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幼馴染の親友  作者: 世羅
2章
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せりかの「どうしようもない位、ただ、好きなの…」という言葉は、本庄の心に深く沁み込んだ。


今迄、せりかから本庄の事が好きだと、本人から聞かされていた事は告白にほぼ近かったのかもしれなかったが、真綾の事を思ってわざと軽くぼかした言い方であった様に思う。


こんなに、はっきりとした告白を受けたのは本庄自身も初めてだった。


しかし、せりかが望んでいるのは、はっきりとした拒絶の言葉だ。


そんな事を今の本庄に言える筈も無い……。


かといって心では、言いたい言葉は沢山あったが、受け入れられる言葉は、今の本庄には持ち合わせてはいない。


結局何も言えない本庄は、寒さに震えるせりかの細い肩を抱き寄せてしまった……。


「っ!これ以上、優しくしないで…」


そうせりかは弱々しく言ったが、緩く抱きしめる手を振り払おうとはしなかった。


彼女の体温を感じながら、泣いてしまった彼女を隠す様に胸に抱き込むと、せりかも縋る様に本庄のシャツを掴んだ。


突然の抱擁に夢の中にいる様な気持ちになったが、せりかはたった一度だけ…と決めて、本庄の背中に手を伸ばして、自分から強く抱きしめた。本庄の背中がびくんと揺れたが、優しくした罰だとせりかは心の中で思った。


慰めの軽い抱擁から少しきつく抱き付くせりかは、自分に罰を与えているつもりなのだと本庄には判ったが、それは余りにも甘すぎる罰し方だと思う。


せりかから、身体を離した時には、もう泣き顔では無くて、悪戯が成功した時の様な得意な顔で「甘く見ているとせんせいの方が痛い目を見るわよ?」と冗談めかして言った肩はもう震えてはいなかった。




結局自分の弱さをさらけ出してしまったのに、せりかの気丈さに救われてしまう結果になってしまった。


せりかの為に、せりかの望む様な拒絶の言葉を口にするのは無理にしても、言葉が出なかったからといって抱きしめてしまった事は明らかに真綾に対する裏切りだった。


しかし、せりかの与えた甘い罰は、確実に本庄を苦しめるものだったのだから、彼女の軽い復讐は成功していたのかもしれなかった。




別れ際、せりかが笑顔でお礼を言うのをせめて本庄も精一杯微笑んで応えたかった。うまくいったのかは判らなかったが、それでもせりかが微笑んだので、少しだけ安堵したが、それでも刺さってしまった棘が胸に到達するのは時間の問題だと本庄は思った。





せりかが部屋に戻るとお菓子とペットボトルのお茶を片手に皆で宴会をしていた。二人部屋では?という疑問を此処で言ってしまうほどせりかも鈍くは無い。みんな、田村の告白の顛末を聞きたくてうずうずしているのだ。


「ねえねえ、やっぱり告白だったんでしょう?」


やはり一番付き合いも長く、遠慮の無い美久が切り出して来た。


「田村くんって二組の委員長よねぇ?」


一年の頃は一組の委員をしていた沙耶も多少の面識はあるのだろう。


「それで、何て言われたの?!」


少し興奮気味に聞いて来られるが、本庄との事があって、すっかり田村との遣り取りが抜け落ちてしまった自分は、なんて誠意がないんだろうと思う。


必死に思い出しながら、せりかの記憶は、食堂で呼び止められた所まで巻き戻さなければ再生が効かない程で、しばし考え込んでしまった。


皆が効きたいのはなんて言われたのかだと思ったので、「一年生の頃から好きだった」と言われたと言うと、皆がきゃー!と悲鳴を上げた。……この手の話は女の子の好物だから仕方が無いかと腹を括り「好きな人がいるのでごめんなさい」と断った事を話すと真綾以外の三人は急に表情を硬くした。


ちょっと失敗したかも?…でも嘘なんてつけないし…なんか空気をわるくしちゃったかな?!とせりかが焦ってしまうと、沙耶が「田村くん良い人だったのに勿体ない!」とフォローなのか多少は本心も混じっているのか、少しだけ話題を別の視点から繋いでくれたので、また騒がしく「二組って他にいい人いたっけ?」とか「うちのクラスの人で良いと思う人っている?」など一般的な恋愛話になったので、ほっとした。


真綾だけは、「せりかさんって好きな人が居たのね…」と暫くして呟くまで、口を開かなかった。


結局、せりかがどう思おうが本庄は真綾の彼氏で婚約者なのだし、疎外感を与えるのも悪いかと思って言ってしまった方がいいのかと皆も少し思った様だが、やはり本庄から言ってもらうか、言ってもいいものか聞いてみないと二人の関係が悪くなってしまっても困ると思ったので、せりかが軽く首を振った。皆もいわないで欲しいと言う事だけは、解ってくれた様だった。




三人が部屋に引き揚げると沙耶が声を掛けてきた。


「せりかちゃんもちょっと辛いよね…。まだ好きだったんだったら…」


「真綾さんと付き合い始めてから好きになったから、完全に無理なのは最初から分かってるんだけど、後ろめたいのは確かなのよ。でも知った所で気分を悪くするか、気を使われちゃうかじゃ無い?」


「そうよね~。知らない方がいい事もあるかもね。私も知らせない方が良いと思うわ」


「うん。でも、知らせるかどうかは、本庄君に任せようかと思っているの。今日みたいに何かの拍子に分かってしまうよりも私の口から聞いた方が、真綾さんも傷付かないかと思うし…」


「せりかちゃんが辛いのに……人の事まで考えなくても良いのよ?分かったとしても彼がなんとかしてくれるから、せりかちゃんはもう何も考えないで眠りましょう?明日も早いし」


そう言って沙耶が部屋の明かりを落とした。


歯は磨かなくていいの?という突っ込みは無しでお願いします(笑)

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