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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
59/128

59

※PG12ですご注意下さい。(12歳以下の方はこの回は回避して下さい)読まなくてもつながるようにします!

せりかが意外と乗り気らしいと伝え聞くと、本庄と玲人は二人で微妙な顔になった。


「やっぱり橘が、簡単にお嬢さんを離すような真似をするはずは無いよな?」


「後悔してるなら今のうちに忍にぶちまけちまえよ」


「それは、二人にいくら何でも悪いよ。椎名さんが俺と付き合ったとしてもうまく行くかなんて分からないし、将来の事を考えるとやりたい事も出来ない可能性も出て来るのに、ハイリスクローリターンな賭けに幸せに成りそうなお嬢さんを巻きこめないよ」


「せりか側から見ると確かにそうだな。マーヤはむくれてたけど、言ったら絶対せりは自分自身の事を許さないから本庄ともうまく行かないって言って聞かせたけど、マーヤが本当に黙っているかは、分からないからな……」


「もう少し、高坂の言葉なら真綾にも届くかと思ったけど、今日の様子だと持たないかも知れないな…」


「忍とせりが思いの他うまくいってるのが気に入らなくて、一回は納得したけどやっぱりこのままじゃ駄目だと思い直した感じだよな?」


「どうしたらいいのかな…」


「忍に謝る心構えだけしとけ!俺も一緒に謝るから」


「橘は何も無かった様に許してくれるのが分かるだけに辛いな…」


「忍はせりにも何時でも別れたくなったら言ってくれって言ってるらしいし、別れたら言えなく成るから…って言いながら色々と助言してくれるってせりから報告が来たから、何も恨み事は言わないだろうな。なんだか聞いてると別れを見越してせりの教育だけは早めにやろうとしてくれてるみたいなんだ」


「今日、部屋に椎名さんが来た時もそんな感じだったよ。俺と真綾の事はもちろん知らないから、俺に気を使ってはいないけど、椎名さんが普通の付き合いが出来る様にさせるのが当面の目標って感じがありありで、うまく行ってはいるけど、橘は少し悲壮感が漂ってたから俺が言うと説得力が全然無いけど、橘にとって、この付き合いが今は幸せじゃ無さそうで、無関係なら止めてるところだね」


「お前達の事を聞かなくても、そんなに悲観的なら、言ってやった方が親切じゃないのかな?」


「俺も実はそう思ってる。ただ、お嬢さんが、真綾を裏切った俺を許してくれないのは仕方が無いにしても原因になった自分を責めちゃって苦しみそうなのがなぁ……」


「それは、悪いが回避は無理だと思う。せりとお前の事は切り離して、忍の事を考えてやったほうがいい様に思う。せりがどう思っても、忍には話した方が良くないか?マーヤと話したら、一応は納得させたけど、マーヤの『みんなが自分の気持ちに正直になってぶつかって出た結果の方が正しい』っていうシンプルな考えもそれは、それでこっちが説得されそうになったよ」


「真綾がそんな事を言ったのか?」


「お前が思う程、マーヤも自己中じゃ無いよ。考え過ぎるお前よりはシンプルな答えだってだけだ」



結局、マーヤには絶対に橘には言わない様に今の段階では説得して、玲人と本庄はあともう少しの修学旅行中は、事を荒立てない事に決めた。




しかし、意外なところから橘に真綾と本庄が別れた事が知れる事になった。


橘が沙耶に、何かせりかの周りで自分と別れたいと思う様な要素が少しでも出て来たら知らせて欲しいと頼んでいたのだった。沙耶は最初はそれを断ったが、橘が「椎名さんから別れを言い出せないから、その時は自分の方から言わなくては成らないからお願い!」と頭を下げられ、「言える範囲で…」という条件付きで引き受けたのだった。


真綾が、班行動中に橘とせりかの仲を気にする様子を怪訝に思って、理由を聞くと、本庄と別れた経緯を聞いてしまった。橘に言わない選択も沙耶は考えたが、結局橘への同情心の方が、沙耶の中では勝ってしまい、メールで二人が別れた事と、本庄はせりかを思っているみたいだが、橘とうまく行く様ならこのまま、見守ろうとしていそうだと真綾から聞いて自分が思った事も付け加えた。


橘からは返事で『本当にありがとう。石原さんの選択を無駄にしない結果に出来るよう頑張るから』と、如何いう行動に出るのか分からないものでは有ったが、沙耶自身はせりかよりも、本庄よりも橘に一番気持ちが寄っていた。だからこそ、彼の意向に沿う事を選んだ。彼は決してせりかの為にならない事はしないという約束も沙耶に情報提供を頼む上ではしていたし、沙耶のなかで橘は信頼に足る人物だった。




夕食は外で海鮮丼を団体で食べられる大きな店に徒歩で案内されて、食事が終わった後、時間も早めな事もあるのか、二時間の自由行動が急に許されたので、皆浮足立った。


多分、思っていたよりも明るい事と、ホテルにカン詰めの様にした方が、脱走者が出たりと悪い影響が出ると思ったらしい先生方の配慮だった。必ず時間内に戻る事と、すすきの等の繁華街は女子だけでは絶対に行かない事、男子の居ない班は、二班で行動する事を条件に、夕方から夜の間の時間の外出が許された。昼間に大体の把握が出来ているので道に迷ったり、変な所にも行かないだろうし、確かにこれから狭いホテルで過ごすには時間が長過ぎた。


夜のライトアップされた札幌も見て見たかったので、皆先生の言う事にコクコクと頷いた。一人でも今言った事を破れば、明日の小樽観光は自由時間無しという罰則も加えられた。


皆、二時間と短い時間なので、何処に行こうかというよりも、とにかく狸小路の明るい方へと歩き出した。お土産屋さんが沢山あるので、とても明るくて昼間と変わりないのだが、やはり夜の外出というのは、少しだけ大人になった様な気がして、嬉しくなった。


橘がせりかを誘い、皆に、断りをいれて二人で、抜け出したのを、皆はそれぞれの思いで見送った。






公園のベンチまで来たところで、橘が暖かいお茶を買ってせりかに渡した。


「折角の観光の時間だけど、話しがあるんだけど、どこか行きたい所があるなら、行きながら話す事になるけどいい?」


「観光はもう充分昼間にしたし、この夜の札幌の雰囲気が味合えれば、特に行きたい所はないからいいわ!話って何?明日の小樽の事?」


「いや、急で悪いんだけど俺と別れて欲しい」


「……………」


事務的な事でも頼む様に、別れを言い出す橘がせりかには理解出来なかったが、お互いにどちらかが嫌になれば別れる約束だった。しかし、今日部屋にお菓子を貰いに行った時はそんな素振りは全く無かったし、夕食までの間に何があったのか気になった。


「分かったけど、どうしてかだけ聞いてもいい?今後の参考にならないでしょう?」


出来るだけ冷静に言おうとするが、声が涙声になってしまい、橘もそれに気が付いた様だったので、せりかは慌てて言い繕う。


「ごめんなさい!別れを切り出されたら、さっぱりと別れなきゃいけないのは判っているの…橘くんが私の事を嫌になったのならさっさと別れるべきだし、それを受け入れるつもりだったのに、やっぱり吃驚しちゃって!ごめんなさい」


急に別れを切り出したのは橘の方なのに、せりかに何度も謝られる事に流石に耐えられなくなった橘は、せりかの涙を手で拭った。


「男の前で泣いちゃ駄目って言ったのもう忘れちゃったの?短くても俺達の付き合いも意味があったと思わせて欲しいから、泣かないで?」


「だったらどうして?!………何でもいう事を聞いてくれるお願いを此処で使うのは、酷いのは分かっているけど如何してかだけ、本当の事を教えて?私を傷つけない言い方をしないで!」


「お願いだから、何も聞かないでって言うのは無理だよね?」


「無理!別れても親友だって言ったじゃ無い!せめて、わたしの至らない所をオブラードに包まないで言ってくれるのが、親友じゃ無いの?!」


「俺の勝手だから、椎名さんの落ち度じゃないよ?」


「橘君がそう言うなら、橘君が急に私と別れたくなった理由をせめて解る様に説明してほしいの!私が逆の事を言っても橘君はきっと何も言わないで別れてくれるのが分かっているのに、反対にそうしてあげられない私は、橘君に親友と言ってもらえるに値しないかも知れないけど、理由を聞かなくてもやっぱり、横には居られないから、一緒だと思うの。軽蔑してくれても構わないから、理由を教えて……」


最後は弱々しくて聞き取れない程小さな声だった。橘は、せりかに納得のいく理由を捜してから、別れを切り出すべきだったと後悔するが、急にできたチャンスに早く自分が楽に成りたくてせりかに言ってしまった事を後悔した。


「椎名さんは本庄の事を、まだ想っているでしょう?やっぱりそれが辛くなったんだ。それでも良いからって始めたのに、こんなに早くに投げだすんだから、椎名さんが俺の事を軽蔑してくれていいよ」


「私は、せんせいを忘れるつもりで橘くんと付き合い始めたし、今は、橘君の事が好きだわ。だって別れようって言われたのがこんなにも辛いんだもの…」


「…それは、目には見えないから分からない」


せりかに本庄が真綾と別れた事を言ってしまえれば楽だが、言ってしまったら、彼女は決して橘と別れないだろうと思う。実際、その方が辛い。少し意地が悪いがせりかには自分の思い込みを理解して貰わないといけないと思う。


「もしも、どうしても俺と付き合いを当面続けたいなら、俺に気持ちが有るって示して欲しい」


「……好きだと言って駄目ならどうしたらいいのか分からないし、それを分かる為の勉強だった筈なのに…」


「此処でキスして?…出来たら考え直してもいいけど、駄目なら、やっぱり別れて欲しい」


「…っ!それは、少しハードルが高いよ?分かってて言っているんでしょう?」


「やっぱり別れよう?お互いの為だし、椎名さんを嫌いになった訳じゃないから。ね?」


せりかが橘の唇にそうっと唇を寄せて来た。予想外のせりかの動きを橘が肩を掴んで止めた。


「ちょっと待って!言ってみただけだから本気にしないで!」


焦る橘に、せりかには出来ないだろうと無理難題を吹っ掛けて来たのだと分かり、一度も二度も同じだし、こうして肩を掴まれても田村の時の様な嫌悪感は無い。


せりかは迷わずに橘にキスをした。


ファーストキスも彼とだったが、二度目も彼とする事になるとは正直思って無かった。しかし、彼がいいと言う迄離れないつもりで唇を押し付けた。彼の困惑が伝わってきたが、もう引き返せないのだから、どう思われようとも自分から離れるつもりは無かった。


長い長い、せりかからの一方的な口付けを終わらせたのはやはり、橘だった。


「どうして!!」


「これで気持ちは分かって貰えて当面は付き合ってくれるのよね?」


不安そうに自分のしてしまった事に橘が不快感を持っていないか探る様なせりかに、流石に橘も折れた。


橘は何回か角度を変えてせりかに口付けると、せりかも彼からのキスを受け入れた。自分がした色気のない一方的なものとは比べ物に成らないほど、それは、相手を近くにを感じるものだった。


彼が別れをこれで撤回してくれなかったら、マジで切れるからね?!とせりかは彼を見ると、彼が哀しそうに見えたので、もう一度、せりかの方から先程よりは慣れたキスを彼にするととても驚いた顔をした。


自分からするのは良くても女の子からっていうのは、恥じらいがないのかなぁと不安になるが、彼から、せりかに目で見える形で好意を示す様に提示したのだから、そんなに驚かれても困る。


「えっと、驚かなくてもよく無い?自分からは、散々したでしょう?」


「するのとされるのは違うよ……」


「じゃあ、次からは言ってからにするから、取り敢えず、橘君の別れたい気持ちは払拭できたのよね?私だってこれを盾にずっと付き合ってっていうつもりは無いから安心して?でも考えは変えてくれるのよね?」


「考え直すけど、椎名さんが後悔しない事しか祈れないな…」


「此処までしても信用されないんじゃ、もうこれ以上は無理だわ!」


流石に此処までしても橘が別れたいと思うなら、別れるしか無い。言った理由も本当のものか如何かも分からないし……。


「ごめんね?分かったから……今は、椎名さんが俺を好きだと言ってくれたのを信じるから……でも椎名さんって本当に予想外な事をするよねー」


はぁーと溜息を吐く橘に、せりかは自分から無茶振りしておいて良くいうよ!と思う。


「取り敢えず、明日の小樽は、一緒に回ろうね?!」


無邪気に微笑むせりかが、本庄の事を知っても同じ笑顔でいてくれるのだろうか?と橘は思ったが、結局、自分は禁断の果実の実を口にしてしまったのだから、このまま何処までも流れに逆らう事は許されないのだと思い、せりかを強く抱き締めた。


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