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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
71/128

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沙耶からありがたい忠告を受けた橘は、沙耶が言った「またせりかちゃんに片思いを続けさせるのは可哀想だ」という言葉と「本庄の事を言ってしまわないと橘自身も駄目になる」と言われた事が深く胸に刺さった。


前者は自分がせりかに伝えれば良いだけの事なので、今迄は言わない様にして来たが、お互いの親に紹介したり、キスをしたりしてしまった事を考えれば、枷が一つ増える事よりも、せりかが橘の気持ちを今は求めてくれているのなら、応える方がせりかの為に益が大きい。


それは、簡単に出来そうだが、急に言っても沙耶への相談直後では疑われそうだし、学校で唐突に言えるものでは無い。


どうしようか?と思っていたが、デートの約束を思い出し、その時がチャンスだな…と考えを巡らせる。


せりかからは、期末テストで首位を取れたら褒美を強請ろうと目論んでいたのを見透かされてしまい、予防線を張られてしまった。


この間のテスト期間中の事が余程堪えているのだろう。


三問正解毎に、目を泳がせてから頬を染めるせりかが可愛くて、少しやり過ぎた感はあったが、羽がかすめる程度の軽いものであった為、せりかの負担になる程では無いし、じきに慣れるだろうと思った読みは少し甘かった。彼女に別れ話を一度してしまっている為に、橘に対して拒否をすると言う事はしづらいのだと、もう少し早く気付いてあげるべきだった。


自分の不安もあったが、少し浮かれていたのかもしれないと、せりかへの配慮の無さに反省するが、本庄の事もこのまま放置すれば、せりかが何時でも飛び立てる準備をしてしまう自分の態度が、せりかに対して、とても愛情が有る様に映らないであろう事も、今回沙耶のお蔭で分かったので、それも本庄達の思惑の全てを無視は出来ないが、どんな結果になっても解決しなければならないのだと思う。


部活の後、玲人と一緒に帰る時に、玲人が真綾と本庄の事を知っているのか、聞いてみる事にした。一番は本庄のせりかへの気持ちを知っているのかを聞きたいが、真綾に口止めされていれば、口を開かせるのは気の毒だ。


「本庄と更科さんって何で別れたのか、更科さんから聞いた?」


「ああ、なんだか最初から付き合って無かったっぽいな?」


「それでも別れの切っ掛けは、あったんでしょう?更科さんが玲人を好きになったから、別れた訳でも無いよね?」


「聞いてはいるんだけど、マーヤと本庄のプライバシーもあるから、ちょっと言えない……」


やっぱり玲人は、本庄がせりかの事を好きだと知っていて、黙っているのだと確信する。


これ以上玲人を困らせるのも可哀想なので、あっさりと退いて話題を変える事にする。


「…そう。そういえば、旅行後はせりりん争奪戦が終わったから、部活が楽になったよね?この暑いのに、あの暑苦しい連中に迫られたんじゃ、参るしね?」


「本当だよなぁ?あれはマジで大変だった!奴ら、目がマジだし!段々コンビネーションも良くなって来て、結構やばくなって来てたから助かったよ!忍さまさまだよ」


「それは、俺と椎名さんも思ったよりも順調だし、玲人は更科さんと何時のまにか付き合う事になってるし、お互い急に彼女が、まるで振って来てくれたみたいだよね?」


「そうだなー。マーヤは吹っ飛んできた感じだな?せりも忍と付き合うって言い出したのも突然だったから、忍からすると振って湧いた様な話だよな?そんな予定は全然無かっただろう?」


「予定は無くても、可愛い彼女が出来る事自体は、歓迎してるし、後…親があの後、すごく喜んで安心してくれたから、良かったよ。玲人のお蔭かな?」


「せりは、特別な女だと忍も思うのか?!」


「……?意味がよく分からないけど、特別な人なのは、確かだけど、玲人が言っているのは、そういう意味では無いよね?」


「なんて言うか…他と比べて違うって思うのか?」


更に意味不明に聞こえてしまうが、多分、本庄の言葉をそのまま言えないが、せりかの事で自分が思っているせりか像と全く違う事を言われたので、一般的に如何なのかを聞きたいのだろう…というのは察せられたが、彼女の恋人である自分に聞かれても一般に思う意見等が、出てくる筈も無いと思うが真剣に聞いてくる玲人が面白いので、話しに少し乗る事にした。


「他と違うというのは、一般的な女性と違うかと言えば、彼女は、少し優し過ぎるよね?俺に対してもそうだから、正直俺が我儘になってしまいそうだけどね?」


「忍が?!我儘って言葉はあまり似合わないけど、やっぱりせりは、そういう懐の深い女なんだよな?きっと。おれは最初からその恩恵を受けてきたから分からないんだな。やっぱり…」


「それって、本庄に言われたの?」


「何で分かるんだ?!」


「そんな哲学的な言い方、玲人には似合わないよ!いかにも本庄っぽいんだもん!」


少しくすくす笑いながら言うと、玲人の警戒は解けてきた様だった。


「本庄が、せりを『赦しの聖女の様だ』って言ったんだけど俺からは聖女にはとても見えないから、奴の方が何か勘違いしているのか、俺の認識がせりと近過ぎて鈍いのか、どっちなのか忍に聞きたくなったんだよ」


「『赦しの聖女』ねぇ?いかにも本庄が言いそうな例え方だね。そういう事を平気で言えちゃう方の本庄は如何なのかな?って思う程、普通じゃないけど、椎名さんを例える言葉としては言い得て妙だね!俺もそう思うよ?彼女は、長く怒っていられないし、何か納得がいかない事が有っても、何か言えない事情があるんだろうって許しちゃうよね?俺を押し付ける玲人も許すし、それに加担した俺の事も結局許してしまうんだから、『赦しの聖女』というのも納得するけどね?」


「そうか。俺がやっぱり、せりの優しいのを、当たり前だと思って来たって事なんだって分かったよ。でも『聖女』は流石に表現としては、怖すぎないか?」


「それは、少し怖いね?流石に俺も彼女を、そういう目では見ていなかったから、本庄の言葉は若干引くけど、納得はするね!」


「忍は中間派だな?」


「そういう問題なの?!」


「あの小舅、俺の事を何も見えて居なかったかの様に言うから、少し悔しくてさっ!」


「玲人にしか分からない、椎名さんの良さも有るだろうから、そう言う意味では、ドローじゃ無いのかな?」


「忍は俺の事をやっぱり小舅だと思っているのか?」


「うん。椎名さんの兄弟みたいなものだし、そうするとまさに小舅になるよね?でも玲人は椎名さんの事とは関係なく友達だから、玲人が思う小舅とは大分違うかもね?」


「そっかー!それならいいけど、俺もお前等の事に口出しはしない様にしようと思うんだ。俺が付き合う様にしておいて説得力が薄いけど、それでも邪魔になる様な干渉は、なるべくしないようにするから!」


「どうしたの?明日雨になると練習辛いよなぁ?なんだか玲人らしく無いよね?」


「お前の中の俺ってどんな感じなのか?って聞きたいけど、前に言われた能天気っぽいの思い出したから、聞かないでおく…」


「いいんだよ?俺も椎名さんも玲人らしい玲人が好きだし、特に迷惑じゃ無いよ?椎名さんに俺以外の彼氏が出来た時には、玲人は少し離れててあげないと彼氏が霞んじゃうから、その時は気を付けてあげれば?」


「言うよな?流石に俺の何倍も格好良い彼氏だもんなぁ?!」


「それ、まだ引き摺ってるの?あれは椎名さんのリップサービスでしょう?うちの親も玲人が帰った後は、三日くらい本当に取り替えたいって言ってたから、たいして変わらないでしょう?変われるなら俺は玲人の方がいいけどな?」


「せりは、本気だったぞ?俺に『見慣れちゃったのかしら?ごめんなさい』って追い討ちかけてきたんだぞ?聖女様が?」


「椎名さんが本気でそう思ってくれて居るなら、かなり嬉しいけど、俺も最近聖女様の御機嫌を損ねちゃう事をしちゃったから、評価は少し下がっているかもね?」


「せりは、意外と厳しいからなぁ?真綾の方が気は強いけど、厳しさは全然、せりに及ばないな?」


「そうかもね?でも慣れるとあれが結構くるよね?」


「あのなぁ~!そういう事を言うのか?俺の前で!」


「ははっ!やっぱり小舅様が顔を出すね?」


「……忍だって止めなくてもいいって言ったじゃん?」


「そうだね?お蔭で明日の雨は免れそうだよ?」


「お前って、性格変わらないよなぁ?聖女様に少し矯正して貰えばいいのに!」


「すっごく良い奴になったら別人だよ?玲人はその方が良いの?」


「うーん。悩むところだよなぁ?」


「悩むなよ!!」


「忍が良い人になっても怖いかもな?それに明日は晴れるといいしな?」


「そうだね…自分の行いを思うと少し怪しいけどね?」


「まさか、せりに、手を出してないよな?!」


「………彼女なんだよ?指をくわえて見てるだけの筈無いでしょう?言っておくけど、椎名さんにそういう事を聞いたら、しばらく彼女に口を聞いて貰えなくなるよ?」


「くそぉー!無理強いはしてないよな?」


「それも、少し怪しいんだよね?なるべく気を付けるけどね?」


「血の雨降らすぞ?!」


「やっぱり、小舅様を折角玲人がめるって言ったのを、勿体無いからめない事にするよ!」


「……………直ぐには無理だ!やっぱり!」


「玲人を犯罪者にするのは、俺も忍びないから、大丈夫だよ!」


忍がにっこりと天使画の様な笑顔を見せたので、「こういう笑い方をする時は嘘くさいんだよ!」と怒る玲人に、忍はいつもの少し黒い笑みで「玲人は小舅じゃなくて心配性のお父さんみたいだよね?」と笑った。玲人には、こちらの本当の笑顔の方が信頼感が有ったので、やはり性格矯正はしなくてもいいか!と思ったが、少しせりかの事を帰ってから変な目で見てしまわないか自分の事が心配になった。



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