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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
69/128

69

期末テストは無事終わり、当然の様に橘が首位に返り咲いた。


「やったー!」せりかは三位だったが中間より期末の方が少し落ちてしまうせりかには上々の出来だった。


「橘君おめでとう!」


橘と本庄が話している所にせりかが駆け込むと、二人は笑い出してしまった。


「何でふたり揃って大爆笑な訳?おかしな事なんて何も言ってないわよ」


「それは、中間テストからの流れからすると、どうしても笑っちゃうよ。お嬢さんの『三冠馬になれ!』っていうのを思い出しちゃうもんなぁ!」


「今回は期待を裏切れないから、受験勉強と同じ位に必死だったよ」


「まあ、あそこ迄プレッシャー掛けられればなぁ?」


「まだ一冠だから、最低あと二回は頑張らないとね」


「…なんだか私が無理強いしてるみたいじゃないの!」


「してるんじゃ無いの?橘の取り様にもよるけどね?」


「期待は裏切らないって前回言っちゃたから、今回は少しはきつかったかなぁ?やっぱり」


「そう。でも一位で良かったじゃない?何も頑張ったのは、私に言われたからばかりじゃ無いでしょう?」


「「………………」」



「沈黙が痛いけど、橘君が私に言われた位でテスト勉強に力を入れたり、手を抜いたりはしないだろうから、当然の結果よね?良かったわね!」




そう言ったせりかは美久達のところに、喜んで橘の首位奪還の報告をしにいって、やはり苦笑を誘っていたが、こちらの様に爆笑に成らないのは、『彼氏』の首位を喜んでいると思われている為だろう。


しかし、中間テストの頃はそんな話は微塵も無い頃で、例え橘との関係が変わっていなくても、同じ反応だったであろう事が分かる橘と本庄は大爆笑だったのだった。


「相変わらずお嬢さんは最強だよな?」


「今は俺の事を自分の事の様に喜んでくれても不自然じゃ無いけど、前回は流石に参ったよ」


「そうだよな。面喰ったもんな~!」


「そうそう!大差ならまだしも一点差なんて諦めが付かない!って言ってこられた時は本気でハナ差で負けた馬の気持ちが分かったね」


「ははっ!御愁傷様。でも今は彼女のお願いなんだから、気を引き締めないとな?」


「それは彼女が、理不尽じゃ無く見える様になっただけで、俺の中では一緒だよ!お前だってあの時の勢い、一緒に居たんだから覚えてるだろう?」


「でも、椎名さんがそう言うんだから仕方が無いよね?」


「はぁー。確かにそうなんだよな…」


橘が溜息を吐くと本庄は僅かに笑みを見せた。お嬢さんの彼氏で居られる以上、このくらいで弱音を吐く位なら、さっさと自分に渡して欲しいものである。しかし、そんな事を言える筈も無いので少々橘にプレッシャーを掛けさせて貰う事にした。




せりかは橘の首位を喜んでいたが、試験までの数日、部活動が休みになった橘と一緒に勉強をしていた事を思い出す。


玲人を誘ったが断られたので、最初は少し部屋に入るのも緊張したが、それも無くなって来た頃に悪魔様は「問題を間違ったらペナルティでキス一回ね?」と軽く言ってきたのでパクパクしてしまったが、要は間違えなければ良いのだと特に異議は申し立てなかったが、結局間違えないせりかに橘は翌日は「正解したら御褒美に変更ね!」と言って来たので、せりかはそれは流石に異議を申し立てると「彼女とラブラブな感じで試験勉強ってやってみたかったんだよね?」と要は悪魔様に、自分のリハビリに付き合ってくれるよね?と言われてしまった為に断れなくなってしまった。毎回は初心者には刺激が強いからと言って三問正解で一回の割合で、チュッとリップ音のする軽いキスを何度もされてしまうと、せりかはクラクラしてしまい、頭が馬鹿になってしまいそうだった。それをテスト期間中続けられたのだから、橘の首位など取って貰って当然である。あんなに余裕があったんならこれからだって当然だとせりかは思うが、あれが無ければせりかは二位を取れたんじゃ無いかと秘かに思っているが、教えて貰ったから出来たのも多いので相殺でやっぱり三位が妥当かなぁとも思う。


とてもそんな事は誰にも話せないので、一般的にラブラブな範囲なのかどうか疑わしいと思っているが、多分違うと思うのは、あれでは普通、勉強に成らないだろうと思うのだが、悪魔様は流石、常人と違ってその位の事では動じた様子もなく勉強出来ていたので、首位は当然だが、せりかは結構一杯一杯で、玲人にテスト勉強、根を詰め過ぎるなよ?と言われていたが、玲人の前でも同じ事をされかねないので、玲人に付いて来て!と喉元まで出かかったが言えなかった。彼は御機嫌で毎回せりかの家まで送り届けてくれたし、あちらのお母さんも喜んで迎えてくれたので、悪魔のキス以外は完璧な彼氏振りだったので、玲人も親達も爽やかに挨拶して毎回帰って行く橘に感心していた。


しかし、嫌なら拒否するなり、橘の家に行かないなり、出来た事はせりかも分かっているので、せりかも何と無く橘の施すキスがとても軽く、せりかに嫌悪と恐怖を与えない物だという事は分かっていた。一度だけお母さんが出掛けていた日が有ったが、軽く橘が今日は御褒美お休みね!と言って来たので意外と気を使ってくれているのだと分かった。


そう思って、悪魔の所業は許そうと思っていたのだが、テストが終わったらデートの約束をしていた。旅行以来、初めてのお出掛けだが、一位になったらせりかに御褒美を強請るのが予想出来たので、軽く私の為に一位を取ったなんて馬鹿な事は言わないわよね?!と念を押して置いた。



デートは何処に行こうか相談中だが、なんだか急に出来た彼氏との急な展開に付いて行けない……。相手が嫌な訳では無いけれど、このまま付き合うのも不安だったが、こんな事、誰にも相談出来ない!と思っていたが、今日は委員の仕事が有って沙耶が付き合ってくれる。沙耶になら全てでは無くとも少し相談出来そうだった。




放課後、仕事をしながら、少し声を潜めて沙耶に「相談に乗って貰っていい?」と聞くと「勿論!」と言ってくれたので、聞いて貰う事にした。


「最近、彼の部屋で一緒に勉強してたんだけどね……」


流石に恥しくてモジモジと言い澱むと沙耶が「まさか押し倒されちゃったの?!」と聞いて来たので慌てて首を振った。


「良かったー!なんだか深刻だったから!」


と沙耶が言うので、もしかすると子供っぽい相談なのかな?っと少し不安に思いながらも、思っている事を相談してみた。


「うわー!流石に彼氏の方もよく知ってる人だと話がリアルで恥しいわね!」


と沙耶はそう言って頬を紅く染めた。


「うん。言う方もかなり恥しいんだよ?」


「そうよね~!少なくとも聞いている限りは、せりかちゃんが嫌な事ははっきりと拒否すれば、無理強いしそうな相手でも無いし、気も使ってはくれているみたいだから、少し相手がギリギリセーフな辺りを狙ってやって来ているのは気になるけど、多分彼くらいじゃ無いとせりかちゃんとだと何も進展しなさそうだし、かといって普通は部屋に入った時点で手を出されてもおかしく無い訳だしね?恋人なんだし!…そう思うと、こう言っては何だけどライトなキス位で済ませてくれる辺りは、流石橘君ね!って感じなのよね。せりかちゃんが不安に思うのも分かるけど、急に関係が深まっているって印象は受けないわよ?どちらかと言うと、せりかちゃんが困るのを喜ぶ性癖の方が問題よね?」


「やっぱり!あれは小動物をいたぶる行為だったのね?!」


「せりかちゃん、仮にも彼氏にキスされてその感想は無いって!嫌って訳じゃ無いんでしょう?!それに旅行の時もしてたでしょう?」


「何で知ってるの?もしかして見られてた?!」


「ううん。せりかちゃんが女の子から迫っても嫌がられないか聞いて来たんで、何と無くそうなんだろうなって思ってたら、橘君に会ったら、せりかちゃんがつけてるグロスのラメが付いていたから注意したのよ」


「そっか~!それであの悪魔、次の日のバスであんな事言って来たのね!」


「何か言われたの?橘君に」


「言われたのよ!小樽に行く前に!せめて二人の時に言ってくれれば、少し恥しい位で済むのに、皆もいるバスの中で「ラメが付くから出来たらそのグロス付けないで」っていうから周りもいるのにすごく顔が紅くなっちゃって何の嫌がらせかと思ったわよ?!」


沙耶は遠い日を思い返して「明日の小樽楽しみだね?」といった魔王様が、やはりせりかをタダでは許さなかったのだと分かった。自分の失言の所為だが、「お手柔らかにね」といったが微笑んで返事はしてくれなかった事を思い出す。そう思うと出来ない事は言わない主義なのかもしれないとも思う。


「すこーし彼女を困らせたくなるのは、許してあげる事にして、本気で許せないっていう事が有れば、文句を言うか、最悪は別れる事に成るわよね~!」


「別れるって…それは正直考えて無かったわ!相手が言い出す事は有っても、私からは無いと思うわ…」


「随分と魔王様に御執心なのね?」


「前から真っ黒なのは知っていたから、本当はこの位でうろたえるのも変なんだけど、彼が大した事もしないのにあっちの狙いが的確なんで、こっちが思ったよりもダメージが大きいのが悔しいのよ!今迄も同じ様な事は沢山有って、いつも彼には負けっぱなしでも全然以前なら平気だった事が、何故か平気じゃ無いのよね!」


「付き合うってそういう物だと思うよ?私も友達だった期間が長いから分かるけど、相手も此方もその期間とは気持ちが違うのよ!なんだか負けたく無いって思っちゃうのよね?」


「うん。そうなのよね!でもやっぱり橘君には、気まで使われちゃう位、負けているんだと思うと相手の気持ちは分かるんだけど、そこまで負けてるのかと思うとこれから付いて行けるのかなぁって思ってしまうんだと思うんだ…」


「…大丈夫よ!少なくとも彼がせりかちゃんに夢中なんだし、その時点で向こうの負けよ!」


「とても、そうは思えないけど、沙耶ちゃんの慰めは聞いておくね」


本当なんだけど、せりかは何を言っても信じないだろうから、橘の方に少し自重させた方が無難だろうと沙耶は思った。


「聞いた感想ではね、とてもうまく行っていて、相手もせりかちゃんの事を想ってくれているし、せりかちゃんが不安に成らない様にもう少し橘君がしてくれたら、言う事無しって印象よ?」


「そうだよね~!贅沢な悩みなのかなとは自分でも思っていたけど、なんだか誰かに聞いて見たかったのよね。普通が良く分からないから、今の状態で大丈夫なのかなって」


「人それぞれだから、意外と自分達の中で許されれば他と比べなくてもいいのよ?」


「だけど、相手は過去に彼女がいるから、その人達との普通も存在していた訳でしょう?そう思うとやっぱり大丈夫なのかな?って常に思ってしまうのよね」


「それは、比べられる対象がいるのは、キツイわよね……でも、せりかちゃんが無理してもやっぱりうまく行かないと思うから、相手がどう思うかよりも、自分がどう思っているかを優先するしか無いのよ。結局相手の思う事なんてはっきりとは分からないじゃ無い?それで空回るよりは、確実に分かる自分の感情で動いた方がうまく行く確率が高いと思わない?」


「確率ねぇ。そうだよね!あれこれ考えても自分の気持ちを最優先して駄目なら結局は駄目だったって事だもんね?」


「そう思うよ!とにかく今はどう聞いてもラブラブでうまく行っているうちから、先の事まで心配する必要なんて無いと思うわ」


「うん。分かった。ありがとう聞いてくれて」


「ううん。私が悩んだ時は、せりかちゃんが聞いてね?」


「それは、勿論いくらでも聞くわ!」


沙耶は、ここには居ない橘をどうとっちめてやろうかと秘かに考え始めていた。


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