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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
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思わずせりかを抱き締めてしまった時はとても緩い抱擁で、軽く肩を抱く程度のものだったが、せりかが本庄の行為を罰するかのようにぎゅっと抱きついて来た時には、急に触れた軟らかい感触に慌てて離れようと身体が一瞬、()け反ってしまった。


しかし、自分から求めた抱擁が深いものになったからといって離れるのは失礼な話だ。…と言い訳したところで結局はなされるがまま、せりかに包まれて幸福感を感じた事は事実だった。抱き締められたところの背中に伝わる強い感触が、洗いたての少し強く香る髪の香りが、思い出す度に本庄を切ない気持ちにさせた。


きっとせりか本人は自覚が無く、こちらがこんなに苦しくなる事等思いもしないのだろうと思う。


それは田村にも見せた残酷な無邪気さと同じだが、そんな彼女の純粋さと相手の事を思い遣る慈愛が共存した所が、不思議と融合して彼女の魅力になっているのだと思う。


橘や田村も、せりかの見た目ではなく、そういうところにきっと惹かれたのだと思う。


それに比べると自分は相手が与えてくれる愛情の深さに絆された部分も大きく、既に自分に好意を寄せてくれているせりかに気持ちが傾いてしまうのは、他のせりかを思う者に対してとても卑怯だと思う。


それに、大前提として、婚約者のいる自分が彼女からの愛情を受け取る資格も無い。


真綾はずっと自分が生きる意味を見い出させてくれた存在でもあった。


彼女の面倒をみる度に、我儘を聞く度に、自分が存在する意味を確認していた本庄には、本庄本人を心から望んでくれる存在を渇望していたのだとずっと分かっていた。


両親の愛情が無かった訳では無いが、比較的幼い内から、自我が芽生えた自分は周りの思惑が愛情だけでは無い事を感じていたし、いくら取り繕おうとも幼い自分の不信感を持った目で見られた両親が、自分を純粋に可愛い等と思えなかっただろうという事は今になってみれば簡単に解る事だ。


少し遅く生まれた従兄妹に愛情を注ぐ事で、自分の欲求を昇華しようとしていたのだから、それこそ無償の愛情を聡明な両親から存分に受けて育った真綾には、不要なものの押し付けだった筈だ。


しかし親鳥からの刷り込みの様に、愛情を注いだ相手に付いて回るのは、当然の事だったし、子供ながらにそれに満足感を覚えていた。ずっと自分の大事な宝物の様にして育てた彼女に対して、独占欲というよりも自分のものでいて当然といった感情があったのは確かだったし、多分彼女の人格を尊重した覚えも無かった。


しかし、高校生になった真綾は本庄も思いもよらぬ程、人間として成長して逞しくもなったし、魅力ある女性として見れる様になった。


せりかの魅力を見つけたのも、本庄よりも真綾の方が先だった。真綾は「せりかちゃんって可愛いのよ?」とあまり話した事もないうちから、よくせりかの長所を語っていたが、本庄から見た彼女はイイ子過ぎて痛々しくなるくらいの優等生で、面倒見もよくていかにもなんでもそつなくこなす典型的な委員長タイプだった。


印象が変わったのは、真綾の言葉では無く、文化祭のワルツの練習からだった。


踊る為に手を取った時の最初の表情は忘れられない。


びっくりして黒目がちな大きな目を更に見開いて頬を染めたが、それを本庄に悟られないように必死に笑顔で取り繕う姿は、初々しい中にも凛々しい使命感が彼女の中で勝っているのだと判る強がりに、とても可愛らしい人だと思った。


その後の踊りの特訓の頑張りも、最初の印象をより濃くさせるもので、彼女の事を橘が好きだと分かった時も然程驚かなかったが、うまくいくとも思わなかった。


彼女には幼馴染の高坂がいる。彼女とおそらくは長い歴史を刻んできただろう高坂に、橘がかなう筈は無いから()めたほうがいいと()めたのは懐かしい記憶だった。


しかし、予想外な彼女は、何の過ごした時間の長さも歴史もない、出会ったばかりの自分を選んだ。


最初の方こそ、気の迷いで、最後は高坂に落ちていくのだろうと思っていた。橘も判っていた様だが、彼女にはあの時点で、将来おじいちゃんとおばあちゃんになっても高坂との縁は切らないと相手を振りながらも、関係を其処まで切りたく無いと思うくらい愛情を感じていたのだから、それが成長と共に、恋情に穏やかに変わって行くものだとばかり思っていたのだ。


しかし、なんの見返りも求めずに自分を愛しそうに見つめて来る彼女に、何の感情も抱かないでいられない筈も無い。それは半年以上続いて、結局気持ちの上でいつから彼女に惹かれてしまったのかは、定かではないが、「許される場所では、年齢相応の本庄君でいてもいいのよ?」という無条件の愛情からくる許しの言葉を聞いた時に、彼女への気持ちが、友人としての気持ちだと自分の中で誤魔化しが効かない種類のものだと観念せざるを得ない程衝撃を受けた。彼女の前では何もかも許された状態で受け入れられる事への幸福感は、真綾には悪いが、真綾にそれを感じた事は無かった。真綾にあったのは逆に必要とされている満足感だった。


こんな裏切りを可愛い真綾に悟られる訳にはいかないが、このまま真綾と婚約したままなのは、もっと駄目だ。やはり婚約は解消すべきだと思う。それから真綾が必要としてくれる所で手を差し伸べるのが正しい関係で、今迄がいかに(いびつ)であったかを思い知らされる。真綾も段々には気が付いて、この(ゆが)んだ関係の解消を遠からず向こうからいって来ただろうと思う。


しかし、自分の心変わりと思われても仕方が無いし、実際せりかもそう思うだろう。人間の本質の闇の感情など理解されないと思う。しかし、理解出来ずとも無条件の愛で受け入れてくれるせりかは自分の闇などきっと簡単に振り払ってしまうだろう。




結局眠れないまま朝を迎えてしまった。真綾には今迄の気持ちを旅行が終わったら話そうと思う。せりかは本庄の闇を払って許しをくれても、真綾を裏切るせりか自身の事は許さないのだという事は解る。


きっと自分を責めてしまうせりかに、真綾と別れる事を告げる事は出来るのだろうか?


本庄にはそれをした時にとるせりかの行動は未知数で予想する事は不可能だった。唯、とても彼女が苦しんでしまう事だけは確かだろうと思った。





朝、一睡もしないまま連れてこられた場所は、大きな湖の様な沼のある美しい公園で、朝もやの中で目に映る光景は本庄には現実とは思えない程幻想的だった。


横にいる真綾に「私達、従兄妹に戻りましょう?」と唐突に切り出された事も現実だと認識するのに暫くの時間が掛かってから、ゆっくりと真綾を見た。



投票下さった方々、本当になんといっていいのか分からないくらいにビックリと感謝の気持ちで一杯です。本当にありがとうございます。


あと、いつもご覧頂けてる?と勝手に思っておりますが、方々にも深く感謝を込めてこれから書き進めて行きたいと思います。

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