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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
75/128

75

「玲人は、本庄君と最近よく話す様になったよね?」


「小舅に小言を言われてるだけだけど、あいつを蔑ろにすると、面倒になりそうなんだよ。マーヤの従兄妹だからっていうのは、大前提にあるけど、忍より性質悪いぞ、本庄って!」


「それは、何と無くはそうかなぁって判ってるよ。橘くんは真っ黒だなって思わせるけど、せんせいは聖人君子のような顔で、同じ様な事をしてるから、まだ橘くんの方が、可愛気があるのは流石に判るよ」


「そっか。それで、性質悪の小舅がどうかしたのか?」


「玲人を其処まで毒舌にさせるせんせいって、ある意味すごいわね?」


「今日は写真の件で忍に部活で仕返しされるし、本庄には嫌味言われるしでぐったりなんだよ。その上せりにまで、文句言われたらもたねーよ!」


「部活で嫌がらせって高度ね?何されたの?」


「お前の彼氏は、どうしてああいう、いい性格してるんだろうなぁ?…普段大体が、忍からのパスで俺がシュートするのが、流れなんだけど、思いっきり走らないと受けれない絶妙な場所にパス出すんだよ!それを毎回されてみろよ?忍は元々、テクニックに定評があるから、受けそこなったら俺が怒られるし、毎回全力疾走させられるし、本当にせりりん争奪戦の時よりも酷い目にあったよ!」


「そう、橘くんらしいお仕置きなのね?特に玲人に損になって無いし、練習だったら、いつもより頑張るくらいは、玲人の為にもなってるじゃない?」


「そういうのが、余計ムカつくんだよ!何も文句が言えないだろう?伊藤先輩とかは面白がってもっと先にパス出してやれよ?って無茶な指示出して来る始末で、結局忍は悪く見えないんだよ!」


「流石だね~!そういうところがドキドキするよねぇ?!一緒に片棒担がされる時も、うまくバランスとれた結果になるから、安心出来て楽しめるんだよね?」


「マジでせりって男の趣味悪いよな?大体本庄の事だって、其処が良かったんだよ!」


「いくら玲人でも、今それを聞くの?って思うけど、真綾さんの件でちくちくされてるから、そう思うのも無理無いと思うけど、彼は私が告白した後も、全く変わらずに接してくれたのよ?相談にも乗ってくれたし、色々と力になってくれたわ!玲人と橘君には、私も少なからず罪悪感も有ったから、彼が変わらないでいてくれた事に、どれだけ精神的に助けられたか分からないくらいなのよ!反対に自分は、そういう風には出来なかったから、尊敬してる面が大きいわね」


「だから、本庄を『せんせい』って呼んでいるのか?」


「最初は、ワルツの先生だったのよ。でも、段々相談に乗って貰ううちに、そう呼ぶ様になったのよ。彼は言い辛い様な事をこっちに極力不快感を与えないで、でもはっきりと言ってくれるから、遠慮し合っちゃって余り耳の痛い事は言い合わない女友達よりも、相談しやすい相手だったし、親しくなってから時間も短かったけど、とても親身になってくれたし、私にばかりじゃなくて、橘君の事も考えて、私がロクでも無い理由で後向きになろうとすると、それは、相手に悪いだろう?って必死にポジティブな面を捜して来て、わたしにプレゼンでもするように提示して考えさせるのよ。せめて、相手をよく見てやってから考えてあげなよ!って何度も態度と言葉で聞こえてきたから、あの時に自分が橘君の様な人と付き合うのは、自己保身の子供っぽい理由だけで無理だと思っていて断ろうと思っていたけど、それを回避出来て、今は、見た目とかに拘らないで、橘君と付き合えるし、玲人とも平気で一緒にいられる様になったのも彼のお蔭なのよ」


「……………………」


不可解に思っていたが、せりかの考え方にまで影響を与える本庄に、忍が太刀打ち出来るのか、玲人は考えてしまった。四月に玲人に対して様子がおかしかったせりかが、本庄と一緒に出掛けて二人だけで観覧車に乗った時があったが、その後のせりかの態度の変化を思うと、あの二十分だけでせりかを説得出来たという事になる。そんな本庄が、せりかを自分のものにするのは、おそらく容易いのでは無いかと思う。真綾に悪くて、手出しが出来ないうちに忍と急に付き合い始めてしまったので、今の状況だが、あれだけ可愛がっている真綾を振り切ってまで、せりかを選んだのに、今は、自分とせりかと真綾の関係の悪化を恐れているのと、橘への罪悪感で動かずにいる様だが、ずっとこのまま、橘とせりかを見守り続けるのは難しいだろうと思う。


「せりは、忍と本庄に同時に告白されたら、やっぱり本庄を選んだのか?」


「たら、ればの話はしたくないわ!意味の無いことでしょう?」


「それは、そうだけど、本庄が今はフリーな状態なんだから、やっぱり忍が不安に思うだろう?」


「そうね。それは、なるべく不安にさせたく無いと私だって思うわ。本庄君だって、それが判っているから、橘君と付き合い始めたら、私とは随分距離を取る様になったくらいだから、その辺は彼もそう思ってるのよ!それに彼には前から好きな人がいるみたいなの。でも彼氏持ちらしくて本庄君が今迄に無い位落ち込んでたから、今迄の恩返しに話だけでも聞いてあげようかと思ってるの。私ではどこまで力になれるのか分からないけど、何もしないではいられないしね!」


「それって、本庄が、彼氏持ちの女に惚れてるって言ったのか?」


「うん。そういう場合、相手の不幸を望んでしまうから、自分の幸せを望めないっていうから、私は同じ立場だったから、『相手の幸せは望みたいけど、ずっとそう思っていられる程、人間は強く無いから自分の思う通りにぶつかれば?』って言ったんだけど、相手の仲をブチ壊してもいいものかどうか悩んでいたから、それは、相手にも選択権はあるから大丈夫じゃないかしら?って言ったんだけど、これで彼女を取られたら、彼氏に相当恨まれそうね?でも、そこでうまく行かない様なら、先でも無理だから、仕方が無いと思ったのよ!」


せりかの天然鈍感ぶりは分かっているが、どうして一回でも自分が意中の相手だという可能性を考えないのか!と頭を抱えたくなるが、ずっと片思いしてきた辛い時期のせりかの事を思うと、そういう可能性は、絶対に視えてこないのも仕方が無いと、せりか側から見ると痛いほど分かるのが玲人も辛かった。


しかし、本庄もせりかに心情を吐露する程、追い込まれているのかと思うと、このままで済む筈は無い。やはり忍に助言してやりたいが、あっさりとせりから手を退かれた時に、せりが本庄を選ぶ可能性はおそらくとてつも無く低い。なんだか堂々巡りになりそうだが、マーヤはせりと忍の別れを望んでいるし、自分は忍とせりがこのままうまく行って欲しいと望んでいる為、相談してもかなり不毛な上に厄介な事になりそうだった。ぐるぐると一周して行き着いたのは、やはり、忍にちゃんと真摯に話して分かって貰う事が一番に思えた。




翌日の帰り道、忍を誘い、話があるというと、玲人の家まで来てくれた。親には、忍が直ぐに失礼するので…と夕食を断ったら母親が、茶菓子とコーヒーを持って来た。


「何?改まって話って?」


「あのさぁー!これから話す事を聞いてもせりと別れるって言い出さないでくれるって約束して欲しいんだけど、約束してくれるか?」


「そんなの無理だよ!って言ったら話さないつもりなの?玲人は?」


「意地の悪い事を言うなよ!でも、そうしたら、話さないかもしれない…」


「そう!じゃあ、俺は帰るけどいい?」


「お前さぁ~!そういうさっぱりしたところは正直嫌いじゃないけど、今回は黙って聞いてくれよ?」


「悪いけど、約束は出来ないよ?玲人は優しいから、出来たら玲人から、俺に辛い話をさせたく無いんだけどな?」


「………忍は、気付いているのか?」


「本庄の気持ち?更科さんと別れた訳?それとも、椎名さんの気持ち?」


「っ!知ってるのか?……」


「玲人は誘導尋問に引っ掛かり易いよね?馬鹿にしてる訳じゃないよ?俺の事を椎名さんよりも考えてくれたから、こうして話してくれようとしてるのは、よく判るから、玲人に昨日は酷い事をしたのを少し後悔しながら、玲人の家まで来たんだよね?椎名さんと別れないって約束するから、話してくれる?」


「マーヤから、最初に聞いたのは、札幌をせりと忍が二人で出掛ける事になった日で、付き合うとせりが決めた翌日だったんだ。だから、あの時はお互いに俺の我儘に無理やり付き合わされている感じだったし、傷も浅いうちの方がいいかと思って直ぐに言おうと思ったんだよ!」


「何で言わなかったの?」


「そうだよなぁ!…本庄がせりの事が好きになってしまったのが分かって、マーヤから別れを切り出したらしいんだけど、マーヤは本庄が好きだったから、それはすごく辛かったみたいなんだ。そうして別れたのに、本庄が手をこまねいてる間に忍に持って行かれたから、マーヤはとても怒っていて、なんとか本庄とせりをくっつけようとしてたんだ」


「それは、自分から身を退いた方からすると、当然の感情だよね?しかも彼女はどういう訳か、ライバルの筈だった椎名さんフリークだしね?」


「そうなんだよな!でも、本庄がマーヤを止めてくれって俺に、わざわざ二人で飯食う様にして、直ぐに頼んできたんだ。俺は、忍に悪いから直ぐに言う方を提案したけど、せりが苦しむから、駄目だって言われて、本庄は、忍と付き合う事をせりが、決めた時点で、せりは忍に気持ちが傾いているだろうって言うから、少なくとも修学旅行中は揉めたく無いのもあって、様子を見る事にしたら、思ったよりもずっと付き合いがうまく行っているだろう?それでも本庄は、忍に悲壮感が漂っているから、当事者じゃ無かったらお前の為に止めたい位だと言っていたから、本庄もせりへの気持ちよりも、せりの負担と忍の事も考えて、うまく行ってくれるなら、それは見守って、目の届く内に別れたら、即、せりは貰うって言ってたから、意外と粘着質で俺も驚いたんだよ!しかもせりが別れたいって言い出しても別れないっていう、怖い宣言までされたら、俺は、切実に忍とうまく行って欲しいと思ったよ!本庄も自分と一緒になるとしたら、将来も狭まるだろうっていうし……正直なのかもしれないけど、そんな粘着質な悪条件小舅にせりをやれないだろう?!」


「小舅になったのは、随分後でしょう?」


「ここで、そういう冷静な突っ込みをする所が、忍らしいよな?」


「実は、情報源は詮索しないでも貰いたいし、判っても、俺にも誰にも言って欲しく無いけど、札幌の時には殆んどの事を知っていたから、椎名さんに別れを切り出したんだけど、椎名さんが嫌だって泣くんだよ」


「そんなに早く知ってたのか?本庄も忍が知ったら、直ぐに身を退いちゃうだろうって言ってたけど、本当だったんだな!」


「本庄の、そういう読みは悔しいけど、カンとかじゃ無くて、人の性格と行動分析で考えた結果だから、外れないよ?お嬢さんは予想外だ!って椎名さんの事はよく言っているから読めないみたいだね?」


「じゃあ、せりが泣いて引きとめたから、思い留まってくれたのか?」


「いや、悪いけど振り切って別れようとしたよ。あの時は早く別れたくて、別れる理由すら考えないで言っちゃったから、彼女にせめて理由を教えてくれって懇願されて、本庄と更科さんの事を言っちゃえば楽だったけど、それは本庄からじゃ無いと流石にいっちゃいけないと思ったから、嘘でもない理由で、本庄の事を思う椎名さんと付き合うのはやっぱり辛くなったからごめんって言ったけど、彼女は俺が好きだと言い出したんで、………嘘では無いと思うけど、好きにも色々種類があるから、彼女にも違うのが判る様に、少し無理な要求したんだよ。『だっだらここでキスして?』って」


「お前っ!せりの…~~!!それで…せりが要求を吞んだのか?」


「予想道りに、彼女はハードルが高いって言って無理だって言ったから、じゃあ別れようか?ってなったら、俺がわざと無理な要求をしたのが、分かっちゃったみたいで、椎名さんって切れると他の事はどうでも良くなっちゃう所があるでしょう?要求吞まれそうに成ったんで、焦って、冗談だから本気にしないで!って言ったんだけど、言い訳になるけど、切れた椎名さんって最強で、あっさり押し切られて、『これで言う事聞いてくれるのよね?』って言われたら、流石に折れるしか無かったよ。こっちが無茶だと判って出した要求を吞まれちゃったんだし、好きな女の子に其処までされたら、本庄の事があって直ぐに辛い結果になるのが判っていても、やっぱり断れなかったから、彼女から別れたいと思うまでは、こちらを向かせる努力をしようと決めて、現在まで付き合う結果になってる訳」


「だから、うまくいってそうな割には、お前が、辛そうにしてたのか……」


「自分ではそんなつもり無かったけど、彼女にも…今迄付き合っていた人とキスした後にありがとうって言ってないでしょう?って言われちゃうし、辛そうな顔されるとどうしていいのか分からないって言われたばかりなんだよね。玲人から見てもつらそうなんじゃ、近くにいる彼女に気付かれても仕方が無いよね?」


「お前、札幌の時以外にもせりに手だしてるのかよ?!」


「本格的には出せないよ。無防備過ぎて、こっちも落ちそうになるけど、彼女に後悔されるのは流石に辛いから、軽―いキス程度迄!玲人はそれでも怒るかもしれないけど、椎名さんの無防備さからいったら、かなり忍耐ものだよ!玲人は更科さんと手も握らないわけじゃ無いでしょう?」


「…それは、別問題だろう?!」


「その様子だと……そっかぁ~!避妊はちゃんときっちりしなよ?!」


「お前なぁー!せりに手出したらマジで締めるからな?」


「だから、出さないって!本庄の気持ちが分かってるのに、そんな酷い事しないよ?」


腹は立ったが、忍も辛いんだと思い直して、昨日せりから聞いた話を、忍に話すと真面目な顔で「椎名さん鈍過ぎ!いくら何でも本庄が可哀想だよ」と言い出した。


「本庄も最初は諦めるつもりでいても、段々辛くなって来ちゃったんだね?でも、本庄が動いてくれるつもりがあるみたいだから、こっちは人事を尽くして天命を待つって感じかなぁ?ずっとこのままでこっちもいけないし、かといって、椎名さんとの友情関係にヒビが入るの決定だから、俺からは言えないから、本庄が耐えられない程悩んでるのには悪いけど、椎名さんに自分の気持ちを言う気になったのは、良かったんじゃ無いの?俺は椎名さんの様子を見て、椎名さんからは、俺に別れなんて言い出せないだろうから、こっちから今度は綿密に考えた理由で振ってあげる事にするよ」


「それで、忍はいいのか?」


「最初から、夢だと割り切っていられる様にして来たから、気持ちも無いのに、責任感だけで付き合われるよりは、ずっとましだね」


「せりが、忍を選んだら、大事にしてくれるのか?!」


「そうなった時の事は悪いけど考えて無いよ。それを想像しちゃったら、彼女を離す時に辛さ倍増だからね?」


「そうだよな!俺は、どうしたら忍の為になれるかな?」


「ありがとう。玲人はなんだかんだ言ってもいい奴なのは、分かってるよ。無理に付き合わされたのも、別に無理やりじゃなくて、俺がそれを利用しただけだから、玲人は責任感じなくてもいいから……唯、どういう結果になっても、椎名さんがつらい状況に成るのは確かだから、玲人が出来るだけフォローしてあげてくれる?俺は、椎名さんと付き合いはじめる時に、別れても親友に戻るだけだからって言ってあるけど、彼女が本庄を選んでも変わらないから、俺からは今は言えないから、彼女が辛くなった時に、玲人からそれは言ってあげて欲しいんだ…」


「せりも忍を選べばいいのに!」


「後、俺に加勢しないでね?玲人の影響力は椎名さんにとって、玲人が思っているよりも大きいよ!玲人が言ったからって、選ばれても結局長続きしないと思うしね?」


「分かった。お前が本庄よりも、せりを思ってるって、伝えられたらいいのになぁ?」


「それは、想われたら返したいと思う聖女様の思いに付け込む結果になるよ?俺は、聖女様と付き合いたい訳ではないからね?勿論、彼女の優しさは好きだけど、俺か本庄を切らなきゃ成らない状況では、彼女にも強さを持って貰わないと、下手するとどっちの手も取らないっていう逃げに入られるのは、最悪の結果だよね?全員にとっても」


「そうだな?そうなると本庄の動き待ちの状態になるよな?」


「こっちも最後のアピールに頑張るよ!」


そう言って笑う忍は、やはり少し哀しそうに見えてしまい、玲人は神にも祈る様な気持ちで隣の家に、思いを向けた。


せりかに会わずに帰るという忍に、玲人は「辛くなったら、俺の事も頼ってくれよ!」と言うと湖面の様な静かな笑顔で頷いた。


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