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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
54/128

54

羊ヶ丘展望台にはクラーク博士の立像があった。


あの有名な「BOYS BE  AMBITIOUS!」少年よ大志を抱けの人であるが、ここに何の(ゆかり)があるのだろうか?もしかしてこの辺りにお住まいだったのか?等と思って説明書きをみると、どうやら北海道大学にある別の胸像を見にくる団体さんに困ったらしく、こちらに大きな像を作って見に来て貰おうとしてここにいらっしゃる運びとなったらしい。勿論、説明はもうちょっとちゃんとした開拓精神を後世にも伝えたい云々とかあったが、せりかの理解する限り、広くて迷惑掛けない場所でクラーク博士と写真を撮ってね!と読めた。


それなので同じポーズで指を指して写真を撮る皆と一緒に写真に収まった。こういう事ってみんなでやると意外と恥しくもなくて、とても浮かれた楽しい気分になった。


見渡す限りの草原で、いかにも北海道に来ました!という場所で、羊などもいてなんだか札幌市内なのに急に何時間も走った違う場所に来たみたいだったが、割と近くにビル群も見える。


札幌は北海道の三分の一の人が住んでいるらしく、街中は都内のように大きなビルが(ひし)めきあっていて、せりかの思う北海道から大分かけ離れたものだったので、この展望台は、それを満足させる為に誰かが考えたのでは?と思ってしまう程、北海道に想いを馳せた時に浮かぶ風景そのままの景勝地だった。


お土産屋さんで羊のヌイグルミがおススメ!と書いてあったが、皆には北見薄荷の薄荷スプレーを頼まれていた事を思い出して、ヌイグルミを手から離した。





それから札幌の大通公園まで、バスに揺られて、そこから班行動となった。しかしあちこちで、男女二人で抜けていく様子が見える。班でという建前はあっても、ここは沙耶が勧めてくれた通り絶好のデートの機会なのだろう。


皆に手を振って橘と二人で抜けて行くと少しだけからかいの視線にあったが、二人でいる姿は特別珍しいものでは無い。本庄の顔を見てしまうと流石にテンションが落ちてしまい、本日の半日デートが残念な事になってしまいそうだったので、本庄と真綾の姿は出来るだけ視界に入れない様に、逃げるように来てしまった。橘にも何と無く分かってしまっただろうが、彼は納得してここに居てくれるのだ、と気を強く持つ事にする。


「行きたい所とかある?」


「うん。時計台は、外せないよね?何だっけ…日本三大がっかりの一つだよね。そう言われると却って見たくなるものじゃ無い?」


「そうだね。元々が有名だしね。じゃあ旧北海道庁舎とか有名どころを回ってから、あとはゆっくり大通公園沿いの記念碑とか見てまわろうか?俺はブラックスライドマントラっていう滑り台があって、それを見て見たいんだよね。なんだか面白そうで…」


「いいね。気持ち良さそう。公園も大きいよね~。電波塔も上がって見ちゃう?」


「そうだね。そうしようか?なんだかミニ東京タワーって感じだね」


「はぐれた時はあそこで待ち合わせね!とか決めたら痛い思いしそうね。真っ直ぐで見晴らしが言いぶん、距離が遠くても判らない感じだもの」


「携帯持ってきたでしょう?もしも、はぐれたら携帯だよね。やっぱり」


「充電もホテルでして来たからバッチリ大丈夫!」


「じゃあ、行こうか?」


と橘は言って紺のキャップを被った。メガネでもしたら変装の様だった。これで、知り合いに会ってもあまり目立たないだろうと思う。


「入学式の時って、フレームの無い眼鏡してたよね?」


今にして思えば眼鏡をした彼を見たのはあれが最後だった。


「…少しでも賢そうに見えるかと思って兄貴のを借りたんだけど、書いてある字が見えなくて参ったよ」


「掛けなくても充分賢そうだから、大丈夫だよ?でも結構眼鏡男子好きには、あっちの方がウケがいいかもね!」


「眼鏡男子?ってうちの学校の奴って殆んど眼鏡掛けてるよね?そこで掛けると馴染むかと思ったけど、スポーツするのには向かないかなと思って直ぐに断念したんだけど」


「眼鏡男子っていうのは、少し古いんだけど、でも今でも結構そういうマニアックな需要があるから、大丈夫かな?…うーんとねぇ、眼鏡を掛ける事で格好良くなる人っているでしょう?そう言うのが典型的な眼鏡男子なのよ!それで、橘くんみたいにどっちでも良い様な人が掛けても一応似合えばOKかなぁ?」


「椎名さんは、そういうマニアックな趣味があるの?」


「そうねぇ~。お母さんがヨン様騒いでいた時期は、眼鏡の似合う人はいるんだなぁとは思ったけど、清潔感があれば外見にあまり拘らないかなぁ?橘くんと付き合ってて言っても誰にも納得されないだろうけどね~!」


「それは、普通の人が良いの!って何度も言われてるから分かってるよ…」


橘が苦笑する。そんなに言っただろうか?最近は言って無いから昔の事かなぁ?楽しい思い出もあるけど気まずくなりそうな過去もあるので、何と無く話題を移したくなる。


「昨日ホテルで二人っきりにされそうになった時に玲人に抵抗したら自意識過剰だし、橘くんがわたしみたいなお子様相手にしないって失礼な事を言われたんだけど、でもそういう趣味の人だっているんじゃないの?!って話になったんだけど、橘君は其処まで極端じゃなくてもロリ…」


「ちょっと待って!!ロリコンじゃ無いし!椎名さんはどっちかというと背も高めだし大人っぽい方でしょう?」


「そう言ってくれると嬉しいけど、最近みんなに子供扱いされてたから、なんだか自分でも子供っぽいのかな?って思ったのよ。それにロリコンて言おうとしたんじゃ無くてロリコン気味な気があるの?って柔らかく聞こうとしたのに!」


「……そう。あまり変わって無いけど、とにかく違うから!」


「そうだよねぇ。私も親友が変態さんでも平気だけど、恋人がそうなのはちょっと無理かなぁと思って最初に聞かなくちゃって思ったの。後は、無理って思ったら、お互いに遠慮しないで別れる事にしようねっていう確認もしたかったの!」


「それは、そうだね。いつでも言ってくれていいよ?」


「それは橘君も、言える事なんだから、もう子供のお守なんかヤダって思ったら、遠慮しないで言ってくれていいからね!」


「分かったけど、初っ端から変態確認されるとは思わなかったよ!でも友人なら許してくれるんだ?優しいね!」


「それは、他の部分で良い人ならそういうマニアックな趣味があろうとも、受け入れるわよ?法の道から外れそうになったら皆で止めると思うけど!」


「玲人が変な事いうから、そんな誤解受けるんだと思うけど、椎名さんは極端にそういう心の広すぎる所が心配になるから、皆に心配されちゃうだけで、特に子供っぽい訳では無いよ。後は、玲人の所為で男が寄って来辛いから、少し無頓着な所が気になるし、他の女性に比べると無防備に見えるね。少し警戒心が足りないかと思ってたから、昨日の抵抗は椎名さんの方が正しいと思うよ。これも玲人の所為だけどね?」


「私が駄目な所は玲人の所為だったの?」


「はっきり言うと基本的には、そうだね」


「それなのに玲人の奴、あんな、人をお子様呼ばわりして、ダメンズ一直線とか言って…許せない!」


「玲人も自覚があるから、無理やり俺と付き合わせたんだし、椎名さんにとって玲人は必要な人なんでしょう?だったら負の部分も受け入れるべきかなぁと思うけど?」


「……橘君はなんか大人だよね?!落ち着いて橘君に言われるとこっちがやっぱり子供だと思っちゃうわね」


「そんな事無いって!その内、直ぐに思ってたのと違う!詐欺だって言われちゃうよ!」


「これ以上?!もう既にお互いに詐欺に遭った様に思うんだけど、気の所為かしら?」


「ははっ!確かに!一回は詐欺だってもう既に思われてるね。あまりそういう意味では心配いらないのかな?椎名さんとは結構地で付き合ってきたから、本性知ってるもんね」


「そうそう!確かに私以外の子だと一回は確実にその言葉は浴びせられると思うけどね?」


「椎名さんは、詐欺だと迄は思わせない内に、手を切りそうなタイプだよね?」


「何だか感じ悪ーい!猫被り続けるんだろうってはっきり言って貰った方がいいわ!それにその高飛車に簡単に男の人を捨てるってイメージなの?橘君の中の私って?!」


「うーん。若干、そうかなぁ?」


「そういう人と付き合ってるんだぁー?!橘君は!」


「それでも付き合ってるって言って貰いたいなぁ!実際にそういう付き合いしたら、そのうち恨みを買っちゃうでしょう?後は、こういう言い方は本当に言うのは躊躇うけど、俺達勉強していこうって付き合いだからはっきり言うけど………」


はっきり言うと言いながらも言い澱むのは余程言い辛い事なんだろうとせりかは思った。


「言い辛いなら、言わなくてもいいわよ?なんだかキッツーイ事言われそうな予感がプンプンだから!」


「カンが良いね!やっぱり止めとこうかな?まだ早いし!でもなぁ~!もしも直ぐに別れちゃったら、別れてからだと、言うと完璧にセクハラ発言だから絶対言えないしな~」


「言ってもいいわよ!耐えるから!……じゃなくて、勉強させてください!ある程度の暴言であろう事は承知で私の為に言ってくれてるのを理解して聞かせて貰います!」


「じゃあ、言うけど椎名さんは、男と付き合っても何もさせ無さそうなんだよね。普通は付き合いをオッケーした時点でそれ込みで受けないと駄目なんだよ?だから適当な奴と付き合ってみたりとかってすると、かなり相手から別れる時に恨まれるってさっきも言ったけど、理由としてはそういう事も含まれてると分かって欲しいんだよね?高飛車な女って思われて逆上されて下手したら殴られるよ?!」


「………耳が痛い!実際、そういう気持ちで彼氏を作ろうかと思っていたけど、そういう事は無理!って思ってたんだもの。田村君に告白された時も肩掴まれちゃって、ぞわーとしたから言ってる意味は分かるし、その通りだと思うわ!」


「田村に!!何かされたの?!」


「田村君に怒らないでね?せんせいが止めてくれて、直ぐに向こうも謝ってくれたから、もう許してるし、元々は私が少し向こうに気が有る様な誤解をさせちゃう態度を取ったのが悪かったのよ。皆に言われた事が良く分かったし、それに今橘君が言ってくれてる意味もよく分かる様になったから悪い事ばかりじゃ無いのよ?」


「ごめん。嫌な思いしたの椎名さんだし、それに俺もそのまま行かせちゃったのに…」


「あれは私が強硬に橘君達を断ったのが間違ってたのよ!」


「本庄が付いていってくれた事に感謝だな……」


「そうね。せんせいは自分は田村君に関して先入観が無かったからって言ってたわ。橘君が行かせた位だから普段は安全な奴なんだろうけどって言われて、実際に私もそう思ってたから振った時の豹変ぶりに驚いちゃって!だから橘君が言いたいのはもっと本当は言い足りなくて、多分私に合わせた言い方をしてくれているんだろうって事位は分かって来たの」


「そうか…。分かってたなら、言い過ぎたかもしれないな。椎名さんに嫌な思いをさせない様には言ったつもりなんだけど…」


「ううん。有難う!結局そういう心配をされちゃうのは、私の認識が間違ってるからだし、それに、今だってこうやって付き合ってくれてる橘君が、そういう事を注意してくれる事自体が、すごく親切だって分かってるわ。しかも別れたら言えないからって言われたら、少し感動して泣きそうになっちゃったわ!別れた後の私まで、そんなに心配してくれるんだもん」


「元々、椎名さんは、親友でしょう?だから例え直ぐに別れが来ても、それは変わらないつもりで付き合ってるから安心して?」


せりかは橘の言葉に本当に感動で涙が出て来てしまった。彼の様な人が親友だと言ってくれる事を誇りに思おう。そして彼氏になってくれた事に感謝しよう。


「あのさー!椎名さんは、そういう風に無防備に男の前で泣かないで?泣いてる女の子をそのままにしておく奇特な奴はあまり居ないと思うから」


「彼氏の前だもん!それは許されるのよね?!」


「…何をされても良い場合のみだけどね!」


「そっかー!それは、ちょっと駄目だったかも…。気を付けるね?」


にっこりとせりかに感心されてしまい、橘は少し脱力した。この付き合い、俺の方が、もつんだろうか?と不安になって来た…。


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