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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
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小樽へと行くバスの車中で橘がせりかに本当に二人で回ってもいいのか?と聞いてきたので札幌とどう違うのか疑問に思い、「何故?」と聞くと彼は札幌と違って、観光範囲が狭いから人の噂になるかもしれないと言った。


「でも、どうせ皆、付き合ってるのかなぁって思っているんでしょう?」


「それは、そうだけど、椎名さんも言ってたでしょう。付き合ってるのかなって思われるのと付き合っているでは大きな差があるでしょう?」


「うーん。でもこんな機会は滅多にないし、橘君が嫌じゃ無ければいいわ。実際付き合っているんだから誤解じゃないんだし…」


「そう。じゃあ、二人で回る事にしよう。昨日と同じグロス今日もしてるの?」


「よく気が付いたわね?そういうものに無頓着な方かと思ってたけど」


少しせりかは恥しくなりながらもよく見てるなぁと感心していると耳元で「ラメが付いて困るから出来たらそれはもうしないで」と悪戯っぽい笑みで囁かれた。


はっとして言葉の意味を理解すると瞬時に頭に血が上った。この悪魔め!こんなところで言わなくてももうすぐ二人になるのにこの場でわざわざ言うなんて、何の仕返しだろう?やっぱり昨日の事とか?!でもそれは大丈夫だろうって沙耶も言ってたし…とせりかが、怒りと恥しさで顔が紅潮する様子を見て涼しい顔で橘は微笑んだ。


これは沙耶の失言と自分の暴言の所為だと知る由も無いせりかだったが、昨日はあんなに儚げに見えた橘に今日は悪魔の尻尾が見える。昨日のような哀しげな表情をして欲しくは無いが、極端なんだよなぁとせりかは思う。


しかし、悪魔様にも「中間はないの?お嬢さん」と言われた事を思い出せば多分似たもの同士なのだろう。


そう思うと少し諦める気になった。自分だって直らないのに橘に修正を要求できないだろうと思った。


運河沿いの大きな駐車場に降ろされる。荷物はチェックインまで時間があるので、そのまま荷物が自分達よりも先に着くらしく、先に部屋割表を渡されて、部屋番号のプレートを付けさせられた。


バスから降りてぞろぞろと歩き出すと皆が同じ方向を目指して運河沿いを歩いていた。皆、ここに来たからにはまずは、ガラス工芸店をやはり見たいと思っているようだった。


「なんだか集団行動みたいで、特に二人で歩く雰囲気でもないわね」


「結構周りに見られてるけどね?あまり気にしなくなったんだね。断られた二番目位の原因だったのに」


なかなか傷を(えぐ)りますなぁ?!魔王様は実は御機嫌斜めなのか?と思って顔を見ると、嬉しそうに「何?」という疑問をむけて微笑む。機嫌はすこぶる良ろしいらしいので単に事実を仰られただけのようだ。


「そうね!前よりは随分気に成らなくなったわ。玲人と歩いていても最近はへっちゃらだもの」


「玲人で鍛えたの?」


「そうね。玲人とはよく出掛けるから鍛錬には持って来いだし、自分の意識が変わったのも大きいの。玲人以外に橘君とか若宮先輩みたいな強烈な美人さん達見ちゃうと、普通の人も居て当たり前でしょ!っていう気になったら、人の目を気にする方がばかばかしいわ」


「椎名さんも可愛いよ」


「有難う!橘君から言われるのは嬉しいわ。とっても」


「誰に言われても嬉しいものじゃ無いの?」


「……今迄怖くて聞けなかったけど、サッカー部でせりりんって呼ばれてて、何か変な事になっているんでしょう?悪いけどその人達の美化に美化を塗り重ねた可愛いは、正直キツかったわ」


「ああ!あれね?こうやって俺と付き合い始めちゃえば、紹介しろっていうのは成り立たなくなるから、あれが終わるのかと思うと助かるよ。玲人はもっと助かるね」


「玲人が私の為に頑張ってくれていたみたいだけど、サッカーで勝ったら紹介しろ?ってそれは、意味不明過ぎて、理解する気にも成らないわね」


「ははっ!結構盛り上がってたんだけど、先輩方が良い起爆剤になるからって止めないもんだから、関係無い奴までなんだかよく分からないけど「勝負だー!」とかって玲人に言ってきて笑えたけど、俺は玲人のアシストに頑張ったんだけど、玲人はマジで大変だったんだよ」


「玲人には今迄結構迷惑掛けられて来た所為か、悪いって言う気が全くしないのよね」


「……椎名さんも結構鬼だね」


「それも橘君からだと褒め言葉に聞こえてくるから不思議ね」


「それは俺も不思議だな。どうして?」


「ふふっ。分かっていて聞くのは野暮というものよ?」


「いうね!朝の悪戯の仕返しなのかな」


「やっぱり、あれは、自覚があったのね?!まあ、橘君に限って計算無しって事は無いとは思っていたけど…」


「あれを二人だけの時に言わないのが、本当の意味では親切なつもりだけど、俺がそれだけじゃつまらないからね♪」


「そういう理由なのね。良かった~!怒ってるのかと思って心配してたの」


せりかはこういう予想外な事を言って来るので本当に困るんだよなぁと橘は思うが、計算など無く、全くの天然なのだろう。


「怒る理由は思い当たらないけど?」と橘が意地悪く返すと「っ!そう。それならば良いの…」とせりかは口に出すべき事では無かったのだと学んだ。




ガラス工房で、ガラスの表面に砂を吹き付けて好きな模様がつくれるサンドブラスト体験というのをやった。なんだか職人さんになったみたいで楽しかった。器用な橘は、こんな所でまで器用で、きれいな青いマーブル模様を付けていた。せりかは、オレンジのバラをイメージしたが、コスモスと見分けが付かない出来になったが、一応教えてくれた先生は綺麗に出来たと褒めてくれた。


その後、やっぱり小樽に来たからにはお寿司だよね!という話になりお寿司屋さんに向かうと驚いた。聞いてはいたが、長い道が全部殆んどお寿司屋さんが並んでいて壮観だった。ラーメン横丁とは真逆の意味で吃驚した。


「どのお店にするか迷っちゃうね?決めようにも決めてが無いよね~」


ずっと並ぶ店を見ながら言うと、橘も「皆同じ値段だもんね」と少し呆れたように言った。談合?カルテル?と思いたくなる程値段を合わせてあるが、一軒安くすれば其処だけが潤う結果になるので、暗黙の了解なのだろうと思った。


「一軒とても有名なお店があるけど、そこに行ってみる?」


橘がそう言うので、そこに行くと其処の店だけ並んでいる人達がいっぱいだったので直ぐに判った。


「並ぶ?椎名さんが良い方でいいよ」


「ううん。デパートの物産展に出店していたから、ここじゃなくてもいいわ」


「じゃあ、隣のお店に入ろうか?」と並んでいる人を横目に隣の店に入ると清潔感のある小ざっぱりとしたお店で、とても選びようが無くて適当に入ってしまったけれど、もしかして当たりかも?と思う。


折角此処まで来たからと、うにといくらの入った上寿司を頼んだ。


温かいお茶を飲みながら待っていると直ぐに二人前が握られて出て来た。早っ!!


実際札幌で海鮮丼や、函館でもボタンエビなど食べてきたので、家の方のお寿司屋さんでも見る様な普通のお寿司は美味しそうだが、特別変わったところは見えない。


しかし、ひとつ口に運ぶとびっくりするくらい美味しい。新鮮だからとかだけでは無い美味しさに、二つ目を食べるとやっぱり美味しい。シャリが違うのかな?とか色々と思ったが、ここの美味しい理由は分からないままだったが、皆が小樽でお寿司を食べるのは如何してなのかだけは分かった気がした。


「大当たりだったね!待たないで済んだし」


「本当!でも他のお店も試してみたくなっちゃうわね?隣って混んでいたからあれより美味しいのか気になっちゃうわ」


「多分空いている所の方が、落ち着いて食べられるし、丁寧で美味しいと思うよ。ためしたいんなら、後でもう一軒付き合うよ?」


「ううん。さっきのが美味しかったから、小樽のお寿司屋さんは皆美味しいって記憶にしておくわ。流石に飽きてしまって絶対今より美味しいとは思わないと思うのよ」


「そうだろうね。次は何処に行く?」


「一応、見ても解らないって聞いてはいるんだけど、おじいちゃんがファンなんで記念館で何かお土産を買ってきてあげてって言われてるの」


「いいよ。行ってみようか?此処に来たら定番だよね」


「でも何もきっと分からないよ?」


「一応、来たら話のタネって言葉もあるでしょう?分からなくてもいいんだよ」



スーツが死ぬほど置いてあっておじいちゃんとかが見たら泣いちゃうんだろうなぁという外車とかご本人愛用の品々が飾ってあった。一応、話してあげないといけないと思い、いろいろと真剣に見て回った。橘は、古いものが一杯で逆に新鮮だよね?と言って色々と興味深げに見ていた。


お土産屋さんで、キーホルダーや写真立て等を選んで買い記念館を出た。


記念館の前で写真を橘に撮ってもらうと、通り掛かった人に橘は自分のカメラを渡してせりかと一緒に撮ってくれる様に頼んだので、二人で写真に収まった。


もしかして二人で写真を撮るのは初めてかもしれない。橘は、あまり写真が好きそうでは無かったので、仲間内で撮る時も遠慮していたからだが、デジカメを持って来ていた事に驚いた。


「カメラ持って来てたんだね」


「自分が建物とか撮るのが好きなんだ。あとで旧日本郵船の建物も見たいんだけどいいかな?」


「もちろん!私も見たいと思ってたから」


そうやって訪れた旧日本郵船小樽支店はヨーロッパ風の石造りの重厚な建物で、中にはシャンデリアや暖炉もあり、とても豪華な内装で一見の価値はあると思ったが、重要文化財に指定されているらしい。そういうのって京都とかに多いのかなと思っていたが、意外と同じ港町でもある地元にもあるのかもしれないとせりかは思った。


橘の意外な趣味発見なので、ガイドを見ながら、日本銀行旧小樽支店(北のウォール街と呼ばれていたらしい)や旧青山別邸等にいく事にした。


「悪くない?付き合わせちゃって」


「全然!せっかく二人なんだもの。好きな所が回れて良かったわ」


そう言うと、橘はいつもよりも幼い笑顔で「有難う」と言った。


両方共、観光地としては一般的で特にお礼を言われる程マニアックな場所ではないのだが、目を輝かせて建物を見て回る橘を見ている方が楽しかった。


その後、多分せりかの為だろうと思うが、行ってくれたオルゴール堂と北一ヴェネチィア美術館は宝石箱をひっくり返したかのような美しさだった。ヴェネチィア製のドレスで記念撮影も出来たので、橘に勧められるままにアンティークドールのようなドレスを着させて貰った。橘が自分のカメラで写真を撮ろうとしたのでせりかの方を渡したが、結局両方ので撮っていたので、御家族には見せないでね!と言ったら軽く笑っただけだったので、見せる気でいる様である。


「だって兄貴がシンデレラちゃんのファンだから喜ぶと思って」


「あのね~、どの位迄その話をされる訳?!流石にあれは断れなかったけど、やっぱり恥しいわよ!」


「まあ、お互いにそうだよねぇ。でも椎名さんもあれから、腹が立ってる時に王子呼びする様になったの直ってないよね~」


「確かに!習慣って怖いわね。じゃあ、シンデレラちゃんでいいわ。一樹(いつき)さんだけの話だし」


「そこは、王子呼び止めるわ、ってなる所じゃ無いの?」


「無意識なのを止める約束出来ないから、出来ない約束よりは許容の方をとるわね」


「律儀で椎名さんらしいけど、あれは結構心臓に悪いんだよね。だって、呼び方で怒り具合が本当に如実に分かるからね!」


「そんなに暴れ出す訳でも無いのに物騒な言い方は止して。大袈裟だわ」


「うん。椎名さんは静かに怒るタイプだし、長続きはしないけど、でも(こた)えるんだよね~」


「ふふっ!それは、楽しい事を聞いたわ。今度から怒って無くても普段からそう呼べば、解決するんじゃ無いの?」


「椎名さんは俺の寿命を縮めたいみたいだね?」


「そんな滅相もありません。いつもやられてばかりだから、反撃のチャンスだと思っただけなのよ。悪気は無いの…」


「今の言葉をどう解釈すれば悪気がない所に行きつけるのか疑問だけど、可愛い彼女のいう事だし?目を瞑るよ」


「……………やっぱり、そう言うのってふざけて言っているのが分かってもかなり恥しいわね」


「そう。それは、良い事を聞いたよ。いくらでも言い惜しみしないから覚悟しておいてね」


「……如何か、程々で御容赦を!こっちは無意識だから無理だってば!」


「別に嫌がらせじゃ無くて今のも本気で言ってるから、こっちもやめないからね?」


既に王子じゃなくてせりかの中では魔王様に昇格しているのだが、それを言ったら、もっとキツイ事になるだろうと思う。せりかには沙耶がうっかりバラしてくれた事は知らないので、心の中での沙耶の謝罪も勿論届かなかった。


港が一望できそうな所に立つホテルに着き、部屋に入るとプレートをつけた自分の荷物が部屋の中に先に着いていた。


実在されると思われる所は、正確な情報では無いので、ご注意ください。すべて登場人物が感じている感想です。

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