おそらく無理だったと思うわ。大学生とか位になれば違うと思うけど、彼に橘君の横にいても大丈夫だって説得されたし、見た目とかの違いで自分が卑屈になるのが嫌だったけど、そういうつまらない理由で断らないでくれってずっと言われ続けたら、本人を見て決めなくちゃ相手に悪いし、自分の勝手に作った橘君の横に立てないっていう酷い理由で断らないで済んだから、今でも橘君は私の事を好きでいてくれたわけでしょう?」
「でもあの時はそれで本庄に惹かれて行ってしまった訳でだよね?」
「真綾さんに甘い本庄君が好きだったから、あの時点での『好き』は自分でもかなり子供っぽいものだったと思うし、相手と付き合いたいって思った訳では多分無かったと思うのよ。逆に彼女がいる相手で揺るぎそうも無いから安心して好意を寄せられたんじゃ無いかと思うと、あの時、簡単に断ってしまった玲人や橘君には、申し訳無くて顔向け出来ない位の感じなのよね…」
「まだ誰とも付き合いたく無かったって事なのかな?俺もその時、実はそんな事を玲人に言って宥めたんだけどね」
「橘君はあの時点で分かっていたって事なの?私だって今になって思えばって感じなのに」
「でも段々とそうでは無くなって行ったよね?」
「私はやっぱり断ってしまった橘君と玲人に、少し負い目を感じてしまう時期もあって、普通には出来ても親身になったりは出来なかったのよ。あの、昔から一緒の玲人にさえ、想いに応えられない罪悪感があって気まずかったのに、本庄君は、何も無かったみたいに今迄と同じか、それ以上に近くに接してくれて、それだから余計に諦めきれなくなったのかもしれないけど、私は自分が出来ない事を私に対してやってくれる本庄君を尊敬したし、悩みが出来ても玲人には相談出来ないけど、本庄君になら相談出来る様になって行ってしまったの。きっとこっちが振られている分、向うが優しくしてくれる事を甘受し過ぎたんだと思うけど、それまでは、ずっと玲人に頼ってしまって来ていたから、玲人に変わる存在を無意識に捜してしまうのも私の駄目な所なんだと今は思うけど、やっぱり玲人が気持ち的に離れてしまった空虚感を埋めてくれた事に、かなり気持ちが動かされてしまって、そのうちに真綾さんの位置に自分がいたいと思う様になって行ってしまったけど、玲人の代わりを本庄君に求めてしまっていた部分も大きいと思うから、純粋に好きなだけの橘君への気持ちとは違うと思っているんだけど、これで納得してくれないわよね?」
「俺を好きな理由はさっき言った事だけ?」
「これだけ本庄君を好きだった訳を話せるのにおかしいかもしれないけど、橘君の事は明確な理由と言って話せるのはさっき言った事だけだけど、何処が好きだって言える範囲ばかりじゃ無いのが『好き』って事なのかなって思うのよ!橘君だって私の何処が好きかなんて、明確には無いでしょう?前に聞いた時ははぐらかされた感じだったけど、言えなかっただけじゃないのかと思ってるの」
「そうかもね。強いてあげれば有るけど、椎名さんを好きになったのは随分前過ぎて、何が理由だかもう分からなくなってるかもしれないけど、今はどうしたら椎名さんが俺の物に成るのかって考えてるけど、望めば心はともかく身体は手に入るって分かったけど、それは後から椎名さんに後悔されたく無いからしたくない」
「本庄君の事を疑っているのなら、彼には近づかないって言いたいけど、彼のお蔭で今があるのに自分だけが幸せで良いとは思えないのよ!それに変わらずにいてくれた彼に彼氏が妬くからって態度を変えるというのは出来たらしたく無いのよ」
「本庄に近づかないでって思って無いし、椎名さんも彼氏のいう事を全部聞かなくちゃいけない事も無いから、玲人と出掛けるのも本庄に会うのも俺に確認しなくてもいいよ」
「橘君を不安にさせたく無くてやっていたけど、余計な事だったのかしら?」
「いや、余計じゃ無いし、正直続けてくれても良いけど、椎名さんの自由を奪うような付き合いは俺は望んでないし、こういうとまた怒られそうだけど、違う人と付き合う時に、相手にそれを求められれば椎名さんが良いと思える範囲でした方がうまくいくと思うよ」
「橘君は女の子と二人で会ったりする事ってあるの?」
「…………………」
とっさに沙耶の顔が浮かんでしまい、無いとは返事が出来なかった。
「無くは無いかなぁ!」
観念して本当の事を言うと少し空気が張り詰めたのがわかった。
「やっぱりこれからも報告はするけど、橘君に反対の事は求めないから安心して?」
「だってそれはフェアじゃないでしょう?」
「じゃあ報告してくれるの?何と無く様子でしたくないみたいだから、私も橘君を困らせたくなく無いのよね」
「確かに聞かれたら困るんだけど、勿論、椎名さんを裏切る様な事はして無いから!」
「それは分かってるけど、私、自分の事は棚に上げて、橘君に二人で会う程親しい間柄の人が居るって思わなかったから、なんとも無い相手だって言っても、本当に何でも無い相手と橘君が会うのかしら?って少し不信感がでて来ちゃうのよ」
「そう思われる要素が満載なんで、椎名さんがそう思っても仕方が無いと思うけど、本当に何でも無いから!」
「反対の立場になると、橘君が本庄君のこと不安に思ってしまうのも分かったわ。信用されて無いからかと思って少しさみしかったけど、絶対に大丈夫だと思っても気持ちが揺れるものなのね」
「信用してないわけでは勿論無いけど、俺の方は純粋に友達だし、玲人と同じ位には心配して貰わなくても大丈夫だから」
「でもやっぱり本庄君を避けるのは、どうしても出来ないって言ったら嫌いにならない?」
「俺よりも本庄を取るの?って言うと思ってるの?それは本当に本庄を取っても言わないし、その時は友達に戻るから、俺の存在を理由に椎名さんに気持ちを曲げて欲しく無いから、本当に自由にしていて欲しいんだよね」
「……今日沙耶ちゃんの家に泊まらせて貰う約束なの。でも沙耶ちゃんは橘君と過ごしたら?って言って橘君に誕生日のプレゼントって言ってホテルの宿泊券をくれたのね。なんだかポイントが貯まったから貰ったけど、七月迄しか使えないから、良かったら使ってって渡されたんだけど、それを橘君に渡せないって言ったんだけど……………」
「気を使わなくても無駄に成っても仕方がないんじゃ無いの?まさかそんな理由で俺と泊るつもりじゃ無いよね?」
「橘君が後悔されたく無いからって言っていたけど、私はそれは後悔しないかどうかっていうのは実際にしてみないと後悔しないって言えないけど、たとえ後悔しても良いと思っているの。こういう言い方は情緒が無いって思うけど、抱かれても良いと思うくらい好きな人と相思相愛になれるのって、これからあるかどうか分からないし、それに橘君の不安が少しでも薄くなるならそうして欲しいんだけど、急に言われても困るわよね?!」
「かなり困るよ!好きな子にそんな事を言われて手を引ける男なんて居ないよ!でも玲人にも手は出さないって約束してるし、本庄の事もあるし……」
「玲人と約束って!どういう話をしてるのよ?!それにここで本庄君の事を持ちだして来られるのも違う気がするんだけど」
「本当にいいの?石原さんに焚きつけられて無いよね?」
「沙耶ちゃんは、渡せなかったら予定通りに沙耶ちゃんの家でパジャマパーティにしようって言ってくれてるから、断られたらそうするつもりだけど」
「じゃあ、帰りまでに椎名さんの気が変わらなかったら、今日は一緒に居よう。でも、一回だけまじめに考えて欲しいんだけど、本庄からもしも好きだと言われたらどうするの?!」
「それは、絶対に無いと思うけど、今、橘君と付き合っているのに誰に告白されても揺るがないわよ!別れるのは、貴方自身が嫌いになった時か、反対に私を嫌に成られるかじゃ無いの?」
「椎名さんの中では、心変わりっていう考えは無い訳か」
「橘君の中では有るみたいね?私は浮気とかっていうのは、相手の事をもう好きじゃ無いから出来るんだと思ってるから、もしも橘君が浮気した時には、もう私を見限ってると思うから、その時点で、橘君の中で私とは終わってしまっているんだと思っているから」
「随分さっぱりしてるんだね?身体まで許した相手がそんなに簡単に見限っても構わないの?」
「橘君に見限られる時は、簡単にじゃ無いと思うけど、だからって絶対に別れない程繋ぎとめられる自信も無いのよね~」
「そろそろ行かないと時間が来ちゃうけど、気が変わったらじゃ無くて、変わらなかったら言って来て!」
「橘君は良いのね?!」
「椎名さんって男前だよね!俺の心配をしてくれるんだ?」
「だって橘君って私と沙耶ちゃん以外の女の人って苦手でしょう?いくら彼女で、橘君が普段は大丈夫でも、実際はそういう事は嫌かもしれないでしょう?」
「椎名さんに限り大歓迎だけどね!そういう風に思われてたんだ?」
「私以外が駄目なんだったら、充分に有る心配だとは思うけど…でも私も橘君以外は無理だから、其処は当然なのかな?!」
「当然って事にして欲しいけど、そればかりでも無いよね……」
「じゃあ橘君が私が大丈夫なのはどうしてなの?」
「やっぱり好きだからじゃ無いの?」
「沙耶ちゃんも割と平気みたいだけどどうして?」
「彼女も人間としては好きだからじゃ無いかな?」
「そこの差ってどのくらい有るの?」
「石原さんは、良い子だし、色々と今回の件も含めてお世話に成りっぱなしだから、今回の接待企画のプレゼントは正直とても嬉しかったけど、石原さんがくれたプレゼントの方が何万倍も嬉しいかな?!っていう位は差があるよね?」
「そう。じゃあ心の準備をしておいてね?」
「それは普通はこっちが言う事でしょう?」
「だって私は朝から沙耶ちゃんに言われて、ずっと考えてたから、一応準備出来てるけど、橘君は今突然言われても戸惑うじゃ無い?」
「朝から決断を迫られてる方がきついけどね!」
其処から玲人と沙耶と合流して、波のプールでビーチボールでバレーをした。風も無くて結構続くと、みんな自分が落としたく無くて本気に成ってしまった。最後は他のお客さんがたまたま間に入って来てしまったのでラリーは終了した。
沙耶が「頑張り過ぎて少ししんどいから休んでも良い?」と言うと、そろそろ帰ろうか?という流れになった。
ロッカーでシャワーを浴びて着替えてから、沙耶に橘に言えた事を話すと、とても驚かれてしまった。
「絶対に言えないと思っていたけど、良かったわね!相手も納得してくれたの?」
「王子様は、結構難航不落で、大変だったのよ!」
「普通は喜んで飛び付くものだと思うけど、橘君も堅いわね」
「でも女の人が苦手な所もあるから、今はそのリハビリも兼ねての付き合いな訳だしね」
「せりかちゃんに対しては、それは皆無だろうから、相当嬉しいんじゃ無いのかしら?」
「沙耶ちゃんのプレゼントの方が何万倍も嬉しいって言われちゃったから、そうだと思うけど…」
「プレゼントの第3段もあるんだけど!」
そう言って渡された下着にせりかはとても驚いてしまう。
「だってせりかちゃん用意してないでしょう?」
「お泊りの予定だから、一応上下お揃いの可愛いのを持ってきたよ?」
「勝負下着だから、気が向いたら着てあげて?一応、橘君にプレゼントだから!」
「うん。なんだか色々と有難う。でも貰い過ぎだと思うんだけど?」
「せりかちゃんと玲人君が私を接待してくれるのは、橘君にプレゼントだから、お礼は橘君にって言っていたでしょう?それに私も友達としてプレゼントしたいから、丁度いいのよ!」
それから、またボックス席で帰るが、気だるい空気が漂って、玲人は寝てしまっていた。
「石原さん。誕生日プレゼント有難う!写メールも消えない様にロックかけたよ」
「第二段はよく折れたわね?」
「彼女は後悔してもいいからって言ってくれて、それを断れる奴は居ないでしょう?」
「そうよね!最初から飛びあがって喜んでくれても良い位なのに、せりかちゃんの肝の据わり具合の方がビックリよね?」
「椎名さんは切れると最強なんだよね!こっちが悩んでたのも馬鹿みたいに一掃してくれるからね!」
「別に切れて無いから!切れキャラみたいに彼氏から言われると真剣に凹みそうなんだけど?」
「そうよね~!ちょっと言い過ぎじゃ無いの?」
「石原さんも卒業までには分かるんじゃ無いかな?生徒会も関わってくれるなら尚更だよ。椎名さんってうちの部活の先輩の副会長にも切れてて、休み前なんてあまりにも可哀想なんで少し取りなしてあげたけど、椎名さんの事を猫可愛がりしてるのに、懐かれて無いから不憫でさっ!」
「せりかちゃんって天然悪女だもんね!先輩って玲人君位もてて、真綾ちゃんの騒動を収めてくれた人でしょう?伊藤先輩だっけ?」
「だって先輩の普段の行いが悪いんだもん!可愛がり方が相撲用語の可愛がりじゃ無いでしょうね!ってずっと思ったくらいよ」
「ああ、事件があって出てた相撲用語ね?本当に橘君から見てもそんなに酷いの?」
「伊藤先輩は性格がややSな上に、気に入ってる人間に、とばっちりが行くんだよ!俺とかには結構面倒見の良い先輩だから、根本的にはあまり気に入られては、いないのかもね?」
「私もお気に入りじゃ無くて良いから、優しくして貰いたいわね!先輩って少し橘君と似てるのよ」
「俺達は同族嫌悪だから、同じ部活じゃ無かったら、口もあまり聞かなかったかもしれないけど、やっぱり少し優しくしてあげてよ。先輩って女の子に冷たくされ慣れて無いから堪えるんだよ」
「なんだか、とても優しくなれそうにない理由じゃ無い?ねぇ沙耶ちゃん!」
「そうね!率先して優しくしたくなる理由じゃないわね!」
「悪い人じゃ無いから、石原さんも関わると思うけど、そう不快な事をして来る訳じゃ無いし、若宮会長が目に余る時は怒るから、少しだけ温かく見てあげてよ?」
「橘君がそう言うなら、本人見てから考えるわ!元々先輩にそんな失礼な事も出来ないでしょうしね!」
「お守り作ってるから出来たら練習に持って行ってね?勿論橘君のもあるから!」
「当然玲人のも有るんでしょう?」
「まあね。玲人は橘君と差を付けたりしたら、拗ねて厄介なのよ」
「玲人君も、彼女がいるんなら、彼女に作って貰えばいいのにね?」
「まあ、玲人は椎名さんのは別格だから、彼女から貰っても椎名さんのは欲しがると思うけどね?ここで聞くのもなんだけど、石原さんは今は彼氏とあまりうまく行って無いの?」
「橘君なら分かっちゃうわよね!実は少し倦怠期気味なのよ!あっちも部活もあるから、風向きが変わるまではあまり会わないで居るのよ」
「それが正しいかもね。でも出掛けるなら、何か今迄に行った事の無い場所とかで、高揚感が得られる様な物が有ると良いかもね!好きなアーティストのライブとかって盛り上がると思うから、言ってくれれば兄貴のバイト仲間のつてで取れたら、早めのバースデープレゼントにするよ?確か11月でしょう?誕生日」
「よく知ってるわね!でもアドバイスは参考になったわ。本当に頼んじゃうかもしれないけど良い?」
「今日の俺は、石原さんには、有る程度迄は、何でもしちゃうんじゃ無いの?」
「…臆面も無くそんな事言わないでよ。流石に感謝されるのは分かるけど、せりかちゃんだって横で紅くなっちゃったでしょう?」
「喜ばれるのは嬉しいけど、やっぱり沙耶ちゃんの前で言われると、大分恥しくなるわよ!」
「せりかちゃん、明日は、昼に駅で待ち合わせで、大丈夫?」
「椎名さんは、明日何処かへ行く予定なの?」
「実際にうちに来て貰うから、嘘じゃ無くなるでしょう?親に、お世話になった家がどんなお家だったかとか聞かれたら答えにくいでしょう?親が居ないから誘ったから、本当に家だけ見て貰う結果になるんだけどね」
「石原さんは、随分用意周到にしてくれてるんだね!」
「それは、普通は、男の子の家には分からない親の探りがあるから、結構綿密にしないと泊りなんて滅多に無理なのよ!」
「そうだよね。俺はメールで友達の家に行くから夕食要らないから。って言えば母親も泊りかなって勝手に思ってくれる位だしね」
「そうそう!男の子の方の親はもしかして彼女と一緒なのかなって思ってもスル―してくれるけど、こっちは結構厳しいのよ?一番楽なのは昼間に逢う事よね?何故か途端に緩いんだもの」
「昼間?!」
「せりかちゃんはビックリするかもしれないけど、その内言っていた意味が分かると思うから!」
「まあね。泊りとかリスクがあるから、昼間は確かにノーチェックだよね?」
「そういう事って昼間にするイメージじゃ無いんだけど?」
「橘君、これ以上せりかちゃんの耳を汚すのはやめましょうか?取り敢えず親の対処法の話だけにしておくわね」
「そうだね。彼氏の件は、これからも良ければ相談に乗るから言ってね?」
「有難う!打開策が見えなかったから、さっきのは結構響いたかも!でも橘君ってそういう経験無いのによく知ってるわね?」
「石原さんも兄弟が上が居ないでしょう?上が居ると友達とかが泣き付いて来るのに巻き込まれて、何故だか一緒に考えさせられてるから、少し耳年増っぽいんだよね」
「一樹さんは、橘君が可愛いから自慢で見せたいだけなんじゃ無いの?」
「さあね!とてもそんな感じでは無いけど、どっちかって言うと俺に勉強させたいんじゃ無いの?最初は迷惑過ぎて、そうは思わなかったけど、今は多分そういう理由だろうと踏んでるけどね」
「頼もしい相談役も出来たから、今日誘って貰えて本当に良かったわ!せりかちゃん有難う!玲人君にも起きたらお礼言わなくちゃね」
「朝も言っていたけど、来てくれるだけで橘君が喜んでくれるから、来てくれただけで充分感謝なんだけど、親へのフォローまで考えててくれて有難う!言われなかったら挙動不審は間違いないものね」
「そろそろ玲人起こそうか?玲人だけ、ここで降りて、俺達は乗り換えになるでしょう?」
「ねえ、玲人…起きて!もう直ぐ着いちゃうよ」
「う…ん…せり…あと5分…だ…け」
「朝じゃ無いから!サクッと起きないと遠くまで行っちゃうよ!荷物は降ろして置くから目をさましといて!」
「玲人君って寝起きヤバイわね!」
「それって、沙耶ちゃん的にどういう意味でやばい訳?」
「普段と違って色っぽいじゃ無い?」
「私は悪いけど、1ミクロンもそんな事思えないから同意出来ないけど、まあまあ元々の作りが良いからじゃないの?」
「せりは、忍の方が何倍も格好良いんだよな?彼氏びいきじゃ無くて、入学式から!」
「起きたのね?当たり前でしょう?どう見ても橘君と張り合おうなんて図々しいと思うわ!」
「せりかちゃんの彼氏としては嬉しいわよね?!」
「いや、偏見有り過ぎで玲人が不憫になるよ。椎名さんの俺に対する評価の高さに驚くけど、玲人にばっさり冷たくてそっちも吃驚なんだよね!」
「みんな~。降りるからね!荷物ちゃんと持ってね!玲人のは私が持ったから寝惚けてても大丈夫よ!」
「せりかちゃんって、玲人君に面倒見が本当に良いわよね!」
「そうだね。玲人の奴、朝も起こして貰ってるのか?!」
「そうみたいね!やっぱり妬けるの?」
「少しはね!でも玲人に妬いてたら、こっちの身が持たないし不毛だから、やめたんだけどね」
「そうよね。既に熟年夫婦みたいだものね」
電車を降りて玲人と別れると、沙耶とも乗り換える電車が違うので別れた。
二人だけになるとやっぱり少し気まずいが、電車に乗って目的の駅に着くと、橘がおにぎりは何が好きなの?と聞いて来たので高菜とめんたいこと言うと、苦手な物って有る?と聞くので脂っこいもの!と答えるとここで待っててと言われて、待つとコンビニの袋におにぎりやパンやお菓子や飲み物など、どっさり買って現れた。
「一緒じゃ駄目だったの?」
「まあね。気にしないで?」
「お金は半分払うけど!」
「それも気にしないで!今日は沢山御馳走になったしね」
「でもそれは誕生日プレゼントだったし」
「今からきっちりプレゼント貰うし、気にしないで?」
「そういうつもりじゃ無いから!たまたま誕生日なだけで、私がプレゼントみたいなベタなやつは嫌だから!」
「じゃあ、いっぱい玲人と楽しませてくれたんだし、充分だから、有難う!」
「なんだか釈然としないけど、行きましょうか?場所って分かる?」
「うん。大丈夫。少し抵抗感あるかもしれないけど、もう暗くなってるから、大丈夫かな?」
そうして入ったホテルは窓が無く、もの珍しくてキョロキョロとしていたが、橘がせりかを呼んで、ベットに座らせると其処からはせりかには未知の領域だった。




