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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
72/128

72

「せり、今日はデートなのか?」


薄付きUV対策バッチリのファンデ―ションに軽くブラウン系のアイシャドウをしてピンクのルージュを付けたせりかは、玲人には見慣れない姿だった。


「そうだけど、今から着替えようとしていたのに、急に入って来られると困るわ!」


「今更せりの着替え見たからって、何も思わないから、安心しろよ?」


「そっちが気にしなくてもこっちが気に成るの!それで、何か用事?」


「いや、暇だからせりと遊びに行こうかな?って誘いに来たんだけど?」


「あのねー!玲人にも彼女が出来たのよ?私と遊んでて良いと思ってるの?」


「別にマーヤは構わないって言うけど?忍は心が狭そうだもんなぁ?」


「…多分橘くんも怒らないけど、今日付いて来たら、流石にキレると思うわ?玲人にだけじゃなくて被害が私にも来そうだから、暇だからって付いて来ないでね?また別の日に遊んであげるから」


「今、忍にメールしたところだったんだけど、返事が超マッハで来て『絶対駄目!』だって!」


「何時の間にメールなんてしてたのよ?」


「うん。今せりが、荷物のチェックをしてる間。それで今日は何処に行くんだ?」


「今日は、横浜観光なの!シーバスに乗ったり、赤レンガ倉庫を回ったりするつもりなの!なんだか旅行中に一緒にずっと観光していたから、その時に地元観光もいいかもね?って言ってたのよ。夏休みに入ると混みそうだから、今のうちの方がいいかと思って!」


「ふーん。もしも、たまたま会ったら、仲間外れにしないでくれるよな~?!」


「私はいいけど、絶対駄目って言うのを無視するの?」


「そうだけど、別に俺が付いていってもいいじゃん!せりも、今度マーヤが連れて来てって言ってたぞ?」


「ちょっと待ってて?今、電話してみるから…」


橘に電話をすると、即、玲人に替わって?と言われたので、玲人に渡すと五分程の押し問答はあったが、玲人が負けた様だった。


「今日は、忍がマジでヤバかったから止めるけど、今度夏休みに皆で遊ぼうって?」


「そうね!その方がいいと思うわ。それで遅れちゃうから着替えたいんだけど出てってくれる?」


「なんだか、俺と出掛ける時と服も違う気がするぞ!」


「当たり前でしょう?隣の玲人と出掛けるのと一緒の筈、有る訳無いでしょう?走ると汗掻いちゃうから、早く出て行って!」


「せり冷たーい!」


いじけられている時間は無いので、服を脱ぎ出すと、玲人も平気だと口では言っていたが、流石に慌てて出て行ってくれた。


急いで紺にオレンジのドット柄にタイリボンが付いているミニワンピースに風に吹かれるので少し暑いが、レギンスを合わせた。これで茶の歩きやすい高さの無いサンダルにワンピースのドット柄のオレンジに近い煉瓦色のような革のバックを持った。


急いで駅まで歩いて、待ち合わせ場所まで行くと、橘は、旅行の時の様に帽子をかぶって居た。それに合わせてラフなシャツにベージュのボトムスで、茶の靴を合わせていたが、玲人では無いが、元々が良い人はあまり着飾らない方が良いという典型だなと思った。帽子は日よけの為では無く、目立つのを避けるためだろう。


「ごめんね~!お待たせ。玲人が中々、出てってくれないから遅くなっちゃったわ!」


「時間は、間に合ってるよ?玲人からのメールで、大体の雰囲気は分かっていたから、急がなくても大丈夫だったのに」


「前にも同じ様な事をされて、付いて来られたのよ?マーヤさんが今日空いていたら、危うく二人が付いて来そうだったわ?!」


「…前って、俺の前に付き合った人は居ないよね?」


「それは、ただの友達だったんだけど、たまたま私が行きたかったイベントにその子も行きたいって言うんで、一緒に行こうかってなったら、玲人が私の仲の良い友達と二人で、当日付いて来て、少しダブルデートみたいな感じになっちゃったのよ!邪魔されたのが、その子も腹が立ったみたいで、腹いせで玲人の前で、妙にベタベタして来るんで、こっちも断るのに大変だったのよ!」


「べたべたって?」


少し雲行きが怪しくなって来たのは、せりかにも感じるくらい、魔王様から瘴気しょうきが見えた。


「ベ、別に、大した事じゃないわ?手を繋いで来ようとしたから断ったし、肩に手をおかれたのも、玲人が払ってその後とび蹴りしてたから、何だか申し訳無くなって、結局直ぐに付いてきてくれた友達の女の子と歩いて、玲人の横で気まずそうにその男の子が歩くのが更に申し訳無くて、もう二度と、男の子とは出掛けないって思ったもの」


「…玲人って意外と非道な事して来たんだね…」


流石の魔王様をも呆れさせる所業だったらしい。


「そうでしょう?今日なんて可愛いものよ?諦めたんだから!」


「俺が、付いてきたらとっても後悔すると思うよ?って言ったら諦めてくれたんだけどね?」


それって脅しじゃないんですか?!っていうか脅しなんだよね!魔王様恐るべしだ!!


「別に殴ったりはしないよ?仮にも友達だしね?」


「それよりも、もっと後悔させるダメージを与えるってことでしょう?大体やりそうな事が分かるから、巻き込まれるのが分かって嫌だわ!」


「ふーん。例えば?椎名さんならどうするのか、聞いてみたいなぁ?!」


「私と角度的にキスでもしている様な写真を撮って、真綾さんにメールするとかね?普通に仲が良さそう位では真綾さんには通じないしね?」


「他には?」


「玲人が居た堪れない程、いちゃいちゃするのが、真綾さんも巻き込まない最善なお仕置きかしらね?」


「正解!流石椎名さんは分かってるね?!」


「どっちにしても私が巻き込まれるんだもん。良い事無いわ!」


「そうだね。流石に椎名さんにも、玲人と同じくらい後悔させて嫌われちゃいそうだしね?」


「嫌わないけど一週間位は、口を聞かないわね?」


「それは、俺も後悔しそうだから、もしも今日、偶然・・玲人と会ってもやらないで置くよ?」


「ふぅー。良かった!行くところをうっかり言っちゃったから、可能性はゼロじゃ無いのよ」


「多分、来ないよ?玲人も、前の時は邪魔したかもしれないけど、今は自分にも彼女がいるんだしね?」


「それが、真綾さんが妙に私の事を気に入ってるから、其処の所が彼女に嫉妬もされないから、普通ってものが玲人にも解らないのよ!普通、彼女がいるのに、私と出掛けていいと思ってるのかしら?」


「椎名さんは俺がいても、玲人と出掛けているのはいいと思ってるよね?」


「それは、橘君に毎回良いか聞いてるじゃない!真綾さんは休日に習い事が多いから、映画とか見たいのがあると一番身近な私を誘うのは仕方がないし、今迄行っていたのに、急に恋人が出来たからって玲人を見捨てられないわ!」


「そうだね。断ったら俺も玲人が不憫だと思うけど、俺以外の人とこの先付き合うような事になった時に玲人の影をチラつかせるのは、椎名さんの為に成らないから、それは気を付けた方が良いよ?」


「…そうやって、また、いつ別れても良い様な事を言うのね?」


「そういう意味じゃ無いよ!俺以外には、玲人が張り付いてくるのを分かって貰えるとは思えないから、付き合う様になったから言える事のひとつだよ?」


「私への思いやりで、言ってくれているのは分かるけど、正直凹むわ!」


言い合っていると待っていたシーバスが来たので、それに乗ってから話をしよう?と橘がいうので乗ると、人が少なくて、すぐに出航したので、風に吹かれてしまい、降ろして来た髪が、橘に当たってしまった。


「ごめんね?結構髪って凶器になるわよね?」


慌ててシュシュで髪を束ねる。前に玲人がシューズのおまけに貰ってせりかにくれた物だ。


「大丈夫だよ。……少し暑かったから、風が気持ち良いね?」


「シーバスなんて乗るのは子供の時以来で、何年ぶりかしら?確か、親戚を観光案内するのに連れられて乗ったのが最後だわ!」


「近いと意外と乗らないんだよね?…さっきの話だけど、俺は椎名さんと別れてもいいとは思ってないよ?そういう風に思われる事を言ってしまったのは悪かったけど、椎名さんが俺を想ってくれているよりも、ずっと俺の方が椎名さんが好きだよ…」


「………本当に?!………」


「何なら証明も出来るよ?」


そう、橘が囁くと、意味を理解したせりかは、かぁーと血液が逆流するのを感じた。


「私がした方法以外で証明して欲しいわ?」


なけなしの気力でそう言うと、橘がせりかの耳元で揺れているラピスラズリのイヤリングに口付けて「この石に誓って椎名さんが好きだよ」と言った。これは橘に誕生日に貰った物なので、かなり説得力があった。


せりかが、何か小さく言うのが風の所為で聞こえないが「何?」と聞き返したが、せりかから耳元を指差すのでかがむと、耳元に軽く口付けて「私も好きだから、信じて?」と言って来たので、心の中では『信じたいんだけどね…』という言葉は飲み込んで「勿論信じてるよ」といったが、表情がやはり伴わなかったのか、せりかが不審な顔をして周りを見回してから、橘にキスをした。


「証明はしてくれなくても信じてるから、大丈夫だよ?」


「今のは別に証明でしたわけじゃないもん。普通でしょう?付き合っているんだから?」


「じゃあ、証明以外で椎名さんからしてくれた、初めてのキスだね?ありがとう。嬉しいよ?首位の御褒美はくれないみたいだったから」


「橘君って、前に家に来た時も、私が抱き締めたら『有難う』って言ったのよね!何だか違う気がするんだけど、気の所為かしら?」


「違うって、何で違うと思うの?」


「聞きたくないけど、今迄、付き合っていた人からキスされた時も『有難う』って言っていたの?」


「……そういえば言ってないね?おかしいのかな?やっぱり」


「聞きたくなかったけど、違うって事は分かるのよね?」


「なんて言うのが適当なのかな?ちょっと待ってて。思い出すから」


「思い出さなくてもいいわ!何も言わないでいいのよ。抱き締めたら抱きしめ返してくれればいいのに、哀しそうな顔で有難うって言われると、どうしていいのか分からなくなるのよ」


表情にでてしまっていたのか!と少し舌打ちしたい気持ちになるが、大好きな彼女からキスをされて哀しそうになってしまえば、せりかで無くとも不振を抱いてしまうだろう。


「何だか、夢みたいで、覚めそうで怖くなるんだよ。だからそういう顔をしてしまっていたかもしれないけど、心配させちゃったみたいでごめんね?」


「夢みたいって、そんな風に橘君が思っているなんて、思わなかったわ!だって別れたいって言ったじゃ無い?!」


「一度、夢が叶うと、夢だと自分が思える内に終わらせたいと思ってしまったのは、俺が弱いからで、椎名さんが悪いわけじゃないし、そう思ってしまうくらい好きなんだ…リハビリか勉強で良いと言ったのは、嘘では無いけど、俺はリハビリも勉強も、好きな子としたいからね?」


「あの時から私が好きだったって事なの?私を騙したの?!」


「騙してはいないよ?言わなかっただけだよ。好きだからっていったら付き合ってくれないでしょう?」


「~~!やっぱり、橘君は橘君よね?!」


「怒ってるの?」


「少しね!さっきのキスは返して貰いたいわね!」


「同情からのキスだったんだ…やっぱり」


「同情で出来る程、安く有りません!そういう所が、本当に………もう、いいわ!」


「嫌いになった?」


「…もう一度さっきと同じ誓いをしてくれたら許すわ!」


橘はラピスラズリの先程とは反対の石に口付けて「愛してるよ」といった後、唇にキスをした。


「~~!!返して貰いたいって言ったけど、本当に返さないでよ!」


真っ赤になるせりかに、こんな昼間のシーバスで、いくら人気ひとけが周りに無いにしても何をやっているんだろう?と橘も自分でも少し反省してしまった。


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