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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
76/128

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終業式後に、生徒会室から久しぶりに集合の合図が掛かった。


「せりかちゃんひさしぶり~!」


迫力美人な会長の若宮に抱き付かれて、悪い気はしないが、橘はそんなせりかの心情を見透かすように、呆れた顔を見せた。


会計の佐々岡もやって来て、この間の試験にお土産の薄荷油を水に垂らして顔を洗ったら、眠気が覚めて助かったのよとせりかに礼をいってくれた。


実際は、せりかと橘の合同の土産だが、せりかを可愛がるお姉さま方には、橘の存在は目に入らないらしい。


書記の二人の先輩方からも、佐々岡と同じ事をして試験を乗り切ったと、橘は礼を言われたが、伊藤は、せりかに冷たくされているのが堪えているようで、少し恨めしそうに橘を見た。


「先輩も、椎名さんが、お気に入りなら、弄くり倒すのをやめないと、絶対に好かれませんよ?」


「せりかっちは、最初から俺には冷たいんだぞ!」


「伊藤先輩は、元々、女の子にちやほやされるのが、デフォルトだから、椎名さんが冷たく感じるだけですよ?俺から見たら普通です」


「そんな事言って、ちゃっかり旅行中にせりかっちの彼氏の位置に収まってるくせに!」


「伊藤先輩は、椎名さんの事は、懐かれたいだけで、付き合いたいとかは思っていないでしょう?」


「お前から、先輩っていい人!って言ってくれればいいじゃん!」


「何を、馬鹿な事を言ってるんです?俺が言ったくらいで、彼女が懐く位なら、とっくにやってあげてますよ!先輩には感謝してますし」


「玲人に言っても駄目かなぁ?」


「全然無理でしょうね?今度、書記候補の本庄を連れてきますから、そっちを落とすと効果が大きいですよ?」


「彼氏のお前や幼馴染の玲人よりも?!」


「俺達からは残念なことですが、彼女は、本庄にとても弱いんで、そっちから攻略すると、一番早道ですよ」


「橘は彼女のせりかっちがそんなんで良いわけ?」


「付き合う以前からなんで、付き合う様になった途端に変わる物でも無いので、気分的には複雑ですけど、結果的には、俺達も彼女から修学旅行前に無視された時には本庄を頼りましたから、それなのに文句はいえないでしょう?」


「すげえな?あの頑固なせりかっちを落とす方法を、伝授して貰いたいよな!」


「その前の信頼関係がものをいうんで、本庄をうまく取り込んだ方が早いですよ!」


「さすが、橘の本性が出たーって感じだけど、何だかせりかっちを取られそうだな?」


「さあ?どうでしょうね?元々、彼女の想い人だし、今は本庄はフリーなんで、可能性的には、高いんじゃないですか?」


「……冗談で言ってたつもりだったけど、マジな話なのか?」


「状況的には、かなり深刻なんで、あまり茶化さないで下さいね?」


黒く笑う橘が、言葉の割には焦っていないのが、余裕からでは無く、少し諦めが入っているのだと分かる。


「俺は、お前から取りなして貰える日迄、せりかっちと仲良くなれなくてもいいよ!」


「……伊藤先輩は、意外と良い人だったんですね?」


「た・ち・ば・な?お前はどうして、一樹いつきさんにそんなに性格が似てるんだよ!」


「兄と会って何かあったんですか?」


「最近、試合見に来てくれて、散々、駄目出ししてってくれたんだよ!それも自覚がある所ばっかりだったんで、余計に落ち込んだけど、それにしても一樹さんって良くみてるよなぁ?!それなのに忍は完璧だったのに、お前のパスが悪いからミスったって超ブラコンなんだもんなぁ!」


「すみません。兄は伊藤先輩の事を気に入ってるから、文句をつけるんですよ。俺じゃ、文句をつけたくなる程のプレーじゃ無いんでしょう?伊藤先輩の次は玲人に絡み出すんじゃないかな?」


「気に入られたくないよな?玲人も!気の毒に……」


「伊藤先輩は兄と似てますよ!椎名さんにも何で嫌がられるのか、自覚された方が、俺や本庄に頼るよりも、ずっと早いですから!」


「そういう言い方も、いちいち、兄貴と似てて本当に嫌になるんだよな!」


「それは、伊藤先輩とも似てるって事ですよ?前に椎名さんにも言われた事があったかなぁ?たしか!」


「それは、もっと嫌だな!」


伊藤がそう言うと、にっこりと妖艶に笑った橘が「気が合いますね?」といったので、流石の伊藤も口を噤んだ。弟の方が、何倍も一樹よりも性質が悪い。先輩相手にこうなんだから、後輩にはさぞやと思うが、専ら被害は親友の玲人か、同級生の者達に向いていたので良心はあるらしい。…というよりも、気に入った人間程、被害が行きやすいのか?と思うと自分や一樹を見ている様で、やはり似ているのかもしれないと感じて更に嫌な気分になった。




「椎名さん!伊藤先輩が、俺の兄貴にサッカーの駄目だしされて凹んでるから、慰めてやってよ?」


こういう時のせりかはカンが良い。伊藤に対してどうこうよりも、橘がそれを望んでいるのを、一回位は汲んでくれる筈だ。


「じゃあ、受験祈願の前に、勝利祈願のお守りを作ってあげますから、頑張って下さいね?」


「すげぇ!せりかっちにお守り貰えるの?受験の時も?!」


「勿論ですよ!皆さんにも配りますけどね?」


「それでも、嬉しい!俺は猫っぽいのが良いな!」


「猫好きですか……了解しました!」


やったー!と若宮達に自慢しにいく伊藤を見ながら、橘は「悪いね?」とせりかに言うと「何の事?」と笑って返してくれた。




こうして夏休み前の最後の集会は、和やかに終わったが、先輩達は夏期講習など、予定はびっしりな様で、伊藤は、その上部活もあるので余計に大変だろうと思われた。




「学校が休みなのは嬉しいけど、毎日会えなくなるのは、寂しいよねぇ?」


「玲人がいれば平気なんじゃ無いの?」


「クラスのみんなに、優しい彼氏で良いよね!って散々冷やかされたのに、今の冷ややかな言葉をみんなに聞かせてあげたいわ?」


「そんなの誤解だよね~?」


「自分で言っちゃったら、終わりでしょう?」


「否定しても良いのに!結構冷たいし、酷いって!」


「言ったところで、惚気にしか聞こえないわよ。本気にもされなだろうし、その上、橘君と付き合っていて不平不満を言ったら、流石に総スカンくらっちゃうわ?」


「皆も見た目に騙されてるからねー?」


「自分で言っても、説得力があるのって、橘くんか、若宮先輩位だよね?」


「玲人は、性格もいいもんね?」


「ふふっ!そうね?本庄君あたりは、橘君に並べるんじゃないの?」


「比べるべくも無いよ。あっさり白旗あげる位、向こうはの方が、性質悪だよ!」


「そうね?私もそう思うわよ。伊藤先輩に本庄君を落とせば、私が落ちるって言うのが聞こえたけど、彼氏が言ってもいい事なの?」


「地獄耳だね!聞こえてないかと思ったよ?」


「そういう問題じゃないでしょう?」


「でも事実でしょう?」


「今は違うわ!」


「俺が彼氏の肩書があるから?」


「違うわ!好きだからに決まっているでしょう?私を騙して迄彼女にしてくれた割には、執着が薄い感じがするんだけど?」


「そんな事はある筈無いでしょう?この間の証明じゃ足りなかった?」


「いいえ。ただ、何日か前に玲人のところから帰る橘君を見かけたの。ひと目だけでも会いたいとは思ってくれないんだなって思って少し落ち込んだのよ。勿論、玲人の家に来る度に絶対に私と会わなくちゃ駄目だとは思って無いけど、私の家を振り向きもしないで、さっさと歩いて行くのが見えたら、少し不安になっただけよ」


「あの時は、夜も遅くて急いでたけど、椎名さんに会いたかったけど、やっぱり遅い時間に非常識な事は出来なかったから、出来るだけ見ない様にしただけで、振り向きもしなかった訳では無かったよ」


「そうだったのー!ちょっと力が抜けたわ……自分が思っていたよりもショックを受けていたみたい。イヤリングを見ながら、誓ってくれたのにって思っていたから!」


「そんな事思ってるなんて、見られていた事も気が付かなかったから、知らなかったよ。早く言ってくれれば良かったのに!」


「なんだか、重い女は嫌だと思われたら、嫌だなって思ったのよ。そんな事くらいで怒ったら、鬱陶しいでしょう?」


せりかの言葉を聞きながら、ここ最近の自分の不安定さが、せりかを不安にさせてしまっているのだろうと、反省してしまう。気を付けていたつもりだったのに、あんなに本庄の話に鈍いせりかが、橘の不安には、とても敏感に反応してしまうのを皮肉なものだと思ってしまう。


しかし、せりかを不安にさせておいていい筈は無い。


橘は、軽くせりかの耳元に口づけて、イヤリングは無くても気持ちは同じだから、これ以上ここで証明出来ないから察して?と甘く囁くとせりかも「つまらない事で拗ねてごめんなさい」と言い、サッカー部の練習を見に行ってもいいか聞いてきたので、せりりん同好会がいるからなぁ!と橘が渋ると、そうだよね。サッカーはチームプレイだから、争いの種はなるべく作らないほうがいいわね!というせりかを、何も言わないのに其処まで察してくれる事に驚くが、せりかの元々の聡明さを思えば当然かと納得してしまった。


練習は、午前中だけだし、休みの前半と後半だけだから、午後は会えるから、会いに来るからと言うと、せりかも頷いた。


せりかが「プールに一緒に行かない?」と一応聞くと「絶対に駄目!」と言われたので、本庄の言葉を思い出して、今年は水着が着れないのかなぁと橘を見ると「俺と玲人のダブルガードで良いなら」と妥協案を出してきたので頷くと、少しだけ不満の残る顔の橘が「やっぱり鬱陶しいよね?」と聞いてきたので「予想の範囲位だけどね?」と言うと、鬱陶しいのは、変わりないんだね?と拗ねた顔を見せたので「二人で行きたいのに!」と言うと、機嫌が直ったが、やっぱり玲人は連れていくからと言う。


橘に男避けは、彼だけで充分だと言うと、念には念を入れないとね?という彼の慎重さがおかしかったが、玲人がいくなら、真綾も誘おうか?と言うと、本庄が洩れなく付いてくるから駄目だという橘に、おまけじゃ無いんだし…と笑ったが、多分、真綾が心配で付いて来るだろうとせりかも思ってしまって「沙耶ちゃんとか誘おうかな?」と言うと、橘はそれに大賛成したので、沙耶ちゃんは綺麗な子だし、橘も他の女子よりは仲は大分良いけど……と不審の目を向けるとそれが通じたらしい橘は嬉しそうに「もしかして妬いてくれるの?」と言ったので、心配したのが大分杞憂に過ぎなかったのだとせりかにも分かってほっとした。


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