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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
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バーベキューはお肉を気張った為か、一緒に刺してある野菜にも美味しい肉汁が沁み込んでとても美味しかった。母親達もこれからはお肉は無理しても良い物が良いわね!とこっそりと言い合っていた。


せりかの父親はかなり飲んでしまった様で顔が赤い。娘が彼氏を連れて来たんだから、酔い潰れるなんて恥しい事はしないで欲しいなぁ!とせりかが言うと、玲人の父親が「娘の父親の心境は複雑なんだよ」と庇い、玲人と二人でせりかの家の和室まで父を運んで行ってくれた。


「お父さんも感じのいい彼氏で嬉しそうにしていたけど、それでもやっぱり寂しいのよ」と母も言い橘に気を悪くしないでね?と笑いかけると橘も頷いた。


せりかと玲人は手慣れているので、手伝うと言った橘と真綾を断り、ふたりで手早く片づけた。頂いたケーキは直ぐに食べられそうに無いので、玲人の部屋かせりかの部屋にでもいって貰えば?と言う母の提案により、せりかの部屋に行く事にしたが、玲人が真綾の首根っこを掴まえて「お前はこっちに来い」と自分の部屋に連れて行ってしまった。


「とりあえずお部屋で少しゲームでもしようか?」


「椎名さんの部屋はどんな感じなのか楽しみだな」


「普通だよ?」


「うん。でも興味があるかな?玲人のところも折角だから後で行こうかな」


「そうだね。でも真綾さんと話しを付けようとしているのかも知れないから、話しの邪魔になると悪いから、メールとかで様子聞こうかな」


「玲人は多分俺達の方に気をきかせているんだと思うけど……」


「えっ?!そうだったの?それは、それで気恥かしいね!」


急に抱き付いてこようとしたりする大胆さはあるのに、部屋にふたりきりになるのは恥しいというのは、彼女独特の矛盾だが、こちらが通常で、大胆な時は混乱していて他に気が回らないから恥しくならないのだろうと思う。


部屋に通されると麦茶を持った彼女も一緒に入ってくる。カーテンやカーペットはすべて濃淡こそあれオレンジで小物もオレンジと黄色で纏められている。


「椎名さんってオレンジが好きだったんだねー!」


「うん。だから、部屋は殆どオレンジ系になっちゃって、そうすると後のものは黄色か、きなりみたいな色しか合わせられないから、自然と他の色は決まってしまうのよね。これ以上カラフルな部屋になったら落ち着かないって玲人にも言われちゃうのよ」


「玲人はよく来るんだよね?」


「殆んど毎日かしらね?少なくとも週5くらいかしら」


「そうなんだ。この間の修学旅行でも思ったけど、少しは妬けるかな?」


「えー!玲人に?それは無いって橘君も前に言ったじゃない?」


「別にやめて欲しいとかじゃないからあまり気にし過ぎないで欲しいんだけど、気持ちはやっぱり変化するものだからね」


「そっか~!気を付けた方が良いの?」


「ううん。言ってみただけ。何かして欲しい訳じゃなくて、ただ聞いて貰えれば充分かな。意味が無いみたいだけど言わないと何だかたまりそうだったから…」


「確かにそうよね。そういう事を聞いていれば、少しは気を配る事も出来るから、言っておいてくれた方がいいわ!私もクラスの皆に最終日の夕ご飯の時のこと、橘くんが可哀想だよって散々言われたのに、橘君はそんな事微塵も気にしないって切り捨てたけど、周りの方が正しかったのね!」


「今は逆に椎名さんに妬いて貰いたいけどね。一生無理そうだけどね」


「甘えられたい願望と一緒ね?とっても似合わないけど、らしく無い所が微笑ましいわ!」


「ああ、あのバスの時にもうろうとして要らない事を沢山言った気がするなぁ」


「あれは結構面白かったわね!旅行の醍醐味ってこういう所なのかなって思ったもん」


「それは激しく誤解だよ。あの時は一睡も出来ないのに皆に質問攻めでかなり弱ってたから、旅行の所為じゃなくて精神状態の問題だよ…」


実はあの時は朦朧とする橘を良い事に、結構際どい質問を重ねて、女の子の好きな髪型はショートかロングかと聞いたらアップ髪がいいと言ったので今日のせりかはシュシュでポニーテールにしているが、多分沢山した質問の一つだし、覚えてないだろうなと思う。


「パソコンにデータ移したから写真見る?」


「うん。是非!」


二人でテーブルの上のノートパソコンを見ていると両手に花、バックにクマの写真が出て来た。少し気まずそうにするせりかの戦利品だが、もう怒ってはないよね?と橘を見ると「これは石原さんにあげるの?」と聞かれたので「まあね…」というと少し苦い顔をしたが、敗北宣言の様に「仕方がないよね」という橘には悪いが、全く罪悪感は湧かなかった。


橘くんもいる?と聞くと「いらない」と拗ねた様子に、これが末っ子っぽい橘君なのかなぁと思う。せりかも下が居ないので、やはり甘えられると正直玲人でも可愛いが、橘が甘えられたいと言っても、どう甘えていいのか分からないし、嫉妬は、せりかの中では出来たらしたく無い感情だった。


「旅行楽しかったね」


「そうね。その前の険悪さが嘘の様になる位に楽しかったわね」


「あれは、椎名さんが俺に怒っていただけで、別に険悪には成って無いよ?」


「あの時は、橘くんが私が一番好きだったポリシーを捨てたのかと思ったのよ!」


「ポリシー?!」


「どんなに黒い事をしても、人道的にどうなの?っていう事が有っても周りに害が行かないで微量でも多少益になる様にうまく持って行っていたのに、それが裏切られたと思って怒っていたのよ?」


「そんなに強く意識して害を出さないと決めている訳ではないよ?唯、損害被る人がいると厄介な事が出て来るからそうしているだけで、椎名さんが俺を美化し過ぎだよ!」


「それは、美化では無くてそういう効率的な所が好きだったのに、私にした事はひどく非効率に思えたのよ」


「それで珍しくあんなに長く怒りが持続したんだ?」


「なんだか私が怒ってられない人みたいじゃ無い」


「実際そうだよね。あの時は今迄の付き合いでは、群を抜いて最高記録じゃ無いの?」


「そんな記録要りません!橘君も変なところにフォーカスしないで!」


「今怒っても長続きしないだろうけど、お母さんの手前、喧嘩は些細でも止めたいね。後、兄貴から、親御さんの前では絶対彼女といちゃつくなって言われてるから、出来たらなるべく距離を近くにしないで貰いたいんだけど」


「はぁ~!成程ね。一樹さんが彼女の親に嫌われちゃった理由はそれなのね?」


「多分ね。さっきはだから驚いて止めちゃたけど、勿体ない事したから今ならいいよ?」


「はぁー…さっきはごめんなさい!いいよって言われても、じゃあって行ける訳ないでしょう!」


「そうなんだ?遠慮しなくてもいいのに」


「………私が困るの分かっていて言っているんでしょう?」


「困るのは分かってるけど、甘えられたい願望かな?」


「橘君が甘えたい方に見えるけど…」


「まあ、紙一重かもね」


「じゃあ、今日来てくれたお礼に甘えられたい願望を叶えてあげるわ。少しかがんで?」


橘はドキドキしながら少しかがむとせりかが頭を撫でた。


「これは、紙一重で違うんじゃ無くて、真逆だよ」


「うそうそ!ごめんなさい…」


と言って橘の首に手を回して抱き締めると「やっぱり紙一重で叶ってないかな…」と耳元で言われたので理由を聞く為に離れようとしたが、離れる前に引きとめられて「なんだか甘やかされてる感じだけど、それも悪くないね」と言ったので、とりあえず合格点は出た様だった。


橘はせりかから離れると、「ありがとう」と綺麗な笑顔を見せた。なんだかこれで有難うって言われるのってどうなの?という気はしないでも無いが、橘が満足したなら良しとしよう!


それから二人で玲人の部屋に行き、格闘ゲームをしている玲人と真綾と合流して一緒に遊んだ。


真綾は家でもやっているらしく、玲人と互角の闘いをしていてせりかと橘を驚かせた。しかし、本庄とやっていただろう事を思えば、せりか同様強いのも当然かと思った。


結果的にトーナメントで一番強かったのは意外にも橘だった。この男はこんなところまで器用なのか?と少し呆れる気持ちになるが、橘曰く年上のお兄さんといつも闘っていれば、今迄も同級生の友達よりは強かったから、仕方ないよ。と言うのを聞いて一人っ子軍団は深く納得した。


その後、小母さんがケーキとお茶を御持たせですが…と持ってきてくれた。高野の白桃のムースのケーキに真綾が選んだのだと分かるが、甘みを抑えたムースとケーキは見た目に反して男の人向けでもあった。


「悪いな!」と玲人が言うと橘が「いや、とても御馳走になったし、玲人の家に呼ばれたから、緊張度合も半分だし良かったよ」と言ったので玲人とせりかの心が軽くなった。無理に来て貰った事を二人とも申し訳なく思っていた。


真綾にもお礼をいうと「こちらこそ、無理やり混じってとても御馳走になってしまったから、後日にお礼をしたいんだけど…」というのをケーキだけで充分だから!と玲人とせりかで慌てて止めた。


真綾は一見我儘に見えるが、躾の行き届いたお嬢さんだ。少し過激で気の強いところもあるが、配慮の欠ける人では無い。そう思うと本庄との事も、玲人との事も、今回のバーベキューに参加して来た事も、何か理由があるのかもしれないとせりかは思った。しかし、それがどうであれ、本庄を真綾が振ってしまう事には違いない。そう思うとやはり真綾に考え直して欲しい気持ちと、橘達が言う様に自分がどうこう言える問題では無く、本人達の問題なのだという気持ちがせめぎ合うが、今、何も言える立場にせりかがいない事だけは確かだったので、黙っているより他無かった。


二人は暗く成らない内に帰ると言ったので、玲人と一緒に駅まで送る事なった。橘と真綾は玲人の両親に今日のお礼を言い、せりかの家にも寄ってくれて、せりかの母にもお礼を言ってくれた。


十分程四人で夕暮れを歩くと、まだ旅行が続いている様な楽しい気分になった。真綾も同じだった様で少しはしゃぎながら、行きに橘にペットボトル一本で心配された話やケーキを選んだ経緯などおもしろおかしく話してくれた。真綾セレクトだと思われた白桃ケーキは見た目こそ可愛いものの、洋酒が効いた大人向けのものだったが、橘がこれが良いと押したらしい。真綾も見た目も綺麗だし食べやすそうだと賛成したが、『橘君って意外とスイーツ好きなの?』と思ったらしく、そう言うと「今言わないでその時に言ってよ」と橘が言った。どうやら以前、自分の所の来たお客さんに貰って食べた時に男の人向けだと思い、お父さん達の事を考えてそれに決めたらしい。特にそんなに詳しい訳じゃないから!という橘に真綾が「お父さんがターゲットって正しいと思うわ」と感心したように言った。玲人とせりかは頭にハテナが浮かんだが、帰りにお互い相手に聞けば良いと思ってその場では聞かなかった。


二人を見送った帰り道にその話になって、二人とも理解して無かったのに分かった様に頷いた事を責め合う小さな醜い戦いをしたが、結局ケーキは美味しかったからいいんじゃねーの?と玲人のお得意のお気軽な解決法が出たので、せりかもその楽な考え方に習う事にした。



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