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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
73/128

73

シーバスが赤レンガ倉庫に到着したので、其処で降りる。


せりかは、シーバスの中で橘が自分と付き合っている事を夢の様だといい、今迄一度として言ってくれなかった甘い言葉を囁かれて、逆上せてしまいそうだった。


彼が誓ってくれたイヤリングに何度も触れると、なんだか夢の様で、橘が少し怖くなると言うのも分かる気がした。


彼が実際に哀しそうな顔を見せたのは、札幌の夜とさっきの自分の言葉の後だけだったが、せりかの言葉に痛い表情をした橘の中では、そう見えてしまってもおかしくない心中だったのだろうと察せられた。


赤レンガ倉庫が商業施設になってから来たのは実は初めてだった。観光客が沢山の中で見て回ると、見慣れた馬車道のアイスや貴陽軒のシュウマイと横浜名物が並んでいる。あと鎌倉ハムなどの試食も行われていたが、どれも味は絶品なのは判っているので、今この場所で、立ち止まって見る気にはなれず、割と二人で、早いペースでお店を見て回ってしまったら、直ぐに一周してしまった。


「シュウマイ弁当って何で杏が入ってるんだろうね?」


「ああ、あれってずっと不思議なんだけど、親に聞いても分からないんだよな!さっぱりさせる為なのかもしれないと思うけど、あのシュウマイ自体がさっぱりじゃん。貝柱とかが多いみたいだからね?」


「そうだよねぇ?でもなんで三つくらい入って無いのって思っちゃうのよね。美味しいのに一個だけだと物足りないのよ!だから真剣に駄菓子屋に杏を買いに行きたくなっちゃうのよね」


「あれって、結構良い杏だから、コスト高なのかな?」


「でもシュウマイに比べたら、そんなに掛かっている様には思えないし!」


「なんだか食べ物の話してたら、お腹空いてきたね?中華街で飲茶の予定だけど、何か食べる?」


「早めに中華街に行っちゃおうか?ここからみなとみらい線で中華街か、シーバスで山下公園まで行こうか?って言っていたけど、歩きで大丈夫そうよね?」


「椎名さんが、大丈夫なら、ここから、直接中華街に行く事にしようか?」


そう言って、せりかの手を取って歩き出した。手を繋いで歩くのは初めてなので、なんだかとてもくすぐったい。橘の方を見るとやっぱり、少し照れた顔を見せたので、せりかと同じ感想を持った様だった。


思えば札幌と小樽の観光は、修学旅行だったので、こうして手を繋いで歩いたりは出来なかった。


「なんだかデートっぽいよね?」


「そうね。修学旅行とはやっぱり違うわね」


「あれは、建前は班行動だしね?」


「よく何も注意されなかったわよね?!」


「分かってて、見逃してくれてるんでしょう?高校生で旅行とかって滅多にできないもん」


「そうね!やっぱり地元を見て回ると、余り景色は違わないんだけど、何時でも来れると思う所為か、少し有難味に欠けるわよね?」


「そうだね。港町で近い雰囲気なんだけど、完璧に気持ちの問題だよね?」


「地元観光ツアーは少し失敗かしら?」


「観光だと思うとそうかもね!でも、近場で、デートに気持ちを切り替えれば良いんじゃないの?」


「そうね。中華街で修学旅行の学生向けに、チャイナドレスを着て写真を取れる所があるらしいから、行ってみてもいい?」


「へぇー!それは楽しみだね?食べるの後で良いから早く行こうよ?」


「もう、お腹が空いたって言ってたじゃ無いの!」


「食べてからだと、椎名さんの気が変わるかもしれないしね?」


どれだけドレス姿に期待されているんだろう?と思うが、確かに食べた後だと、スタイルに響きそうだから、友達の前なら良いが、今回は見送っていたかもしれない。


引っ張られる様にそこの建物に入ったが、場所は橘には言ってない!橘も知っていて、もしかしたら、せりかが言い出さなくても着て欲しいと思っていたのかもしれない。今の橘の待ち受けは小樽で取ったヴェネティア製のドレスを来たせりかだった。もしかして、チャイナ服に変わるのだろうか?と思うと少しだけ、たじろいだ。


橘がさっさと料金を払ってドレスを選び始めてしまう。これが良い!と真っ青なドレスを取って渡される。


「橘くん。私が撮りたいんだから、お金も自分で払うし、ドレスも定番の赤がいいんだけど?」


「椎名さんには、クールな青い方が似合うよ!振り袖の話をしていた時もそう思ってたんだ!」


「そう?じゃあ、その選んでくれたのにするわね?」


何時に無い橘のテンションの高さに負けて青いドレスを着ると、スリットはそれ程深くないが、初めてきるチャイナドレスは、身体のラインが思ったよりもはっきりと出るので、これで橘の前に出るのは憚られたが、お店のお姉さんには良くお似合いです!と言われて髪を降ろして青い花飾りを付けられて、口紅は紅い方が映えるからと今迄、付けた事も無い様な色のルージュをサービスね?と言って塗られた。


持たされた扇子で身体を隠す様に出て行くとカメラマンの人がいて写真を撮ってくれた。


橘は、どうお店の人を口説き落としたのか、横で写メを何枚も撮ってから、デジカメでもぱしゃぱしゃと撮った。普通はこういうのって撮って良いものなの?!と思うが、どうやって可能にしたかは予想が容易なだけに聞きたく無い。橘の美貌は使おうとすれば男性にも通用するだろう。既にせりかの写真を撮り終えたカメラマンが、橘の事を撮りたさそうにしていたので、慌てて着替えて紅を軽く拭って戻ると、「彼女が戻って来ちゃったのですみません!」と言って写真の封筒を片手にした橘に入る時同様に、引っ張られる様に外に出た。


「椎名さんは感が良いから、助かるよ!早かったね?!」


「ものすごく急いだもの!無理利いて貰ってるから、断るの大変だったでしょう?」


「最初は、俺もチャイナ服着ようかなぁ?とか言って時間稼いでたんだけど、そのままでも良いから!って言われてからはキツかったかなぁ?!でも彼女が戻ってきたからって、直ぐにバイバイ出来たから、思ったよりは大丈夫だったよ?」


「初めてじゃ無いの?橘君が見た目を武器に何とかするのって?!」


「初めてじゃないけど…」


「やっぱり、あのカメラマンさんを口説いたのね?!帽子も取っているものね?」


「いかがわしい言い方しないでよ!ちょっとニッコリと頼んで見ただけだよ。彼女の写真を撮りたいんだけどいいですか?って!」


「カメラマンさん男の人だったわよね?」


「うん…」


「せめて女の人止まりにして置いて頂戴!彼氏が男の人に熱い視線を送られるのは、流石に勘弁して貰いたいわ!」


「あれは、まさかそういう意味じゃ無いよ!ああいう職業の人だから、こっちのお願いを聞けば、モデルに成ってくれると思ったみたい。俺も分かっててはぐらかしたから、言い訳出来ないけど」


「私の写真なんて、後から見せてあげるし、欲しいならあげるから、ああいう事はもうしないでくれる?」


「だって、待ち受けにするつもりだったし、角度もいろんなバージョンで欲しかったんだもん」


「それは、あまりしたく無いけど簡易なドレスならあまり値段も張らないから、其処まで撮りたいなら、よっぽど変な服じゃなければ着たのに!」


「本当に?!」


「今は、もう写真ゲットしたんだから、過去形だけどね?」


「なんだぁ~!結構期待を持たせて何気に酷いよね?」


「酷いっていわれても、もう撮ったんだから、充分でしょう?」


「ミニ丈のもいいなぁと思ったけど、他の人の目もあるから、あれにしたのに!」


「はぁ~?!ミニ丈のなんて元々着る気無いわよ?」


「椎名さん、ああいうのすごく似合うよねぇ!背もあるからスタイル良いし、めちゃめちゃ着映えするよね?」


なんだか、誉められるのは、純粋に嬉しいが、どうしても残念そうに橘を目で追う男性の目線が、残像に残ってしまってとても気分が悪かった。せめて、ヤキモチの範囲は女性迄にさせて欲しいとせりかは切実に思った。


とにかく予定の飲茶を、よく家族と行くお店に行くと、橘も美味しいと喜んでくれて、二人でポットのウーロン茶を飲みながら、デザートは杏仁にするかマンゴープリンにするか迷う辺りには、せりかも気分が持ち直したし、橘自身、あの手は滅多に使わないので(見たのは初めてだし)注意するまでも無いだろうと思い直した。


しかし、お店でせりかにも見せてくれた写真は、撮って貰ったものよりも、よく映っていて、せりかもデータを貰う事にした。しかし、恥しいので待ち受けは禁止ね!というとあっさりと承諾されたので、逆に疑わしくなってしまったが、橘はワザと言わないで置く事は有っても、せりかにつまらない嘘を付いて、信用を落としたりはしないので、不可解に思いながらもまあ大丈夫だろうと思った。


「玲人に見せないよねー?!」


「見せるけど、それが何か有るの?」


「えー駄目だよ!思ったより、その……身体の線とか写真でもはっきり分かるし!」


「今更、そんな事でどうこう思わないと思うけど?今日も着替えを見ても何とも思わないから、時間が無いから出てって!って言ったのに出て行かなかったし?」


「……それは玲人の前で着替えたって事?」


「連れて行かないのを拗ねちゃって面倒だから、着替え始めたら、玲人も流石に逃げ出したけどね?あれは、どっちかって言うと見たく無いのよ。橘君もお母さんとかの着替えとか見たくないでしょう?」


「椎名さんも追い出す為に其処までするなんて男前っていうか、無頓着って言うか…玲人に後から話を聞くけど、とにかく写真は見せないでね?」


「別にそれは、橘君が其処まで嫌なら、見せないけど、親には良いわよね?」


「それは、勿論!綺麗に撮れてるし、似合うから御両親も喜ぶんじゃないの?」


はぁーと安堵の息を吐くと、せりかの方が全然解って無いよ!と橘は口には出さないが悪態を吐く。


自分に関心を向ける様に仕向けたのは、せりかを変な目で見られたく無かったからだ。


せりかは、出ている所は割と出ていて、ウエストがかなりくびれているので、とても目を惹くプロ―ポ―ションをしていた。


それが、髪飾りなどを決める前に出て来て、チラッと見えてしまったので、気分は良くないが、写真を撮らせてもらう為では無く、こちらに関心を引く為に、大分無理をしたと言うのに、せりかには何も分からないようだった。せりかには、冗談で言っては見たが、ミニ丈なんて論外だった。


デザートを食べた後は、近くの山下公園を散歩した。当初はマリンタワーにも登ろうと思っていたが、観光計画は頓挫したので、のんびりとデートを楽しむ事にした。


腕を組んで、この公園を歩くと、周りがカップルだらけなので、自分達もその一員なのだが、初心者のせりかには少し気恥かしいが、ベタな事だが、彼氏が出来たらしてみたかった事の一つだったので、かなり満足だった。飲茶などは、友達時代でも橘はしてくれそうだが、これは流石に拒否をされるだろうし、やって貰ってもせりかにも何の意味も無かっただろう事なので、橘は何とも思わないかもしれないが、せりかはドキドキしながら海の見える公園を歩いた。目の付いたベンチに座ると夕日が丁度綺麗な時間だったので、しばらく見ていたが、夕日が落ちると暗くなって来たので、帰ろうか?と橘が言った。


せりかは、もう少し今日のデートの余韻に浸りたかった。シーバスでの告白を思い出すと、橘はせりかの事を好きでいてくれたのだと思うととても、嬉しかった。もう少し手を繋いでこのまま話して居たいと思うが、橘が駄目だと言うので、諦めたが「橘くん冷たーい」と玲人の真似で拗ねて見せると、溜息を吐いて小声で「そういう事は何をされても良くなってからじゃ無いと言っちゃ駄目だからね?」とお説教が始まってしまい、周りのカップルの見つめ合う甘い雰囲気とは程遠く、少し寂しいので、「ちょっとくらいは気分で付き合ってくれてもいいじゃ無い?」と反論すると「分ったよ」と諦めた様に笑って手を握り直してくれた。


せりかは、幸せな気分で微笑むと、橘は、心の中でせりかに「この天然悪女め!」と悪態を吐いた。しかし、一緒にいられるだけでも、橘も幸せだった。キスの一つでも出来たらもっともっと幸せなんだけどなぁとせりかを切なげに見ると、流石の鈍いせりかにも分かったらしく、夜目にも分かるくらい顔を紅くして、目を閉じたので、「いいの?」と橘が驚いて聞くと小さく頷いたので、抱き締めると少しびくっと驚いたので、イヤリングにそっとキスをして解放すると、せりかはとても恥しそうに軽く睨んで来た。やっぱりキスをして良かったのかと気付いた橘が、近づいて「椎名さんはやっぱり難しいよね?」とぼそっと呟いてから小さなキスを落とした。


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