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幼馴染の親友  作者: 世羅
1章
7/128

橘くんに、『ごめんなさい!!私の不注意で本当にごめんなさい』とメールを打とうとしたけれど、送信は出来なかった。直接言わなければ謝罪にならない気がしたからだった。明らかに私がよろめいた為の事故であちらも、もしかしたら初めてかもしれなかった。女の子の方だけが、そういう事にロマンを持っているわけでも無いだろうと思う。よっぽど異性との付き合いが雑な人ならともかく、橘はそういうタイプではない。玲人に相談してみようかと思うが、相手のプライバシーにも関わる以上、友達でもある玲人に話してしまうのは、やっぱり悪いだろう。やはり、二人きりになれる時に、直接謝るべきだろう。




一年五組版シンデレラは、全体の催し物部門で最高ポイントをゲットして、(投票箱が設置されているのと、お客さま動員数と先生の投票数で決まる)一年のクラスとしては異例の最優秀賞を獲得した。観客動員数の多さもさる事ながら、内容に随分の脚色があったが、それが持ち点数の高い先生方に、高い評価を得たようであった。少し、道徳的なところを説いていると思われたらしい。演出の荒井にその意図があったかは分からないが、皆がとても喜んだのは間違いなかった。副賞は驚いたのだが、生徒会が用意してくれたカチューシャだった。いくら、今流行っているからっていっても装飾の類が、賞品って大丈夫なのだろうか?


気にしていると色とりどりのリボンの付いたものから、レースのものまでいろいろあって、皆で各々、好きなものを選ぶ。せりかは、茶色のシンプルな物を選んだ。男子は使わないし、どういう風になるのかと思ったが、姉、妹、彼女、友達、もしくは、これにあやかって好きな子に告白して渡すという選択肢を生徒会から提案されると、会場がどっと沸いた。はやし立てて、「がんばれよ~!」という声が聞こえてくる。きれいな透明な袋にリボンで可愛く包装されていて、如何にもプレゼント用だった。男の子達も誰の顔を思い浮かべながらかは、謎だが、結構真剣に女子と共に選んでいる様子は可笑しくも微笑ましくもあった。やはり、戦利品である以上、普通に買ったものよりも嬉しい。


女子は全員その場で装着して、皆で似合うとやんやと褒め合って、勝利の美酒に酔うという感情に近い気持ち良さを味わった。皆がそれぞれ、いい仕事をしたという満足感で一杯だった。


生徒会の片づけの人がちらほら見えるが、他の人達は大体帰ったが、五組の皆で、帰り難く、輪になって騒いでいるところで、それは起こった。


橘が、せりかに近づいて来て、目の前に真っ青なリボンのカチューシャを差し出した。早くもお友達にくれる気になったのか?と誰もが思ったが、その後、橘の発した言葉が、それを裏切った。


「椎名せりかさん、俺と付き合って下さい」


はぁ~??生徒会推奨を早速、使いますか?みんなビックリです。でもその場のノリの類で済ますのが、ここは得策だとせりかは考えて、にっこりと「喜んで」とカチューシャを受け取ると、皆からは拍手が起きた。冷やかす者は誰も無く、普段から仲が良く、主役も演じ切ったツーカーの学級委員二人のノリの良い余興だと思われたようだ。せりかの軽い快諾の言葉が、そういう風に思わせる要因だった。普通は、皆の前で告白されて平然と即座に返事したりなんてしない。慌てたり、テレたり、狼狽したりするのが多分、正しい反応だろう。余興にも盛り上がったところで、後日打ち上げをする事になり、皆で家路についた。


わらわらとクラスの皆と美久や弘美と校門まで行くと玲人が待っていた。どうやら両方の親が、近くの喫茶店で待っていて皆で食事でもしようという事に決まったらしい。二人に簡単に説明して別れて、玲人と二人で駅とは反対方向に歩き出した。それを見たクラスメイト達は、先程の二割位残った疑念も晴れたようだった。橘も近くにいたが、玲人が親しげに手を挙げて向こうもそれに応えて手を挙げた。どこから見ても、先程の事を真実、真剣なものだったと思うものは、これで限りなくゼロになった。


せりかは、自分の所為で唇がかすってしまった事を謝らなければならないが、まさかその事で、責任を感じて言いだしたことじゃないよね?と橘にしては笑えない冗談に不可解なものを感じていた。いずれにしても後日、橘と二人で、話合わなくてはならないだろう。


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